特務隊の執務室に入ると見慣れた隊員達がいた。
隊の任務がハードなわりには、明るい隊員達の声が響いている。その中心にいた男が入ってきたクラウドに気がついた。
FF7 パラレルワールド 第8弾 君、死にたまふ事なかれ
「よお、お帰り。」
「ザックス、昨日何処に行ってたの?」
「決まってんだろ〜〜」
クラウドの質問にザックスがしまりのない顔で”デヘヘ”と笑っている、この調子だとエアリスとデートでもしてきたのであろうと思うと、聞いた方も思わず笑顔になる。
ザックスが彼女と付き合いはじめて、すでに半年が過ぎようとしていた。
「ザックス、顔が崩れてる。でも、エアリスすっごい美人だもんね。嬉しくなる気持ちもわかる気がするよ。」
クラウドの言葉にカイルが反応した。
「そんなに可愛いのか?彼女。」
「そういえば、まだ紹介してもらってないな。」
「誰が紹介なんかするかーーー!」
「とか、何とかいって。本当は俺達に乗り換えられたら困るんだろ?」
「うるせ〜〜!!!誰があんな可愛い子お前らに紹介するか!!」
同じクラスに所属するリックとジョニーに笑顔で茶化されて、ザックスが照れながらも反撃した。
なんだかんだといいながらエアリスとはいい関係が続いている。が、ザックスは、ふと暗い顔をしてクラウドを見た。
「いいよなぁ…お前は。旦那の両親死んじまってるし、任務のついでとはいえもう結婚しちまってるし。な〜〜んも邪魔する物は無いし。」
そう言うと思わず溜め息をついていた。
日ごろ明るいザックスが溜め息をつくなど、特務隊の隊員には信じられなくて、思わず額に手をあてたりしている奴までいた。
「熱は無いぞ。」
「何があったんだよ。」
「恋人のことじゃなさそうだが?」
「案外そうかもよ。いくらザックスがいい奴でも、普通の父親なら大抵の人は『ソルジャーのようにいつ死ぬかわからん男に娘はやれん』って言うだろうね、しかも相手はあのガスト博士だ。」
ザックスにリックの一言が付きささる。
クラウドもガスト博士の事はセフィロスから聞いていたので納得した。
「じゃあ、やめちゃうの?」
「いや、やめない。俺が思うに今ソルジャーやめたらまた何か言われる気がする。」
矛盾を感じるようなザックスの言葉にカイルが不思議に思って聞いた。
「彼女、いくつよ?」
「ん〜〜、この間の誕生日で18歳。」
「じゃあさらに追加で『結婚なんてまだ早い!』だな。」
ザックスが机に突っ伏した、どうやら図星だったようだ。
しかしそれはザックスが真剣にエアリスと付き合っている事を物語っていた。
「付き合い出して半年じゃ、まだ早いかな〜」
「って、待て!!まだ申し込む前かよ!!」
「取らぬ狸のなんとやら。」
「っていうか、彼女にきちんと言ってあるのかよ?」
「あ……。」
「ぶぁっかじゃねぇの?!まだ本人の気持ちも確認していないのに!!!」
隊員達にザックスが小突かれてふてくされていた。
「だってよぉ、俺の見本がこいつらだもん。どうすりゃいいのかわかんねえって。」
こいつら…と言って、ザックスが指差したのはクラウドだった。クラウドはぽかんとした顔をしているので、すかさずジョニーが突っ込みを入れた。
「見本にする奴らが間違っている。」
「え?どう言う事だよ?」
「付き合っていきなり同棲して6ヶ月で結婚するカップルなんて、姫達ぐらいなもんだ。見本にする方が悪い。」
「うわ〜〜〜!!!どうするべぇ??」
頭を抱えてわめくザックスが隊員達にはとても新鮮だった。
しかしそれはザックスがエアリスのことを真剣に思っている証拠でもあった。
執務を終えてクラウドは定時で退社すると、バイクを駆っていつものスーパーへと買い物に行く。夕食の食材を買い込んでいると見覚えのある茶色の巻き毛の女の子とであった。
「あれ?エアリス、どうしたの?」
「あ、クラウド君。君もここにお買い物?」
「ああ、夕食の食材探し。エアリスは?」
「ママに頼まれて調味料を探しているの、ニョクマムって知ってる?」
「ああ、ニョクナム?それを作るのなら魚醤がいるよ。」
クラウドが手のひらサイズのガラス容器を手に取ると、光に透かして見る。エアリスはその仕草の意味がよくわからないのでクラウドに聞いた。
「どうしてのぞいたりするの?」
「透明度の高い物の方が良いものなんだ。」
「うわ〜〜、さすが!!よく知ってる」
クラウドが手渡したナムプラーをエアリスは喜んでレジに持っていこうとしたが、ふとクラウドを振り返ると小首を傾げて問いかけた。
「ねえ、クラウド君。お料理上手って、やっぱりあの人のため?」
少し悩んでいるような、不安の交じったような瞳がクラウドを見つめている。
クラウドはその瞳に優しくうなずいた。
「前、ミッションで知り合ったとあるご婦人が、あまり上手に料理を作れなかった俺に、『素敵なだんな様をとりこにするには料理上手になればいい』っていろいろと教えてくれたんだ。そのご婦人は俺に何種類かの料理のレシピと最高の調味料を教えてくれたよ。」
