FF ニ次小説

 街角のポスターにダイアナのメインデザイナー、デビッドのデザインしたドレスを着たものすごい美少女が、カメラ目線で微笑んでいた。
 天使のような笑顔と上品な気品をそなえたその美少女は、知らない人が居ないほど有名な、神羅カンパニーが誇る英雄と呼ばれるソルジャー・セフィロスの恋人として有名だった。

FF7 パラレルワールド 小説 6 Midnight Shuffle


 写真モデルとしてデビューしたクラウディアであったが、その素性は公表されていない、謎につつまれた美少女なのであった。

 そのご本人が気恥ずかしげに自分の写ったポスターの前を通り過ぎていた。
 生成りのゆったりとしたセーターにぴたりとしたブルージーンズ、長くなった髪をリボンで結んで買い物かごを片手にスーパーで食料品を買い込んでいる姿は少年とも少女とも付かないユニセックスな存在だった。
 食料品を取る左手の薬指に銀色の指輪が鈍く光っていた。

 時計を見るとあわててチェッカーに買い物かごを通し料金をカードで支払うと、裏手にあるエレベーターに乗り込み、自宅のフロアへ行くパスコードを入れた。
 ワンフロアを占有する自宅は愛しい人と過ごすプライベィトな場所だった。

 エプロンをしてキッチンに立つと晩ご飯の支度を始める、その姿は本来の姿とは全く違った物であった。

 街に灯がともり日が沈み空が完全に闇となり星がまたたく頃、その部屋の主である男が部屋に帰ってきた。
 クラウドがいつもの様にキッチンからあわてて玄関にお迎えに行くと、扉を開けてゆるやかな笑みを浮かべている愛しい人を迎え入れる。
 軽く背伸びをして唇に触れるだけのキスをすると、いつもお返しとばかりに深く口づけられる。
 息が揚がるほどのキスを交わしてやっとその腕から離れると、セフィロスに腰を抱かれて部屋へと移動する。
 ふたりは新婚生活をそれなりにエンジョイしていたのであった。

 温かい食事と可愛らしい妻の笑顔に、疲れも薄れていく気がするとおもうのは、セフィロスの気のせいだけでは無いであろう。
 食事をしながらクラウドがにこりと笑ってセフィロスに話しかけてきた。
「あ、明日銀行に行ってくるね。」
「ああ、まだ母親に送金しているのか?」
「うん、だってニブルって土地が痩せているし。俺の母さん、父さんの労災だけで暮らしているから…。」
「そうか、あの母親が素直に受け取るとも思えんがな。」
「でも、俺が生きている証拠だと思ってくれればいいや。」

 少し寂しげな顔をするクラウドの頬にキスをすると、頬が赤く染まり照れてうつむいたおかげで視線が上目使いになる。その顔はセフィロスだけが見ることが許されている彼のお気に入りの表情だった。
「戦場では見られない表情だな。」
「セフィだって、戦場では相変わらず”氷の英雄”だよ。」
「お前、自分のこと差し置いてよく言うな。私のパートナーは世間では”地獄の天使”と呼ばれているんだぞ。」
「お、俺が?」
「白いロングコート着てにっこり笑いながら剣をふるう姿がそう見えるのだろう。あながち間違ってはいないとは思うがな。」
「俺ってそんなに”童顔”なのかなぁ?早く大人になりたい。」
 そうつぶやきながらクラウドはセフィロスの広い胸にしなだれかかるようにもたれていた。

 その翌日、クラウドはオフタイムに故郷の母親に送金しようと銀行へ立ち寄った。
 ATMで送金手続きを終えて窓口を後にしようとしたとき、目出し帽をかぶった”モロ銀行強盗”といういでたちの男共が3人入ってきて、正面に居たクラウドをひっつかんで窓口に襲いかかった。

