クリスマス・パーティーの会場は盛況だった。
カンパニーに支援する企業やお金持ちもこぞってきている。ミッドガル市長も議員も色々な職業の人たちもたくさん集まっていた。
ルーファウスが忙しそうに大株主や関係者各位に挨拶をして歩いていると、必ずといっていいほど同じ質問をされた。
「今日はクラウディアさんがいらっしゃるそうですな。」
「当然です、わが社の所属モデルですから。」
「それは楽しみですな。」
「チャンスがあれば踊りのお相手ぐらいはできますかね?」
「セフィロスに殺されてもよろしければ申し込んで見てください。」
ルーファウスがさも不機嫌そうな冷たい目で事務的に答えていた。
実は彼だってクラウドと踊ってみたいと思っているのである。しかしきっとセフィロスがそれを許さないであろう事ぐらい承知していた。
扉が開くと噂の主であるクラウディアがセフィロスにエスコートされて入って来た。
真っ白なドレスは上半身がピッタリとしていて華奢な身体を強調し胸元のファーがボディーラインを隠していた。ウェストからふわりと広がるスカートはフロントがひざ丈、フレアを伴って後ろに行くにつれて丈が長くなっていた。
その上からオーガンジーでふんわりと足元まで揺れるフリルが広がっていた。
照れてうつむきながらセフィロスと腕を組む仕草が初々しい。
黒のタキシードをびしっと決めたセフィロスがクラウディアだけに向かってゆるやかに微笑んでいた。
あまりにも美しい一組のカップルに会場からため息が漏れていた。
ミッドガル市長がセフィロス達に近寄った。
軽く会釈をして話しかける
「やぁ、サー・セフィロス。美しきフィアンセをご紹介下さいませんか?」
「クラウディア、こちらはミッドガルの市長殿だ。」
「初めまして、クラウディアと申します。」
恭しく一礼するクラウディアに目を細めている市長をにらみつけながら、セフィロスが恋人を抱き寄せフロアの端に立っている偉丈夫達のところへ歩くと、偉丈夫達が二人を認めて振り向いた。
体格のよい男たちはクラスSソルジャーのトップ4だった。
ランスロットが騎士のごとくクラウドの前に傅き手の甲に口づけをした。
「お久しぶりです、姫君。」
「サー・ランスロット 久しぶりというほどでもないと思いますが?」
クラウドが挨拶をすると、同じように残る3人も同じように手の甲にキスをした。
「再びお目にかかれて嬉しいです。」
「お元気そうで何より。」
「いつもお美しゅうございますな。」
「もう…4人とも。絶対面白がっていらっしゃるでしょう?」
クラウドは拗ねたような目で4人のソルジャー達を見つめているが、しれっとした顔でランスロットが答えた。
「さて、何の事でしょう?我らは姫君の挙式以来お会いしてはおりませぬが。」
「ええ、お会いするのは9月以来ですね。」
「あの時の姫君は本当に美しかったですな。」
「時にセフィロス、まだお二人のご結婚を正式に発表されぬおつもりですか?」
どうやら皆クラウディアの正体を知っていて全く別の人として扱っているらしい。
セフィロスが苦笑する。
「全く、貴様等は。」
「ところで、セフィロス。奥様と踊ってもよろしいですかな?」
「こら!ランスロット抜け駆けをするな!」
「壁の花しておくには惜しいですからね、私めにも許可下さい。」
クラウドが諦めたような顔をしてセフィロスの方を見つめると、セフィロスは何もいわずにクラウドに微笑んでいた。
「色々な連中にお前を紹介するぐらいなら、こいつらと踊ってくれてた方がよい。」
「ふぅ…まだモンスター相手に闘えって言われた方がいいよ。」
「では遠慮無くその時はクラウド君に来てもらいましょうか。」
そう言ってランスロットがクラウドの手を取ってホールの中央へと進んだ。
モダンワルツが流れている。
滑るようなステップで踊るクラウドをランスロットが見事にリードをするが、体格のいいソルジャーと小柄なクラウディアでは大人と子供のダンスであった。
それでも花のような笑顔で踊るクラウディアに、フロアに居た男共が憧れの視線を投げかけていた。
ランスロットからパーシヴァルへとパートナーが変わると、ダンスはスローワルツになっていた。
ステップを踏みながらパートナーと楽しげに踊っているクラウドを視野の端にとらえつつ、セフィロスは社交辞令の挨拶をあちこちで繰り返していた。
トリスタンとパーシヴァルが変わると今度はブルースがかかる。
どれもみごとなステップで軽やかに踊りこなすクラウディアに、次から次へとダンスの誘いが来る。
困ったような顔で4人のソルジャー達の後ろに隠れようとするクラウディアを、セフィロスは横から抱き寄せた。
「疲れただろう?あちらで少し休みなさい。」
そういうとクラウディアを誘ってテラスにあるベンチへと歩いて行った。
途中でドリンクを持ったウェイターからミネラルウォーターをもらい片手に持つ、ベンチに自分のハンカチを開いてその上にクラウドを座らせ自分もとなりに座る。
「クックック、あいつらがあんなに踊りがうまいとは思わなかったな。」
「今日は”他の男に触られた”と怒らないの?」
「ああ、忘れていた。お仕置きだ。」
そう言うとクラウドの顎をとらえて上を向かせ唇を重ねる、歯列をなぞり舌を絡ませ 何度も角度を変えて口づけを味わってから唇を離すとほのかにクラウドの頬が赤くなり瞳がうるむ。
そこに見覚えのある男が入って来た
神羅カンパニー治安部統括ハイデッカーであった。
「我が妻に何か用事でもあるのか?ハイデッカー。」
「き、君が既に結婚していたとは知らなかったな。ただ挨拶をしようと思っただけだ。」
