FF ニ次小説

 カウントダウンパーティーを今夜に控えてクラウドは、いつもの様に朝食を作りながら憂鬱な気分になっていた。ランディが言っていたことはどうやら嘘ではなく、自分のキスを狙っている男が片手では済まないと言うらしい。
 ベーコンエッグを焦がしかけてあわててフライパンから取り出しながら、思わずため息をついた時、後ろからセフィロスに抱きしめられた。
「何を悩んでいる?」
「俺って、そんなに男に狙われているのかな?」
「お前が可愛いのは確かだが、聞き捨てならん言葉だな。」
「ランディがカウントダウンパーティーで俺のキスを狙っている男が二桁いるって言うんだよ。」
「二桁では済まんだろうな。さりとてクラスA扱いのお前がカウントダウンパーティーに出ないわけにはいかんだろうし…、ふむ。」
「セフィロスは出ないの?」
「私か?鬱陶しいから出た事などないな。」
「セフィなら出来るよね?カウントダウン10秒前に真っ暗闇になるんだって。俺を連れ出してくれないかな?俺必死に出口にたどりつくつもりで居るけど阻止されそうだもん。」
「カンパニーの中でキスされるのは嫌だったんじゃないのか?」
「他の人にキスされたくない!」
「クックック…、可愛い事を言う。」
 セフィロスはクラウドにキスをすると、どうやってカウントダウンパーティーから連れ出そうかと考えた。

「そうだな山ほどたまっている書類の片づけの手伝いなら、いくらでも欲しいぐらいだが。」
「書類?俺でも出来る?」
「ああ、十分だろう。手伝ってくれるか?」
「はい!」
 セフィロスの手伝いが出来るというだけで、クラウドは思わず嬉しくなるのであった。

 出社したクラウドを待っていたのは、にこにこと笑うクラスSソルジャー達と、同情心丸出しのクラスA仲間の顔だった。
「な、なにかありましたでしょうか?」
 ランスロット,パーシヴァル,トリスタン,リー,ガーレスというクラスSトップ5ソルジャーがニコニコとしながら、クラスA執務室にいる姿は異様でしかないのでクラウドも青い顔をする。
「いえ、姫君がキングの書類を手伝って下さるとお聞きしましたので迎えに参っただけです。」
「クラウド、お前そんな約束をしたのか?」
「え?ええ、昨日のうちに隊長殿に自分にできる物でよいから手伝えと言われて…。」
「悪いことは言わん、今のうちに逃げろ。」
「え?なぜですか?」
 パーシーが何も知らないクラウドに入れ知恵をしようとする前に、上官であるガーレスが視線でパーシーを押さえつけながらクラウドに柔らかな笑みを浮かべて答えた。

「いえ、キングの書類が少々多いので大変だと言うことです。」
「ええ、それは隊長殿から聞いています。だから自分が少しでもお手伝い出来るのであればと思って。」
「では、まいりましょうか?」
 ぐるりと黒のロングコートに身を包んだ偉丈夫達に囲まれたクラウドは、何処からどう見ても可愛い子ちゃんである。あっさりと連れ去られていってしまったクラウドの背中にブライアンがつぶやいていた。
「隊長達、あとで姫に何て言われるか…」
「くわばら、くわばら……。」
「あいつも可哀想だな、これでカウントダウンパーティーはムリだな。」
「仕方がない、エディ。おまえ姫の代わりに可愛い子ちゃん釣ってきてくれ!」
「俺が?!」
 クラスAソルジャー達はすでにクラウドの事をパーティーの頭数から外していた。

その頃、クラスSトップ5に連れられてセフィロスのところまでやってきたクラウド君、いつの間にかセフィロスの机の隣りにしつらえてある席に座らされた。
「では、せいぜい手伝ってもらおうか。」
 冷たく笑うセフィロスの手から書類が次々に渡されると、あっという間にクラウドの座った机の上は書類で山積みになってしまいました。
 セフィロスの扱う書類は、トップダウンの物から一般兵の扱うような物まで多種多様に別れていて、クラウドが出来そうな物をあらかじめ選別してあったのであろう、その数の多さに言われていたとはいえ、思わず軽くため息を付ながら書類を処理しはじめた。
 しかし、しばらく経ってからクラウドは書類に埋もれながら頭を抱えていた。

 (か…考えが甘かった!!)

