いつもの様に訓練を終えてクラウドは久しぶりに花を買おうと、8番街へと足を向けた。
プラットフォームから駅の前に出ると雑踏の中にピンク色のリボンが見え隠れする。
そのリボンをめざして雑踏の中に足を踏み入れた。
やがてエアリスの姿が見えた時に、クラウドはそのとなりにいる男に気がついた
「サー・ザックス。」
ザックスとエアリスはクラウドに全く気がついていないのか、笑顔で何か話し合っている。その様子ははた目から見ても仲が良いと言う感じだった。
クラウドはエアリスに会うのをやめてショップのある場所まで歩いて行った。
教えてもらった住所に可愛らしい店があった。
お店の中に入ると色とりどりの花が沢山並んでいるので、どれにしようかクラウドが迷っていると店の中から女の人が出てきた。
どことなくエアリスに似ているこの女性、ぱっと見て”ああ、エアリスのお母さんだ”と思った。
「いらっしゃいませ、何かお気に召した花がありますか?」
「えっと、大振りのユリで凄くいい香のものを。」
「ああ、それならばカサブランカね。こっちにあるわ。」
店の少し奥にガラスの扉で区切られているコーナーがあった、クラウドが前に見たあの白い大きなユリが沢山置いてある。
隣には綺麗な薔薇が何色か並んでいたが、金額を見てクラウドはびっくりした。
「う…、予算オーバーです。」
「ならばコチラはいかがかしら?」
そういって女性が指を指した場所には、バケツに入ったピンク色のユリが沢山揺れていた。
値札を見ても先程のモノとはケタが違っていて、コレならばクラウドでも安心して買える。
クラウドはそのゆりを一輪と更に横にあったかすみ草をもらって店を出た。
偶然、店のまん前でエアリスとザックスにばったりと出会った。
「あら、クラウド君。いらっしゃい!」
「なんだぁ?お前、花を買いに来たのかよ。」
「あ、はい。何も無いよりも一輪でもあった方が食卓が華やかになるのです。」
「くすっ。クラウド君って何だか女の子みたいね。」
クラウドがエアリスの言葉に思わず拗ねたような顔をするが、それにかまわずザックスが頭をガシガシとなでつけた。
「こいつな、俺の弟分なんだけどさ恋人と同棲中なんだ。その恋人ってのが、な!」
「ちょ!ちょっと!!ストップ!!」
クラウドはこれ以上言われたくないので、ザックスの腕を引っ張ってその場を離れた。引っ張って行かれたザックスはちょっとびっくりしてクラウドにたずねた。
「な、なんだよクラウド?!」
「エアリスとは俺のもう一つの顔の方でも会っているのです。俺の恋人がセフィロスだって言うのは、ちょっとへんではありませんか?」
「あ?そうなんだ、しゃあねえなぁ。でもよ、いつまでも黙っていないで、しばらくして話してやらないと、彼女だって混乱するぜ。」
「あ!は、はい。そうですよね。」
クラウドがうなずくがあまり乗り気で無い様子がありありとわかる。そんな様子を見てザックスが何ともいえない顔をした。
「あのさ、お前ってこの先どうするつもりなんだよ?このままエアリスを騙しつづける気か?」
クラウドはザックスの言葉にハッとした。
この先モデルのクラウディアとしても、兵士のクラウドとしても、エアリスとは会う事になりそうである。しかし、今はいい考えが浮かんでこなかった。
「ごめんなさい、でも今はまだ言えないんです。」
「しゃあねえなぁ。でもよエアリスは他人に話していいことと悪い事の区別の付く娘だぜ、お前のスタッフとかに話して”同性の友達”になってもらうのも一つの手だぜ。」
「とりあえずスタッフと話します、サー・ザックスの彼女だって。」
クラウドの一言にザックスが目を丸くした、あわてててを横にふるが顔は真っ赤である。
「そ、そんなんじゃないって。ま、まだ友達になったばかりで、その…。」
「真っ赤、エアリス〜〜!!サー・ザックスがね…もが…。」
クラウドが何か口走ろうとした時ザックスがあわてて口を両手で塞いだ、しかしエアリスは呼ばれたのでニコニコとしながらやってきた。
「ふ〜〜ん、二人とも仲がいいんだ。怪しいなぁ。」
「冗談!こいつは俺に取って弟みたいなモンだよ。だいたい、こいつには他に恋人がいるんだぞ。」
「エアリス、サー・ザックスったらね〜!」
「サー?サーってたしか、ソルジャーの称号よね。ザックスさんってソルジャーなの?」
「え?!」
エアリスの言う通りたしかに「サー」という称号はソルジャーの称号なのであるが、一般にはあまり知られていないはずである。
なにしろ「サー」と言うのは一般的にセフィロスを指し示していたのであった、しかし目の前の少女が「サー」という称号の意味を正確に知っていた。
ザックスのびっくりした顔を見ながらエアリスはにこにこと話しはじめた。
「だって私のパパ、神羅カンパニーに勤めているんですもの。そのぐらい知っているわ。」
「き…君のパパって?」
「パパ?ガスト・ゲインズブルー。神羅カンパニーの化学部門に勤めているわ。」
「が、ガスト博士の娘だったのか?!」
