草原の中を銀色のスポーツカーが疾走している。
 フロントガラスから見える風景が闇にかわって、しばらくすると目の前にぽつんと灯が見えてきた。
 ハンドルを握るセフィロスがクラウドに告げる。

「見えてきたぞ、今夜の宿だ。」
「今夜の宿って…キャンプするんじゃなかったの?」
「私とお前しかいないと言うのに、何も無い草原でキャンプする気か?どちらかが必ず起きていないと野生のモンスターに襲われる危険があるんだぞ。」
「え?あ…そ、そうか。」

 目の前の灯がだんだんと近づいてくる、大きな小屋のような建物とサイロに母屋がある小屋の前に、何か絵が書いてあるのだが闇夜でクラウドには何も読めなかった。
 セフィロスが車を駐車場に入れると、二人でトランクからカバンを取り出し母屋に入る。
 ヒゲ面の日焼けしたオヤジが玄関先の受け付けに立っていた。

「いらっしゃい、宿泊かね?一泊2食で一人70ギルだ。」
「わかった」

 何も言わずにセフィロスが料金を支払うと、まだ10才そこそこの少年が出てきて、クラウドの腕をちょいちょいと引っ張る。

「お部屋はこっちだよ。」

 ベッド2つという小さな部屋にクラウドを引っ張って行く、セフィロスが後ろからゆったりと荷物を持って歩いて来た。

「あのね、食事はあまりいい物を出せないけど食堂で食べるんだよ。シャワールームはすぐそこ、何も無いけどゆっくりして行ってね。」

 にっこりと笑う子供はなかなか部屋から出て行こうとしないが、後からやってきたセフィロスが子供に5ギル握らせたとたんぺこりとおじぎをして部屋を出る。

「え?何をしたの?」
「あの子供はああしてチップをもらって、小遣いを稼いでいるのだろうな。ちょっとしたお菓子を買うお金を握らせれば大人しく帰ったのがその証拠だ。」

 セフィロスが荷物を置いてクラウドを抱き寄せようとした時、どこからか「クウェ〜〜〜!!!」と動物の泣き声がした。

「え?!チョ、チョコボ?!ど、どうして」
 クラウドが窓を開けて外を見ようとするが外は真っ暗なので何も見えない、しかしさっきの泣き声はやたら近くに聞こえた。
 クラウドを抱きしめ損ねて機嫌が急降下していたセフィロスが、再び抱き寄せ耳元に唇を寄せながらワザと息を吹き掛けるように囁いた。
「当たり前だろう?ここはチョコボファームだ。」
「あ…チョコボファームって…んっ!!」

 昨夜さんざん喘がされ逝かされたクラウドは、ほんのちょっとした刺激だけでも身体が疼いて仕方がありませんが、こんな薄い壁しかない宿で声をあげたら丸聞こえになってしまうとばかりに真っ赤な顔で必死になって何かを我慢しています。
 そんないじらしいクラウドは可愛いくて仕方がないが、いいかげんやめておかないと本格的に怒らせてしまうと思い、額に唇を一つ落したセフィロスはゆるやかに微笑んだ。

「もう夜だ、チョコボは夜目が効かぬから明日の朝にでもあわせてもらえ。」
「あ、でも。ミドガルズドオルムは?」
「それは明日の昼でよかろう?」
「うん、楽しみだな〜〜」
 そう言いながらクラウドは鼻歌交じりでシャワーを浴びて、さっさとベッドへもぐりこんだ。
 セフィロスもさっと汗を流してクラウドの寝ているベッドに入り込もうとすると、シングルサイズのベッドは一杯になっていた。
 渋々隣りのベッドに入ろうとしてセフィロスはふと思い立ち、クラウドの寝ているベッドにもう一つのベッドを寄せ入り込むと、そっと腕を伸ばして華奢な恋人を抱き寄せた。
 しかしクラウドは既に夢の中であった。
 小さく舌打ちしながらもいつもの様にパジャマを脱がせてから再び抱き込む。
 いつの間にかこうして肌と肌を合わせていないと落ち付かなくなって来ている自分に苦笑しながらも、セフィロスは柔らかなクラウドの髪の感触を確かめつつ目を閉じた。

 翌朝、いつもの様に裸で抱きしめられて眠っているのに気がつくと、クラウドは自分を抱きしめる腕の持ち主をふと振り返る。
 いつもなら自分が起きる頃にはすでに起きているのであったが、セフィロスは目を閉じて気持ちよさそうに眠っているようであった。
 この時クラウドはセフィロスが眠っているのを初めて見たのであった。

 (ほ、本当に眠っているのかな?)

 クラウドはセフィロスの閉じた瞳の前で、手をひらひらさせて見たが反応がなかった。
 やはり眠っているのだと思い、しばらくベッドを抜け出すのをやめることにした。
 すると耳元でクスクスと笑う声が聞こえた。

 クラウドが身体をセフィロスの方へ向けようとするとがばっと抱きしめられた。

「お、起きているなら起きているって言ってくれればいいのに。」
「クククク…毎朝つまらなそうな顔をしていたからな、私の寝顔が見たかったのであろう?」

 クラウドは図星を突かれて真っ赤になった。
 むくれて毛布を頭から被ろうとした時に、どこかからか「クウェ〜〜!!」っとチョコボの声がしたので、クラウドはいきなり飛び起きて窓を開けた。
 窓の外にはチョコボが何頭か柵の中を歩いていた。

