なんとか打ちあわせを終え部屋に帰り付くと、クラウドはどっと疲れが出た。
何だかセフィロスにもてあそばれただけの気がしていた。いつも…いつも、クラウドはセフィロスに翻弄されている。
(しょうがないよなぁ……これが、惚れた弱みって奴??)
自分でつぶやいていて真っ赤になり手足をばたつかせていた。
ちょうどそこにセフィロスが帰って来た。
扉を開けるとクラウドが手をばたつかせていたのが目に飛び込んできたセフィロスは、何があったのかわからないが、とにかく愛しい少年の身の安全を確認しようと玄関から一気にリビングのソファーまで駆け寄った。
いきなり目の前に現れたセフィロスにクラウドがびっくりする。
「あ、セ…セフィ?!」
「大丈夫か?クラウド。」
いきなりクラウドの身体をじろじろと確認すると、安心したように青い瞳を正面に捕らえた。
「なぜ手足をばたつかせていたんだ?」
クラウドは見られていた事に顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに答えた。
「お…俺が、セフィロスにどれだけ惚れているかって自覚しただけだよ。」
「クックック…、嬉しい事を言う。」
いつもならそう言いながらソファーに座るクラウドに、覆い被るように迫ってくるのだが、今日のセフィロスはちょっと違っていた。
クラウドのそばまで来ることは来たが、突然ひざまずいて右手を取った。
クラウドがいつもとは違うセフィロスの雰囲気を感じ取って横座りになっていた姿勢を、きちんと正面向かせると目の前のやけに真面目な顔をしているセフィロスが自分の右手の甲に唇を落したのをみてびっくりする。
「な…ど、どうしたの?」
セフィロスの秀麗な顔がゆるやかな笑みを浮かべて自分を見つめている。それだけでクラウドは心臓がバクバクと高鳴り、自然と顔が赤くなる。
すうっと近寄ってくるセフィロスの顔に自然と瞳が閉じた。
軽くついばむような口づけを交わす。
いつもならすぐに口づけが深くなるのだがこの日だけは違っていた。
クラウドが目を開けるとセフィロスがゆっくりと話しはじめた。
「クラウド、私と結婚してくれるか?」
「え?な、なに…?急にミッションが変更になったの?」
「いや、そうじゃない。ミッションは変わらず続いている。」
「じゃ…なぜ??」
「おまえがあまり乗り気では無いような事をミッシェルが教えてくれた。それを言われて思い出したのだ、正式にプロポーズをしていない事をな。クラウド…私と一緒になってほしい。」
「セ…セフィ……。」
クラウドは青い瞳をこれ以上無いほど見開いてセフィロスを見ていた。
やがてその青い瞳から涙がこぼれ落ちはじめる、それを見てセフィロスが困惑し長いため息をはいた。
「泣く…、というのは嫌だからか?」
「ど、どうしてそういう風に取るんだよ。嬉しくて泣いちゃいけないのかよ。」
「嬉しいのか。よかった、てっきり私は断られると思ったぞ。」
「もう、俺が断る事なんてありえないって知っているくせに!!」
クラウドは目の前の逞しい身体に抱きついた、その時セフィロスの携帯に電話が掛ってきた。
ディスプレイにはマダムセシルと表示されている、セフィロスが携帯を広げて電話に出た。
「私だ。そうか、わかった。式の日取りは23日カームの教会だ、ミッシェルの連絡先か?少し待っててくれ。」
クラウドが自分の携帯を取り出してスタイリストの携帯番号をアドレス帳から引き出した。
セフィロスから携帯を受け取るとマダムセシルと話しはじめた。
「あ、クラウドです。いつもお世話になっています。ミッシェルの携帯ですが 0018の………。」
クラウドがミッシェルの携帯番号を教えている横に座ったセフィロスが、華奢な肩を抱き寄せ少し跳ねた金髪を手で剥くように頭を撫でる。
自分の肩に頭を寄せるクラウドを愛しいと思う、それは間違えない事実。
この少年とずっと一緒にいられるのであれば他に何も要らないとさえ思う自分がいる。
それはほんの少し前まで自分にはなかった感情であった。
クラウドが携帯をセフィロスにかえすと彼は携帯を胸の内ポケットに入れた。
そして再びクラウドを抱き寄せると細い顎に手をかけて顔を自分に向かせた。
怪しげに揺らめく蒼い瞳の中に欲情のかげろうを見取ると、ゆっくりとクラウドを抱きしめながら深く口づけた。
翌日。ミッシェルに呼び出されてクラウディアの扮装で8番街にあるマダムセシルのショップに行く。
店に入るとマダムに教えられていたのか店員が丁寧に一礼し、奥のプライベートオフィスにいるマダムセシルを呼んだ。
すると既に店に到着していたのか、マダムセシルと一緒にミッシェルが現れる。
「今日はなんの御用ですか?」
「ドレスが出来上がったの試着してほしいわ。」
「あ…は、はい。」
ドレスと言われてクラウドは何のドレスだったか一瞬考えてしまったが、引き入れられた部屋に飾ってある純白のドレスを見てクラウドが真っ赤になる。
「こ…これを着るの?」
