ミッションに入る前にミッシェルに相談して化粧方法や、衣装の選び方、そして小物の選び方を一通りレクチャーしてもらっていた。
ミッシェルがクラウドになにかと突っ込んで聞いている。
「へぇ、ソルジャーって色々と大変なのね。で?そのまま結婚しちゃう訳?」
「う…ん、何だかその方向に行ってる。」
「今度サーに会ったら言ってやる!!憧れの結婚式を何だと思ってんのよ!」
「ちょっと、ミッシェル。」
ひとしきりブーブー文句を言うミッシェルをなだめて、ダイアナで服を選んでいると、オーナーのデヴィッドが二人を見かけて近寄ってきた。
「やあ、いらっしゃい。今日は何をご所望ですか?」
「美少女モデルの普段着とアクセサリー。ああ、カバンとかもいるわね。」
「ううう…、だんだん抜けられなくなって行く気がする。」
「それは君の気のせいじゃないな。」
けらけらと笑うミッシェルがクラウドの背中をバシバシ叩く。
「しっかり稼いでよね。私達それで生活しているんだから。あ、そうそう。式には私達も出る事になるの?」
「う〜ん、ミッシェルには来てもらわないと、髪型とかあるし…でもそのまま戦闘に入るから危ないし…あとで聞いておくよ。」
「頼むからマダムのドレス着て回し蹴りなんてはしたない事しないでくれよ。」
クラスSソルジャーに言われた事をここでも指摘されて、クラウドはさもつまらなそうな顔をするがミッシェルが止どめを刺した。
「当たり前でしょ?職業がモデルの美少女が剣をもって戦ったり、ましてや回し蹴りなんてとんでもない!!」
「ぶう!」
ふくれっ面をするクラウドが可愛くて、思わずミッシェルが抱きついて頭を撫でると、デヴィッドと二人でミサや奉仕活動に着るための衣装を選びはじめた。
ミサは白いブラウスにパステルピンクのフレアスカート、奉仕活動はカットソーにツータックのキュロットパンツを選びクラウドに着せて見る。
着替えたクラウドは何処からどう見ても清楚な女の子にしかみえなくなるのでデヴィッドが感心した。
「まったく、僕も方針を考えなければいけないな。」
トータルデザインを手がけているデヴィッドの店には、バッグ,靴,ハンカチなどの小物から下着にいたるまで一通り揃っている。
ミッシェルがコーディネートを考えて、その中からカバンと靴をアクセサリーを選ぶと、その選択にデヴィッドが軽くうなずき的確なアドバイスをする。
クラウディアの基本となる普段着のコーディネートが決まると、クラウディア名義で作ったカードで支払いを終える。
紙袋をもってクラウドがアパートメントに帰ったのはセフィロスよりも後の事だった。
部屋に入るといつもとは逆にセフィロスに抱きしめられる。 何処が逆なんだ?
ついばむような口づけが降ってきたと思ったら、急に深く口づけされて息を奪われる。
激しい口づけに流されながらも、まだ帰宅の挨拶もしていないので、セフィロスの胸を軽くコブシで叩くとやっと離してくれた。
クラウドが頬を赤らめてうらめしそうな顔でセフィロスに聞いた。
「…うふう…もう、セフィロスったら”ただいま”も言わせてくれないの?」
「ああ、忘れていたな。お帰りクラウド。」
再び抱きしめられて口づけをされる、思わず”ここまでしないと帰宅の挨拶ってダメなのだろうか?”とへんな疑問すら浮かんでくる。 いや、それがセフィロスの手であろうが…(T▽T)
やっと離してくれたセフィロスが、クラウドの持っている大きな紙袋を見て、いぶかしげな顔をした。
「一体何をそんなに買い物してきたのだ?」
「クラウディアスタイルの普段着、だってカームでミサと奉仕活動をするんでしょ?」
「ああ、そうだったな。私も一緒に行く事になっているから、おまえはクラウディアになっていなければいけないのか。」
「式のヘアメイクとかどうするの?ミッシェルに頼むの?」
「ふん、おまえのスタッフを全員呼ぶ事は考えねばならんな。そうなるとスタッフを守る事も考えねばならん。クラスS共が全員来るとは言っていたがあいつらよりも、リック達の方がまだ頼りになる。」
「リックさん達なら大丈夫だね、じゃあ連絡入れておくよ。」
クラウドは携帯メールでスタッフに先ほどセフィロスと話した事を送信した。
スタッフから即座に返信が入る。それを見るとグラッグなどカメラ持ち込みをすると言うし、ミッシェルはどうやらマダムと連絡をとってどういうメイクにするか決めると言う。
ティモシーは部外秘であることを確認してきた。当然ミッションがかかわっているので部外秘だと返信したら、ある程度根回しをしておかないと3流ゴシップ誌がすぐにかぎつけるだろうから、挙式予定の教会の信者だと言う話しをこれから作ると伝えてきた。
「俺のスタッフって…、結構凄いかも。」
どういう経過でスタッフとして呼ばれてきたのか…は、いまだに聞いたことがなかったが、クラウドはそのうち聞いてみたいと素直に思った。
翌日カンパニーに出社したクラウドは、既に内々に打診されていたのかリック達に囲まれた。
「聞いたぞ。」
「普段カームを往復する時はどうするんだ?」
「それは隊長殿と一緒と言う約束だから隊長殿がいます。」
「そのうち面通しさせてくれな。まあ、俺はちらりと会っているけど」
3人のうちジョニーはクラウディアスタッフと2度会っているが、他の2人は顔を知らないので、当然の要求である。クラウドはうなずきながら、昨夜のうちにスタッフにセフィロス配下の兵が身の安全を保障するとメールしたら、誕生パーティーでのジョニーの安全確認を覚えていたのかスタッフは”カンパニーの隊長クラスが集まる上にサーの配下の兵士が守ってくれるなら安全このうえない!”とまでメールで言っていたのを思い出していた。
