FF ニ次小説

 日が完全に沈み闇夜が訪れ更にしばらく時間が経過した頃、静かに輸送機が上空へと舞い上がった。
 隊員がパラシュートザックを背負い、無言で格納庫に整然と並んでいる。
 間もなく日付が変わると同時に、仲間であった脱走兵を処刑するミッションが始まろうとしていた。
 輸送機がラウンドアイランドの1200m上空から闇の中へと隊員達を吐き出した。

 暗視ゴーグルを装備しているとはいえ、闇夜でパラシュート降下とは無謀もいいところだが、そんなミッションを難なくこなせるのが特務隊の証でもある。
 着地と同時にパラシュートを回収し、バックパックにしまうと木の根元に置き去りにする。
 何処に誰が降りたのか全くわからないので、とりあえず日が昇るまでじっとしている約束だった。
 そのたった5時間ほどが永遠に続く時間に感じていた。

     やがて夜の帳が白んできた。

 27人の隊員達がめいめいに姿を現す。
 無言で整列するとあらかじめ決められているチームに別れた。
 力バランスを考えて配備したチームであったはずであったが、唯一バランスが取れていないのがクラウドのいるチームだった。
 クラウドのサポートにリックとカイルが入ったのだった。
 二人とも一般兵のトップとセカンドである。
 そこにチームで2番目に強いクラウドが入れば間違えなくチーム内最強であろう。
 しかしクラウドのことを考えると皆そのチーム別けに反対しなかった。
 クラウドが思わずリックにたずねた。
「俺ってそんなに信頼されていない訳?」
「ああ、人殺しに関してはね。」
 リックがあっさりと恐い事を答えた。

「君は敵を殺したことはあるだろうけど味方を殺した事はないだろ?これからする事に対して、君が精神的に耐えられるか俺達にはわからないから用心しているだけだよ。」
 リックは特務隊となってすでに5年目であり、このチーム内で一番この手の経験がある、そのせいかセフィロスさえも信を置くチームの要的存在だった、ザックスも彼なら背中を任せてもいいと思っている。
 そのリックに言われた一言はクラウドの心に重たく響いた。

「たしかに、仲間だった奴を殺した事はないよ。でもリック、これは俺が望んだ道だから、迷う事はないつもりだ。」
 クラウドはリックに迷いのない青い瞳をまっすぐに向けていた。
 リックは思わず溜め息をついていた。

 (そこまでして隊長のとなりに立っていたいのか…おまえは…)

 今さらわかっていた事だったが、あらためてリックはクラウドの思いの強さを認めざるをえなかった。
「ともかく今回だけは準クラスAとしてではなく入隊半年の新人として扱う。」
「アイ・サー!」
 クラウドは思わずリックに敬礼を返していた、カイルが一瞬笑顔を見せてすぐに真顔になった。
 セフィロスが隊員の前に立ち隣にザックスが並ぶ、それはほんの1ヶ月前まではありふれていた光景だった。
 セフィロスが全員を見渡して真剣な顔で言いはなった。
「ここで再び会える事を願う。」
「アイ・サー!!」
 隊員達が一斉に敬礼をした。
 セフィロスとザックスがほぼ同時に敬礼する、隊員が敬礼から直るといっせいに島中に散らばった。
「セフィロス、また後でな!!」
「ああ。」
 ザックスがセフィロスに片手を上げてから自分のチームを率いて草むらの中を分け入った。
 セフィロスもチームの仲間と共に自分が担当する地域へと消えた。

