FF ニ次小説

 ザックスの話した事が事実なら、クラウドの魔力はどうやってもクラスB、しかもトップクラスの魔力である。

「噂通りの魔力だが、俺は自分の目で見た物しか信じない主義だ。済まないがすぐには信じられないな」
「ま、それも仕方がないか。俺も目の前で見るまで信じられなかったしな。」

 ユージンとザックスが話し合っている間に、紙コップにいれてもらったレモネードを飲み干し、そして輸液されているセフィロスを見ると、その視線を感じたのかアイスブルーの瞳にゆっくりと力が戻る。
 点滴コードに繋がれていない腕がゆっくりとクラウドの頭に触れる。
 クラウドがふわりと微笑むと、セフィロスの口元がゆるやかにカーブを描いていた。


「隊長殿。」
「そう心配するな。お前ぐらいだぞ、私を心配するのは。」
 セフィロスとクラウドの姿はどうみても氷の英雄と呼ばれるトップソルジャーと、1一般兵という関係では無かった。
 ユージンとラウルがじっと見ているのに気がついたザックスがあわてて中に入る。

「お、セフィロス。流石だねー、あれだけ血を流しておいてまだぴんぴんしてら。」
「貴様も少しは流せばどうだ、血の気が少なくなってちょうどいいぞ。」
「サー・ザックス、隊長殿に無礼だぞ!」
「お前が心配し過ぎなんだよ、こんなんでセフィロスがくたばるかよ。ほれ、この場はサー・ユージン達に任せて俺達は事後処理!行くぞ!!」
 ザックスがクラウドを無理やり引きずってトラックから降りると、表にリック達が不安げな顔で待っていた。
「ザックス、隊長殿は?」
「ああ、大丈夫だ。」
「そうか、じゃあ行くか。」
「お仕事、お仕事。」
 隊員達に背中を押されて、クラウドが後ろ髪を引かれるようにその場を後にする。するとトラックからユージンが出てきてクラウドを呼んだ。

「クラウド君、キングがお呼びだ!」
 あわててクラウドが駆け戻ると、セフィロスが既に輸液を終えて立ち上がっていた。

「事後処理に行くなら私も行く。」
「あ、はい!」
 クラウドがあわてて駆け寄ると、自分よりはるかに大きな体を支えようとするので、セフィロスが苦笑いをする。

「お前は…まったく。」
 セフィロスはそう言うと手をポンとクラウドの頭の上に置くと、わしゃわしゃと頭をなでつける。
「そう言う可愛い事をするとセクハラするぞ。」
「ご冗談を!ただでさえリック達にされているんですから、隊長殿まで加わったら俺泣きますよ。」
 軽い冗談を飛ばしながらも、トラックから歩き去るセフィロスを見て、残っていた輸送部隊の隊員達が苦笑を漏らしていた。
 副隊長のユージンも苦笑しながらも隊員達に命令を下した。
「特務隊が帰って来たら撤収だ!総員準備をしておけ!」
「アイ・サー!」
 輸送部隊の隊員達がキャンプを撤収しはじめた。
 あらかた片づいた所に事後処理に出掛けた隊員達が帰って来た、その時間の速さに輸送部隊の隊員達がびっくりする。
「お帰り、やたら早かったじゃないか。」
「早いさ、何も残っていないんだから。」
「どこかの誰かさんがメガフレア放ったから当然だろ。」
「なぁ、セフィロスの旦那。俺達あれでどう報告書を書けばいいんだ?」
「かけないだろうな。ルーファウスに直接報告しておく。」
「サー・ザックス!隊長殿の事を旦那って、酷すぎます!!」
「はいはい。お前もセフィロスマニアだな、うるせー弟だ。」
 むくれるクラウドを陽気な笑顔でわしゃわしゃと頭を撫でているザックスの背中に蹴りを軽く入れて、リックがクラウドの横を取り返す。
「汚い手で触るな!!未知のバイキンが移る!」
 一連の第13独立小隊の”軽いおふざけ”を見て輸送部隊の隊員が笑いをこらえていた。
 しかしその場にいる誰もが、この時のおふざけの理由をまだ見抜けないままでいた。

 いつのまにかきっちりと整列した隊員達の前に、セフィロスとザックスが並び、一斉に隊員達が敬礼をすると二人が返礼した。

「ミッション693711 ランクS クリア、諸君の協力に感謝する!以上」
「総員、帰還!!」
「アイ・サー!」
 セフィロスとザックスの言葉を聞いて、輸送機に隊員達が乗り込みはじめると、リックとカイルにクラウドが挟まれた。
「姫、お前だい丈夫かよ?」
「ふらふらしてるんだったら俺が姫抱きしてやろうか?」
「俺は女じゃないです!」
「かっわい〜〜!!」
「あ、姫。それだけふらついていたら帰りのフライトで酔うからコレ飲んでおけ。」

 屈強な兵達に囲まれてあれやこれやと世話を焼かれる姿は、どうみても可愛らしいが、顔がふくれている所をみると不満で致し方がないように見受ける。

 そんな様子をみて輸送隊の副隊長が声をかけた。
「なんだ、お前ら。やたらこの子をかまい倒してるじゃないか。」
「ん?かっわいいだろ〜〜?うちの姫君。」
「これで俺達より強いんだからたまったもんじゃないけどね。」
「手を出すなら俺達に勝ってから手を出すんだな。」
 一般兵のトップとはいえ実力だけを取れば自分に等しい男たちが、厳しい目で自分を睨むのでユージンが両手を広げて肩をすくめた。

