FF ニ次小説
 車を走らせてしばらくすると、草原の向こうに山が見えてきた。
 ほんの一ヶ月前までクラウドは隊の皆と一緒にキャンプを張っていた場所に出てセフィロスが車を止めると、トランクの底にあった正宗とクラウドの剣を取り出した。
 少し歩くと湿地が見えてきたのでクラウドが渡された剣を思わず握り締めた、ゆるやかに微笑みながらセフィロスは黄色いマテリアを手渡した。

「敵の技というマテリアだ、お前なら使いこなせるであろう。」
 クラウドはもらったマテリアを握り締めた。
 中にある色々な力が自分に伝わってくるとその中の一つの魔法が頭に浮かんだ。
「ホワイトウィンド?」
 黄色いマテリアが一瞬輝き、クラウドの周りに光のバリアが輝きはじめたのを見ると、セフィロスが軽くうなずいて湿地に足を踏み入れた。
 目の前に30mを越える巨体のミドガルズオルムが現れた、鎌首をもたげて鋭い眼光でセフィロスを睨みつけている。
 悠然と立っていたセフィロスがするりと正宗を抜くと、下段に構えミドガルズオルムを睨みつけた。

 にらまれた”ヘビ”が思わずその場で止まった様にみえる。
 すり足で一気にセフィロスが攻め寄ると優雅に踊るように正宗を繰り出した。
 クラウドはセフィロスの戦い方をじっと見詰めていた。
 どんな動きも見逃さないように、ずっとセフィロスの動きを追いながら、自然と腕を同じように動かしていた。

 あっという間にミドガルズオルムを倒してしまったセフィロスが戻ってくるが、息も乱さず艶やかな銀色のロングへアーも全く乱れてはいなかった。

「す……すごい。」
 クラウドは感激のあまりボーッとしていると、戻ってきたセフィロスに抱き寄せられて唇を奪われた。
 ついばむようなキスから次第に口づけが深くなっていくと、クラウドが立っていられないぐらいになって来た。
「あ……ん。だめぇ……。」
「クックック……、お前は可愛いな。」

 クラウドを抱き寄せたまま愛車に戻ると助手席に座らせ、自分も運転席に座るとシートベルトを締めて一路カームへと向かった。
 途中でランチボックスを食べる為、何処かの川のほとりに止まり、食事を楽しみながらこれからの事を話し合っていた。
「カームで一泊するのはなぜなの?」
「カームは山が近いからいい防寒具を売っているのだ。」
「ふ〜ん、そうなんだ。来週からアイシクルエリアなんだね。」
「恐いか?」
「ちょっとね。モンスターも強いって言うし、残雪の量が半端じゃないんでしょ?」
 クラウドが聞いた話であるが、アイシクルエリアの残雪量はクラウドの身長より高いらしい。吹雪くと一週間ぐらい前進する事も退却する事も出来なくなるという。
 装備だけでは無い、自分の体力をもっと高めておかないと、いざという時動けなくては足手まといになってしまうであろう。

 クラウドは車を運転するセフィロスに気を使いながらも、ちょっとしたお願いをして見た。
「セフィロス、お願いが有ります。俺、もっと体力付けないとアイシクルで倒れてしまうかも知れません。何人か上級ソルジャーに相手をしてもらえるよう出来ないでしょうか?」
「ククク……いいだろう。クラスAに頼んでおこう。連中、ランディに勝ったお前と一度手合わせしたいと言っていたし、な。」
 しかし、そんな事までしなくともクラウドならば既に1st扱いのリックやカイル、そして正規の1stソルジャーであるザックスを倒すことができるので、実力は折り紙つきである上に、40m近い体格のミドガルズオルム相手に時間がかかったとはいえ勝ってしまったのである。
 それ相応の体力を持っているはずであった。

 カームに到着するとすでに夕刻になってきていた。
 ショッピングモールをのぞいても、時期がすでに初夏へと移ってきていたので、冬物を置いてある店がなかなか無かったが、そこは山の近くの店だけあって登山用の防寒具を売っている店を見付ける。
 軽くて動きやすい上に温かいと言う条件の防寒具を探していると店主が顔を出した。

「あ、サ…サー・セフィロスではありませんか。本日はどんなご用事で?」
「仕事だ。アイシクルヘ行くので防寒具を見ていた。」
「それはさぞ大変でしょう、こちらにいいものがありますのでどうぞ。」
 そう言って店主が案内した一角は特殊装備のコーナーであった。
「これは極地でもその寒さに耐えられるように設計されています。動きやすさは他に類を見ません、一度あわせて見てください。」
「新入りの隊員だ、まだ年若いので死なせたくは無い。彼のサイズが有りそうか?」
「えっと…170cmぐらいでしょうか?はい、ございます。」

 そう言って店主が探し出した防具はオレンジ色で暖かそうな上下揃いの服だった。
 クラウドが受け取ると試着して見る。
 重さをあまり感じなかったが着た途端に、外気との間に空気の層を一枚羽織ったような感じがあった。

