FF ニ次小説

 頑としてウェディングドレスを持つ事すら拒否するクラウドに、雑誌のスタッフが困りはてていた時、セフィロスが動いた。
 クラウドのそばに寄ると、するりと頬をなでてゆるやかな笑みを浮かべて話しかけた。

「まったく、そこまで強烈なプロポーズは受けたことがないぞ。」
「ど……♥≠Σ∞……。」
 何処がプロポーズに聞こえる?!と言い返したかったクラウドの言葉ごと塞ぐように、セフィロスがいきなりキスをした。
 長く深く何度も角度を変えて与えられる口づけに、クラウドの腰が砕けそうになるが、背中に回された逞しい腕が華奢な身体をささえて離さない。
 不意にクラウドの口から嬌声が漏れはじめた。
「は………ん。ぁぁん………、んぅっ………。」

 その艶やかな声にまわりがびっくりして手を止めていると、セフィロスがクラウディアをやっと離した。
「そのドレスを着るのはそんなに嫌なのか?」
「……一回だけだって言ったじゃない。
「クックック…そうか、そんなに嫌なのか。どうやらクラウディアを動かすことは出来ないようだが、どうするかね?」
 セフィロスの最後通告に雑誌編集者が完全に諦めた。

 (モデルってわがままが通るのかよ〜〜?!)

 ザックスがほとほと呆れたような顔でクラウドとセフィロスを見ていた。
 そこへミッシェルがクラウドの持っていたウェディングドレスを見て雑誌の担当者にはなしかけた。
「これって裾を切れば十分にドレッシーなワンピースになるけど、バッサリやっていい?それならばクラウディアだって着ると思うけど?」
「じょ、冗談じゃないですよ!!このドレスいくらだと思っているんですか?!マダムセシルのオリジナルデザインですよ!!」
「な〜にがマダムセシルのオリジナルですか?!こんな安いナイロンをあの方が使うわけないでしょ?!あんた見る目がないの?!こんな安物せいぜい3000ギルでしょ?!マダムのドレスはその10倍はするのよ。シルクサテンで手刺繍でその人に合わせて何度も仮縫いするのに、着る人にあわせてもいないドレスは絶対偽物!!」
 ミッシェルにずばりと当てられた衣装担当者が青い顔をする。
 その様子を見てクラウドが目を丸くして感心していた。
「ミッシェル、すごぉい〜〜!!」

 ミッシェルは思わず渋い顔をしてしまった。
「あのねぇ、感心しないでほしいんだけど。大体誰がドレスを着ないってわがまま言っているのかしら、モデルのクラウディア?」
「あ、ごめんなさい。」
「まあいいけどね。ティモシー、今度から雑誌の契約はしっかり衣装内容までチェックしてね。」
「ああ、これで懲りたよ。」
「俺としてはカレンダーの6月の定番衣装だと思うけど?」
「クラウディアにウェディングドレスを着せたかったら、ルーファウス社長を動かして、サーにタキシードを着せて隣りに立ってもらわないとムリだぞ。」
「あ、それはいい手だわ!!マダムに後でこっそりと教えておこう、うん!」
 スタッフの言葉に思わずクラウドが顔をしかめかけた。

 雑誌編集者が流石に諦めたのか、ウェディングドレスの撮影を他の物に代用して撮影を終了し、クラウドはスタッフと別れて4人で食事に出掛ける事にした。
 エアリスがにこにこと笑ってクラウドの腕を取っている。
「ねー、クラウディア。ルーファウス社長が業務命令で、ウェディングドレス着る事を指示したらどうするの?」
「どんな業務命令よ。」
「えー?!さっきカメラマンの人が言っていたじゃない。カレンダーの6月の定番衣装だって。」
「6月って……どうして?」
「あ、ジューンブライドは幸せになれるって、知らないの?」
「え?そうなの?」
 エアリスの話しにクラウドは思わずセフィロスに聞いた。