「最高の調味料?」
「その料理を食べてくれる人の事を思って作る気持ち…さ。」
クラウドがエアリスに軽くウィンクをすると彼女はにっこりと笑った。そして遠くを見つめながらほんのりと頬を赤く染めた。
「ねぇ、クラウド君。私も料理上手になれるかしら?」
「美味しい物を食べさせたいって気持ちがあればきっと上手になれるよ。」
エアリスはクラウドに向かって最高の笑顔で一礼すると、再びレジへと向かったのを見送ったが、ふと気がついて追いかけた。
「そういえばエアリス。ザックスとはうまくいってるみたいだけど、何か障害でもあるの?」
「え?!」
「彼、君の事大事に想っているのは確かなんだけど、何かに爪尽いていて、どうしたらいいのかわからないみたいなんだ。」
「う……ん、なんとなくわかるんだけれど。でも、何も言ってくれないの。そのうちお話に行っていいかしら?」
「ああ、いつでもおいで。クラウディアの携帯の番号は知ってたよね?」
「本当?うれしい!!じゃあまたね!クラウド君。」
そういうとレジをさっと通りエアリスはスーパーから出て行った。
食材を買い込むとクラウドもレジを通って食材を背負うと、再びバイクを駆ってマンションへと戻って行った。
専用エレベーターに乗り込みパスコードを入力すると、愛しい人と過ごしている部屋へと入る。扉のキーコードを入れると部屋が開き、中へ入ると食材をキッチンへと置く。制服を脱いで私服に着替えるとエプロンを着けて再びキッチンへと立った。
食材を手際よく刻んでいく姿は、トップソルジャー達と肩を並べて闘う男には見えなかった。
やがてキッチンに料理の出来上がる良い香が漂いはじめる頃、その部屋の主がかえってきた。
いそいそとクラウドが玄関までお迎えに行くと、いつものように軽く触れるだけのキスをして照れたようにささやいた。
「おかえり、セフィ。」
いつまでたっても自分からキスするのは慣れないクラウドが、精一杯の気持ちで出迎えてくれている事を、セフィロスは愛おしく思うと同時に、いつまでもこの幸せが無くならないようにと思う。
「ただいま。今日は変わった匂いがするな。」
「うん、魚介のスープ作って見たの。レシピ通り作ったけど食べた事ないから味がよくわからないんだ。」
セフィロスは腰の正宗をクラウドに渡しながら黒のロングを脱ぎかけていた。
クローゼットからハンガーを出しながら、クラウドがセフィロスのコートをハンガーにかけて、軽くブラシでホコリと汚れを落してからクローゼットにかける。
その間にセフィロスが素肌にシャツをまとい、ジーンズをはくとクラウドを抱き寄せて口づけをした。
テーブルには美味しそうなクラウドの手料理が綺麗に並んでいた。その料理に舌鼓を打ちながらセフィロスはクラウドに聞いた。
「なるほど……サウス・ジュノン料理か、どうしたんだ?」
「今日、いつものスーパーでエアリスと偶然出合ったんだ。彼女がニョクナムの事聞いてきたからサウス・ジュノン料理もいいかなーって。」
「それだけじゃあないだろう?」
「うん、もう。何でわかっちゃうんだよ。」
「お前が新しい料理を作る時は何かあったかある時だ。」
「エアリスがね、何か悩んでいるみたいだからちょっとお話したんだ。料理が上手になるにはどうしたらいいか…とか、ザックスとうまくいっているの?…とか。」
「まるで女同士の会話だな」
「もう、怒るよ!…でね、彼女何か話たい事があるみたい。どうも聞かれたくない話みたいで『うちに来ていいか?』って言うから、クラウディアの携帯に電話してくれって言ってあるんだ。」
「浮気するなよ。」
セフィロスの言葉にクラウドは真っ赤になって怒った。
「もう、セフィったら!!俺がどれだけ一生懸命セフィの気持ちをひき止めようと、努力しているか知らないからそう言う事言うんでしょ?」
「そんな努力などしなくても私はお前しかいない。」
「だって…セフィ。モテるでしょ?女性からも男性からも…。」
「クラウディアのおかげでぱたりと口説かれなくなったな、お前の方がもてるではないか?私の目の前で何度他の男に口説かれたんだ。」
「俺だって、セフィしかいないのに。」
クラウドはそうつぶやくと思わず頬を赤らめてうつむいてしまった。
そしてテーブルの上にぽつりぽつりと涙の雫を落していた。
セフィロスがあわてて席を立ってクラウドの横に移動すると、背中から抱きしめ首筋に唇をはわせ始めた。
とたんにクラウドのからだが震え甘い声が漏れはじめる。
「やぁ……ん。まって…あん。お皿……かた…んうっ!!…ずけなくちゃ…」
セフィロスがにやりと笑うと左腕にクラウドを抱きかかえたまま右手で皿をかき集め、かるく水で洗って食洗機へと並べスイッチを入れる。
軽いハウリング音と共に洗剤を含んだ水が皿を洗い出す。
キッチンの明かりを落してセフィロスは腕の中にクラウドを抱きしめたまま、バスルームへと消えて行った
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