 目の前には今日中に処理しきれるはずもないほどの量の書類の山に、今さらながらクラスA仲間が”遅くないから逃げろ”と言っていた意味がわかってきた。
「隊長殿、これだけ総べて処理するなら軽く一週間ぐらい掛りそうなのですが…」
「まあ、そうであろうな。おい、ランス。笑っていないで手伝え!」
「私が、ですか?」
「ああ、お前は来年度からの統括であろう?今からこの書類に慣れておけ。」
「誰が統括などやる物ですか!!」
「クックック…、リック達がなにをどう根回ししたか知らぬが、ハイデッカーへの突き上げはかなり激しいものがあるからな、ルーファウスとて内部の声を無視しつづけることはできぬから今から覚悟しておけ。」
「わ、私は貴方と再び同じ戦地に立ちたいのです!」
「お前のような優しい男に出来るとも思えぬな。」
 にやりと笑うセフィロスにランスロットは何も言い返すことができなかった、目の前の”英雄”は自分の性格を把握してしまっているうえに、ありとあらゆる状況が頭の中に入っている様であった。
「本来なら治安部統括には貴方がなるべきであるとは思います、しかしそれが出来ないのであれば、私よりも他の有能な人物を起用された方が良いのではないのですか?」
「ほぉ?誰が居ると言うのだ?具体的に名前を言ってほしい物だな。だいたいこの書類はお前が処理すべき物であろうが?」
「え?あ、ああ。これは…って、セフィロス!!これは貴方が”姫にそばで仕事をしてほしい”というから出した物ではありませんか?!」
「出し過ぎだ。パーシヴァル、お前の分も持って帰れ!」
「了解、全員自分の分を持って帰る事!!」
 パーシヴァルの言葉でクラウドの目の前の書類のやまがあっという間に無くなって行ったが、まだ一山残っていた。

「隊長殿、これは?」
「見ればわかるであろう?」
 クラウドが書類を見るとそれはザックスが溜めた書類の山だった。
「ザックス…。絶対にこの癖治してやる!!」
「ほぉ、それが出来れば凄い物だぞ。あいつの書類嫌いは簡単には治らん。」
「正面から言っても聞く訳ありません、エアリスと言う美人の彼女に一言言ってもらうんですよ。」
「クックック、お前もやるようになったな。」
「使える物はなんでも使う…ですよね?」
 にっこりと笑うクラウドに柔らかな笑みを浮かべるセフィロスに、クラスSソルジャー達は日ごろの居づらい執務室で仕事をしているのとは雲泥の差を感じていた。
「これは、早く姫君にあの位置に上がってきてもらわねばなりませんな。」
「しかしだな、ベネディクト。クラスSソルジャーになるための規定があったではないか、それを守るのであれば最低でもあと3年は掛るぞ。」
「しかもだ、あの姫君がキングのとなりを離れて一隊を率いる事を選ぶとも思えぬし、それを許す様なキングでもあるまい。」
「そう言えば科学部門の統括にガスト博士が就任されると言うが、あの博士は魔晄を封印したがっているときいた。先はわからぬぞ。」
「ああ、しかし少なくともキングの隣に姫は必要であると言うことは変わらぬようだな。」
 クラスSソルジャー達はちらりと自ら盟主と仰ぐ男を見やると、書類を提出するべく自分の机へと戻って行った。