「あ、やっぱり知っているんだ。ふ〜ん、じゃあクラウドもカンパニーの治安部にいるんだ。」
「え?あ、はい。」
「あとで聞いちゃおう!」
イタズラっぽい顔をしてエアリスが二人に手を振った。
ザックスとクラウドはそんなエアリスに手を振りながら顔を見合わせていた。
エアリスが店に入るのを見届けてクラウドはザックスにたずねた。
「ガスト博士って?」
「化学部門の統括だった人で、マッドサイエンティスト揃いの化学部門で唯一まともな人。会長のプレジデントと意見があわなくて閑職に座らされているけど、本当ならあの人が化学部門の統括になるべき人なんだ。」
「そうなんだ。」
「はぁ、また失恋か。」
「まだ彼女になってないのでは無かったのですか?」
「うっ…キ、キツいなぁ。ハハハハ…。」
力なく笑い肩を落しながら歩いて行くザックスを見て、クラウドは”ああ、真剣だったんだ”と思った。
ユリの花束を抱えて足早にアパートメントに戻ると、せっせと料理を作りながら寂しそうなザックスの背中を思い浮かべていた。
やがてセフィロスが部屋に帰ってきた。
いつもの様にキスのお迎えをすると、ガッツリと抱きしめられてキスのお返しをされる。セフィロスにキスをされるといつも頭がボ〜ッとして何も考えられなくなるのであるが、今日はザックスの件があるのでちょっと身体を動かした。
セフィロスがびっくりしたような顔をしてクラウドを離した。
「何かあったのか?クラウド。」
「あ、うん。実は…。」
クラウドは先月知り合った8番街の花売りの少女が、カンパニーの化学部門の統括だった人の娘だと打ち明けたら、セフィロスがうなずいた。
「そうか、ガスト博士の娘か。」
「ザックスが”マッド・サイエンティストだらけの化学部門で唯一まともな人”って言ってた。ねぇ、セフィロス。ソルジャーだとわかると振られちゃうの?サー・ザックスが”また失恋か”なんて言ってたんだけど?」
「それは相手がガスト博士の娘だからだな。ガスト博士はソルジャーが”いつ死んでしまうかわから無い”と言うことを知っているからこそ親としては”そんな男と付き合うな”と、言うであろうな。」
「ふ〜ん。サー・ザックス可哀想。なんかいい雰囲気だったのにな。」
「要は二人の気持ちだ。その程度で別れるならば本気ではないということだ。」
セフィロスの言葉にクラウドはうなずいた。
たしかにソルジャーであれば他の人よりも危険をともなう仕事をしているのだから、いつ死んでしまうのかわからないのも確かである、しかしそれは一般社会でも一緒で、世の中いつ不意の事故で命を落すかわから無い。
「あの二人、巧くいくといいな。」
「ザックスがその娘を恋人にするしないはザックスの甲斐性だが、お前の方がなにかと問題が有りはしないか?」
「うん、それはそうなんだ。エアリスとはモデルとしても会っているけど。俺、エアリスには嘘をつきたくないんだ。どうすればいいのかな?」
「ガスト博士の娘なら他人に話して良いことと悪い事の区別ぐらい付く、あとはお前がいつ、どのように打ち明けるか、だな。」
「わかった、一応スタッフにも話してみる。クラウディアの女友達を欲しがっていたから…って、ああ〜〜〜!!もう早く辞めたいっていうのに、もう!!」
クラウドが自分の言葉に矛盾をかんじてブツブツといいはじめる。
そんなクラウドをゆるやかに微笑みながらセフィロスは見つめていた。
セフィロスはふと化学部門にいるガスト博士の事を思い浮かべていた。
いつも優しげな眼差しで自分に”済まない”と言っていた博士は、カンパニーの会長プレジデント神羅と魔晄の力の使い方で対立していた。
魔晄の力をエネルギーとして使う事にためらいのない会長に、代行エネルギーを考えて行かないと星がつぶれると唱えていたのであった。
博士は常に”魔晄の力は星の生命力。使い続けて行けば近い将来星の力がなくなる”と神羅に対して反抗している勢力が使う言葉を唱えていたのであった。
そのせいで化学部門の統括の座から降ろされカンパニーを辞めたくても辞めることを許されず化学部門のラボを与えられていた。
「セフィロスはザックスよりもカンパニーに長くいるんでしょ?じゃあガスト博士とも顔見知りなの?」
「ん?ああ、よく知っている。ザックスの言う通りの人だ。」
「そんなにいい人なのになぜ統括にしないんだろう?」
「さあな。治安部の統括がヒゲだるまだというのと同じで、プレジデントは自分に賛同する奴にしか旨い汁を吸わせない。我らとてあのヒゲだるまを追い出したくて、うずうずしているのだが任命権は会長が握っているのでなんともならんのだ。」
「そういえば、今度そのプレジデントにモデルとして会うことになってるんだ。そばに行ったらこっそりと足をヒールで踏んづけてやる!」
クラウドの小さな決心に苦笑を漏らしながらも、セフィロスはプレジデントと会うという仕事をほんの少し心配して聞いていた。
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