FF ニ次小説
 セフィロスはニブルヘイムから帰って来て以来ずっと、黙って何かを考えていることが多かった。
 クラウドに取ってはそれが気にかかって仕方がない事であった。


       Hard To Say I'm Sorry


 いつもと変わらないように仕事をしているかにみえるセフィロスだが、何かを思い悩んでいるのをそばにいるクラウドはなんとなくわかっていた。
 表面上は取り繕ってはいるがなんとなく落ち着きがない、そしてその違和感はすでに隊員達にも伝わりつつあった。
 先輩隊員達がクラウドにそっとたずねた。
「姫、隊長殿となにかあったのか?」
「別に何も無いよ。」
「そうにはみえないよなぁ」
「美人のフィアンセがいて幸せの絶頂にはみえないな。」
「また難しいミッションでも入ってくるんじゃないの?」
「うわぁ、それも何だかなぁ」

 隊員達が苦笑いをした時ザックスがのっそりとやってきた。
 なぜか顔に”つかれた”と書いてあるほど憔悴しきっていた。

「ザックス、どうしたお前?」
「2時間前に1stの訓練所で別れた時は元気ばりばりだったじゃないか?」
「クラスSに苛められた。」

 ザックスがその場にどさりと座り込むと、クラウドがコーヒーを入れたカップをザックスに手渡す。
「おう、サンキュー」
「サー・ザックスがどうしてクラスSに?」
「ん?どこぞの英雄殿がだんまり決め込んでいる事を巧く聞き出してこいって。」
「あ…ははは……、クラスSでもああなんだ。」
「何か知ってんだろ?」
「俺には言えない、セフィロスのプライベートな事なんだ。たとえ何があってもいえないんだ、ごめん。」

 ニブルヘイムから帰る途中にセフィロスはクラウドに、自分の両親の事はプライベイトな事なので誰にも話すなと厳しく言っていた。
 クラウドもザックスから宝条とセフィロスの事を聞きかじっていたので、言えない理由もなんとなく理解出来る。
 理解は出来る、が…クラウドにはどうする事もできなかったのである。
 ただ”そばにいたい”という気持ちが強くなっているのは確かであった。

「プライベイトか、お前がどうにもできない事なんだな?」
「俺だって何とかしてあげたいけど…どうすればいいのかわからないよ。」
「隊長にも色々とあったって事なんだな。そう言う事を感じさせなかったんだけど、俺達が感じなかっただけなのかな?」
「どっちもだろうな。」

 ため息まじりのリックの言葉に隊員達が黙り込んだ時、ザックスの携帯が鳴り響いた。

「はい、こちらザックス…あ、わかりました。」

 携帯を切ると小走りに執務室を出て行った。
 その仕草は如実に”ミッションが入った”事を知らせていた。

「今度はどんなミッションかな?」
「この暑いのに長期は嫌だな。シャワーも浴びれないぜ。」

 まもなく9月に入ろうとするのに、まだまだ暑い日が続いている。アイシクルエリアの様に寒い所へ行くならまだしも、暑い場所で戦闘して、ロクにシャワーも浴びれないのがミッションなのである。
 もっとも近くに泉があれば安全確認の後で、そこへダイブするのが習わしでもあった。

 しばらくするとザックスがミッションの指令書を持って帰ってくる。
 その指令書をセフィロスに見せるとセフィロスが冷たい目で一瞥した。

「いつもの様にしろ。」
「アイ・サー!」

 指令書をクラウドに持って行くとザックスがため息をついた。

「はぁ〜〜〜ヒゲだるまの奴どうにかならない物かな?」
「何かあったのか?」
「ソルジャーをお飾りにするような奴に統括をやってほしくないだけさ。」
「化学部門の宝条と一緒だろ?プレジデントのお気に入りだったからな。」
「やめさせる手はいくつもあるんだが、引導を渡すか?」
「何をどうすればいいんだよ?」
「手は2つ。一個は株を大量取得して、役員会議に乗り込み首にする。もう一つは治安部全員で突き上げる。」
「なるほど。」

 ザックスがため息をついた時、クラウドが資料を集め終わったのか、プリントアウトされた書類をもってセフィロスの元へと駆け寄った。
「隊長、確認をお願いいたします。」
 黙ってクラウドから書類を受け取るとじろりと一瞥する。内容を確認すると、軽くうなずいてクラウドへと差し戻すと彼は人数分コピーする。
 ファイリングして再度セフィロスのところへ持って行くと、受け取った書類を持ってついっと立ち上がった。

「ミッションが入った、打ち合わせ会議は午後の1時からここで行う。」
「アイ・サー!」
 隊員達が敬礼するとセフィロスが返礼する、解散した後ザックスが皆に取り囲まれた。

「今度はどんなミッションな訳?」
「ソルジャーを含め隊員数十人が行方不明、それを捜索するミッションだった。」
「たしか場所はジュノン南東の森。行方不明の隊員が2ndソルジャー7人、3rdソルジャー15人と一般兵50人。その捜索と原因の解明が派遣の指令だったけど。」
「2ndと3rdだけで20人以上行方不明か、気になるな。」

