魔晄の力を封印する。
それがもし可能であるのならば、魔晄に触れてキメラ化するモンスターが少なくなる。
それだけでは無い、星の命を守る為と神羅カンパニーに反抗する組織が、魔晄を使わなくなると反抗する理由が無くなる。
テロや誘拐、強盗は相変わらず発生する事になると思うが、元来それは街の治安を守る警察の仕事である。
当然反抗する組織もなくなればモンスターもいなくなるとなれば、私兵を持つ意味がなくなるのであった。
セフィロスはガスト博士にたずねた。
「一般兵はそのままでよいと思うがソルジャーから魔晄を抜かねば…、な。それが出来るというのか?」
「その方法を探す為になら統括に戻ってもよいと思う。」
「ならば、治安部の頭をすげ替えねばならんぞ。」
「ええ、それで私はこのランスロット君を推薦したいのですが、いかがでしょうか?」
「クックック…、ランス、聞いたか?」
何がなんだかわから無いランスロットがセフィロスとガスト博士を交互に見比べる、そしてしばらく経って事情をやっと飲み込めたのか急に大声を上げた。
「ちょっとまて!セフィロス。なぜ私が統括なんですか?!」
「ヒゲだるまでは我らのやる気が失せるからだ。」
「それは認めます。ハイデッカー統括はなにかと我らソルジャーをお飾りにして喜んでいる。そんな奴の言うことなど聞きたくは無い。しかしなぜ統括職に私が座らねばならなくなるのです?!」
「決まっておろう?他に適任者がいないからだ。ああ、そうだランス。統括権限で私とクラウドの結婚を内々に処理出来ぬか?」
「セ、セフィロス!!」
ランスロットとセフィロスが仲良くもけんか腰で話し合っている横で、ガスト博士がびっくりしたような顔をして美丈夫を見ていた。
(セ、セフィロスが結婚する相手と言うのは噂のモデルではないのか?!)
そういえば先程も自分のパートナーの名前を「クラウド」と言っていた。
どう言う事かと首をかしげていると、その場にいる兵達につつかれながら、目の前の金髪碧眼の少年兵が顔を真っ赤にさせていた。
その少年兵をつついている男の中に見覚えのある男がいた、娘のエアリスと付き合っているソルジャーらしい。
「たしか…ザックス君と言ったな。セフィロスの恋人はモデルじゃないのかね?」
「え、あ?!ど、どうする?セフィロス、全部話していいか?」
「ん?ああ、そうか。博士はまだ知らないのだな。」
「うん、俺あれからどっちの姿でもエアリスとは会っていないんだ。でも…どうすればいいのかわからないよ。」
クラウドがシュンとなると一気に部屋の空気が暗くなるので、ランスロットが思わずため息をついた。
「博士はカンパニーの幹部になる方です、話しても大丈夫でしょう。もしかすると博士のお嬢さんに対する接し方も考えてくださるかもしれませんよ。」
「あ、そうですね。」
ランスロットの一言がクラウドの背中をぽんと押した、ポツリポツリといきさつを話しはじめる。
セフィロスと恋仲である事や一般に知られている英雄の恋人のモデルが自分であること、そしてなぜ男の自分が少女モデルをやっているのかを一通り説明した。
「なるほどね、納得したよ。つじつまもあうし、エアリスから聞いた話とも一致する。」
博士が優しげな笑顔でうなずくと娘の性格を考えてどうすればよいかアドバイスした。
「そうだね、全部話すのが一番いいよ。エアリスも首をかしげていたからね。」
ガスト博士に言わせると、エアリスはクラウドの事を男の子なんだけど、可愛いくて花を見つめる瞳なんて女の子のモノと一緒だったという。
その横顔がとある少女モデルとソックリだと言っていたのであった。
「ある時などこう言っておったぞ。『クラウド君って、どことなくセフィロスの恋人と言われているクラウディアさん。あの人に似てるのよね〜〜、本当ソックリなんだから。』と、な。」
ガスト博士の言葉にザックスが腹を抱えてけらけらと笑っている隣りで、クラウドがむくれていた。
「いや、エアリスって結構鋭いじゃない。」
「なんで?俺、バレるような事していないのに。」
「この鈍感でとろいザックスでもわかったんだ、勘の鋭い女の子なら一発だろうな。」
「ぶう!」
拗ねてふくれた顔がまた可愛らしい、ランスロットがゆるやかな笑顔をうかべてすぐにセフィロスに向き合った。
「で?セフィロス。一体どうされるおつもりですか?」
「そうだな、今月中に式を挙げてハニィムーンはコスタ・デル・ソルでゆっくりと……」
「セフィロス!!」
リックはセフィロスを怒鳴りつけているランスロットを見てびっくりしていた。
そして一人うなずくとランスロットの元に近寄った。
「サー・ランスロット。隊長殿に怒鳴れるのは統括だけです。貴官はすでにその素質があるようですね。自分達もヒゲだるまよりサーが統括に就任される事を希望します。」
「リック……。」
「カイル、ジョニー、兵士の総意を動かすぞ!!」
一般兵に多大な影響を及ぼす男共が部屋を飛び出して行った。
