FF ニ次小説
 ミッドガルとカームを行き来しながら、クラウドが情報を集めて来つつあった。
 そんなある日セフィロスに言われてクラウドはスタッフを事務所に集めた。

「今日は何の御用ですか?」
「セフィロスに言われて皆を集めたんだけど…多分カームでの事だと思う。」
「あ。挙式の事?」
「ミ、ミッシェル!!」
 たしかにその日は挙式の日であるが、あくまでもミッションと言うことになっているので、改めて言われるとクラウドが真っ赤になる。
 そんなクラウドを見てミッシェルが思わず茶化した。
「うっわ〜、真っ赤。」
「だって、あくまでも仕事だし…」
「しかし正式な挙式です。あくまでも内密の…、ね。」

 ティモシーに言われた言葉にクラウドがうなずいた時扉がノックされた。
 (セフィロスでは無い…、彼なら扉をノックする事などしない。)
 そう思ったクラウドは瞬時に頭が切り替わった。
 扉のそばの壁に身体をぴたりと寄せて低い声で問いかけた。

「どなたですか?」

 扉の向こうから聞き覚えのある声が答えた。
「よぉ、お姫様。隊長殿に呼ばれてきたんだけど入れてくれない?」
「リックさん!!」
 クラウドが扉を開けるとリック、カイル、ジョニーの3人がその場で立っていた。
 そして後ろからセフィロスが姿を現わしながらスタッフ達に説明をした。
「あと一週間だからな、顔を合わせる為に連れてきた。」
 リック達が部屋に入るとクラウドのスタッフが立ち上がった、全員が一礼して自分達から名前を名乗り握手を求めた

「君たちはこいつらに守ってもらうので安心しているのだな。」
「サーがおみえになるうえに、サーの部下の方々が見えるのなら安心していられます。」
「あ、でもサーはクラウド君を守るのでしょう?」
「こいつは大人しく守られたくない様だがな。」
「でもドレスで闘うなって皆さんおっしゃるんですもの……。」
「そうね、そのほうがいいわ。だってあくまでもモデルなんでしょ?」

 ミッシェルの言葉にクラウドが拗ねたような顔をする。
 その顔にゆるやかな笑みを浮かべたセフィロスがいる、砂がはけそうなほど甘くなった上司に3人の男共がいささか呆れた。
「どうするよ?おい、ウチの隊長殿ってこんなに甘かったか?」
「いや?氷の英雄と呼ばれるほど、人とかかわる事などしなかったはずだ。」
「まったく、いい事なんだか嫌な事なんだか…。」
 肩をすくめながらもスタッフの3人に3人の男共は軍人らしい自己紹介をしはじめた。

「リック・レイノルド。第13独立小隊所属 1st扱いの一般兵です。」
「カイル・エルファド。右に同じく!」
「ジョニーです。右に同じく。」
 びしっとした姿勢が兵暦の長さを物語っている。
 ティモシーが顔を覚えていたのかジョニーに声をかけた。

「君とは確か会っているな、たしかグランディエ財団の御曹司。」
「ちぇ!それは出さないでほしかったな。」
 ジョニーが苦虫を噛みつぶしたような顔でティモシーを睨みつけるが、彼もセフィロスに睨まれなれているので平気で受け流していた。
 それを知ってセフィロスがにやりと笑った。

「ジョニー、そいつは私に睨まれなれたようだ。」
「なるほど、自分の睨みつけはもう効かないのかと心配いたしました。」

 ジョニーの一言が一瞬にして場をなごませた。
 ティモシーが男たちをソファーへと案内している間に、クラウドがコーヒーを人数分入れてくる。コーヒーのアロマに鼻腔をくすぐられ口を付ける。
 ふとクラウドが思い出したようにリック達に聞いた。

「そういえば、ノックの後、誰何した時私だってわかっていたんですよね?なのになぜ自分から開けなかったんです?」
「ああ、あの時か。扉の向こう側の殺気を感じていたからだ。気配で扉のそばにおまえが拳銃抱えて立っているのを悟ったからな、あそこで声も出さずに扉を開けたらいきなりホールドアップだ。」

 リックのあくまでも軍人らしい答えにクラウドがびっくりする。
 そして逆に扉の向こうのリック達の気配を探れなかった自分に、思い切り落ち込んでしまった。
 その落胆ぶりにセフィロスがすぐに気がついた。

「ん?なんだ。クラウド、おまえは殺気を感じたいのか?」
「…ええ、だってそれがわからないと戦地で困りますわ。」

 クラウドのお嬢様言葉に目を丸くしたカイルがつぶやいた。
「お嬢様言葉で戦地だなんて言ってほしくね−な。」
「サー・ランスロットの催眠術ってある種の洗脳じゃないんですか?」
「私もそれが気になってあいつに聞いたが、深層心理にクラウディアの情報を教え込んだだけで、あとはクラウドが鏡をみてその深層意識を呼び出せばいいと言っていた。」
「私達はこういうクラウディアを望んでいますのでよいですが、あくまでも基本はカンパニーの兵士ですよね?」

 ティモシーの言葉にクラウドが首をかしげている所を見ると、どうやら自覚が無いようである。それを見てセフィロスも苦笑いをする。
 ミッシェルが急に真面目な顔をしてセフィロスに聞いた。

「ところで、カームでの挙式中に何かあるとクラウド君が言うのですが。英雄とまで呼ばれる貴方が、結婚式を反抗勢力のあぶり出しに使うのですか?女の子の夢を何だと思っているのよ!!」

 つかみ掛かるまでは行かないが、思いっきりセフィロスを睨みつけて怒鳴っている。
 ミッシェルにしてみればクラウドが可愛いくて味方をしているつもりなのであるが、日ごろ”英雄に逆らう連中”がどういう結末をたどるか知っているリック達が一気に青ざめた。
 セフィロスも反抗勢力以外の…それも女性に怒鳴られたのは初めてなので、思わずじろじろとミッシェルを見てしまった。

