翌日、セフィロスは朝一番にクラウドのスタッフでマネージャーであるティモシーに連絡を入れ、場所と時間を聞いておき、その場でタークス主任ツォンに連絡を入れる。

 やはりルーファウスの知らないセッティングだったようで、ツォンもどうやら心配になったようだ。

「サー、行っていただけますか?」
「ああ、もとよりそのつもりだ。」
「あ、少々お待ちください。若が電話に出たいと……。」
 ツォンの携帯にルーファウスが出ると言う事は今まででもよくあった事なので、何とも思わなかったが、時刻はまだ朝の7時であった。

「セフィロス、父が何を考えているのかよくわからないが、あれでも一応私の親だ。殺すのだけはやめてくれないか?」
「そうだな。だがカンパニー代表の座を引きずり下ろすのはかまわないか?」
「クックック……。それがお前の目的か?父のやり方は私も気に入らないことが多い。かまわぬが、なるべく正宗を抜くなよ。」
「一応気をつけておこう。」

 セフィロスが携帯をたたむとカンパニーに向けて車をスタートさせた。
 カンパニーに到着すると、いつもとは違い化学部門へと足を向ける。
 神羅カンパニー化学部門は、セフィロスに取ってあまり近づきたくない場所であった。やたら自分を実験道具の様に扱い、薬品と魔晄の晄にあふれていた場所で、唯一優しい笑顔を向けてくれたのがガスト博士であった。
 化学部門の扉をノックもせずに開けると、白衣を着た研究員がびっくりしたような顔をする。
 そんな研究員を無視してガスト博士のラボの扉を開けると、そこには昔と変わらず優しげな瞳をした男が白衣を着て顕微鏡を覗いていた。

「やあ、セフィロスではないか。久しぶりだね、どうかしたのかい?」
「自分の部下から貴方の名前が出た物で…。」
「そうか……エアリスが最近出合ったソルジャーと言うのは君の部下かね。」
「ええ。」

 ガスト博士がゆるやかに微笑みながら、セフィロスにコーヒーをすすめてきた、そして自らも同じサーバーからマグカップに入れたコーヒーをすする。
 その自然な仕草がコーヒーに何も入れていないと言う無言のメッセージであるぐらい、セフィロスにはわかっていた。
 コーヒーを一口すするとガスト博士に話しはじめた。
「おかげで久しぶりにここに来る気になっただけだ、そんな事も無ければ来たくも無い場所だ。」
「ハハハハ……、そうだろうな。君に取っては良い思い出など何もないだろうな。」
「こんな所にいないで、もっと高額な給料を出す研究室に転職してはどうだ?」
「私にはソルジャーから魔晄を抜いて普通の人にする責任がある。そのためにも魔晄を使わないようにしなければいけないのだが、今の私には何の力も無いうえに退職すればおそらく殺されるよ。」
「魔晄を使わない世界…か。そうなれば反抗勢力もなくなる。それだけで無く、魔晄に振れてモンスターになる動物もいなくなる。そうなれば我らも戦場に行かずに済むか…悪くは無い世界だな。」
「夢の夢だよ。カンパニーの方針が変わらぬ限り無理だ。」
「クックック…それもそうだな。」

 セフィロスがマグカップをその場に置くと何も言わずに部屋を退出した。
 扉を閉めようと少し振り替えた時ガスト博士は、そのマグカップをもって、あいかわらずゆるやかな微笑みを浮かべていた。

 治安部に戻るとセフィロスはクラスS執務室へと向かった。
 いつもの様に不機嫌このうえない顔で机に座り目の前の書類を手に取ると、化学部門に現れたと聞いたランスロットが近づいてきた。

「キング。今朝、化学部門に行かれたとお聞きしましたが?」
「ああ、以前アノリアの見たザックスの片思いの君が、どうやらガスト博士の娘とわかってな。久しぶりに名前を聞いて逢いたくなっただけだ。」
「8番街の花売り娘と言うのはガスト博士の娘だったのですか?」
「そのようだ、博士の奥様が花の好きな人だったから店を持ったのであろうな。」
「人の縁と言うものはわからぬ物ですな。」

 セフィロスはランスロットの言葉に何も反応をしなかった。
 しかしそのことは自らわかっている事でもあった、ほんの4ヶ月前下級兵士用の食堂でザックスを気絶させた訓練生を見ていなかったら、今の自分とクラウドの関係があったとは言いきれないものがある。
 書類だけで自分の隊に引き入れる気になるものでもなかったし、あの偶然の動きだけで同じように自分の隊に引き入れる事も無かったとも思える。
 そんな事を思いながら書類を眺めているとセフィロスの携帯がなった。

「私だ。ああ、そうだな。貴様が来るとよかろう?ふん、18時に9番街ポイント09:63だ。」
「何かあるのですか?」
「クックク…明日にはこのカンパニーのトップが代わっているかもしれんぞ。」
「何をなさるつもりかは存じませんが合法的にお願いいたしますよ。」
「クックック…心得ておこう。」
 セフィロスは冷たい笑顔を浮かべてクラスS執務室をあとにした。

