脱走兵の残りはすでに他の隊員達によって始末されていた。
死体を確認してセフィロスがミッション終了の合図を、ゴブリンアイランドに待機していた大型ヘリに送る。
ヘリは30分ぐらいで上空にやってきた、ホバリングしながらロープをおろていた。平たんな所のないラウンドアイランドにヘリが舞い降りられないのであるから搭乗する方法は一つ、そのロープをつたってヘリまで登ると言う事であった。
セフィロスが隣りにいたザックスに命令した。
「ザックス、先にいけ。」
「おう!」
ザックスは軽くうなずくとロープをつかみ一気に上空に身体が舞い上がっていった。
あっという間にロープを昇りきりどうやらヘリに取りついたようだ、ロープが再び舞い降りて来た。
同じようにして隊員達が一人ずつロープを使ってへりへと戻っていく。
セフィロスがザックスを先に行かせたのは、上から登って行った隊員達を補助するためでもあった。それを機敏にさとってザックスはてきぱきと事を運んでいるようであった。
あっという間に島に残されているのはリックと足が立たないクラウドを抱いたセフィロスだけになった。
リックにクラウドを手渡してセフィロスがまっすぐな瞳をリックに向けた。
「リック、頼むぞ。」
「命に代えても。」
真剣な表情でリックがクラウドの腰を抱いてロープをつかむと空へと舞い上がった。
不安定な状態のクラウドがあわててリックの首に腕を回すとたずねた。
「俺ってヤッパリ信用されてないのかな?」
「足が立たないほど魔力使っておきながら言う言葉か?!この場合上までたどりつけないだろう!」
リックの言うことはもっともであった。
魔力を使いはたして力が入らないから立てないと言うのに、ロープ一本で上空に旋回しているヘリまでたどりつく体力がある訳がない。
クラウドは大人しくリックに身体を預ける事にした。
上でロープを巻き上げていたので、あっという間にリックがヘリの端までたどりつくと、身体を伸ばしているザックスにクラウドをたくし自分もへリにのり込んだ。
最後にセフィロスがロープをよじ登りながら上がって来た。
その場にいる人数をちらりと確認してヘリの操縦者に向かって命令した。
「総員搭乗終了!ただいまよりゴブリンアイランドへ戻る。」
ヘリの操縦士がセフィロスの声に反応した。
一端輸送機を取りに戻るのであろう、ゴブリンアイランドに一端へりが舞い降りると、隊員達がばらばらとヘリから降りて整列した。
セフィロスがザックスと共に前に立つ。
「ミッションコード00771399コンプリート、撤収する!」
「アイ・サー!」
敬礼を終えると一斉に隊員達が撤収作業を始めた。
クラウドはなんとか立ち上がれるまで回復していたが、使い物にならないので座らされていた
ザックスが鼻歌を歌いながら撤収作業をしていたので思わず声をかけた。
「ザックス、機嫌いいみたいだね?」
「あったりまえだろー!?久しぶりにお前の上官に戻れたんだ。」
「俺も気持ちよかったぜー!なにしろ隊長公認でお前抱けたんだ。」
リックも手を休めずにクラウドに話しかけると、同じようにカイルが撤収作業をしながら話しかけた。
「リックって役得だよなー、なんだかんだいいながら隊長の信任が厚いもん。」
「ダテに5年も隊長に付いていないって事。」
無駄口を叩きながらも撤収作業の手を止めない当たりは流石である。
クラウドがふとポケットにしまっていた召喚マテリアを取り出したので、ザックスが横から覗きこんだ。
「伝説の召喚獣か、クラウドはつくづく守られるタイプなんだな。」
「どういう意味?」
「バハムートに守られそいつに守られ、この世で一番強い男に守られてるんだぜ。」
「俺が召喚出来るんだから隊長にだって召喚出来ると思うけど。」
そう言ってクラウドが近くにいたセフィロスにマテリアを手渡した。
セフィロスはマテリアを受け取りながらクラウドにたずねた。
「お前は知らないのか?召喚獣は己が認めた者にしか召喚されぬ。」
「隊長だったら大丈夫です。だって”キング”なんでしょ?」
「それはクラスSソルジャー達が勝手に呼んでいるだけだ。」
「自分と一緒です。」
クラウドの言葉にセフィロスが召喚マテリアを見つめた。その途端セフィロスの頭の中に数人の声が聞こえた。
久しぶりだな、人の子よ…。ずいぶん変わったな。
そなたはには我らを呼ぶだけの力がある。
しかし、我らがお守りするのは与えることができる者。
おぬしは何か守るべきものがあるか?
ずいぶん変わった……か。
そうかもしれないな。
私には守りたいものがある。
クラウドの笑顔を守っていたいと思うのは私のわがままなのか?