「実際に寒くないとわからないとは思いますが、凄く軽いです。」
「そうか。それならばよかろう。」
 クラウドがカードを出そうとすると、セフィロスがすっとカードを差し出した。
 店主が何も言わずにカードを受け取ると、目の前で即座にリーダーに通してセフィロスに返す。
 クラウドがびっくりしたような顔をするのを店主がにこやかに笑って話しはじめた。
「君は新入りなんだろう?たった3ヶ月の新人の給料で買えるような物じゃない。だいたい派遣に使う物であれば経費で落ちるのではないかな?」
「そう言う事だ。お前が出す必要はない。」
「は、はい。済みませんでした。」
 済まなさそうに身体を小さくする新入隊員と思える少年を店の店主が笑顔で見ている。
 紙袋を受け取るとクラウドはセフィロスの顔をちらりと見あげると、店主に丁寧なおじぎをして店を出た。

 カームの街はすでに日が暮れて薄暮の中にあった。
 予約してある宿に入ると荷物を部屋に置いて食事に出掛けるが、街の誰もがセフィロスを見てもびっくりしたような顔をしないのでクラウドが不思議になってセフィロスに聞いた。

「この街はセフィロスを見ても、ミッドガルの様に騒ぐような人はいないんですね。」
「ふふ…、私はミッドガルでは有名だが地方に行けばこんな物だよ。かえって自由に動けてコチラのほうが好きなんだがな。」
 セフィロスがクラウドを抱き寄せていても誰も見向きもしない。
 クラウドは周りの目を気にする事なく普通に歩けると言うことが、どれだけ自由を感じるかこの時はまだわかっていなかった。
「えへ…でも、なんだか嬉しい。」

 ちょっと頬を染めて笑顔で自分を見る年下の恋人に、柔らかな笑みを浮かべて、セフィロスは街の中に有るレストランへと入って行った。
 席に座るとまどから外の風景が見えている。
 街の中央に小さな噴水、そしてその向こう側に小さな教会があった。
 教会をみてクラウドはハッとなって視線を正面に戻すと、自分を見ながら意味深にくすくす笑っているセフィロスがいた。

「クックック…何を考えていた?」
「…意地悪。」
「ふふふ、まあいい。後でその話は身体に聞く」
「…ば……ばかぁ  (#-_-#)

 ゆったりと流れる時間、温かい食事,恋人の微笑み,全てが自分達を癒してくれていたが、そんな時間は長続きしなかった。
 翌日にはミッドガルへ戻り、一週間後にはアイシクルエリアへと遠征する事になっている。食後に宿屋に戻りワイングラスをあわせてくつろいでいると、セフィロスが真剣な顔でクラウドを見ていた。

「な、何か?」
「ん?ああ、お前ならどっちが似合うかな?と思ってな。」
「だから…何が?」
「タキシードとウェディングドレス。白いタキシードも似合いそうだが、やはりウェディングドレス姿もみたいな。」
「も、もう!!何考えているんですか?!」
「決まっているだろう?お前と結婚するならどっちを着せるか…だ。どちらでも中身はお前なのだから変わらんとは思うが、大きな花束を持たせるとなるとやはりドレスの方が…」
「お、俺は…男ですよ。」
「それはわかっている。しかしだな、クラウド。一生に一度私のためだけに着る服なのだから、私の意見も取り入れてくれ。」

 セフィロスがにやりと笑いながらクラウドに近寄ってくると、思わずクラウドは背中に冷たい物を感じつつもなすがままになってしまう。
 抱きしめられて首元に息を吹き掛けられながらセフィロスがクラウドに囁く。

「着てくれないのか?」
「そ…そんなにドレスを着せたいの?」
「お前には白が似合うとマダムセシルも言っていたが、先日ユリを持っていたお前が綺麗だったからな。あの時はパステル・ピンクのワンピースだったが、あれが白いドレスならもっと綺麗だったであろうな。」
「………。」
「そんなに嫌なのか…仕方がないか。」

 セフィロスが残念そうな顔をするので、クラウドも済まないような気がしてきていた。
 それからしばらく何を話せばいいのかわからないぐらいセフィロスは黙り込んでいた、クラウドは”そんなにドレス姿が見たかったのかな?”と、”済まないような気”がしだいに”なんだか悪い事をしたような気分”になってしまった。

 (ど、どうせ俺女装は仕事だもん。セフィロスの為ならウェディングドレスだって…)

「あ、あのね。その…き、着ても…いいよ。」
「クラウド、嫌なのだろう?」
「セフィロスの為だもん。」

クラウドがちょっと拗ねたような上目づかいでセフィロスを見上げる。やわらかくほほ笑んだセフィロスが唇を重ねてきた。

「アイシクルエリアから無事帰ったら、マダムセシルに最高のウェディングドレスを頼んでおこう。」
「でも、一度だけだからね。」
「ん?何だ、お前は何度も結婚する気か?」
「あ…ご、ごめんなさい。」
「いや、待てよ。お前の副業を考えると、何度も着る事になるかもしれんな。」
「その時はセフィロスの為じゃないと嫌だと言って断るもん!」
「クックック…私の名前はそうやって使うものなのか。」
「う〜〜ん、案外使えるかも。」

 けらけらと笑いながら肩を抱いているセフィロスにクラウドがしなだれかかると、たくましい腕に軽々と抱き上げられそのままベッドへと運ばれる。
 しばらくして灯のきえた部屋の中から、クラウドの艶やかな嬌声とベッドのきしむ音が絶え間なく漏れてきたのであった。