 その日の18時、9番街のTVスタジオでクラウドは「クラウディア」としてカメラの前に立っていた。
 同じスタジオの片隅に黒のロングを着たセフィロスが腕を組んで周囲を見渡している。
 セフィロスと反対側の入り口からタークスを引き連れてルーファウスが現れる。

 (なんとなく嫌な雰囲気。)

 クラウドはスタジオの中に渦巻いている何かを感じ取っていた。
 やがて正面からスポットを浴びて神羅カンパニー代表取締役プレジデント神羅が入ってきた。
 目の前にいる美少女ににやにやしながらそばのソファーに座るとディレクターが説明を始めた。

「では、今日の撮影ですが。プレジデントとクラウディアの会談の後に、クラウディアからプレジデントにプレゼントを渡す…で、よろしかったでしょうか?」
「え?会談?プレゼント?全く知りませんでした。私はただのモデルですよ、どうしてそんな事をせねばならないのですか?」
「え?クラウディアはカンパニー所属のモデルですよね?プレジデントがおっしゃるには貴女はプレジデントに見いだされたと…。」
「ご冗談を、私はサーとご一緒している時にルーファウス社長にスカウトされたのです。契約もルーファウス社長としており、プレジデントとは今日が初対面です。それなのに何を話せとおっしゃるのですか?」

 ディレクターが青い顔をするがクラウドは横を向いたままつんとしている、あらかじめセフィロスが話が違うのであればそうしろと耳打ちしてあったのである。
 自らの地位を確かめる為に、セフィロスを飾りに使う事さえ平気で行うプレジデントであったが、目の前の小娘にそれを崩されてしまったのであった。
 プレジデントの顔が真っ赤になった。

「たかがモデルが!!わしを誰だと思っている!!その気になればお前なぞすぐ首にするぐらい簡単なんだぞ!!」
「あら、存じませんでしたわ。わたくしはルーファウス社長と契約いたしております、。直接契約を結んでもいない方にわたくしを首にする権利などあるのかしら?」
「くっ!!お前のような下賎な女など生きている価値など無いわ!!セフィロス!!この女を殺せ!!」

 プレジデントが怒りに任せてセフィロスにできぬ相談をする。
 セフィロスはプレジデントの言葉を聞いて、その冷静なまでの瞳に怒りをともし、プレジデントの前に立ちはだかった。

「私が、クラウディアを殺せるわけがなかろうが!!」
 正宗を抜きその刀身をぴたりとプレジデントの首に当てると彼の身体が震えた。
「わ、わしを殺す気か?わしはお前の雇い主だぞ」
「私の事を何と言おうとそれなりの事をやってきたのだからかまわんが、クラウディアの事を悪く言う資格はお前にはない!!」

 セフィロスの本気の殺気にプレジデントががくがくと震える。TVスタッフがあわてて中に入った。

「サー・セフィロス、こんな所で刃傷沙汰はいけません。クラウディア、先程の契約主の事だけどプレジデントではないのですか?」
 クラウドがTVスタッフにキツい眼差しを一瞬向け、そしてぷいっとそっぽを向いて答えた。

「何度も同じ事を言わせないで下さい。私のスタッフとて社長と契約をしています。」
 TVスタッフの視線がクラウディアのスタッフに写ると、クラウディアのスタッフが全員うなずいている。
 TVスタッフがその様子にうなずくとプレジデントに向かって言い放った。

「プレジデント、自己顕示欲もほどほどにされないと、嘘まで使って見栄を張っていてはどこも振り向かなくなりますよ。二度とこのような真似はしないでいただきたいですね。」

 プレジデントが苦虫を噛みつぶしたような顔をする、そこにタークスのツォンを引き連れてルーファウスが高笑いしながら近寄ってきた。

「父上、見栄と自己顕示欲だけで会長に座られていては取引先や株主に申し訳が立ちません。社の運営一切から手を引いていただきます。」

 絶対的優位に立ったルーファウスが冷淡な笑みを浮かべてプレジデントに引導を渡した。
 この時点で神羅カンパニーの実権がプレジデントから完全にルーファウスに移行した。

 翌日発表されたプレジデント神羅のカンパニー代表の完全引退は、神羅カンパニーの株価を一気に押し上げた。
 その事実は引退に追い込まれたプレジデントが、投資家達にいかに嫌われていたかを如実に現わしているのであった。
 そしてクラウディアの人気をさらに確固とした物にしてしまった。自分の意見をはっきりと言い意志が強く気位が高い。
 しかし、それは英雄とまで呼ばれるセフィロスの恋のお相手として当然視されてしまったのであった。

 クラウディアの事務所にモデル依頼が殺到していた頃、セフィロスとクラウドはグラスランドへとピクニック気分で出掛けていた、スリーポインテッドスターのノーズマークの車が草原を疾走している。
 くさび形のボディは2シーターではあるが、それなりにトランクルームが充実していて、二人分の荷物を入れてもまだ余裕があったが、グラスランドでのキャンプでは可愛い恋人との夜のお楽しみが全くなくなってしまうので、セフィロスはまっすぐ車をチョコボファームへと走らせていたのであった。