FF ニ次小説
 9月23日。
 昨日さんざん磨かれたクラウドが、セフィロスより少し先にカームの教会のそばのホテルに入る。
 ミッシェルとマダムセシルがホテルの部屋にいて、いつもの様にクラウドをきっちりと美少女へと変貌させて行った。
 クラウドがウェディングドレスを身にまとうと、思わずミッシェルがため息をついた。

「あ〜〜ん、こんなに似合うのに何で断らないといけないのよ!!」
「一回だけでいいもん!」
「そうね、勿体ないわ。こんなに素敵なのにパンフレットモデルも駄目なの?」
「やだ!セフィロスの前じゃないと着ない!!」
 クラウドが二人の女性にまるで少女の様なわがままを言っている時、扉がノックされてセフィロスが入ってくる。
 きっちりと正装し胸にクラウドのブーケとお揃いのブートニアを付けた姿は、いつもの黒い革のコートやスーツ姿よりも遥かに素敵でかっこよかった。
 クラウドの視線は釘付けで何も言えずにただぼ〜〜っと突っ立っていたのだった。
 セフィロスはマダムセシルに一礼すると話しかけた。
「マダムはここに残って下さい、貴女を守る兵を考えていなかった。」
「あら、残念。挙式に出席出来ると思っていたのに。」
「じゃあ、またあとで。クラウディア、行きましょう。」
「あ…はい。」
 ミッシェルがクラウドの手を取ってエレベーターへと歩いて行く。
 ロビーまで出るとクラウドの服は人目を引くので、ホテルのスタッフが笑顔で一礼し、周りにいた客が思わず立ち上がって拍手で見送った。

 カームの教会の前には黒のロングコート姿のクラスSソルジャー達が2列に並び向かい合っていた。

 グラッグが身分を明かし記念写真を取りたいと言うので、セフィロスとクラウドを中心に、クラスSソルジャーが並ぶとグラッグが色々と注文を言う。
 見栄えが良くなったのか満足したグラッグが何枚かシャッターを切った。

 教会の扉の中にセフィロスとクラウドが入り、その後ろからクラスSソルジャー達が入る。
 そして全員が教会の中に入った時、教会の扉が重々しく閉じた。

 セフィロスとクラウドの前には人のよさそうな神父が聖書を持ってたっていた。
 神父が一礼し聖書の一節を読みはじめる。

    厳かに式が始まったのであった。

 賛美歌を唄い神父から言葉をもらい、誓いの言葉をいう。
 リングを交換し宣誓書にサインを入れあい、二人が向き合った。
 誓いの口づけを交わし式の成立を神父が宣言した。
 ごく普通の挙式ではあったがクラスSソルジャー達は、式の間中あちこちに神経を張り巡らせていた。

 挙式が滞りなく終り新郎新婦の二人が教会の前へと歩いていく。
 クラスSソルジャー達が教会の扉を開けると教会の前に人だかりができていた。
 教会の鐘の音を聞いて集まってきたのであろう、街の住人達だった。
 やがてセフィロスとクラウドが姿を現わすと、人だかりから何人かの若者が飛び出して来た。
 若者の手にナイフが握られていた、それに気が付いたランスロットがリックの名前を呼んだ。
「リック!」
「アイ・サー!!」

 名前を呼ばれただけでリックが反応する、近くにいたミッシェルを左腕で抱き寄せ、ホテルへと人ごみの中を掻き分けるように進んで行った。
 セフィロスがクラウドを抱き上げて、クラスSソルジャー達の囲みを突破し、ホテルの部屋まであっというまに移動すると、部屋の中にはマダムセシルが待っていた。

 リックが行動を起こすと同時にカイルとジョニーがそれぞれクラウドのスタッフを確保して、後を追い掛けるようにホテルへと入って行った。
 リック達に守られてクラウディア・スタッフ達が引き上げてくると、セフィロスは身をひるがえして人ごみの渦の中に飛び込んで行ったが、すでにクラスSソルジャー達がナイフを持った男共を取り押さえつつあった。
 リック達が手際よく男共を縛り上げて行った。

 セフィロスが男共を睨みつけながらたずねた。
「まったく、何が目的だ?」
「俺達の妖精を独り占めしようなんて許せんだけだ!!」
「はぁ?妖精?ああ、クラウディアの事か。挙式が終った後に襲っても未亡人になるのだがな?そんな事をするとあいつは後追い自殺をしかねないのだが、それが望みか?」
「そ、そんな…あ、ああ……。」
 男ががっくりとうなだれた。

 男たちがリック達に引き連れられていくと、クラスSソルジャー達が集まってきた。
 ランスロットが呆れたような顔をした。

「カームの地下組織と言うのは姫のファンだと言う事ですかな?」
「ランス!!貴様、こんな事で私の手をわずらわすな!」
「不穏な動きといっただけではないですか。セフィロスだとて、これで正式に姫と式を挙げたのですから、文句を言われる筋合いはないですな。」

