ニブルヘイムとの時差を考えると、母親から答えが帰ってくるのは日付が変わる頃であろう。クラウドは唯一の頼みの綱が途切れない事を祈っていた。 そんなクラウドを不思議そうな顔でセフィロスが見ていた。 「誕生日と言うものはそんなに大切な物なのか?」 「産まれてきてくれてありがとうって気持ちを沢山もらえる日なんだ。…あ!ご、ごめんなさい。」 「いや、そのことは良い。もう私の中でも終わった事だ、そうか…、そうだな。産まれてこなければお前と出会う事もなかったな。」 ゆるやかな笑みを浮かべながらクラウドに振り向いたセフィロスは、その後ろに硬直している自分の部下達を見つけた。 「なんだ、貴様達。まだいたのか?」 「あっまーーーーーーーーーーーーーーい!!!!まったく、氷の英雄と呼ばれたあんたが、ここまで恋人には甘かったって初めて知ったぜ。」 「なんだ、ザックスは知らなかったのか?」 「俺達はいいかげん慣れたぞ。」 「慣れたつもりだが、不意打ちにはやられるな。」 石化しかけたように動けないリック達が怖々と話しているのでクラウドが小首を傾げる 「不意打ち??」 「不意打ちだよ。俺達は隊長が笑っているのを始めて見たんだ。」 「そう?セフィって良く笑うんだけど?」 「ん〜〜。まあよぉ、お前の前限定って事だと思うぜ。」 「ザックスは平気なの?」 「俺か?女装モデル姿のお前相手にニヤニヤしている英雄を見ているものでねぇ…今更ってもんだぜ。」 クラウドがきょとんとした顔で自分を見ているのでザックスが呆れたような顔をした。 「あーー、もう。わあったってば!!どうせお前はセフィロスの笑顔なんて見慣れているんだろうよ!」 「エヘヘヘヘヘ……。」 ザックスに言われて頬を赤くしながらも照れるクラウドは、目茶苦茶かわいらしい。思わず”これが鬼の上官か?”とすら思ってしまうほどである、が…下手に表情に出したり行動に出すと、後ろにいる独占欲の強い英雄の正宗が一閃するのが目に見えている。 隊員達は必死になって自制心を働かせつつ仕事を始めるのであった。 その日、仕事を終えて帰宅すると、クラウドはいつもの様に食事の支度をしながらセフィロスの帰宅を待っていた。 いつもの様に帰宅したセフィロスに”お帰りのキス”をして温かい食事を一緒に取る。食器をかたずけたあとリビングでくつろぐセフィロスにコーヒーを持って行く。 ゆったりと流れる時間、ゆるやかに微笑む愛しい人の隣にちょこんと座っているだけで、クラウドは嬉しくて仕方がなかったのである。 セフィロスは色々な分野の専門知識を得るために学術書や論文を沢山読むのであるが、クラウドはそんな彼を邪魔したくは無いので小さな音でTVのニュースを見るのが常であった。 そして間もなく日付が変わるのでベットに入ろうか?と思った時に胸ポケットに入れていた携帯が震動した。 クラウドが携帯をもってその場を去ろうとしたが、セフィロスがその腰を抱き止めるので仕方なくその場で電話に出た。 「はい、クラウドです。あ、母さん。どうだった?」 電話の相手はクラウドの母親で(ミッドガル時)昼に頼んでおいたセフィロスの誕生日の事が何かわかったのか、電話をしてきたようであった。 「ミハイルの古い日記には、貴方の生まれる8年前の2月にセフィロスが産まれたと書いてあるだけで、詳しい日付は書いていなかったの。一般の化学者は近寄れない極秘事項だったみたいで、人づてに聞いて始めて書いてあったのは20日の事だからそれよりも前に産まれているのはたしかね。」 「2月に産まれたんだ。俺と8才も違うんだ。」 「セフィロスの誕生は関係者以外触れられないトップシークレットだったみたいね。」 「ありがとう、母さん。」 「どういたしまして。そういえば神羅屋敷って知っているわよね?あそこで何か研究をしていたみたいだから、化学部門の資料をガスト博士に調べてもらったらどうかしら?」 「うん、今度頼んで見るよ。」 そう答えたクラウドであったが、母親からの電話を聞いて心は決まっていた。 くるりとセフィロスに振り向くと、時計を確認して鮮やかな笑顔を浮かべて近づき額にキスをした。 「HAPPY BIRTHDAY Sephiroth。」 「ん?なんだ、私の誕生日がわかったのか?」 「ううん、違うよ。わかったのはセフィロスが2月の1日から20日の間に産まれた事と、俺と8才違うと言うこと。でもいいんだ。俺がセフィの誕生日を今日って決めたんだ。」 セフィロスが時計を見ると針はすでに新しい日にちを刻みはじめていた。 「ならば私は2月17日産まれということになるな。」 「だから、お誕生日おめでとう。俺と出会ってくれて…俺を選んでくれてありがとう。」 そう言いながらクラウドはセフィロスの唇に軽く触れる様なキスをして離れようとした。 しかし、逆に抱きしめられて深くキスされてしまった。 「まったく、おまえは…。ありがとう、最高の誕生日プレゼントだ。」 「え?俺、まだ何もプレゼント送っていない。」 「いや、もうもらった。私の誕生日と、そして私の最愛のパートナーであるお前だ。」 「セフィ……。」 セフィロスからもらった言葉が嬉しくてクラウドが抱きつくと、がっしりと抱きしめられていつの間にか身体が浮いていた。 「え?ちょ、ちょっと…セフィ」 「クックック、お前は私へのプレゼントなんだろう?ならばありがたく頂くぞ。」 「ば…馬鹿ァ」 真っ赤になりながらも恥ずかしげに顔を寄せるクラウドを腕の中に抱き止めながら、セフィロスは愛する少年がくれた自分になかった物を大切にしていきたいと思った。
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