FF ニ次小説

 8番街へ着くと車を駐車場へと預け、セフィロスとザックスが歩きはじめた。しばらく歩くと目の前に凄い人だかりがあった。
 ケーキが美味しい店と有名なカフェの前にできている人だかりは、ほとんどが男性で少しの女性が交じっていた。
 人だかりの視線の先を見ると見覚えのある女性二人が仲良くケーキを食べていた。
 ザックスが二人に気が付くと思わず叫んでいた。
「うわ〜〜〜!!かわいい〜〜!!」
「デビッドめ、宣伝料にしては安い物だったな。」


 その時二人の女性のうちの茶色い巻き毛の方が、セフィロスとザックスを認めて手を振った。とたんに人垣が別れて振り返る。
 神羅の英雄とその片腕と称されている男が少女の視線の先に居た。
「はぁ〜い!ザックス、セフィロス。」
「エアリスー、今日は一段と可愛いぜー!!クラウディアもな!」
 クラウドはセフィロスを見付けると一瞬ぱあっと輝くような瞳になるが、すぐにその瞳は恥ずかしそうにうつむき、頬がほのかに染まった。
 その変化にエアリスがにっこりとほほえむと、セフィロスに向かって話しかけた。

「セフィロスー!!貴方の恋人さんはこんなに恥ずかしがり屋なのに、よくモデルなんてやってるわね?」
「そこがまた良いのだよ。」
 笑みを浮かべながらセフィロスはクラウドのとなりへと歩いていく、その後ろをザックスがにやにやして歩いている。
 ザックスがウェイターをつかまえてテーブルを指差しコーヒーを2つ注文した。

 近づいてくるザックスの笑顔を見ながらエアリスが笑っている。
「ザックスー、鼻の下がのびてるわよ。」
「いやー、だってさ。ほら両手に花!!」
 ザックスはクラウディアとエアリスのまん中に入り込むと、二人を抱き寄せる。エアリスがザックスをはたくとクラウディアは口元に手を宛て笑っていた。
 そっとクラウディアの顎に手をやるとセフィロスが軽く腰を折った。
「私以外の男に触れさせたな。お仕置きだ。」
 そういうと息が揚がるほど濃厚な口づけをクラウドに与える。
 しばらくして離れたクラウドは羞恥心とほのかにともった欲情で、何とも言えない艶やかな顔になっていた。

 Lady Cloudea

 その妖艶な色香と天使のような微笑み、女性とも男性ともとれる中性的な顔だちも相まって、CG合成のモデルとも揶揄されるほどの存在だった美少女が、神羅の英雄の柔らかな微笑みを独り占めしていた。

 優雅な仕草で自分の隣に座るセフィロスをクラウドは頬を赤らめて見あげていた。
「もう、セフィったら。こんな所でキスしないで下さるかしら。」
「ダメだ、お前は私の物だと宣言しておかねばこんな悪い虫がつく。」
「俺、虫ですか〜!?」
「ザックス、山猿からさらに退化してるー!!」
 テーブルで4人が仲良く談笑していると、ウェイターが二人の男性にコーヒーをサービスして恭しく去って行く。
 ザックスがエアリスの隣に座って話しかけた。
「で、なんで君たちが一緒にいるのかなー?」
「んふっ!いいでしょ?親友なの。」
「旦那があんまり大切にしてるから、あわせてももらえない恋人の友達が俺の彼女だったなんで知らなかったなー」
「ほぉ、虫にもこんなに可愛らしい彼女がいたのか知らなかったな。」
「旦那ー!!俺だって一応旦那の右腕のつもりなんだけど。」
「私の右腕は副官のクラウドだ、おまえは露払い。」
「露払いに降格なのねん(泣)さみしーよー!!」