 セフィロスは苦笑を漏らしながらクラウドの問いかけに答えた。
「ある地方の言い伝えだな。六月すなわちJuneという月名が、ある神話の女神ジュノーからきているというものだ。ジュノーは結婚をつかさどり、女性の権利を守る神なので、この月に結婚すれば花嫁は幸せになれるというものなのだが…、実は雨が少なく晴天続きで結婚式にいかにもふさわしいからという説があるようだぞ。」
 セフィロスの話しにエアリスが顔をしかめたがクラウドはうなづいていた。
「うん、わかるよそれ。ニブルヘイムは収穫祭の頃に結婚するのが昔からのしきたりで、だいたい9月の末頃がそうだったんだ。」
「なーんだ、それじゃゴンガガも一緒だぜ。」
「もう、夢も憧れも無いじゃない。」
 エアリスが納得出来ないのか一人でブツブツ言っていた。

 ふとザックスがクラウドに聞いた。
「そう言えばお前、向こうの持ってきた衣装を嫌だからって断って大丈夫かよ?」
「ん?かまわないよ。俺としてはクラウディアの仕事が来なくなる事の方が嬉しいよ。」
 しっかりと素のクラウドに戻っているが、姿は今だにクラウディアであったので、思わずエアリスが文句を言った。
「えー?!こんなに似合ってるのにやめたいの?勿体ない。」
「俺、一応これでも特務隊の副隊長で、そっちの仕事の方が好きなんだけど。」
「へー、戦場のほうが好きなのか?おまえって変わってるな。」
「戦場に立っているセフィが好きなの、強くてカッコいいもん。」
 かっこいいもん!というセリフのあとに思いっきりハートマークが飛んでいた。
 クラウドの言った言葉はどうしたって戦士の言葉でなければ、男の言葉でもないので、エアリスが笑い転げ、ザックスは呆れていた。
「クラウドお前、そんな事想いながら闘ってたのねん?俺達生き延びるのに必死だっつーに、おにいちゃん泣きたいよー!!」
「え〜?!俺だって大変なんだよ。最近クラスAの人たちが束になってかかってきてくれるから……。俺、いじめられてるんだよー。」
「束にならないとクラスAソルジャーが勝てないだけじゃないのか。どんどん強くなるなーお前、たのむで夫婦げんかだけはするなよ。世界最強の夫婦げんかになりそうだ。」
 クラウドがザックスの言葉にすねたようにむくれていると、兄貴顔で頭をわしゃわしゃと撫でながら続けた。
「バハムート召喚してしまえばいくら旦那だって一撃だとおもうけど。」
「そんな事しないもん!」
 拗ねるクラウドをみて再びザックスが頭をわしゃわしゃとなでつけた。

 やがて4人でレストランへ入る事になった、もちろんその時のクラウドはクラウディアモードである。
 幸せそうにセフィロスに腕をからめてレストランに入る姿など堂に入っているが、先程までとはまるで人が違っているようであったので、思わずザックスとエアリスは苦笑を漏らしそうになった。
 4人で楽しく食事をしてレストランを出た後、ザックスはエアリスをおくるためデイトナからヘルメットを取り出した。
 エアリスも普通にヘルメットを受け取るとデイトナの後ろ座席に横座りする。
 クラウドはセフィロスの車の助手席からザックスに声をかけた。
「ザックスー!安全運転でね!」
「まかせておけ!」
 手をあげてデイトナに火を入れると、ゆっくりとザックスが愛車を走らせはじめたのを見送って、セフィロスが車のエンジンをかけた。
「帰るか。」
「うん。」
 低いエンジン音を響かせて車がゆっくりと走り出した。

 部屋に帰るまでの短いドライブでクラウドはこれからクラウディアとしてやっていけるのか、凄く心配になってきていた。
 写真モデルだけの存在であったはずの自分が独り歩きしはじめていた。その恋のお相手がセフィロスであるのは自分で望んだこととはいえ、自分がクラウドとして望まれているのか、クラウディアとして望まれているのかセフィロスは何も言ってくれないのでかえって不安になりつつあった。