「な、なんですか?!私はクラウド君が可哀想だからそう言っているんです!彼は本当に貴方の事を好きだから、たとえあぶり出しに使われても、任務だから仕方がないって思っているかもしれないけど…結婚式ってそんな気持ちで挙げる物じゃないでしょ?!」
「ミッシェル、残念だが私にはその手の感情がわからない。結婚とて同棲と書類一枚の違いではないか。姿の見えない神に誓うほど馬鹿らしい事はない。形式に囚われているおまえの考えが理解出来ない。」

 ミッシェルはセフィロスの言葉にびっくりしていた。
 それは以前から反抗勢力に感情を持たない殺人マシーンと言われ、ミッドガル市民からは氷の英雄と呼ばれたセフィロスそのものであった。
 ミッシェルから思わずため息が漏れる。

「女の子に取って最愛の人と挙式を挙げると言うことは、この世の幸せを独り占めしているのに等しいんです。貴方がクラウド君を本当に愛しているのならば、せめて挙式の間ぐらいは真摯に受け取ってほしい物ですわ。」
「そういうものなのか?」
「ええ、そういうものなんです。」

 ミッシェルがぷいっと横を向くとティモシーがうなずいているので、セフィロスは彼にも聞いた。

「どうやら、同じ考えのようだな。」
「ええ、私もクラウド君が好きですから、本当にしあわせになってほしい。これは貴方にしか出来ない事なのですから、姿の見えない神に誓えないのでしたら、せめて私達にクラウド君を幸せにすると誓ってほしい物です。」
「そうか、それならばお前達に誓うつもりでいればよいのだな?」
「私達だけではなくクラウド君にも誓ってほしいのです。」
「わかった、それならば出来る。」

 このうえなく真面目な顔でうなずくセフィロスに満足げに笑みを浮かべて、ティモシーがうなずいた。ミッシェルも同じようにうなずいている。
 クラウドのスタッフの会話を何の表情も浮かべずにリック達は聞いていた。
 そしてあくまでも任務とばかりに、会話が終ったのを見はからって話に加わった。

「それで隊長殿、我々はこの3人だけを守ればよいのですか?」
「ああ、そうだったな。その話だがお前達にも戦闘に入ってもらう。そのためにはクラウドと3人を安全圏まで下げて戻る事になるがよいか?」
「了解しました。」

 それだけでリック達にはわかってしまうのか?…クラウドは自分が理解出来ないのが苦々しかった。
 いつかセフィロスの隣りに立ち、彼と共に肩を並べて戦いたいと思っているクラウドに取って、リックのと間にある”阿うんの呼吸”は憧れであり嫉妬の対象である。
 思わず強い視線で睨みつけていたのを悟ったのか、リックがクラウドに向かって笑う。

「ばーか、何嫉妬してるんだよ。俺と隊長殿は5年も一緒に戦っているんだ、この程度の会話で隊長殿が何を望んでいるのかわからないでやってられるかよ。」

 たしかにそうであろう、しかし出来れば自分がその会話をしたいとクラウドは思っていた。
 その思いをわかったのであろうか?リックが優しい瞳をクラウドに向けた。

「大丈夫だ、おまえならすぐに俺の位置まで来ることができる。」
 その一言にクラウドの顔がパアッと華やいだような笑顔になった。

 (実に素直な感情をストレートに表現する奴だ。)
 リックは思わず苦笑した。

 しかしその視線の交わりを不快に思っている人物がいた、セフィロスである。
 おもむろにクラウドの隣に移動したかと思うと、華奢な身体をひょいと抱えあげたまま、ソファーに座ると自然とクラウドが膝の上に降ろされる。

「そんな顔、私以外の男に見せるな!」

 いいかげん慣れたとはいえ、その独占欲の強さにリック達が肩をすくめ、クラウドのスタッフ達が呆れた顔をする。
 しかし耳元で囁かれているクラウドに取っては、脳髄に直撃する甘い囁きだったようである。
 顔どころか首まで真っ赤にして上目づかいで見上げるうるうるの青い瞳、拗ねたような…甘えたような、ちょっと尖った唇にセフィロスは誘われるまま唇を重ねた

「ちょ………んうっ!な、なにする……の…はっ。うん………」
 セフィロスに舌を絡められ、深く口づけられながらも、クラウドはそこにスタッフや先輩隊員達がいる事をわすれていない。
 それがかえってセフィロスを煽ったようである。

「ほぉ?まだ周りが見えるのか?余裕だな。」

 唇から離れたセフィロスの唇が頬から耳へ…、そして首もとへと這い出すと、クラウドのからだが甘い疼きを感じはじめる。
 しかしここで流される訳にはいかないクラウドが、セフィロスの腕の中から逃れようとした。
 こうなるとセフィロスもイタズラ心だったはずが、愛しい少年が腕の中から逃げ出さないように実力行使とばかりに身体への愛撫を加えた。

 (羞恥心の強いクラウドが腕の中で耐えながらももがく姿もそそるな…)

 などと不埒な思いが頭を過るが、その可愛らしい姿を他の連中に見せたくもない。そう思っているとミッシェルから罵声が飛んだ。

「このお馬鹿!!クラウド君が嫌がってるでしょ!!だいたいそう言う事は二人っきりの時にしなさい!!」

 リック,カイル,ジョニーが瞬時にセフィロスとミッシェルの間に立ちはだかった。
 しかしセフィロスは罵倒されたのに何も行動を起こす事はなかった。
 ただその場でいつもの様にゆるやかな微笑みを浮かべるだけであった。