 やがて日付が変わろうとする頃、すべての書類を片づけ終わったクラウドが机の上で伸びていた。
「はぁ…疲れた。1年分の書類整理をした気分です。」
「ご苦労だったな、私の仕事も終った。」
「よかった、じゃあ隊長殿も明日から休めるんですね?」
「ああ、おかげでクラウディアとゆっくり過ごせそうだ。」
「では、打ち上げと行きますか?キング。」
「クラウドも一緒にどうだ?打ち上げと言っても、むさくるしい連中と一緒にコーヒーを飲むぐらいだが?」
「むさ……、遠慮しておきます。自分はまだクラスA扱いの一般兵ですから。」
 あわてて執務室から出て行こうとするクラウドの華奢な身体を、セフィロスが抱き寄せるとがっちりと小脇に抱え込む。
「上官の言うことは聞く物だ。ランス、一人追加コーヒーはカフェオレだ。」
「了解、さあ、行きましょう。」

 クラスSソルジャー達に先導されてがっちりとセフィロスに小脇に抱えられたクラウドが、引きずられるようにクラスS執務室を出た所で、カウントダウンパーティーに行こうとしていたクラスA仲間とばったりと出会った。
「うわっ!クラウド、お前何かやったんか?!」
「あ、ユージン。助けてくれよ、クラスSの打ち上げに強制的に参加させられそうなんだ。」
「大人しく上官に囲まれてコーヒー飲んでくるんだな。」
「ま、まって!!ユージン、アラン!!キース!!」
「クラウド、諦めろ。治安部でサー・セフィロスに逆らえる男はいないんだ。」
「お、俺は逆らいたい!!」
「サー・セフィロスに逆らうということは治安部に居られなくなるということだぞ、それでもいいのか?」
「うううう……。」

 クラウドが青い瞳に涙を浮かべながらセフィロスを睨みつけているのを、感心しながらクラスA仲間がパーティー会場へと去って行った。
「ほぉ、私に逆らうということは治安部に居られないそうだぞ、ランスロット。」
「先程の件ですか?その場合逆らっても逆らわなくても居られなくなりそうですが?」
「クックック。よくわかっているな、あと3ヶ月せいぜいあがくのだな。」
 セフィロスの言葉にランスロットはただ口元をゆがめるだけであった。
 しかしクラウドはこの時すでにランスロットが心のどこかで、治安部統括を引き受けることを決めているのではないかと思っていた。

 円卓のある会議室に入りセフィロスに抱えられたまま中央に座ると、目の前にカフェオレの入ったカップが配られた。
 全員の前に同じようにカップが配られおえた時に、おもむろにセフィロスがカップをもって立ち上がった。
「来るべき新しい年がよい年となるように。乾杯!」
 その場にいたクラスSソルジャー達が、カップを目の高さまで持ち上げてそれぞれ飲み干す。
 クラウドも真似をしようとしてカップに口を付けた時、いきなりクラウドの後ろで大きな音がした。
「え?!爆発?」
「いいえ、姫。あれは花火です、どうやら新しい年が明けた様ですね。」
「花火。」
 窓の外には色とりどりの花火が咲き乱れ、紙吹雪が舞いたくさんの風船が解き放たれて空を飛んでいた。
 クラウドが窓の外の光景に見とれているとセフィロスがそっと近寄ってきた。
「珍しいのか?」
「はい、去年は今ごろ就寝時間で寝ていましたから。」
「いつまでも見ていないで帰るぞ、クラウド。」
「あ、はい。」
 すでに退出をはじめていたのか、会議室の中には数名のクラスSソルジャーが残っているだけだった。
 クラウドはカフェオレを飲み干すと、あわててセフィロスの後を追うように帰宅した。
 セフィロスと一緒に専用のエレベーターに乗り込んだ途端、クラウドはいきなり抱きしめられた。
「HAPPY NEW YEAR クラウド、今年もよろしく頼む。」
 耳元で囁かれ唇を重ねるとクラウドの頬が赤く染まる。
「あ、うん。こちらこそよろしくお願いします。」

 新しい年がどういう年になるのかはまだわからないが、セフィロスと一緒ならやっていけるとクラウドは思っていた。


THe End