 ライトにてらされた高速道路をみつめながら、セフィロスは隣で何か考え込んでいるクラウドに声をかけた。
「明日も休みだったな、そっちの予定はなにかあったか?」
「うん。お昼にグラスランドの郊外で撮影。でも、もうやめたいな。」
「やめたいのか?」
「俺は戦場で貴方の隣に立てるだけでいいんだ。世間的に隣に立てなくてもそれは仕方がない事だと思う。」
「なんなら二人でカミングアウトするか?」
「それも嫌だな。俺はかまわないけど、貴方が傷つく。」
「かまわんと言っているであろうが…。では聞くが、お前はお前以外の女と私が噂されるのを容認出来るのか?」
 クラウドはハッとしてセフィロスを見つめた。
 もし自分がクラウディアとしてセフィロスの恋人になっていなかったら、女優やお金持ちのお嬢様などと噂されてそのたび嫌な気持ちになるであろう。
「もっと嫌だ。もう、仕方がないなぁ。本当にあの時セフィロスに言われた通り変な契約するんじゃなかったよ。」

 今更ではあるがクラウド自身こんなに早くセフィロスの隣に立つことができると思っていなかった。どうしてもセフィロスの隣にいたかったクラウドはモデル契約がたった一つの灯であったのであった。
 ソルジャーになるまでの我慢と思っているのではあったが、たった2年しかないソルジャー試験までの時間が果てしなく長く感じるクラウドであった。

その時クラウドの携帯が鳴り響いた。
 あわててポケットから取り出して番号を確認したらティモシーであった。
「ハイ、クラウドです。」
「あ、ティモシーです。明日の衣装ですが確認取れました。ごく普通の衣装ばかりで君の嫌そうな物は無い様です。」
「あ、ありがとう。」
「では、明日9時に事務所で御待ちしています。」
 どうやら今日の事でしっかりと衣装の内容までチェックしはじめたらしい。
 切れた電話をクラウドが思いっきり睨みつけていたので、セフィロスが内容を想像出来たのか苦笑していた。
「クックック、どうやらそう簡単にはやめさせてもらえそうもなさそうだな。」
 セフィロスの声がなぜか楽しげに聞こえたクラウドだった。


* * *



 10月からクラスAに上がったクラウドには3直勤務という勤務体勢が待っていた。
 おかげでセフィロスと共に過ごせる時間が少なくなったうえに、三直勤務あけの休暇は明日までしかないのであるが、モデルの仕事を入れていたので、ゆっくりと二人で過ごす事も出来ない日が多かったのであった。
 クラウドはクラウドなりに一生懸命頑張ってどちらの仕事もこなしているのであったが、やはり戦士としてやっていくつもりでいるので早くモデルを卒業したい。しかし契約で縛られていて辞めるわけにもいかなくなってしまっている。

「今度からは早番や遅番の時に仕事を入れようかな?」
「どっちでもかまわんが、おまえはまだ未成年なのだからしっかりと睡眠を取らないとダメだぞ。」
「俺を寝かしてくれないのはセフィでしょう?」
「それはそれは、誉め言葉と捕らえておこうか。」
 いつのまにか車はアパートメントの地下駐車場へと滑り込んでいた。
 車を停止させると同時にセフィロスがクラウドに覆いかぶさってきたとおもったらいきなり唇をふさがれる。
「だ、だめだよ。誰か来たら…どう……ん!!」
 逃げようとするクラウドをガシッと抱きしめると、セフィロスは腰が砕けるような口づけを何度も施した。
 やがてクラウドから艶やかな声が漏れ出した時、やっとセフィロスが唇を離した。
 クラウドの青い瞳の中に妖艶な炎がチラチラと揺れている。
 セフィロスが満足げにうなずくと、車から降りてクラウドを抱き上げエレベーターの中に消えて行った。