「やい、この可愛い子ちゃんの命を助けたかったら、おとなしくこの紙袋に金をよこせ!」
 のど元に銀色のジャックナイフが光っていたが、クラウドはいささか呆れた溜め息をついた。
「アンタ達、人質にする人間違えているよ。」
 そういうといきなり自分を羽交い締めにしている男の足のすねを思い切り蹴りおろし、身体をひねるとそのまま足を回して後頭部に延髄蹴りを入れると男があっけなく気絶した。
 残った二人が一斉に飛び掛かるが、片一方の拳を避けるついでにカウンターであごを殴り上げ、もう一方の男を左ストレートでのしてしまった。

 窓口に居る行員の女性があっけにとられているのを横目に、クラウドがポケットから携帯を取り出してどこかに電話した。

「あ、ツォンさんですか?クラウドです。ミッドガル銀行8番街支店で銀行強盗未遂を3人気絶させました。処理お願い出来ますか?ええ、そうです。」

 10分もたたないうちに赤毛の男が現れた。
「よぉ、チョコボ頭。ひさしぶりだなっと。」
「すみません、表に出たくないのでよろしくお願いします。」
「仕方がないんだなっと。」
 レノが振り向くと黒服の男がわらわらと入って来た、強盗達を縛り上げるとまわりに居た客に口止めをさせるのを見てクラウドは礼を言って銀行を後にした。

 しばらく歩くと店の前でエアリスが花を手入れしていた。
「やあ、エアリスじゃないか。」
「あ、クラウド。いらっしゃいませ。」
「あ、そのピンクのバラいい匂いだね。」
「ええ、いい香りがするでしょ?この赤いのもいい匂いよ。」
「男の俺が花持って歩くのはちょっと気が引けるな。」
「じゃあクラウディアになっちゃえば?だって私は二人ともお友達だもん。」

 クラウドはエアリスの言いたい事が何だか解った、優しげな笑みを浮かべると軽くうなづいた。

「じゃあ、一緒にいかないか?」
「いいわよ。その代わりザックスにはないしょね。」
 そういうとエアリスは店にいた母親にちょっと挨拶をしてエプロンをとった。
 クラウドがエアリスをエスコートして商店街の中央にある『ダイアナ』へと歩いていった。

 ウィンドウモールをエアリスと並んで歩いていたら、正面からブライアンとランディがやってきて声をかけた。
「クラウド、デートかい?」
「どうかな?」
「デート、今からダイアナでお洋服選ぶのー。」
「それはそれは…邪魔しちゃ悪いから、また明日な。」
「ああ、じゃあな。」

 そう言って片手を上げてクラウド達がダイアナに入っていった。
 気になったのか二人のソルジャーがしばらく店のウィンドウからのぞいていると、可愛らしい洋服をあれこれとチョイスしてはエアリスが首を横にふっているのが見えた。
 微笑ましいカップルのごく普通の買い物の姿であったので、ランディとブライアンは口元をゆるめてその場を後にした。

 店の中でエアリスがクラウドの持つ服を見ながら首をかしげていた。
「う〜〜ん、何だかこう違うのよね〜」
 クラウドが持っているブラウスもスカートも「クラウディア・ブランド」の物であったが、日ごろクラウディアが着ている物とは微妙に違っていた。
 エアリスが不思議そうに首をひねっていると、オーナー兼デザイナーのデビッドがやってきた。

「いらっしゃいませ。やあ、クラウド君ではないですか?どうされました?」
「エアリス…ああ、知人の彼女に言われて…同性の友達を作る気は無いかって。」
「そうですね、同性の友達がいるのは普通です。 そう言う事でしたらこちらに。」

 そういうとデヴィッドは二人を奥の部屋へと通す、オーナーの部屋にあった新作のパターンを取るための一点物がエアリスの目に飛び込んできた。

「うわ…、これよこれ!!クラウディアに是非着てほしいわ!」
 デビッドがクスリと微笑む。
 クラウドが諦めたような顔でその服をにらみつけているが、おかまいなしにデビッドがボディーから服を取り手渡した。
 クラウドが素直にその服を片手に試着室へと入る、しばらくするとその服をまとって出てきた。

