年末のミッドガルは人が多く行き交うため、テロが起きたら一大事とばかりカンパニーでも市内の巡回に力を入れている。
クラスAソルジャーであるクラウドも当然巡回メンバーに組み入れられていて、いつもの様にキースと共にクジで引いた割り当て地域を巡回していた。
「はぁ…カウントダウンパーティーも出られないのか。」
「カウントダウンパーティー?」
「ああ、新年に入ったばかりの時に目の前にいた相手とキスが出来るんだ。しかし30秒前ぐらいに暗闇になってしまうんだ。でも考えても見ろ、俺達はソルジャーだぜ暗闇なんて関係なし!お気に入りの女の子を目の前にするぐらい簡単なものだよ。」
「俺…まだソルジャーではないから。」
「おお、悪い悪い。まあお前は出ない方がいいかもな。お前のキス狙っている奴は数知れん。」
「俺はキスなんてされたくない。」
「お、男の子だねえ。お前の好きなタイプは?」
「俺?う〜ん、優しくて俺だけを好きだといってくれる人かな?」
クラウドは思わずセフィロスの姿を思い浮かべてしまっていたが、キースはごく普通に女の子を想像していたらしい、クラウドの肩をばんばん叩き気さくに話しかけてくる。
「いいねぇ!!そういう趣味!!身体はどんなのがタイプだ?」
「そ…それは、…って何の話!!」
「いや、お前がノーマルだってよくわかった!!ランディに教えておこう、うん。」
「…………。」
クラウドはキースに何も言い返すことはできなかった。
自分がセフィロスを好きである事も、すでに彼と結婚しているという事実も、今明かす訳にはいかない。なぜなら英雄と呼ばれるセフィロスの恋人は、クラウディアと言うモデルであって、自分ではないのである。
クラウディアは自分なのであるから、大きな声で言おうと思えば言える事ではあるが、クラウドは人々がセフィロスをどう見ているのかそばにいてよくわかっているつもりであった。
クラウドは思わずため息をつきながら長くなってきた髪の毛をかきあげた。
巡回を終えてクラウドがブライアンに話しかけた。
「ブライアン、ペアの交代ってどうすれば出来るの?」
「アハハハハ…、やっぱりお前とキースでは巧くいかなかったか。」
「腕は認めるけど、巡回中に女の話しとかそんなのばかりなんだよ。」
「いやー、だってお前とそう言う話すると絶対に赤くなって可愛いからさぁ…。」
キースの一言にクラウドが思いっきり睨みつけると、ブライアンが頭をポンと撫でながらキースを睨みつける。
「いくらクラウドが年下で可愛いからって、それをからかうようではマダマダだな。それで、クラウドは誰が好みだ?」
「絶対に俺をからかうことがないから、サー・エドワードを希望する!」
「俺か?うわ…、またリックに苛められそうだな。」
クラウドのご指名にエドワードが顔をしかめながらも嫌とは言わない理由は、彼自身がいつも庇う立場にいて、そのうちご指名が来るであろうと覚悟はしていた事であったためである。
そんなエドワードを見てキースがつぶやいた。
「ちぇ!お姫様とデート出来る権利まで持って行かれたか。」
「キース、お前はそれだからクラウドに怒られるのだよ。」
「で?エドワード君、引き受けるのだな?」
「ああ、いつかは来るだろうと思っていたからな。せいぜい死なないように頑張るよ。」
エドワードが苦笑いをしながらもクラウドに親指を立てて合図をする、それだけでこのクラスAの中では十分通用する意志の疎通である。
ブライアンとパーシーが笑ってエドワードを揶揄しはじめた。
「お、エドワード君。リックの扱きが辛くてお姫様のお相手は嫌だって言っていたではないか?」
「俺、リックに言ってやろう。クラスAbPいい男が可愛いお姫様をゲットしたって。」
「ブライアン!パーシー!!聞いていれば人の事を姫、姫って!!俺は男だーーー!!!」
「はいはい、狭い執務室で暴れないの。」
支給品のクリスタルソードを抜きかかろうとするクラウドを、エドワードがいつもの様に撫でると不思議と収まる。いつもはコレで終るはずだったのであるが今日だけは違っていた、扉をノックしてリックが入ってこようとしていたのであった。
「失礼いたします。サー・クラウド、先日の任務の報告書ですが……。」
リックがそこまで話した時に、クラウドはエドワードのそばで頭を撫でられていたので、持っていた報告書を近くのテーブルに置くと一気にエドワードとの間合いを詰めた。
「貴様…あれほど俺達の姫に手を出すなといっておいたはずだぞ!!」
「出してないよ!!」
「リック、エディの言う通りだ。おまえクラスAに難癖付けるなら早く上がってこい。魔力なら俺がたたき直してやる。」
「ブライアンに頼むぐらいなら姫に頼む!」
「うん、いいよ。いつでも協力するから。」
にっこりと笑うクラウドにリックが顔をしかめると、クラスAソルジャー達から笑いが起こる。
一般兵最強の男と呼ばれるリックの唯一の弱点といってもよいのが、魔力の無さなのである。ガ系の高位魔法がかけられないほど魔力が少ないので当然魔法防御力も低い、ステータス変化系の魔法を掛けられると一発でかかってしまうほどであった。
「リックって魔力が上がってくればクラスAまで簡単に上がってこれると思うんだ。ねえ、ブライアン。魔力って使えば使うほど強くなれるんじゃないの?」
「まあ、基本的にはそう言う事だと思うが…俺もリックの精神力の強さで、なぜこんなに魔力が無いのか不思議なぐらいなんだよな。」
「もう一人、隊長殿に引き上げるよう命ぜられているんだよね。」
「あの馬鹿猿か?」