「うん、それはサーと話してから改めて日を決めます。」
「わかった。」
あまり深くは聞いてこないが、彼らのこの返事だけでクラウドもなぜか安心出来る。それだけのモノをこの3人は持っているのであった。
しかし、ふとクラウドが疑問に思った事があった。
「あ、そういえばなぜサー・ザックスが入っていないんですか?」
クラウドの素朴な疑問に思わず3人が顔を見合わせて吹き出した。
「あいつはおしゃべりだからな。」
「ミッション絡みなんだろ?それならば基本的に部外秘だ。」
「だいたい姫が隊長殿と式を挙げた事がわかったら、隊長殿とは別の部所に移動しないといけないんだ。おまえは隊長の隣に立ちたいんだろう?ならば奴に話してはダメだ。」
リックの話しにクラウドは自分が美少女モデルをやることになった原因の元を思い出していた。
(そういえばザックスが探りに入ったタークスの人に話した事がきっかけだったっけ。)
そう思うとザックスに対する信頼感が薄れてしまう気がするのが不思議である。
「う〜〜ん、エアリスに話すの、いつにしようかな??」
「ああ、例の8番街の花売り娘の事?」
「うん。ザックスの彼女なんだけど、俺にとっても友達になりたい女性なんだ。」
「ザックス以外の接点はないのか?そっちから行った方が安全だぞ。」
「あるとしたらマダムセシルかな?」
「マダムなら大丈夫だ。あの店の個人情報保護は凄い物だぞ。」
ジョニーの言葉を聞いてクラウドもうなずいた。
言われて見るとその通りであると思う、オーダーメイドやパターンメイドの服を専門とするということは、服のサイズどころかその服を注文した人の連絡先などが入手出来る。
しかも高級品なので客はお金持ちが多いのであるが、その手の情報が漏れた事はなかったのである。
店員の教育がシッカリとされている証拠であった、だから客も安心して服を注文出来るのであった。
なんとなくザックスに悪いなと思いつつも、3人の言う事にも一理あるので、クラウドも素直にうなずくとその場はお互いの顔を見合わせるだけでそれぞれの仕事に戻って行った。
次の日からクラウドはクラウディアとなりカームにセフィロスと共に訪れては、教会のミサに参加したり奉仕活動にいそしんでいた。
それ以外でも高速バスで移動して教会の周りを掃除したりして、さも信者の様に振る舞っていながらも地下組織の事を聞き出そうとしていた。
ランスロットの催眠術のおかげでお嬢様言葉で話すクラウドを、誰も少年兵だとは思っていなかった。
街の男たちが鼻の下を伸ばしながらクラウドに寄ってくるが、常にマネージャーのティモシーかスタイリストのミッシェル、それでなければセフィロスが付き添っているため近づくに近づけない。
無邪気な笑顔で気軽に挨拶する美少女モデルに、教会に通う人達が聞かれた事に素直に答えてくれた。
あらかじめセフィロスと話し合って、推測により地下組織を構成しているのは若い奴とわかっていたので、街の若い男性に個々に接触していく。
セフィロスのいない所でワザと失敗して目に涙を溜めると、何処から沸いてきたのか男たちがぞろぞろと集まってくる。
「ど、どうかされましたか?」
「ご、ごめんなさい。雑草と思ってお花抜いちゃった。お花さんに悪い事しちゃった…ぐずん。」
青い瞳に涙を浮かべる姿は凶悪なまでに愛らしい。
ちやほやとする男共に心の中で悪態をつきながら、クラウドが名前といつも何をしているのか聞き出していく。
それをこっそりとかくしておいたタークス特製の小さな録音機に録音し、夜にセフィロスに聞かせる日々を過ごしていた。
セフィロスは渋い顔で録音機の音声を聞きながら、めぼしい話しをメモして行った。
そしてその行動が次第に地下組織の姿を明るみへと導いて行ったのであった。
クラウドがカームとの間を往復している間、リック,ジョニー,カイルの3人組はクラスSに何度も接触しセフィロスから入ってくる情報を貰い受けていた。
本来ならクラウドから直接もらえばよいのだが、モデルのクラウディアとして振る舞っているクラウドにカンパニーの兵士が接触するのは良くないとスタッフに止められていた。
たしかに何も接点が無いはずなので接触することはできない。
クラウドも頭ではわかっていた事であった。
そんなある日クラウドは部屋でいつもの様にくつろぐセフィロスに話しかけた。
「ねぇ、セフィロス。私のスタッフ達を守って下さるのがリックさん達なら、一度くらいは顔を合わせたほうがいいんじゃないかしら?」
そう問いかけるクラウドの言葉を聞いて、セフィロスは思わず笑ってしまうのであった。
「ランスロットがどの様におまえに女言葉を教え込んだかは知らぬが、ずいぶん女らしい言葉になったな。」
「え?そ、そう??おかしいなぁ。私はふつうに喋っているつもりなんですけど。」
首をかしげるクラウドは変装したままだったので、セフィロスが見ても少年にはみえない上にこの言葉である。
「その調子でもうしばらく頼むぞ。」
にやにやと笑いながら自分の頬にキスをするセフィロスを見て、クラウドは”何か間違っているかな?”という気がして仕方がなかった。
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