 リックとカイルとクラウドは一番北の地域の担当だった。
 まっすぐ北に進むと洞窟を発見し、リックが一応、無線で報告する。
「第5班ポイント01.21地点に洞窟発見。ただいまより潜入します。」
 無線を切るとリックを先頭に洞窟の中に入って行った。さして広くはなかったがそれでも人が隠れるには十分だった。
 カイルがリックの足元に何か見付けた。
「リック、下!」
 その言葉と同時にリックの足元に炎が走った、クラウドがファイラをかけたのだった。
 リックの足元には毒蛇がうじゃうじゃとぐろを巻いて黒こげになっていたので苦笑いをしていた。
「サンキュー、姫。」
「蛇にファイラってやり過ぎだよ。」
「それじゃあ過保護ついでに…、バリア!!」
 クラウドのかけたバリアの魔法で3人を緑色の晄が包む、リックが思わず吹き出した。
「まったく、部下なんだか上官なんだか。」
「おかげで突っ走れるな、いくぜリック、姫。」
「はい!!」
 3人が一気に駆けだした。
 足音に人影が飛び出してくる、リックが中央をカイルが左へ、クラウドが右へと展開すると、ナイフが抜かれ激しくぶつかる音がする。

 相手はソルジャーである。
 ある程度の腕と体力、そしてマテリアを持っているのか、冷気魔法をかけて来た。
 バリアのおかげで冷気魔法は届かないが、あと何回か攻撃されたらバリアの効果が切れる。そのタイミングを見はからいながら、クラウドがサンダラをかけた。しかし、むこうもバリアを張っているのか効果が無かった。
「接近戦だ!」
 クラウドはそういうとソードを片手に切り込んでいった。
 リック達はサバイバルナイフを手にしていた。刃渡り20cm程のナイフは案外使いやすいが組みつかないと相手に攻撃が出来ない。
 クラウドが再びバリアを張るとリック達が脱走兵へと組みついた。

 リックはソルジャーの頚動脈を切りながらクラウドを見ていた。
 揺るぎない瞳であっさりと脱走兵を袈裟懸けに切りつける姿、冷淡な瞳のままソードを脱走兵につき立てるその姿勢。

    ”地獄の天使””白い悪魔”

 リックはクラウドが最近どう呼ばれているか再び思い出した。
「まったく、敵でなくてよかったよ。」
 思わずかぶりを振ってまわりを見据えた。
 すでに4人を始末してさらに奥へと進むと、洞窟の終点には3人の兵士が何かに取り疲れたような顔をしていた。
 その中央に赤黒く光っている石があった。その晄に嫌な物を感じたリックがクラウドに叫んだ。
「クラウド!召喚マテリアだ!操られてる!!」

 召喚マテリアは時として自分を取りに来た弱い者を操る事がある。
 それはマテリアが自ら望む召喚主に巡り合うための手段の一つであった。

 3人の兵士が一斉に飛びかかってくる。
 3人は一人、また一人と確実にほおむりさっていった。
 最後の一人を倒した後リックはクラウドを上官としてあつかった。
「姫、そのマテリアをお願いします!!」
 クラウドがリックに言われた通り召喚マテリアに手を伸ばすと、精神を集中させてマテリアの力を感じようとした。
 クラウドの手したマテリアは強い意志と力を持った召喚マテリアであった。

   あ、たくさんいるんだね。

     さよう、我らは13人おる。

   騎士さんなんだ。

       そなたは姫君か。

    あんまりそう呼ばれたくないけどね。

        姫君ならばお守りいたします。

 クラウドの手のひらのマテリアから怪しい黒さが無くなった。
 リックがほっとするがカイルが微妙な地鳴りを感じ取っていた。
「リック!姫!ここは崩れる、出るぞ!!」
 そう言うと先頭を切って出口へと走り出した、リックもクラウドの腕を引っ張り出口へと走りはじめた。