クラウドの言葉に即座にランディが答えるが名前ではない。思わずランディを睨みながらクラウドが突き放すように喋る。
「あまりそう言う事を言わないほうがいいと思うよ。ザックスが書類の書き方を覚えれば、後は隠された実力をちょっと出すだけで十分クラスAは勤まると思う。」
「え?!あのおふざけ野郎が?!」
「まあ、おふざけと言うのは仕方がないな。俺もあいつが本気になった姿を見てみたいよ。」
「リックがそういうなら…間違えなさそうだな。」
あっさりとリックの言う事にパーシーがうなずいたのをみてクラウドがびっくりする。
一瞬にしてクラスAソルジャーを納得させてしまう力を、クラウドはまだ持ちえていなかった。だから素直にリックの事を凄いと思えるのである。
「俺、やっぱりリックにはかなわないのかな?」
「俺はお前に魔力だけでなく剣でも戦略でもかなわない、それだけで十分だろ?」
「じゃあ、最強の呪文かけてあげるよ。リック、早くクラスAに上がってきてよ。俺リックが上がってきたら絶対にペアの指名するから。」
「おっしゃーーー!!!まかせておけ!!」
不敵な笑みを浮かべてクラスAソルジャー達の前に仁王立ちしたリックが、片腕を突き上げていたので、その場にいるクラスAソルジャー達が呆れた。
「姫君の一言でその気になるリックってちょっとヘン」
「うるさいーー!!俺が上がってきたらその日からここは”王女警護隊”だぞ!!」
「リック、上がってきてすぐに俺を抜くつもりかい?」
「ブライアン、お前馬鹿か?女王警護隊と言うのは何を守るんだ?姫だろう。だからここのトップはウチのお姫様ことクラウドって事になるの!俺は警護隊長!!」
「やっぱりブライアンを抜く気満々だ。」
「ハン!ふざけるなよ。特務隊に入ってきた時に半べそかいて、俺とカイルに苛められてた男が守るトップの座なんてあっさりと手に入れてやらァ!」
「うわ…古い話しを蒸し返すな!!」
ブライアンが苦々しげな顔をしながらリックの背中を押して執務室から追い出そうとすると、目の前に自分の上官であるクラスSソルジャーで魔法部隊の隊長のリーが立っていた。
「ブライアン、何を子供っぽい事している?」
「あ、隊長殿。失礼いたしました!」
「リー、何をやってるのだ?」
「ああ、ベネディクト。ウチの副隊長がまだまだ子供だったらしいのですよ。」
「ブライアンが?一体何をしていたのですか?」
「リックを追い出していたようですな。」
「クラスAのトップを取られたくないからですかね?」
ずばり見抜かれてブライアンが思わず顔をうつむけてしまった。
仲間にしか見せないクラスAソルジャーの内側を知って、クラウドも肩肘張らずにやっていけそうだと思うことができたのであったが、流石にこれには笑うしかない。
けらけらと笑っているとクラスS執務室から怒鳴り声が聞こえてきた。
「煩い!何を笑う?」
最低最悪の寒気団を背負い込んだような雰囲気のセフィロスが、クラスS執務室から現れた。実はセフィロスが不機嫌なのはクラウドの笑顔が自分だけで独占出来ないからであったのだが、間違ってもそんな事を表に出す彼では無い。
いつもの様に冷淡な笑みを浮かべて、クラスAソルジャー達を睨みつけるセフィロスに、その場にいたソルジャー達はふるえあがっていたのであった。
いつの間にか全員整列して敬礼している当たりは、上官に対する礼儀を忘れる事など無いクラスAソルジャーらしいのであるが、その列の一番前に並んでいるがリックとクラウドと言う当たりは流石に心得ているなとリーが密かに思う。
「隊長殿、何かありましたでしょうか?」
「特に無いな、何処かのソルジャー達が騒いでいる以外は。」
「お騒がせして済みませんでした。先日の報告書が上がってきていますので、のちほどお持ちします。」
「そうか。ああ、クラウド。ザックスに言っておけ、報告書は一枚とて年を越させるなとな。」
「アイ・サー!」
敬礼したクラウドがきびすを返してクラスA執務室に戻ると、騒動はあっという間に終ってしまったので、執務室に戻ったクラスAソルジャー達が思わず長いため息をついた。
「ふう〜〜〜〜 生きた心地がしないぜ。」
「クラウド、よくキングのあの冷たい視線を受け流せるな。」
「はあ…、入隊してずっとですから慣れちゃったかな?」
「今度からクラスSと何かあった時はお前に盾になってもらうからな。」
「俺は災難避けかよ!」
「いや、こんなに強力な盾は無い。なにしろお前はキングが隣に立たせたい男なんだ、それをクラスSソルジャーが認めているからな。だから姫君と連隊長達も呼ぶのだぞ。」
クラウドはブライアンの言葉を聞いて少しいじけ気味につぶやいた。
「いくらこの治安部が隊長中心だって言ったって・・・その隣に立てばだれでもお姫様になっちゃう訳?」
「おまえ限定!ザックスや俺達が隣りに立っていたって”姫”だなどと呼ばれた事など無い。」
「俺もブライアンも…キースにしろパーシーにしろキングに望まれた訳では無いからな。副隊長に引き上げる目的での特務隊入りだった、そこのところが大違いだ。」
「おまけにカンパニーbPの可愛い子ちゃんだもんな、お前の”姫”っていう呼称今やカンパニー中に知れ渡っているぜ。」
「カウントダウンパーティーでお前を狙う男に捕まって、バージン狙われないようにせいぜい気をつけるんだな。」
「ランディ!キース!!」
真っ赤な顔でつかみ掛かろうとするクラウドをエドワードが止める姿をリックは肩をすくめながら遠目がちに眺めていた。
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