 にやりと笑うとセフィロスの肩をポンとたたいてランスロットは歩き出した。
 セフィロスの後ろでリック達が肩を揺らして笑いをこらえていた。
 振り向きもせずセフィロスは背中越しに笑っているリックにたずねた。
「リック、知っていたのか?」
「いえ、サー・ランスロットからはこの任務以外の事は聞かされてはいません。」
「あれは…知っていたな。」
「さあ?何ともいえません。では、自分達もコレで。」

 そう言ってセフィロスに一礼すると、リック達は町外れに停めてあったカンパニーのトラックに乗り込んだ。
 クラスSソルジャー達もいつの間にかカームから撤退していて、セフィロスは苦々しげな顔をしながらホテルで心配しているであろうクラウドの元へと戻った。
 その手にはしっかりと手には結婚証明書が握られていた。

 ホテルの部屋をノックしようとすると、部屋の中からクラウドの殺気が感じられる。
 その気配は中にいるスタッフ達を守ろうと必死になっているのがうかがえた。
 扉をノックすると同時に扉のそばにいるクラウドに声をかける。

「私だ、開けてくれないか?」
 途端に部屋の中からクラウドの殺気が消えた。
 扉が開くといつの間に着替えたのか、ドレスは既にマダムの手元に有り、カンパニーの一般兵の青い制服を着て手に拳銃を握っていた。
 クラウドが不安げな顔でセフィロスに問いかけた。
「隊長殿?」
「ああ、おわった。もう安全だ。ところでティモシー、これはきちんとした証書か?」

 ティモシーがセフィロスの手に持っていた書類を受け取ると一通り眺める。
 そして何処にも不備が無い事を確認すると軽くうなずいた。

「はい、正式な結婚証明書と宣誓書です、そしてあらかじめ受け取っていましたクラウド君のお母さんの承認書がありますので後は役所へ届けるだけです。サーが提出されますか?こちらで提出いたしましょうか?」
「おまえがその書類を隠匿する可能性は?」
「0%です、自分はサーとクラウド君の結婚を喜ばしいものと思っています。」
「では、頼もうか。ああ、ミッシェル念の為に立ち会ってやってくれ。」
「信用されていませんね。」

 苦笑いしながらティモシーとミッシェルが部屋を後にすると10分ぐらいたって、何か紙を一枚持って帰って来た。
「はい、受け取りの証書です。これでお二人は正式なご夫婦です。」
 それだけ伝えるとグラッグに声をかけて部屋を退出する。
 マダムセシルがすべて終わった事を確認するとクラウドに声をかけた。
「クラウディア、このウェディングドレスどうする?」
「あ、どうしよう?他の人に着られたくないし…かといって、そんなドレス持って帰っても仕方がないし…。」
「では、このドレスを少しデザインを変えて、クリスマスパーティー用に仕立て直しましょうか?」
「ま、待ってください。クリスマスパーティーって…。げぇ〜〜!!」
「うふふふふ…、今年は相当招待されそうね。どんなドレスを着てもらいましょうかしら、楽しみだわ。」

 嫣然と微笑みながらドレスを大型キャリーバッグに入れてホテルを後にした。
 セフィロスがいつの間にか着替えを終えてクラウドの後ろで苦笑をしていた。
 セフィロスがクラウドの頬に軽くキスをすると耳元で囁く。

「そろそろ食事に行きたいのだが、服を着替えてくれないかな?」
 時計を見るとすでに13時に成ろうとしている。
 不意にクラウドのお腹がきゅるきゅる……と、鳴った。
「あ…き、着替えないとダメなんだよね?」
「さすがにカンパニーの青い制服ではクラウディアにはみえないな。」
「うっ……、わかったよ。」
 カバンに今朝着てきたロイヤルブルーのワンピースドレスが入っている。
 そのドレスに着替えて軽く化粧をするとセフィロスがゆるやかな笑顔で待っていた。

 ホテルのレストランで食事を終えて、少しカームで過ごし、夕方にアパートメントに帰って来た時にクラウドはセフィロスにいきなり抱きかかえられ、姫抱きのままいつも過ごしている部屋に入った。思わずクラウドがセフィロスに抗議した。

「な、なんで?!」
「知らないのか?新婚の花嫁を迎え入れる正式な方法だ。本当ならこのままベッドにつれ込みたいのだが夕食がまだだからな。」
「も、もう…。でも、パスタぐらいでいいならすぐ作るよ。」
 クラウドがキッチンで料理を作る姿を堪能しながら、セフィロスは携帯を取りだしランスロットに連絡を入れた。

「ランスか?私だ。今日の報告書だが私の分まで出しておけよ。それから明日だが、それなりの覚悟をしておけ。」
 話し声が聞こえたのかクラウドがキッチンから顔を出した。
「ところで、今日のミッションって一体なんだったんですか?」
「それは明日、ランスロットに直接聞くのだな。ただし、奴は簡単には口を割らんぞ。腕尽くで口を割らせるのだな。」
「お、俺がですか?!」
「ああ、間もなく無差別武闘会だ。実力ためしと思って思いっきりやってよいぞ。」
「はい、わかりました!」
 クラウドの瞳がきらきらと輝いている。
 この少年がまもなく公私共に自分のとなりに立ってくれるだろうと思うと、セフィロスはその日が早く来る事を密かに願わずにいられなかった。




    The End