FF ニ次小説

 翌日 カンパニーに出社したセフィロスは、ルーファウスに地下施設での出来事を話すと、さすがの若社長も予想外だったのか青い顔をする。
 ルーファウスの後ろでツォンが冷静な顔で部下のタークスに対処を指示をしている。その電話の声を聞きながらセフィロスは社長室を後にして化学部門へと歩いて行った。
 ドアをノックもせずにずかずかと入ると、まっすぐガスト博士のラボへと入る。
 相変わらず柔らかな笑みを浮かべてガスト博士は何もいわずにセフィロスを迎え入れた。

「どうかしたかね?セフィロス。」
 セフィロスは博士の問いに答えずにポケットから一枚の写真を取り出して、その写真をガスト博士のデスクの上に置いた。
「私の両親だと聞きました。」
「誰から聞いたかね?」
「ミハイル・ストライフという元カンパニーの化学部門の学者の妻で、私のパートナーのクラウドの母親からです。」
 ミハイル・ストライフと言う男にガスト博士は心当たりがあった。
 今から17年前にゴンガガの魔晄炉がメルトダウンした時、炉心近くにいた為骨も残らずに死んでしまった部下だった。
「宝条君は、あの時までは君が生まれてくるのを楽しみにしていたんだよ。」
 ガスト博士はポツリポツリと思い出すように話しはじめた。


* * *



 今をさかのぼる事25年前。ニブルヘイムに魔晄の力があると知って、その力を利用出来ない物かと、現地におもむいたガスト博士と神羅カンパニーの化学部門の学者達は、なんとか魔晄の力を利用して発電する事に成功しかけていた。

 その時ガスト博士の部下である宝条は、同じ化学部門の研究者であるルクレツィアという女性と恋に落ちて、結婚を前提に付き合っていた。
 ニブルヘイムに魔晄炉の建設が始まるが、まだ安定していなかった技術だった為、ある日魔晄炉から魔晄が大量に漏れたのだった。

 ちょうど機械の調整に立ち会っていたルクレツィアが、その時に大量の魔晄を浴びて精神不安に陥ってしまった。
 ところがルクレツィアのお腹にはすでに2ヶ月になる胎児がいたのだった。
 ルクレツィアはその子供を産み落とすと、自らの身体を魔晄の中へと躍らせた。

 宝条博士はルクレツィアが精神不安に陥った時から、ずっと人が魔晄に触れた時の影響や反応を研究していた。
 それは愛する女性をどうにか救いたいという気持ちから来る純粋な物だった。
 しかしその研究の途中で愛する女性を失ってしまった。
 宝条博士はその時のショックで産まれてきた子供を、愛しい女性を死なせてしまった張本人と思ってしまったのであった。

       宝条博士は彼女を本当に愛していたのであった。

 産まれてきた子供はふつうなら首もすわっていなければ、腰も立たないはずであるが、魔晄の影響だったのかルクレツィアの産んだ子供は生まれてきてすぐに座ることができた。
 そんな赤ん坊を見て宝条博士は、魔晄が人の体を強くする事を悟ったのであろうな。赤ん坊を色々と調べては実験していた。

 赤ん坊は何も知らずにすくすくと育ち、やがて殺人マシーンとしてカンパニーの治安部に入隊すると、あっという間に実力を発揮した。

      それがセフィロスだった。

 宝条博士はそれを見て、普通の人に魔晄の光を当てると、セフィロスのようになると進言し、プレジデントがそれを望んだ。
 ガスト博士は魔晄の力には利点と反作用があり、一つ間違えれば精神崩壊だとてありうると反対したのであったが、世界中の富を独り占めしたいプレジデントは、宝条の進言を取り入れて反対するガスト博士を閑職に押しやったのであった。

「君にはすまないことをしたと、今でも思っている。」
「事実を教えて下さってありがとうございます。」
 セフィロスはガスト博士に一礼するとラボを後にした。
 クラスS執務室に入ると、自分のデスクに座り机の上にたまった書類を眺めはじめると、ランスロットが近づいてきた。
「キング、どうでしたか?」
「パロミデスの部下か?皆すでに人ではなかった。」
「そうでしたか。家族にはどう伝えましょうか?」
「ツォンならば戦死扱いするであろう。あとはタークスの仕事だ。」

 悲痛な顔をして一礼するランスロットを見てセフィロスがつぶやいた。

「ヒゲだるまではなく、お前のような奴が統括をやってくれるとよいな。」
「は?!ご冗談を、私よりもキングの方がふさわしいと思います。」
「それこそ冗談だな、。まだ始末せねばならない強大なモンスターがいる、この星の厄災と呼ばれるウェポンだ。それに治安部が現状のまま私が第一線を退いてもよいのかね?」
「それはそうですが。」
「カンパニーの方針が変わらぬ限り、私はソルジャーを続けねばならんのだよ。」

 そう言ってセフィロスは再び書類の整理を始めた。

 神羅カンパニー本社69Fの社長室では、タークス主任のツォンが、部下に治安部の行方不明の隊員の処置を連絡していた。
 そのとなりでルーファウスが内線で化学部門のガスト博士のラボに電話を入れていた。