 ふざけてセフィロスにおおっぴらに絡めるのはこの男の特権であろう、エアリスとクラウドが顔を見合わせて笑っていた。

「ねー、この二人も仲がいいでしょ?」
「ええ、そうね。私たちなんて不要じゃなくて?」
 婉然とした笑みを浮かべるクラウドと花のように笑っているエアリスに、半ばめまいを起こしかけているザックスがあわてて手を振る。
「じょ、冗談じゃない!俺はこんな危険なおっさんより可愛い女の子のほうがいい!!」
「危険なおっさん?ザックス、貴様死にたいらしいな。」
「わーーー!!!死にたくなーーい!!エアリスー!助けてくれよーー!」
「ザックスはお口が悪すぎるのよ。クラウディアがびっくりしてるでしょ。」
「気に入らんな、クラウディア。どうして自分が不要だと言うのだ?」
「あまりにも仲がよろしいんですもの。ザックス様がいらっしゃれば、私のような者は不要なのではないのですか?」

 クラウドの言葉にザックスがあわてて否定をするとセフィロスが苦笑いをする。
「まったく、おまえぐらいだぞ。この私がいくら口説いても聞き入れないのは。」
 するりと頬を撫でられてクラウドは思わず真っ赤になる。
 エアリスがニコニコと二人の様子を見詰めていた。
「い〜な〜、カッコいくて素的な恋人で。私にもどこかにそんな人いないかな〜〜」
「ぐずん、俺は?」
 まるでかけあい漫才の様にぽんぽんと会話が交わされている、その様子を羨ましげにクラウドは見つめていた。
 エアリスがふと気がつく。

「クラウディア、今日はオフなの?」
「あ、いいえ。夕方5時からスタジオにいかないと…。」
「うわー、現場?!見たい!見たい!!」
「エアリスー、俺とデートは?」
「ザックスとのデートはいつでも出来るじゃない。」
「撮影は2時間ほどで終わる予定です、エアリスは私がきちんと送りますので。」
「いーや!俺もいく!!エアリスは俺が送る!!」
 ザックスがあわてて答えたのでエアリスは照れたような笑顔を向けていた。

 スタジオに入るとカメラマンと雑誌編集者、そして衣装担当者とクラウディア専属のスタッフがすでに入っていた

「おはようございます、よろしくお願いいたします」
 夕方5時というのにおはようと言うのもなんだが、俗に言う”業界用語”なのである。クラウドも最初変だと思っていたが何度か体験した事で、すでに『そういうものなのだ』と頭の中で片づけていた。

 スタッフがクラウディアと共に入って来た3人の男女に注目した。神羅の英雄セフィロスとその片腕ザックス、そしてクラウディアと手を繋いでいる可愛い女性。
 その女性に見覚えがあるミッシェルが軽く会釈をした。
 そんなミッシェルにティモシーがたずねた。
「ミッシェル、知っている子?」
「マダムセシルの店にお花を入れている店の店員さん…で、よかったかしら?」
「はい、エアリスと申します。」
「その彼氏でーす!」

 いつものようなふざけた態度でザックスがエアリスの肩を抱き寄せると、思いっきり肩に乗せた手を叩かれた。

「すみません、馬鹿な彼で」
「どうやら私の教育が足りなかった様だな。」
 ちらりと見せる本気の殺気と正宗の鋭い晄にザックスがあわてふためくと、クラウディアの後ろにサッと隠れる。
 常日ごろ一番安全な所とわかっているから本能での行動であったであろう、それが更にセフィロスの怒りを買う事になるのもよくわかっていた事だった。

「ほぉ?私のクラウディアを隠れ蓑に使うとは、貴様死にたいらしいな。」
「死にたくありましぇーん!」
 ザックスに向ける正宗は当然クラウドの顔の横を通っている。
 スタッフがハラハラして見ているというのにクラウドは平然として動かない。
 英雄に正宗を向けられると、普通の人は身体が震え逃げ出すと言うのに、クラウドは小首を傾げて柔らかな笑みを浮かべていた。

「もう、よろしいのではないのですか?」
 クラウドのほんの一言でセフィロスが正宗をすっと納めてしまった。
 これにはクラウディアスタッフさえも感心してしまう。
「さすが…。」
「でも、許せない!!大好きな女性に剣をむけるなんて!!」
「怒らないで、ミッシェル。セフィロスは絶対に私に怪我をさせる事なんてしないから。」