「ええ、そうよ。ミッシェルにヘアメイクとフェイスメイクをコーチするの。まだティアラやブーケが出来ていないけどベールは用意してあるわ。」
にっこりと笑うマダムセシルを思わず睨むが、セフィロスが望んでいる上にモデルのクラウディアとして挙式を挙げるのである。たとえフワフワ、ガサガサのペチコートが邪魔でも、どんなにトレーンが長くても、ウェディングドレスをまとわないわけにはいかなかった。
いやいやながらドレスを身にまとうとミッシェルがこぼれるような笑顔を浮かべた。
「こ〜〜ら、幸せの絶頂にいる花嫁にはみえないぞ。」
「だって…俺、男だし。」
「あら?サーとの結婚が嫌なの?」
「そ、そんなんじゃない!!」
「ウェディングドレスは幸せを独り占め出来る人が着る物ですよ。貴方がサーと結婚するのに嬉しいのであればその心に素直になりなさい。」
マダムはクラウドに話しかけながらもあちこち忙しくチェックして回っている。
ミッシェルがメイクボックスからコームを持ち出すと、クラウドの髪の毛をいじりはじめながらマダムセシルと相談しはじめた。
「マダム、ヘッドドレスはティアラですか?それともブーケにします?」
「そうね…どっちが似合うかしら。」
「ブーケしだいですね。カスケードにします?ラウンドにします?」
「花の種類を決めれば形が決まるわ、なにがよいかしら?」
「このドレスならカサブランカか胡蝶蘭あたりね。」
女二人でブーケがどうのとやっているのをクラウドはまるで他人の事の様に聞いていた。
そしてマダムが何処かに電話を入れていた。
どうやら花の在庫を確認しているのであった、すると相手はエアリスかその母親であろう。
マダムが電話を切ってミッシェルに答えた。
「カサブランカは終ってしまったって、バラか胡蝶蘭ならあるそうよ。」
「バラよりも胡蝶蘭の方が似合っているわ、じゃあカスケードブーケね。」
「ブーケが華美だからヘッドドレレスはティアラよりも花にしましょう。あとはアクセサリーだけど、やはり定番の真珠ね。」
そう言うとマダムはデスクの引き出しから真珠のネックレスを取り出して、クラウドの細い首にかけてやる、ネックレスはプリンセスタイプで首元にきっちりはまる。
ミッシェルがきつくならないように抑え目のメイクをして、ベールをかぶせると鏡の前には美しい花嫁が立っていた。
ミッシェルが満足げに声をあげた。
「う〜〜ん、綺麗。本番が楽しみだわ。」
クラウドの出来上がりにマダムセシルが目を細めた。
「やはり貴方は白が良く似合うわ。」
「お、俺…セフィロスの前以外では着ませんから。」
「あら、残念。でもサーがOKすればよいのね。」
マダムセシルが満面の笑みを浮かべた。
その微笑みにクラウドは思わず背中に冷たい物を感じた。
「はい、もう脱いでいいわよ。ウェストの部分ちょっと修正ね」
クラウドからドレスをはぎ取るとマダムセシルはミッシェルと一緒にドレスの修正にかかった。
それからしばらくしてドレスが出来上がった。
その日も呼び出されたクラウドはミッシェルが大喜びでマダムと打ち合わせをしている横で、日ごろの疲れかついうとうとと居眠りをしてしまった。
ミッシェルがそれに気が付かずに声をかけた。
「クラウド君、明日の事だけど…あ、もう居眠りして!!」
「あ?え…あ、ごめん。明日なにかあるの?」
「ばっちりエステを受けてもらって、隅から隅まで綺麗になってもらうからね。」
「うげぇ〜〜〜!!拒否!!」
「ダメ!これはサーからも頼まれているのよ、我が花嫁に相応しく…と、ね。」
ミッシェルがクラウドに軽くウィンクをした。
「セ…セフィロスったら…。面白がっているんじゃないかな?だいたい俺の事を”花嫁”だの”妻”だのとやたら女扱いするしさ。」
「仕方がないじゃない?だいたい結婚届だってどちらかが”妻”になるんだし、クラウド君が彼と並んで”男”に見えた事ないもん。」
ミッシェルの一言にクラウドがふくれた。
アパートメントに帰宅したクラウドはいつものように食事の支度をしていると、ポケットの携帯が鳴り響いた。
ザックスからの電話だった。
「はい。あ、サー・ザックス。あ…ごめん。うん、エアリスの事なんだけど。来月ぐらいに部屋に呼べないかな?まわりくどく説明するよりも、見れば一発だろ?うん、出来れば10月に入ってから…うん、ありがとう。」
エアリスを部屋に呼ぶと言う事を決めたので、ザックスに話しておいたのであった、ザックスは
「俺を部屋に呼ぶほど親しいなら敬語は無しだぞ。」
そう言ってにっかりとわらいエアリスとの掛け橋になってくれると約束してくれた。
(明日はミッシェルに引きずられてエステを受け、明後日はミッション当日…、かぁ。)
クラウドはカレンダーを見てあっという間だった準備期間の事を思い出していた。
カームの街の人達が地下組織を作って何かしようとしているのはなんとなくわかった。
しかしその地下組織が何であるかまったく見えてきていなかったのであった。
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