FF ニ次小説

 ミッションの説明と会議が終り、出発が明日の午前10時と決定した。セフィロスからマテリア2種類を受け取って、クラウドが不安げな瞳を向けた。
 その瞳にゆるやかに微笑むとすぐにまっすぐな物にかわった。
 それでもクラウドは不安で不安で仕方がなかった、あまりにもセフィロスが落ちついているので

    まるで手の届かない所へ行ってしまう様な……

 そんな気がしてしかたがなかったのである。
 二人で過ごしているアパートメントに戻って、一生懸命食事の支度をして、セフィロスの帰りを待っていると、その日も夜遅くにセフィロスは帰って来た。

 いつもの様に玄関までお迎えに行くと、ちょっと背伸びをしてセフィロスの唇に軽く唇を重ねてふわりと笑みを浮かべる。
「おかえりなさい。」

 セフィロスはいつも部屋に入って、すぐのクラウドのこの笑顔に癒されていた。
 いつもの様に抱きしめるとその日の疲れが飛んで行くような気がする、ほんの半年前にこの少年の存在を知ったばかりとは思えないほど、今ではなくてはならない存在になっていた。

 食事を終えていつもの様にリビングでくつろいでいると、マグカップをもってクラウドがキッチンから歩いてきた、その時クラウドはまだ心のどこかに不安があったのか表情に出てしまっていた。
 蒼い瞳が不安げに揺れながらもセフィロスを見つめている。

 (まったく、目は口ほど物を言うと言うのはこの事か。)

 セフィロスは思わず苦笑を浮かべて、隣に座ろうとしたクラウドの腰を抱き寄せ膝の上にクラウドを座らせた。
「何を心配しているんだ?」
「あ、の明日からのミッションだけど、もしかして相手は…?」
「ああ、お前も気がついたか。多分宝条だ。」
「セ、セフィ…ロス、宝条博士ってセフィロスのお父さんだよね?」
「ああ、どうやら本当らしいな。」
「お願い…約束して。俺を置いて何処にも行かないで。博士と刺し違えてでも、って思っていない?俺、俺。貴方がいない世界なんて考えられないよぉ…。」

 最後は涙声だった。
 蒼い瞳に涙をたたえ感情を抑え切れなくなったのか、自分に抱きついてくるクラウドを素直に”嬉しい”と思うと同時にセフィロスは不思議に心の中が暖かくなった。
「なぜお前は私が刺し違えると思ったのだ?」
「だって、このミッションが入った時のセフィロスの雰囲気が冷たくて…しがらみをすべて断ち切っていたみたいで。うぇっ…ひっく。俺、俺…セフィロスが死ぬのを見るのは嫌だ。セフィ…セフィロスが…いないなんて…ひっく……考えられない。だから、お願いだよ。俺を置いて何処にも行かないで。俺の前からいなくならないで!!うぇっ…ひっく…。」

 ボロボロと涙をこぼしながら自分の首に抱きついて、心情を吐露するクラウドが可愛くて、セフィロスは抱きしめながらも跳ねた金髪を柔らかくすくように撫でる。

 (まったく、これほど泣かれるとは思わなかったな。)

 クラウドが自分の気持ちをうすうすわかっていることは、セフィロスには想像がついていたので、反対はされると思ってはいたが、これほど泣かれるとは思わなかった。
 自分の弱点を一番知っているのが宝条であるのは間違えない。その宝条と対峙することも覚悟の上だったが、その前にクラウドをどうやってなだめるか…そちらの方がセフィロスには遥かに難しい問題だった。

「ソルジャーの弱点を一番知っているのはあいつだ。だからといって野放しにしていてはいけないであろう?」
「わかってるよォ、そんな事。えぐっ……だから、だからセフィロスは俺が守るんだもん。ひっく……」

 まだ入ったばかりのルーキーに守ると言われたトップソルジャーが苦笑いをする。
 腕の中の愛しい少年に”守りたい”と言われて久しいが、それが本気であるとこの時実感した。

 (このぬくもりを、失いたくは無いな。)

 真っ赤に晴らした瞳で真摯に自分を見つめるクラウドに、セフィロスはゆるやかに微笑みながら、その唇をついばむようにキスをするとにやりと笑った。
「ところでクラウド、キスで終れそうにも無いんだが…」
「ば…馬鹿ァ」

 鬱向きがちに真っ赤になりながらも紡がれたクラウドの”馬鹿ァ”のセリフは、既にセフィロスは『了承』という捕らえ方をしていた。
 もう一度口づけをするとそのままクラウドを姫抱きにしてベッドルームへと歩いて行った。


* * *



 翌日、輸送機の前に第13独立小隊の隊員が整列している。
 その前を黒革のロングコートを風になびかせながらセフィロスが歩いてきた。少し遅れてザックスが追いかけるように立ち並ぶと、隊員達が一斉に敬礼した。
 セフィロスとザックスが姿勢を正して返礼すると同時に隊員達が敬礼から直った。

「ただいまよりミッション693711 ランクS、ジュノン南東の森における、治安部員の行方不明事件を追う。総員、搭乗開始!!」
「アイ・サー!」
 隊員達がもう一度姿勢を正して敬礼すると、セフィロスとザックスが返礼した。
 輸送機に順番に乗り込んで行く、その光景を遠くで何人かのクラスSソルジャー達が、黙って見守っていた。