 3人が洞窟から出ると洞窟が崩れてモンスターが姿を現した。
     マテリアキーパー
 強いマテリアを守るモンスターだった。
 しかしいきなり現れたモンスターにたじろぐ隊員など特務隊にはいなかった。
 近くに居る隊員がモンスターに切りかかっていると、ザックスがバスターソードを掲げて走り込んできた。
「ファイガ!!」
 ザックスが炎系の最高位の魔法をモンスターにかけるがびくともしない。
 クラウドがザックスにバリアを張ると、二人でマテリアキーパーに突っ込んでいった。しかしモンスターの硬度が高いのかなかなかHPを削れないでいた。
「ブリザガ!!」
 セフィロスがいきなり氷系の最高魔法をかけた。
 無数の氷の刃がモンスターを襲うが、バリアのおかげでモンスターに密着していたクラウドとザックスが凍りつかずにすんだ。
 ザックスが青い顔をしてセフィロスに怒鳴った。
「セフィローッス!!!俺達を凍りつかせる気か?!」
「炎吸収性のモンスターにファイガをかけるバカなどいらぬ!」
「俺はあんたと違って全部のモンスターの特性など覚えてないよ!!」
「あーもう!!隊長のおかげでバリアが解けたではないですか!!」
 戦いながらクラウドが瞬時にバリアを張った。
 ザックスが口にナイフを加えてマテリアキーパーの身体によじ登りはじめた。背中までよじ登ると口のナイフを突きたててからジャンプして飛び降りた。すかさずクラウドとセフィロスがほぼ同時に雷系の魔法をかけた。
「サンダガ!!」
 稲光が起こりナイフに雷が落ちる、激しい光に一瞬目の前が暗くなった。
 しばらくして視野が戻るが、マテリアキーパーは全くと言っていいほど弱ってはいなかった。

 リックは3人のソルジャーを呆れて眺めていた。口ではなんだかんだいいながら連携が取れた戦いをしている。
 リックはナイフからソードに切り替えようとしたが、3人の戦いの中に入って行く自信が無かった。
 それはその場に集まりつつあったほかの隊員達も同じであった。

 (HPが全く減っていない…、どうすれば勝てる?!)

 マテリアキーパーに剣を突きたてながらも、クラウドは思わず弱音を吐いていた時に、頭の中に何かの声が響いた。
 先程手に入れた召喚マテリアの声だった

    お助けいたそうか?

  あ、呼んでいいの?

      もちろん、お呼び下され  我らの名は……

「隊長!ザックス!どいて下さい!!召喚する!!」

 ザックスがクラウドの声に反応してマテリアキーパーから離れた。セフィロスもクラウドがバハムートを呼ぶと思って退いた。

 クラウドが召喚マテリアを持って右手を上げていた。
「いでよ!召喚獣ナイツ・オブ・ラウンド!!」
「な、なに?!ナイツ・オブ・ラウンドだと?!」
 セフィロスが思わず聞き返そうとした時に、クラウドの持っているマテリアから赤い光が放たれ召喚獣が姿を現わした。
「うわ……、騎士の格好の召喚獣だ。」
 ザックスがぽかーんと口をあけて召喚獣を見つめていた。
「召喚魔法、アルティメット・エンドをマテリアキーパーに向けて放て!」
 クラウドの召喚に13人の騎士の姿をした召喚獣が、入れ代わり立ち代わりマテリアキーパーに刃を浴びせかけた。

     召喚獣 ナイツ・オブ・ラウンド

 あまりにも強すぎるため伝説といわれていた召喚マテリアをクラウドが操っていた。
 その強さを目の当たりにしてザックスの目がまん丸くなっていた。
「ありゃりゃ…恐い嫁さんになっちまったな。」
「まったく、クラウドの向こう見ずも困った物だな。」
 セフィロスは冷静な目でその場の状況を見ていた。
 召喚が終わるとマテリアの光が治まり、クラウドが片ひざを付いたが、マテリアキーパーはその形をとどめてはいなかった。

「うわ……、力が入らないよ。」
 足が立たずにその場にしゃがみこんでしまったクラウドにセフィロスが近寄って抱き上げた。
「馬鹿者!そんな強い召喚獣を召喚したからだ!」
「それにしてもお前すごいな。これで召喚獣2体めだろ?」
「え?だって…、このマテリアはカンパニーに一旦渡る手はずでしたよね?」

 契約上はクラウドの言った通りになっていたのであったが、おそらくこの召喚獣もクラウドを召喚主としてえらぶであろう。

 心の中でセフィロスはそう思っていた