 にこりと笑っているのはクラウドにとってなんてことのない事だったのだが、ザックスに取っては信じられない事だった。

「セフィロスに正宗向けられて動じなかった奴を見たの初めてだ。」
 クラウドには当たり前でも、ザックスは今だに正宗を向けられて青ざめている。エアリスがそれを見て唖然としていた。
「クラウディアは、本当にサーを信頼しているのね。」
「え?…あ、うん。」
 突然エアリスに言われた一言にクラウドが頬を染めた時、ティモシーが時計を気にする。
「クラウディア、すみませんが仕事の時間です。ミッシェル、今日の衣装を彼女に。」
「は〜〜い!、今日は雑誌の撮影だから種類多いわよ〜〜」
 ミッシェルの言葉にクラウドは思わず顔を引きつらせていた。
 しかし今はモデルになっている上に、外部の人間もいるので必死になって我慢をして、最初の衣装に袖を通してミッシェルにメイクを施されてカメラの前に立った。
 編集者がポーズに注文をつけている、カメラを構えたグラッグがポーズが決まった所でシャッターを切った。
 次々にクラウドが用意された衣装を身につけて、自然な仕草で振り返ったり、愛らしいポーズを付けたりする。
 その仕草を見逃さないでグラッグがシャッターを切っている横で雑誌の担当者が溜め息をついていた。

 ザックスは先程から自分の住んでいる世界とは180度違った世界をボケーっと眺めていた。
 エアリスは緑色の瞳を輝かせて憧れの眼差しを向けていた。
 セフィロスは悠然と腕を組んでクラウドの仕事を楽しむように見ていた。
 淡々と撮影が進む中、雑誌担当者とミッシェルが言い争いを始めた。
「どうしてこの衣装はダメなんですか?!」
「クラウディア本人が着たくないと言うのだから仕方がないでしょ?!」
「そんなわがままでモデルとして通用すると思っているのですか?!」
「とにかくこの衣装を着るぐらいなら、クラウディアはモデルを辞めると言うんだから仕方がないでしょう?!」

 ミッシェルの言葉に雑誌編集者が衣装を見てびっくりした顔をして聞いた。
「なぜ?!そこまで嫌がるのですか?!この衣装は女の子の憧れでしょう?!」
「悪いけど彼女に取っては、このドレスはただ一人の人の為に着たいという気持ちしかないの。他の人の前で着る事になったらそれこそ自殺しちゃうわよ!!」
 ミッシェルの剣幕に雑誌担当者がたじろぐ。
 ザックスがひょいとその衣装をのぞき込んだ。
「ウェディングドレスじゃないか、そりゃ嫌がるわなぁ。」
 ザックスの言葉にエアリスが首をコクコクと縦に振ってうなずいていた。
「そりゃそうよね。クラウディアにはこーんな素的なフィアンセがいるんだもの。他の人の為にこのドレスを着たくないのはわかるわ。これからもぜ〜〜ったい断るのよ!!」
 エアリスの言葉にクラウディアがにこりと微笑むのを雑誌のスタッフが唖然として眺めていたが、気を取り直してマネージャーのティモシーに何とかしてもらおうと話しかけた。
「あ、あの。マネージャーさんは彼女がドレスを選択する権利があると思って見えるのですか?」
「もちろん。契約書の2枚目の右中央付近に、彼女が嫌がる服は着せないと明記してあるはずです。」
 雑誌編集者があわてて契約書を確認すると、ティモシーの言う通りだったので仕方がなく諦めたようにみえたが…
「では、着なければいいんですね?!もって写真に写ると言うのはOKになりますよね?!」
 流石にそれは着ると言う事ではないので断れない。
 ティモシーがクラウドに聞いた。
「どうしますか?クラウディア。」
「だって、ミッシェルが仕事でウェディングドレスを着ると婚期が遅れるって……。」

 (けっ!!もう結婚しているくせに、何いってんだ。)

 真っ赤な顔でうつむきながらそう話すクラウドにザックスは心の中で思いっきり突っ込みを入れていた。