「昨日よりもずいぶん穏やかなご様子とお見受けしたが?」
「ああ、何があったかはだいたい想像がつくが…。なあ、リー。恋人と言うものはそんなに凄い物なのか?」
「さあ?私にはわかりません。どうなんだ?ガーレス。」
「いい物なのであろうな。あの氷の英雄があれ程まで変われるほど、な。」
「で?これからどうするのだ?」
「さあな。少なくとも姫には、ずっとキングのそばにいてもらわねばならんようだ。」

 ため息交じりのランスロットの言葉にクラスSソルジャー達が軽くうなずく。
 その時、輸送機が滑走路の端から、タキシングを終えて飛び立つ為の助走を始めた。ぐんぐんスピードを増すと、ふわりと輸送機が舞い上がり、鮮やかな航跡を残して飛び立って行った輸送機を見送ると、クラスSソルジャー達は自分達の任務に戻って行った。

 飛空挺の中ではザックスが顔見知りの輸送隊副隊長に声をかけていた。
「あ、サー・ユージン。今日のフライト予定は何時間っすか?」
「まったく。ザックス、減点するぞ。今日は4時間だ。」
「いやねぇ、乗り物に弱い弟がいるもんでね。」
「4時間ぐらいなら、エアポケットにでも入らない限り大丈夫です。」
「あ、君がクラウド君?ゴードンやパーシーから噂はきいてるよ。来月が楽しみだなぁ、こんな可愛い子が来てくれるなら大歓迎だよ。」

 輸送隊の副隊長ユージンが気安げに話す様子を見て、リックが怒りをあらわにした。突き刺すような視線でクラウドの後ろからユージンを睨みつけていたのであった。
 その視線を感じ取ってユージンが青い顔をした。

「リック、なんだよそんなに睨むなよ。」
「サー・ユージン、言っておくが俺に勝てないような奴に姫を渡す気は無いぜ。」
「噂通りか?お前が男に惚れる、ねぇ。」
「ああ、お前が言う通り可愛いんだぜ〜うちの姫君は。誰が他の連中に渡すか!!」

 リックの本気の脅しを聞いてユージンが肩をすくめた。
 クラウドのとなりでザックスが呆れたような顔でリックのセリフを聞いていた。

「リック、こいつが一般兵の内ならその脅しも効くぜ。しかしよぉ、俺達を一気に追い越して上級ソルジャーの仲間入りしたらどうする気だ?」
「すぐに追いかける…って、訳にはいかねぇなぁ。ザックスを鍛えよう、うん。」
「ぶっ!!いくら可愛いからって、俺は女のほうがいい!」

 クラス1stまでのソルジャーにはあまり魔力を問われないのであるが、上級ソルジャーになれば下級ソルジャーを守らねばならなくなり必然的に魔法を掛ける回数が増える。
 ところがリックには魔力が無いと言って等しいほど少なかったのである。
 いくら実力があり沈着冷静で一隊を率いる実力があるとはいえ、魔力が無いと言う事は魔防も少ないと言う事でステータス異常の魔法をかけられたら一発でかかってしまう。
 そんな危うい状況下で戦闘の指揮を取る事は、一隊を滅ぼす事になりかねないのであった。
 だから特務隊に長くいられる程の男が、いつまでたっても1st扱いの一般兵でしかなかったのであった。

 そしてそれは隊のトップ3であるカイル、ジョニーも同じであった。
 いや、彼らだけではなく特務隊に長く所属する兵士達はすべて実力はあるが、皆上級ソルジャーには上がれないほどしか魔力が少なかったのであった。

 飛空挺があっという間にジュノン南東の森に到着すると、隊員達が装備をもって安全な所にテントを張り出す。
 本営を作り上げた所でセフィロスがクラウドを呼ぶ。

「クラウド、ちょっと来い!」
「え?ア、アイ・サー!」

 本営の中に入ると組立式テーブルの上に地図が乗っていた。
 セフィロスの隣にザックス、そしてリックがいて入ってきたクラウドを振り返る。

「クラウド・ストライフ、入ります!」
「お、来た来た。」
「隊長殿、本当にやらせるつもりですか?」
「ああ。」
「わかりました。」

 何がなんだかわから無いクラウドはただ首をかしげるだけで、その場に突っ立っていた。

「あ、あの。何の事でしょうか?」
「この地図を見ろ。お前なら何処をどう調べ、どう探すか聞きたい。」
「あ、あの…理由をお聞かせ下さい。」
「剣技、魔力ともクラスAは間違えないお前だ。来月にある階級見直しの武闘大会の結果しだいでは、上級ソルジャー扱いになろう。その時、戦略も重要なクラス決めのポイントになる。今から実戦で学んでおくべきだからだ。」
「了解いたしました。」
 そう言うとクラウドが地図を見るとしばらく考え込んでから顔を上げてセフィロスを見た。

「捜査ポイントは3ヶ所、ベースキャンプより北北西1.5kmの地点と西北西2.0kmの地点、北西1.8kmの地点に平たんな土地。このポイントを重点に不審な物を探し出します。第一班カイル、ジョニー、ステア。第二班リック、アーサー、ブロウディー。第三班はケイン、ユーリ、そして自分が先遣隊で捜索に行きます。」
 リックが軽くうなずく、ザックスも口をはさまなかった。
 セフィロスが満足げな顔でクラウドを見た。

「私と同じ意見だな、合格だ。」
「どうだ?ザックス。」
「俺は留守番って?酷いなぁ、動きたくてうずうずしてるのに。」
「サー・ザックスは各班から連絡が入って怪しい物が見つかったら、すぐにその班に応援に行く為に残っていただくのです。」
「お?それならいいっしょ。」
「では、その案で行く。」

 セフィロスの一言にその場にいた面子が一斉に敬礼した。