「わぁ!チョコボだ!!」
 子供みたいにはしゃぐクラウドに苦笑しつつ、裸のまま窓際に立っているので、セフィロスがシャツを肩からかけてやると自分が裸だった事を思い出したようであった。
 クラウドがあわてて服を着るとセフィロスが既に荷物をまとめている所だった。

「え?もう出るの?」
「ああ、食事のついでにランチボックスを頼んでおいた。ミドガルスドオルムのいる湿地まで半日かかるからな、さっさと行動しないとチェックインの時間までにカームにたどり付けないぞ」
「なんだ…つまんない。」
「そんなにチョコボと遊びたいのであれば、ミドガルズオルムをやめるか?」
「ううう……、意地悪。」
 チョコボも見たいけどもっとセフィロスの闘う姿が見たかったクラウドは、しぶしぶ荷物を片づけて直堂に向かった。
 クラウドは食堂をぐるりと見渡し窓辺の席に座ると、ヒゲ面のオヤジがパンとスープ、サラダとベーコンエッグと言う簡単な食事を持ってきたが、彼の瞳は窓の外にみえるチョコボの姿に釘付けだった。
 食事もそっちのけでチョコボを見るクラウドの瞳は輝いていてとても綺麗なのですが、このままではいつまでたっても出発出来ません。
 しかしセフィロスはきらきらと瞳を輝かせるクラウドを見ているだけで十分だったので、あえて急かす事もしないどころかゆったりとコーヒーをすすっていた。
 しかし熱心にチョコボを見ていたクラウドが急にテーブルにある食事をがっつくように食べはじめた。

「ひ、酷いよセフィロス。もう食事が終わっているなんて。」
 口一杯にパンを詰め込んではむせるクラウドを苦笑いしながらセフィロスが見ていた。
 クラウドは一気に食事を食べ終わるとグラスの水をぐいっと飲み干した。

「ごちそうさまでした。ね、行こうよ!」
「クックック……まだランチボックスができていないようだ。オーナー、あとどのくらい時間がかかるかね?」
「あと20分ほどです。」
「ならば表の牧場にいてもよいかな?」
「ええ、どうぞ。チョコボ達は人懐っこいですから寄ってきますよ。グリングリン、この人達をファームに案内してやれ。」
 ヒゲ面の親父の声に昨日の少年がやってきて、にこりと笑うと二人を先導してファームへと導いた。
 朝露に濡れたのか、草原を渡る風がまだひんやりとしている中を、数匹のチョコボがファームの中をゆったりと歩いていた。
 グリングリンが指笛を吹くと、チョコボが一斉に振り返りこちらにやってきた。チョコボが目の前にやってくると、グリングリンが再び指笛を吹いた。
 チョコボが一列に並びその場で輪になってぐるぐると回りはじめる。
 クラウドが瞳をきらきらさせながらグリングリンにたずねた。
「さ、触ってもいいかな?」
「うん、いいよ。チョコ,ボコ,おいで。」
 二匹のチョコボが輪の中から外れて、グリングリンの手の届く所までやってくる。
 グリングリンが2匹のうちの一匹の首を撫でてクラウドに話しかけた。

「この子なら優しい子だからお姉ちゃんが触っても怒らないと思うよ。」
 クラウドは自分の事を”お姉ちゃん”と呼んだグリングリンの言葉も聞こえなかったのか、目の前のチョコボに怖々と手を伸ばしたその時、チョコボがくるりと向きを変えてクラウドを正面に捕らえ擦り寄ってきた。
 思わず伸ばした手を引っ込めようとしたが、チョコボが自らクラウドの手に頭を付けた。

「わ……あ……」

 その柔かな感触と暖かみがクラウドに伝わってくる。
 もう一匹のチョコボが近くまでやってきて、クラウドの跳ね髪をくちばしでつんとつつくと、少し離れた所で急に跳ねをばたばたとばたつかせながら踊るように歩き回っている。
 クラウドはにこにこと笑顔でそれを見ていたが、急にセフィロスがクラウドを抱き寄せ、踊るように歩き回っているチョコボを睨みつけた。
「言っておくがこいつは私のモノだ。」
 チョコボが言葉を理解したのか首を縦にぶんぶんと振る。
 そこへヒゲ面のオーナーがランチボックスをもってやってきた。

「お待たせいたしました。おや?何かあったのか、グリングリン。チョコボ達が青い顔をしているでは無いか。」
「ボコがこのお姉ちゃんを気に入ったんだけど……ついさっきお兄ちゃんに怒られた所なんだ。」
「なるほど、ボコもメンクイだなぁ。はい、お客さんランチボックスです。」
「ああ、すまなかったな。いくらだ?」
「お二人分で20ギルです。」
 料金を支払うとランチボックスをもらいうけ、クラウドに声をかけようと見るとクラウドは身体を震わせていた。
「どうした?」
「お、お姉ちゃんって……。」

 やっと自分が女の子に見られている事に気がついたが後の祭、セフィロスがさっさと愛車に歩いて行くのであわてて後を追いかけた。
 メタリックボディの車の助手席に座るとシートベルトを絞めた時、運転席に座っているセフィロスにちょっとむすっとした顔を向けてしまったようだ。
 セフィロスが苦笑しながらクラウドにたずねた。
「お姉ちゃんと言われたのがそんなに嫌だったのか?」
「俺、女みたいだって言われるのが一番嫌なんです。」
「矛盾しているな。」
「そうだね。あ〜〜もう!!早くモデルをやめたい!!」
「そろそろきげんを直さないかね?何処へ行きたい?」
「もちろん、ミドガルズオルム退治!」
「クックック……いいだろう。」
 セフィロスはゆっくりとアクセルを踏みしめた。