 デビッドが手慣れた様子でクラウドに薄く化粧をして付け毛をカチューシャで止める、エアリスの目の前に憧れの美少女モデル、クラウディアが座っていた。

「すっごーーーい!!本物だーー!!」
「デビッドさん、彼女に似合う服もらえますか?」
「お安い御用です。」
 デビッドが店に戻ると数分でワンピースを一つと上着、そしてブラウスとスカートを片手に戻って来た。

「どうぞ、お嬢さん。」
「え?こんなにお金持っていませんけど。」
「クラウディアの友達がクラウディアブランドを着ていないと、これから町に繰り出すのでしょ?週刊誌に狙われた時、悔しいですからね。思いっきり宣伝してきて下さい、宣伝料です。」

 エアリスがにっこりとほほえんで、デビッドから服を受け取ると試着室へと入った。
 エアリスが着替え終わるとクラウドが立ち上がった。

「じゃあ、デビッドさん。コレで失礼いたします。」
 クラウドが優雅におじぎをする、その仕草をデビッドがにこやかに見守っていた。
 (本当、彼女をモデルにできてよかった。)

 クラウドとエアリスは店の正面から出ようとしていた、出口でデビッドが恭しく一礼する。
 クラウドがデビッドに”天使の微笑み”を返すと行き交う人が急に足を止めた。

 ざわめきの中から『クラウディア?』と名前を呼ぶ声が聞こえる。
 その声に照れたように振り向く姿は、何処をどう取ってもとびっきりの美少女だ。エアリスはクラウドの切り替えの凄さを目の当たりにして少々驚いていた。

 エアリスと並んで歩いていると、すれ違う人から同じく名前を呼ぶ声が漏れる。その声を無視してクラウドはエアリスと一緒にケーキのおいしい店と有名なカフェに入った。
 店員が突然現れた美少女に目を丸くした、そしてその美少女の顔が目の前のポスターと一致したので更にびっくりした。
 目立つようにオープンスペースに二人を案内すると、ボーイが争うようにオーダーを聞く権利を奪い合う。


 謎の美人モデル、その存在すら幻のようだったクラウディアが現れた事で、街はちょっとしたパニックのような状態になっていた。
 エアリスとケーキを食べながら紅茶を飲んでいるだけだったのだが、いつのまにかオープンテラスの周りには人垣が出来ていた。
 店のオーナーがペンと色紙をもって恭しくやってきた。

「失礼ですが、クラウディアさんですよね?サインをいただけないでしょうか?」
 クラウドは思わずオーナーをにらみつけたくなったが、必死に表情に出さないようにした。
「ごめんなさいね、私サインをしないように言われてますの。」
「そこをなんとか…。」
「どうしても出来ないんです、あの方のご迷惑になるかもしれませんので…すみません。」

 暗にセフィロスから止められていると言ったので、オーナーもそれ以上は強要出来なかった。

 一方、カンパニーに帰ったランディとブライアンのおかげで、クラウドのデートは特務隊に知れ渡っていた。
 リックがセフィロスに聞いてきたうわさ話をたずねた。
「クラウドが女の子連れて、ダイアナで買い物していたそうですよ。隊長殿、浮気されてますよ。」
「茶色の巻き毛で緑色の瞳の大人っぽい女性だろ。」
「それって、もしかしなくてもエアリスじゃん。」
「なんだ、知っていらっしゃるのですか。面白くないなー」
「ザックス、私服をもっているか?着替えろ。」
 そういうと自らも個室に入ると私服に着替える。シャツとジーンズにジャケットを羽織ったラフな服装だったが、彼によくにあっている。
 ダイアナの男性ブランドでクラウディアの対になっているブランド「アポロ」である、デビッドがセフィロスのためにデザインしたといってもよいぐらいのニューブランドであった。
 ザックスもシャツにジャケットを羽織るとメットを片手に愛車のデイトナへと走って行く。
 シルバーメタリックの車とデイトナがミッドガル8番街へと走っていった。