「貴様の挨拶など聞きたくも無い。」
ハイデッカーの後ろから神羅カンパニーの幹部がぞろぞろとやってくる、パルマー,リーブ,スカーレットだった。
「うひょひょひょ。ハイデッカー、英雄殿がご結婚あそばされていたとさ。」
「そう言えばまだ軍には報告してはおらんな。」
「ああ、プライベィトだ報告する義務など無い。」
「セフィロス、とんだお子様を好きになったようね。あなた知ってるの?こちらの英雄さんの過去の恋愛遍歴。」
スカーレットが自身たっぷりにクラウドを見下ろしていたが、クラウドも思いっきりスカーレットを睨みつけながらも澄まして答えた。
「ええ、存じております。すべて女性の方から一方的に関係を迫られたとお聞きしています。でも私以外の人に本気になった事も2度以上抱いた事もないし、朝まで共にいたこともないとおっしゃって下さいました。」
「ク……!たいした小猫ちゃんね。」
「スカーレット、お前の負けだな。」
リーブが何か言おうとした時、セフィロスがクラウディアを伴って立ち上がった。
「ルーファウス社長が呼んでいるようですのでコレで失礼いたします。」
居並ぶ幹部達に一礼すると、クラウディアの腰を抱きながらルーファウスの元へと歩み寄って行く、若社長が二人を認めて近寄ってきた。
「何か用か?」
「いや、幹部達から逃げるのに使わせてもらった。」
「ずいぶんずる賢くなったな。」
「ルーファウス社長、私は何時までモデルをやっていればよろしいのですか?」
「任務に差し障るか?」
「はい、せめて雑誌モデルはやめたいですね。」
「無理だろうな、君の人気は凄い物だよ。」
「街頭でロケやっている時に街中で乱闘があったら、戦闘に参加しない訳にはいかない身分ですからね。」
「それは差し障るが。ティモシーが何とかしてくれているのであろう?」
「ええ、彼らは味方になってくれているのはわかります…。でも自分はあくまでも戦士のつもりでいるのですけれど。」
「契約は契約だ。諦めてほしい物だな。」
冷たい目でルーファウスが笑うのを見て、クラウドは思わずため息をついた。
そんなクラウドの肩を優しく抱きながら、セフィロスがフロアの中央に歩いていくと、情熱的なタンゴが流れて来た。
哀愁を帯びた調べにセフィロスが力強くリードを取ると、クラウディアは身を任せるかのように身体を預ける。
二人の足が絡むほど熱く艶っぽい踊りになっていった。
セフィロスが右腕でクラウディアの身体を、後ろにそらしながら頬を左手で包むと熱い視線を交わす。
曲の合間に何度も熱い口づけを交わしては二人は踊りつづけていた。
唇が重ねられるほどクラウディアの色香は増していき、踊りを踊る二人のからだが密着する。
いつのまにかフロアで踊っているのが二人だけとなっていた。
「おーお、色っぽい事。普段の姿から想像出来ませぬな。」
「しかし、キングはあれ程甘い方でしたかね?」
「ザックス曰く"姫君限定砂糖菓子"だそうですが。」
「はははは…それはいい表現だ。」
ガーレスは先日の素手で戦っていたクラウドをふと思い出してた。
まっすぐな視線を敵に送りつつ蹴りを繰り出しては、次の敵に柔らかな視線を送る。
あの視線を真っ正面から見たら微笑んでいると取られても仕方がない。
クラウディアの天使の微笑みといわれている笑みに良く似ていた。
地獄の天使、か……
「あの笑顔を向けられて手が止まらないのはモンスターぐらいでしょうな。」
「たとえ地獄の天使と呼ばれるような男であろうと、清純な妖精と呼ばれる女性であろうと、セフィロスの安らげる所ならば我らが全力でお守りしなければならないのだろうな。」
「ああ。」
4人のクラスSソルジャーは自分の戦友とその恋人を羨望の眼差しで眺めていた。
そしてその 密かな誓いはまもなく実現する…と、いうのは、また別の話である。
パーティーがお開きになった後、クラウドはティモシーと年末年始のスケジュールの確認をしていた。
「年末は市内の巡回があるから空きは無いと思う。年始は4日から仕事だから正味3日しかないよ。」
「もう少しあると思っていましたが、仕方がありませんね。1日にミッドガルデパートのイベントがあります、それとマダムセシルの初売りとダイアナの初売りだけは出席して下さい。」
「いったい、いくつ入っていたの?」
「クリスマスパーティーのお誘いが軽く10件、年始のイベントが同じぐらいですね。来年はもう少し入れますからスケジュール開けておいてください。」
「鬼〜〜!!!!」
「そう言えばルーファウス社長から4日の午前中を空けてくれと頼まれています。」
「4日の午前中はカンパニーで市内巡回警らの仕事なんだけど。」
「社長にそう伝えておきます。」
ティモシーはそう言って苦笑いした。
白いドレスのままだったので着替えに部屋に戻ろうとすると、セフィロスが近寄ってきてクラウドを抱き寄せる。
「どうした?顔が戦士に戻っているぞ。」
「ティモシーがスケジュール入れすぎるの、年末年始休みなしって感じよ。」
「おい、ティモシー。貴様は私とクラウディアがゆっくり過ごす時間すらくれぬと言うのか?」
「それはそれでご自宅でゆっくり過ごして下さい。一日に一つと言うゆったりしたスケジュールですので、文句は言われたくありませんね。」
「ふむ、一つか…仕方がないな。休暇ぐらいはずっと抱いていられると思ったのだが・・・」
「ば…馬鹿ぁ。」
拗ねて頬を赤くするクラウドを抱き寄せて、セフィロスが額に唇を落すとティモシーに片手を上げて去って行った。
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