あの男共が動けばおそらく大半の一般兵は言うことを聞くし、ソルジャー達とて一目置く存在なのである。
ランスロットは思わず目をおおった。
「まったく、なぜ私なのですか?」
「貴様は私と違って人の痛みがわかるからだ。しかし、すぐには無理だな。貴様の隊をどうするかと言う問題がある。」
すぐには動かし切れない事が沢山有る。
そのことを一つづつ解決して行かねば思う通りの世界にはなって行かない、セフィロスの言葉を聞きながらクラウドもエアリスに事実を話す決心をしていた。
その日の夜、いつものように食後にリビングでゆったりとクラウドのいれたコーヒーを飲むセフィロスに、今日心に決めた事を話しはじめた。
「あのね、セフィロス。エアリスとサー・ザックスを……今度部屋に呼びたいんだけど?」
「は?この部屋に…、か?」
「うん、それが一番早いと思うんだ。」
クラウドの言葉に一瞬セフィロスが迷った。
それはただ単に愛しい少年との時間を独占出来ないという理由だけだったのであるが、クラウドに取っては返事を聞く間が”セフィロスが嫌がっている”と思ったのであった。
「あ、いいんだ。忘れて!」
「二人とも呼ぶのは何故だ?」
「ん〜〜、俺だけだったら巧く話せないけど、サー・ザックスがいてくれれば巧く話せるような気がするんだ。」
「よかろう、ただし部屋に呼ぶほど仲がよいのならばお前がザックスの事をサーと呼ぶのをやめねばならんな。」
「あ…うん。そうだよね、サー・ザックスに聞いておくよ。」
翌日。昼にでも話そうと思っていたらクラウドはセフィロスにクラスS執務室に呼ばれた。
居並ぶクラスSソルジャー達の前を気まずそうに一礼して通り過ぎ、セフィロスの机に小走りで駆け寄った。
クラウドの目の前にはセフィロスのほかにクラスSトップ5が居並んでいた。
きちんと姿勢を正し敬礼をしてセフィロスに話しかけた。
「隊長殿、お呼びでしょうか?」
「ああ、ミッションが入った。ランス、クラウドに説明しろ。」
「はい。クラウド君には嫌なミッションになりそうですが…」
すまなそうな顔をしながらもランスロットがミッションの説明をしはじめた。
それによるとカームの地下組織が何やらうごめいているというのである。
「あの。それがなぜ自分に取って嫌なミッションなのですか?」
「いい質問ですね。実はその地下組織は教会を拠点としているようなのです。しかしソルジャーである我らが教会で何かを祈ると言うのも似合いません。そこでセフィロスに相談したら……。」
「クラウド、その教会で結婚するぞ。」
「はぁ?」
「セフィロス、一足飛びにプロポーズしないで下さい。教会での結婚式と言うのは、その教会で何回かミサに出たり実際に信者にならないと式を挙げてくれない教会もあります。カームの教会もその一つで、何回かミサに出ないと式を挙げてはくれないのです。」
「ではそうやってミサに出席している間に地下組織を探るのですね。」
「ええ、もちろんクラウド君ではなくクラウディアとして…、ですよ。」
「あ…そ、そうですね。セフィロスのフィアンセはモデルなんですから…だから俺にとって嫌なミッションなんですね。」
「ええ、そう言う事になります。」
クラウドの顔が次第に苦虫を噛みつぶしたようなものになって行った。なぜならミサや奉仕活動に参加するには女性にならないといけない。
正式なミッションであるのだから、それは我慢せねばならない事であろう。それよりもクラウドには一抹の不安があった、モデルとしてポスターを撮影するとかはあったが長く話す事はなかったのである。
そのせいかクラウドは今だに女性らしい言葉を使いこなすことができず、いつもスタッフに怒られているのであった。
「あの…言葉がどうしても治らないのですが。」
「それは私が君の意識下に催眠術を使って覚え込ませます。」
「先程実際に挙式を申し込んでおいた。勿論内密にと頼んでみたら向こうから歓迎すると返事があったよ。」
「しばらく女装ですか…、ミッションなら仕方がないですね。」
「ミサを4回、奉仕活動を4回こなして9月23日に挙式だ。何かあるとしたら式の当日であろう。」
「我らナイツ・オブ・ラウンドがお守りいたします。クラウド君は安心していて下さい。」
「ドレスで回し蹴りってダメですか?」
「願わくばやめてほしい物だな。」
にやにやと笑うセフィロスにクラウドは思わずため息をつく。ふとクラウドが顔を上げてランスロットに聞いた。
「あの…、マテリアって宝石の代わりになりませんか?」
「え?ああ、水晶に似ているから出来ない事はないでしょうけど。」
「剣や体術で戦えないなら魔法で戦えます。」
「はあ…、リーどうする?」
「クラウド君なら普通の攻撃マテリアならなんでも使えるでしょう。ただ、個人的には姫君は大人しく守られていてほしいですね。」
クラウドがリーの言葉を聞いてむくれた。
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