そなたには呼ばれてもよいぞ。
そうか、ではその時には頼む。
ずいぶん”人”らしくなったな。
手のひらの中のマテリアがころころと心地よく揺れていたが、セフィロスはマテリアをクラウドに手渡した。
輸送機にのり込むと操縦士がカンパニーと無線で連絡を取っていた。
とたんにクラウドの携帯がなる、着信ナンバーを見るとツォンのものだった。
「ツォンさん、どうしたんですか?ええ、はい?!わかりました、一度連絡をしておきます。」
携帯を切るとクラウドは溜め息をついた。
ザックスが目を丸くしている。
「ツォンってタークスのツォンだよな?何でおまえがあいつとかかわっている?」
「今日、グラスランドで撮影中にリックがさらったモデルの事で、マネージャーと打ちあわせしておくようにって。」
クラウドが輸送機の隊員達に聞こえない程度の声でザックスに答えた。
セフィロスが聞こえたのか声を殺して笑っていたのだが、隊員達は何の事だか訳がわからずぼけーっとしていた。
「クラウディアをやめたい気持ちはわかるが、しばらくやめられそうもなさそうだな。」
セフィロスがにやりと笑いながらクラウドに話しかけると、隊員達が同じように苦笑した。
その時、輸送機が気流の乱れでぐらりと揺れた。
途端にクラウドが青い顔をする。
「ぅぐっ!!」
「早いな、この程度で吐き気かよ。」
「え?おめでたじゃないんですかい?」
「お…俺は男……ううっ!!」
「隊長、とっとと眠らせて下さいよーこっちまで気分悪くなる。」
「ジョニー、カイル!おま……ぅっ!!」
クラウドが青い顔をして口元を抑えていたが、 セフィロスがスリプルを軽くかけたとたんに眠り込んでしまった。
やがて輸送機がミッドガルへと到着した。
短いが眠ったおかげでクラウドは完全回復していた。
特務隊の隊員が輸送機から降りてきて執務室へと入る。
執務室にはツォンがトレードマークの黒いスーツを着て立っていた。
「おひさしぶりです、サー・セフィロス。」
「どこかの馬鹿息子の世話で少し痩せたようだな。」
「誰かの恋人ほど困らせる事も無いです。ところでお二人にクリスマスパーティーの出席を要請いたします。もちろん断ることはできません。特にクラウド君、君はわが社の所属モデルであるのだから、とびきり美人に着飾ってきて下さいね。」
「ツォンさん、俺もうクラウディアができません。仲間だった脱走兵すら平気で殺す男が清純を表したような女を演じる…こんな馬鹿な事許されるわけがないです。」
「出来ますよ、実際サー・セフィロスの隣に立つ君は天使だからね。」
ツォンがしれっとした顔で甘い言葉を言うと、セフィロスの正宗が一閃したが、慣れているのかひらりと避ける。
「クラウディアはしばらく続けてもらいます、簡単に引退を考えないように。」
そう言うとツォンは執務室を去って行った。
「入隊した頃いろいろと教えてくれたから、優しい人だと思っていたけれど…意地悪な人だったんだ。」
「ずいぶんと勘違いしてたものだな、もっともタークスの連中はおまえの隠れファンだって話しだぜ。」
ザックスの話しにリックがいきなり怒鳴りつけた。
「なんだって!?」
「今度シメてやる!!」
「ふっふっふ…特務隊を怒らせるとどう言う事になるか、身をもって経験してもらいましょうよ。」
「タークス相手に一戦か、悪くはないな」
リックだけでなくカイル、ジョニー、ユーリと有力隊員達が口々に同じ事を言いながら冷淡に笑っている。
(まったく、変な所で変に団結する物だな。)
セフィロスは自分の隊の連中をしばらくため息混じりに眺めていた。
とたんにセフィロスの持っている携帯が鳴り響いた。
「私だ。ああトリスタンか、わかったすぐに行く。」
携帯をたたむと隊員達に解散を告げ、士官会議室へと歩いて行くセフィロスをクラウドがあわてて後を追い掛けた。
「隊長!認識タグと召喚マテリアの事ですが…」
「ああ、そうだったな。付いてこい。」
「アイ・サー!」
クラウドが処刑した隊員の認識タグと遺留品を持ってセフィロスの後についていく。
既に何度も訪れていた士官専用会議室に入るが相変わらずクラウドは出入り口で待機していたので、クラスSソルジャー達に笑顔で招き入れられる。
「姫、こんどは何を入手されたのですか?」
「召喚マテリアを一個入手いたしました。」
「で、一体何を入手されたんですか?」
「はい、ナイツ・オブ・ラウンドです。」
「は?我々の事ですか?」
「ライオネル、冗談はよせ。姫、幻の召喚マテリアの事ですな。」
「はい。」
クラウドの返事を聞いてその場にいた26人のクラスSが溜め息をついた。
ランスロットが懐かしそうな瞳をしていた。
「5年ほど前になるでしょうかね?セフィロス。」
「ああ、そのぐらい経つかな?前にであったのは。」
「出合っていた?」
クラウドが首をかしげてたずねたので、ランスロットはセフィロスと一緒に行った5年前のミッションを思い出していた。
「あるミッションで一度入手しかけたのですよ、しかし見事に弾かれました。」
「手に入れたと思った途端にどこかへ飛んでいってしまったのだ。」
「我らが弾かれたと言うのに姫は認められるんですか、少し拗ねてしまいそうですね。」
「ランス、その図体で拗ねるな。召喚マテリアでなくても逃げ出したいわ!」
「しかし、今はサ・ーセフィロスを認めているようです。きっと呼べば答えてくれると思います。」
ランスロットにそう言うとクラウドはテーブルのまん中に赤いマテリアを置こうとしたが、セフィロスがその手を止めた。
「お前が持っていろ。私には同じ名前の26名の戦友(とも)がいる。間違えてきてもらっては困るのだよ。」
セフィロスの突然の言葉にクラスSソルジャー達がびっくりしたような顔をした。
「キング…」
「我らの事を戦友(とも)と…」
「戦友(とも)で無ければなんなのだ?」
「そんな嬉しいことを言われると泣いてしまいそうです。」
「私としては呼ばれても行きたくは無いですね。キングのお呼びに従えば行き先は最前線です。」
「どうせなら”姫”に呼ばれたい物ですな。」
「"姫"に呼ばれても行き先は一緒ですぞ、なにしろキングの伴侶なのですから。」
円卓の騎士が皆、優しい笑顔を見せていた。
その笑顔の中心にキングといわれているセフィロスがいた。
表情は瞳こそ冷淡なままではあったが、口元だけがゆるやかな線を作っていた。
クラウドはセフィロスが仲間に心を許しはじめている事を知った。
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