FF ニ次小説

 クリスマスを後2週間後に控えてクラウドはマダムセシルの店にいた。
 どうしても避けられないパーティがあるために、クリスマスパーティー用のドレスの調達に来ていたのだった。

「まったく、なんで俺ばかり…」
「クラウディア、”俺”はやめましょうね。」
「はぁ……(T▽T)」

 ウキウキ顔のマダムセシルとは違ってクラウドはため息しか出なかった。

「マダム、お願いですからあまり重たいのはやめて下さいね。」
「クラウディアに着てほしいドレスはどうしてもドレープやフレアが多くなるの。シルクで作るからそう重くはないと思うけど」
「はぁ……(ため息)」
 クラウドのくらい雰囲気におかまいなしに、マダムセシルが嬉々としてデザインを見せていた。
「どう?こんな感じ。」
「いざって時に動きやすい方がいいのですけれど。」
「あらヤダ、クラウディアでいる時ぐらい守ってもらいなさいよ。レディなんですから間違えても足蹴りなんて真似しないでね。」
「はいはい、お姫様ドレスでもなんでも着させていただきますよ。」
「クリスマスだから色は赤か白よね〜、うふふふふ…楽しみ〜〜」
 プロのデザイナーが本気で自分を着せ替え人形にしたて上げている事実が、クラウドにため息しか出させないでいた。

 クラウドは頬杖を突きながらデッサン画を眺めていると、いきなり表から大きな爆発音が聞こえて来た。
 とっさに立ち上がるとマダムを振り返りもせずまっすぐ部屋を飛び出して行った。

 非常階段を駆けおりて表通りに飛び出すと、反抗グループが市民を巻き添えにしながら暴れていた。
 すでにカンパニーの方からも軍を出して対抗していた。そこにクラウドが素手で暴れる反抗グループに乱入していった。
 いきなり飛び込んできた少年に、カンパニーの一般兵がびっくりしたような顔で眺めていた。
「誰だ?あれ、やたら戦いなれているな」
「あいつ…どこかで…」
 次々と素手で反抗グループを気絶させて行く少年を改めて見ると、肩にかかるぐらいのハニーブロンドに綺麗な青い瞳、幼さをかすかに残す少年とも少女ともいえない顔だちは思わず見とれてしまいそうだ。
 生成りのセーターにチャコールグレーのゆったりしたパンツをはいている姿はまるでモデルか何かである。
 その少年が見とれていた兵士を見てにこりと笑った、その笑顔はまるで天使のような笑顔だった。

「うわ!!天使か?」
「そこ!!後ろ!!」
 クラウドが自分に見とれていたソルジャーに注意したが、ソルジャーが振り返る前に敵は倒された。
 後ろから現れたのはソルジャー・クラスS、ガーレスだった。
「姫…姫ではないですか?!」
「サー・ガーレス、貴方の隊の人ですか?戦闘中によそ見をしていましたよ。」
 そう言いながらクラウドは次の男にケリを入れていたので、ガーレスは思わず苦笑した。
 そこへクラスA仲間の一人、パーシーが一隊を引き連れてやって来た。

「姫!!何故ここにいる?!」
 クラウドの左から襲いかかって来た男を殴りつけながら話しかける、右ストレートを繰り出した男にカウンターでフックを浴びせてすぐにクラウドが身体をひねると回し蹴りを放っていた。
「すぐそこまで買い物に来てたんだ!」
 パーシーの引き連れて来た小隊が戦いに参加すると、あっという間に反抗勢力は倒れて行った。
 一通り叩きのめした後クラウドは服の汚れをはらった。
 ガーレス達の隊が整列する。
 整列した隊員達の前にガーレスとパーシーが立った。

「姫、こちらへ…」
 ガーレスがパーシーの隣へクラウドが立つ事をすすめた。クラウドが指定された場所に立つとガーレスが口を開いた。
「反抗グループの沈静は終了した、協力してくれた方だ。ストライフ准尉、自己紹介しなさい。」
 ガーレスに薦められてクラウドは敬礼しながら自己紹介した。
「第13独立小隊所属、クラウド・ストライフです。」
 クラウドの言葉を聞いた隊員達からどよめきが起こった。モデルかなにかと思っていた少年が、特務隊に所属しているとは思っても見なかったのである。
 ソルジャーの一人がクラウドの所属と名前を聞いてびっくりした。
「特務隊のストライフ准尉って、もしかして…」
「準クラスAソルジャー、特務隊の副隊長殿ではありませんか。」
「一応名目はそういうことになっているかな。」
 決して威張る事なく、はにかんだような顔で話すクラウドに隊員達から再びどよめきが起こった。
 凜と立ちながらもゆるやかに微笑むクラウドをあらためて見ると、噂されている通りだった。

    地獄の天使・白い悪魔

 クラウドがガーレスとパーシーに敬礼した。
「では、自分はこれで失礼いたします。」
「ご協力感謝いたします」
 ガーレスとパーシーがほぼ同時に敬礼した。
 敬礼からなおるとクラウドはもと来た道を戻って行った。
 ガーレスとパーシーはクラウドが角を曲がって見えなくなるまで敬礼していた。

 クラウドは後ろの視線を気にしつつデタラメにかどを曲がる、ぐるぐると裏通りを抜けてマダムセシルのビルへと戻った。
 非常階段からもといた部屋へともどる。
 部屋ではマダムセシルがにこやかに待っていてくれた。
「さて、クラウディア。どのデザインにしようかしら?」
 にっこりとほほえむマダムにクラウドは背中に冷や汗を感じた。
 (に…苦手だなぁ。)
 クラウドはまた溜め息をついた。