「はいはい、手なんて出しません命が惜しいからな。」
 ユージンの言葉にさらにクラウドがむくれた。
 飛空挺に乗り込むと一路ミッドガルへと戻って行った。
 カンパニーに戻るとすでに夜になっていたのでその場で解散した、クラウドがいつもの様に電車で帰ろうとして、カンパニーを出ると目の前にシルバーメタリックの車がぴたりと 止まり窓がすっと降ろされた。
 運転席には愛しい恋人が座っていた。

「やぁ、お嬢さん。一緒にドライブなどいかがかな?」
「お嬢さんは酷いよォ」
 ぶすっとした顔をしながらも扉を開けて助手席に座ると、セフィロスは車を二人が過ごす部屋へと走らせて行った。
 アパートメントの地下に車を停めるとポストに何か入っているサインがあった。
 クラウドが1Fのエントランスに駆けあがり手紙を取ってエレベーターを待つと、セフィロスが乗ったエレベーターが彼を迎え入れた。
 手に持った手紙の送り主の名前を見ると自分の母親からのモノだった。

「母さんからだ、何だろう?」

 手紙を開けると一枚の写真と共に母親の文字が綴られていた。
 写真は若い男女の笑顔の写真で、男性は宝条博士のようである。女性はどことなくセフィロスに似ている凄く美しい女性だった。

「セフィロスのご両親の若い時の写真が見つかりましたので送ります。主人が見ても二人は相思いあっていて、ルクレツィアさんの妊娠がわかった時はかなり喜んでいたという話です…だって。」
「あいつは、一度も私の名前を呼ぶ事はなかった。」
「きっと何かあったんだよ。だってルクレツィアさんの名前は呼んでたもの。」

 エレベーターが自分達の部屋に到着する時間が異様に長く思えるほど、その場の空気が重かった。
 扉が開き自分達の部屋に到着すると、クラウドはセフィロスを振り返った。
 セフィロスがクラウドをゆっくりと抱きしめる。

「お前がいてくれてよかった。」
「そう?でも、何もできなかった。」
「いや、いてくれるだけで救われる事もあるんだよ。」

 そう言うとセフィロスはクラウドの肩を抱いて部屋に入って行った。
 冷凍庫に入っていたシチューを温めて食べた後で、リビングにすわると思わずため息が漏れる。さほど疲れたつもりは無かったが出血の影響かやたらにダルさは感じていた。
 やがてクラウドがいつもの様にマグカップに何か入れて持ってきた。

「グリュ−ワイン作って見たんだ。」
 グリュ−ワインは寒い地方で飲まれているホットワインである。
 安いテーブルワインをシナモンスティックやチョウジ、砂糖、レモン汁をいれて煮立たないように温めたワインで飲むと、身体が温まるだけではなくほっと一息つきたい夜にも飲まれていた。

「俺の生まれた村って寒かったからよく冬に母さんが作ってくれたんだ。そういえば風邪を引いた時もこれを飲んだよ。」
 セフィロスはゆるやかに微笑みながら、クラウドからマグカップを受け取るとゆっくりと一口、口に含む、身体の隅々までホットワインが染み渡るようであった。

「クラウド、お前に話しておかねばならない事がある。」
「なあに?」
「私は両親の顔を知らずにカンパニーで育てられたのだが、その理由は生まれながら魔晄を浴びたソルジャーだったからだ。私はあの男の実験の生きた対象物だった、色々な実験をされた。そして同時にタークスに殺人マシンとして育てられた。10歳のときにはすでに正宗を握らされて、ありとあらゆる人殺しのワザを覚えていた。そしていつの間にか私は神羅カンパニー所属のソルジャーとして最前線に送り出されていた。いつも死に場所を求めていたような気がするな。そして人は何時か私のことを”神羅の英雄”と呼ぶようになった。コレが私の過去だ。」

 クラウドはセフィロスの話しに涙を浮かべながら聞いていた。
 そっとセフィロスの右手に自分の手を重ねて唇に軽くキスをする。
「独りぼっちだったんだね。でももう一人じゃないよ、俺がそばにいる。」
 セフィロスがクラウドに柔らかく微笑むと、重ねられた手に自分の左手を重ねた。そして自分のすぐとなりで涙をたたえた青い瞳をゆるやかに見つめてその桜色の唇に唇を重ねた。
「お前は…本当に私に無かった物をくれるな。」

 一人の少年が自分に安らぎと癒しをくれた、人を愛する事を教えてくれた。
 あまりにも愛しい為に真綿で包み自分の腕の中で守りつづけたいこの少年は、自分が神羅の英雄とまで呼ばれる男を守ると言い張る。
 その心意気だけでも嬉しいと感じるが、本心をいうとこの少年の手が血に染まってほしくは無い。

 しかし力をつけて行けば、この少年ほど自分の隣りに立つにふさわしい男はいない。
 矛盾する思いがセフィロスの中にあるが、目の前の愛しい少年はセフィロスの矛盾する思いを今はまだ知らずにいた。

「ずっとそばにいてくれ。」
「うん。」

 重ねられた唇から伝わる温かい気持ちが……
         抱きしめたからだから伝わる鼓動が……

 生きている喜びを教えてくれていた。

 繰り返される愛撫と口づけに次第にクラウドの意識がぼやけていくと、それまで柔らかな色をしていた瞳に激しい欲情の色が見えてくる。
 やがて灯の消えたリビングの隣りにあるベッドルームから、クラウドの艶やかな喘ぎ声と、ベッドのきしむ音がしばらく聞こえてきたのであった。