 鍛えられた軍人が、それだけたくさん行方不明になる事は過去に無かったはずであった。
 そのことを話し合っているのに熱中していて、セフィロスが執務室を出て行ったのを誰も知らなかった。

 セフィロスは化学部門へと顔を出すと、中の化学者共の顔を一瞥する。そしてあることに確信すると、そのまま化学部門を後にして社長室へと歩いて行った。ノックもせずに社長室に入るとルーファウスとツォンが何やらヒソヒソ話をしていた。ルーファウスが顔を上げると軽くため息を吐いてセフィロスに向き合った。

「何か用かな?」
「ツォン、何か掴んではおらんか?」
「何をでしょうか?」
「ソルジャー20人、一般兵50人も一気に行方不明などありえないであろう?ドッグタグで管理されているなら居場所だとてわかるはずだ。」
「その件ですが、ドッグタグからの電波が捕まりません。」
「ふん、やはり身内か。」
「心当たりがあるのか?」
「ソルジャーを欲しがる奴など一人しかおらぬであろう?」
「で、それがどうかしたのか?」
「もし私の想像が当たっているのであれば、奴を殺すが…」

 ドッグタグはカンパニーの兵士として正式に入隊する時に、血液検査とほぼ同時に注射器で注入されるほんの小さなチップで、左上腕部の皮膚の下に張り付いていて、特殊な電波にしか反応しない。
 チップごとに電波の周波数を変えてあり、30cmの鉄板に囲まれていても探知可能である。
 それを誤魔化す為にプレート状の首からかける物を手渡しているので、首のドッグタグを外すだけでは脱走しても居場所がわかる様になっていた。

 そんなタグが既に外されているとなると、その兵士達をつかまえたのは内部の人間である。
 セフィロスの言外の言葉を察してツォンが青い顔をするが、ルーファウスはついっと視線を外しただけであった。

「お前が考えている事が事実ならば内密に処分するべきだな。」
「タークスが動くべき事がありましたらお知らせ下さい。」
「ああ、あればな。」
 そう言ってセフィロスは社長室を後にした。
 クラスS執務室に出向き近くミッションに出る事を伝えると、一様にクラスSソルジャー達がびっくりしたような顔をした。

「バロミデスの所の行方不明兵士の件ですか?」
「ああ。」
「我が隊から何人か高位魔法を使える兵をお貸ししましょうか?」
「いらぬ。ザックスとクラウドがいれば大丈夫であろう。ああ、そうだ。”敵のワザ”と”バリア”のマテリアを貸してくれ。ジョニーが少し使えるから雷もあればよいか。」
「御意に。」

 魔法部隊の隊長であるリー・トンプソンはマテリアの管理を任されている。
 一般兵に使いこなせるようなマテリアではないがクラウドの能力を知っているので、反論も何もせずにマテリアを保管している金庫を開けて言われたマテリアを取り出す。
 それらのマテリアを借り受けると、セフィロスは第13独立小隊の執務室へと歩いて行った。
 リーがその後ろ姿にため息をついた。

「まったく、クラスBでもそう扱える者がいないバリアを、入って1年目の新入りが扱えると言い切るのですかね。」
「バハムートのご主人様は伊達じゃ出来ないって事だろ。」
「それにしても、ただ事ではなさそうですね。」
「ただ事じゃないさ。このドッグタグはダミー。こんな外せばいい物で脱走者を管理出来ないだろう?それなのに”行方不明”、何故だと思う?」
「本当のドッグタグの在り所を知っている者が故意に破壊したか、その性質を知っている者が感知を邪魔している。」
「それが意味することは?」
「ソルジャーを誘拐したのはカンパニーの人間?!」

 リーの一言に他のクラスSソルジャー達の顔色が急にかわった。
 そして先程出て行った憧れの英雄の背中を追うように駆けだした。

 第13独立小隊の執務室に入ったセフィロスは、隊員達を前にミッションの会議に入ろうとしていた、そこへ他のクラスSソルジャー達が入ってきた。

「セフィロス、やはりどこか後方支援隊を連れて行ってはどうだ?」
「このミッションはもしかすると裏にカンパニー関係者が…。」
「それがどうしたと言うのだ?たとえ関係者と言えど治安部員の命を自由にしてよいという事はない。」
「しかしキング、相手はソルジャーをも自由にできると言う事ですよ?!」
「こいつらなら下手なソルジャーよりも強い。」

 黙ってクラスSソルジャーの会話を聞いていたクラウドの顔が次第に変わった。
 隣にいたザックスがクラウドの顔色を見てこっそりと訪ねた。

「どうした?クラウド。顔色が悪いぞ。」
「ザックス、ソルジャーが簡単に捕まるってことは弱点を知っているって事だよね?それが出来てソルジャーを必要とする人って、もしかして…」
「ああ…宝条しかいねえな。」

 ザックスの答えはクラウドが一番聞きたくない答えであった。
 しかしそれしかなあり得ない答えであった。

 泣きそうな顔でクラウドはセフィロスを見つめてた。
 セフィロスの瞳が異様に冷たく厳しい物になっていた、背筋が凍りつくような感覚がクラウドに襲いかかる。

 クラウドはこのミッションに、なぜか嫌な予感しかしなかったのであった。