 モンスターやテロリストを相手にしてるよりも、クラウディアのスタッフを相手にしてる時の方が、クラウドに取って苦手なのであった。
 とにかくドレスのデザインをなんとか決めると、マダムセシルはあちこちに電話をし、てきぱきと何か手配をした。
「24日のパーティーには輝くばかりのあなたがいる事でしょうね。」
 そういうとマダムはクラウドにウィンクを送った。

 げんなりしつつビルを後にするとすでに日が傾きかけていた。
 あわてて自分達の部屋へ帰ると食事の支度をしはじめると、とたんにクラウドの携帯に着信音がなった。
 携帯を取り出すと着信番号はセフィロスの物だった。
「あ、セフィ?どうしたの?」
「今夜は遅くなる。」
 一瞬クラウドの答えが遅れた、色々な考えがクラウドの頭を過った。
「あ…うん。わかった、気をつけてね。」
「ああ。」
 それだけで電話は切れてしまった。
 なにもセフィロスが遅くなるのは今日に限ってのことではない。
 しかしクラウドに取って任務で忙しいセフィロスがゆっくりとくつろいでいる時間を、大切にしてあげたかった。
「今日のミッドガルでの反抗組織の件かな?ふぅ〜〜早く帰って来てね。」
 そう言うとあと少し火を入れる状態で料理を止める。
 ロールキャベツをトレイに取って常温で冷ますと冷蔵庫へ入れ、シチューは保温用の鍋に入れておく。
 キッチンの片づけを終えるとクラウドはリビングへ移動した。
 ソファーの上に転がっているクラウディアの誕生日にもらったシュタイフの特製テディーベアを抱きしめながらソファーに座り、TVを付けると今日のミッドガルでの出来事がニュースとして放送されていた。

 ぼ〜〜っと眺めているうちにクラウドはつい”うとうと”と眠り込んでしまった。

 深夜0時を回ってセフィロスが駐車場へ車を止める、上を見上げると部屋の明かりが付いていた。
 急いでエレベーターに飛び乗ると部屋のパスコードを入れると軽い浮上感を軽く伴ってすぐにワンフロアを占有する自室へと到着した。
 扉にはしっかりと鍵がかけてあったのでキーを開けると人がいる反応はない、リビングからTVの音だけが流れてきていた。
 そっとリビングに入るとTVの正面で銀色のテディベアを抱きしめながらクラウドが居眠りをしていた。
 顔には涙を流した跡が見える。
「先に寝ていろといったのに、馬鹿な奴だな。」

 いつもの事とはいえぬいぐるみの熊を抱きしめる姿は、どうやっても自分のとなりで剣を振るう男にはみえない。
 セフィロスがテディベアをクラウドの腕からはずそうとすると、寝ているはずの少年がテディベアを無意識の中で抱き寄せる。ちらりとぬいぐるみに嫉妬を感じた自分に思わず舌打ちをしそうになった。
「クラウド、そんなところで寝ていると風邪引くぞ。」
 セフィロスの声にクラウドが薄く目を開ける。
 ぼんやりと見開かれた目と少し空いた唇が、セフィロスにはまるで誘っているようにみえる。思わず唇を重ねると徐々に意識がハッキリして来たのか、クラウドがセフィロスの首におずおずと腕を伸ばした。

 たっぷりとキスを味わってやっとセフィロスは唇を離した。
 クラウドは真っ赤な顔でうつむきながら上目づかいでセフィロスを見つめていた。
「そういえば、今日サー・ガーレスと街で会いました。」
「ああ、ガーレスから聞いている。素手で戦闘に参加して反抗グループを2〜3人倒したそうだな。」
「事件が起こった時にマダムセシルの店にいたんだ。そう言う時には行かないといけないのでしょう?」
「それはそうだが、スカート姿のときはやめておけよ。誰もお前だと信じないからな。」
「マダムにもいわれたよ。クラウディアのときはおとなしく守られていろって。間違っても足蹴りなんてするなって、ピンヒールで蹴り入れると効くのになあ。」
 クラウドの答えにセフィロスが思わず笑う。
 この気の強い少年がどうして自分の腕の中だとこうも可愛らしいのか不思議な程だった。

 (いつのまにか軍人らしくなったものだな。)

 そう思いつつセフィロスがクラウドの細い首筋に唇をはわせると、とたんにクラウドは嬌声をあげて身体をよじらせた。
「だ……め……ン。明日は早出な……ん…ぁあん……。」
「3日ぶりの夜だと言うのに、つれないことを言う。」

 準クラスAとして扱われるようになってから夜勤とか2直勤務とかも回ってくるようになり、以前のように家に帰れは必ずクラウドが居てくれるということはなくなってしまった。
 そう言う日はセフィロスも部屋に帰っても面白くはなかった。
 いっその事自分も軍で仕事をしていた方が気が休まるとさえ思っていた。

 (これが”愛しい”という気持ちなのか?)

 そんな事を想いながらセフィロスはクラウドの耳を甘噛みしながらささやいた。
「お前が嫌なら、抱くつもりはないが?」
「セフィの意地悪。」
 クラウドの拗ねたような瞳の奥に、ほのかにともった欲情がこれほどまで自分を昂ぶらせる、ざわめくような感覚を抑えながらセフィロスはクラウドを抱き上げて寝室へ歩いて行った。