「ガスト博士ですか?お話があります。至急社長室まで来ていただけませんでしょうか。」

 ルーファウスは化学部門の統括を、ガスト博士に再びやってもらおうと思っていた。
 10分ほどで社長室にガスト博士がゆっくりと入ってくると、椅子から立ち上がり握手を求めたので博士がびっくりする。

「いかがなされました?若社長殿。」
「貴方に取って私はまだ”若社長”なのですね。まあ、仕方ありません。実は化学部門統括をしていた宝条博士が亡くなりました、理由は彼の行き過ぎた実験の結果です。貴方に来ていただいたのは化学部門の統括をもう一度お願いしたいからです。」
 ガスト博士は宝条博士が何を実験していたかうすうす知っていた。
 一瞬、悲痛な顔をしてルーファウスに話しかけた。

「若社長殿、まさかセフィロスが?」
「直接手を下したかどうかはわからないが、彼と彼の一隊が行ってくれました。」
 ルーファウスの答えに、ガスト博士が苦虫を噛んだような顔をした。しばらくの沈黙の後にガスト博士が目の前の青年にに話しはじめた。

「ルーファウス社長はカンパニーを今後どのようにして行くおつもりですか?その答えしだいで統括の任をお受けするかどうか考えます。」

 ルーファウスはしばらく考え込んでいた。
 世界の富を手中に収めようとしていた父親を見て嫌気が差していた彼は、とりあえず今以上の富を得ようとは思ってはいなかった。
「わが社はミッドガル他色々な地域の電力を提供しています。カンパニーを縮小することは電力供給を少なくするということになりかねません、それは社としても避けなければいけない事だと思っています。」
「では、代行電力で賄えれば魔晄の力は使わなくとも良いと?」
「それが出来ますか?」
「私の希望は魔晄の力を封印することです。それをかなえる為になら化学部門統括に戻ってもよいですよ。」
「私一人では答えられないのが会社と言う組織でね、株主総会にかけねばならないが、前向きに対処しよう」

 ルーファウスがにこやかにガスト博士に答えると、ガスト博士は自ら彼の手を握り深々と一礼して社長室を出て行った。
 ルーファウスはガスト博士が部屋から出て行ったのを見送ると長いため息をついた。
「上半期の業務報告はいつだったかな?」
 部屋に誰もいないと思っていたが、いつのまにかルーファウスの後ろにツォンが控えていた。PDを開きスケジュールをチェックするとすぐにに答えた。
「9月28日になっております。」
「とりあえずはそれが終ってからだな。ああ、博士に代行エネルギーを聞いておけ」
「御意に」
 ルーファウスは防弾ガラスの外に広がるミッドガルの景色を見おろしていた。

 その頃、ガスト博士が珍しく治安部を訪れていた。
 彼が本来ならば行くべき先は統括室であろうが、ガスト博士は迷わずクラスS執務室へと入って行った。
 突然現れた化学部門の博士にクラスSソルジャー達がびっくりする。

「ガスト博士、いかがなされました?」
「ああ、セフィロスはどこかね?」
「キングでしたらコチラではなく、ご自分の隊の執務室ですが。」
「済まないが誰か案内してくれないか?」
「あ。私が。」

 立ち上がろうとしたトリスタンを制して、ランスロットが一歩前に出るとガスト博士に話しかけた。
「統括をお受けになるのですか?」
「ああ、君か。たしかランスロット君だったね?ソルジャーは今何人ぐらいいたかな?」
「はぁ、ざっと200人ほど…でしょうか。」
「ふむ、それは大変だな。ではセフィロスの所へいこうか。」
「は、はあ。」
 ガスト博士の言っている事がわからないまま、ランスロットはガスト博士を第13独立小隊の執務室へと案内するのであった。
 やがて第13独立小隊の執務室にたどりついた二人は扉を開けた。

「あ、サー・ランスロット。」
「あ、姫お久しぶりです。キングは…、と。」
 クラウドの笑顔に思わず笑みを浮かべていたランスロットが、つきささるような視線に気がついて顔を青くする、。首をめぐらせるとその視線の先には睨みつけているセフィロスがいた。
「なんだ?」
「ガスト博士がキングにお会いしたいと。」
「ああ、セフィロス。君に聞きたいのだが、もし魔晄の力を封印出来るとなればどうなるかな?」
 あいかわらずひょうひょうとした表情で話しかけたガスト博士に、セフィロスがにやりと笑って答えた。
「博士、わかっていて聞くのですか?」
「そうだね、私自身がわかっていなければダメな事だが、それでもあえて君に聞きたいのだよ。」
 セフィロスは魔晄の力を封印した事によって何が起こるか考えて見た。ガスト博士の口ぶりからすればエネルギーの事は代行手段があるようであった。
「魔晄を封印すれば治安部が無くなります。」
 セフィロスの答えにガスト博士は軽くうなずいてランスロットは目を見開いた。