FF ニ次小説

 朝8時に愛車でセフィロスが出かけるのを見送ると、遅出のクラウドは午前中のスケジュールを確認する。
 今日はクラウディアの仕事が入っていたはずであった。
 8番街のマダムセシルの店でスプリングセールのポスター撮りだった。

 撮影まではまだ時間があるのでクラウドは晩ご飯の支度をしはじめた。ロールキャベツをあと5分ほど煮ると、出来上がりの状態に持っていき、そのままキャセロールに入れておく。
 ミネストローネもほぼ仕上げて保温鍋に入れておきメモをテーブルに残すと、白のロングコートを羽織りクリスタルソードを帯剣して部屋のセキュリティーを確認しバイクで8番街へと走っていった。

 マダムセシルの店の裏手にバイクを止めて裏口から店の中に入って行く。
 オフィスにはクラウディアのスタッフとマダムセシルが既に待機していた。
「おはようございます。」
「おはよう、クラウディア。今日のドレスは春がテーマだからピンクよ。」
 にっこりと笑ってピンク色のフリルたっぷりのドレスを掲げている。
 そのドレスに思わず頭を抱えているクラウドをマネージャーが背中を押す。
「ほらほら、早く着替える。今日はついでにCM撮りもあるからね。」
「ティモシー、今日はロマンチック系のメイクでいいかな?」
「そうだね、ピンクとパステルオレンジのドレスだから、あまりキツくないようにやわらかくね。」
「はぁ〜い。うふふ〜〜、今日のルージュはディメティルの277かな〜〜」
「あら、その色なら今日のドレスにぴったりね。」
 ミッシェルの独り言にマダムセシルがうなずいたがクラウドは顔をしかめた。
「うえ〜〜〜 俺、もう嫌。」
「だめ。身体が変わらないうちはクラウディアをやる約束ですよ。」

 クラウドのからだが大きく変貌しない限り『クラウディア』を続ける契約をしている限り、やらねばいけないのは理解している。
 しかしわかってはいるが抵抗があるのも確かであった。
 仕方なく更衣室へ入り渡された服を着て出てくると、寝ぐせのついた髪をカーラーで巻きながら、スタイリストが軽くクラウドに化粧を始める。
 眉を整えアイシャドウとルージュをのせ、ビューラーでまつげをくるんと曲げて、青いマスカラを付けアイライナーを入れる。
 くっきりした目元を引き立たせるかのようにピンク色のチークを入れる。
カーラーをはずしてドレスと同色のリボンで髪をまとめると、清純な妖精・クラウディアが姿を現した。

 マーガレットが敷き詰められたポイントにふわりとしゃがみ、上の方から狙っているカメラに向かって柔らかく微笑むと、カメラマンがシャッターを切っていた。

 クラウディアがふとマーガレットの中から一輪手に取ると、まるで花占いをするかのように花びらを一つ一つ抜き出した。
 最後のいちまいになった所でクラウディアが嬉しそうに微笑む。
 カメラマンはずっとその横顔を狙い続けていた。
「OKクラウディア!いい笑顔だよ。」
「じゃあ、次。今度はパステルオレンジのドレスね。」
 クラウディアが着替えに行っているあいだに、スタッフが手早く花を入れ換える。着替えをすませてふと見るとエアリスがこっちを見て手を振っていた。

「はぁ〜い、クラウディア。あ、マダム。うちのお店をごひいき下さってありがとうございます。」
「エアリス!!」
「あら?クラウディア。彼女をご存じなの?」
「ええマダム、親友です。それに彼女の恋人はサーの右腕と言われている人です。」
「まあ、そうだったの。クラウディアは知らないでしょうけど、ウチのお店のお花はみんな彼女のお店に頼んでいるの。それにあなたのブライダル・ブーケも彼女にお願いして作ったのよ。」
「やはりそうでしたの?」
 マダムセシルの言葉に納得するクラウドとは逆にエアリスがびっくりしていた。
「うわ!!知らなかった。前に一度マダムから注文があったブーケって、クラウディアのブライダル・ブーケだったんだ、キャッホ〜〜!!」
 エアリスが嬉しそうに喜んだ。
 準備が出来たようなのでクラウドは綺麗に並べられたチューリップの中に、うでに数本のチューリップを抱えて立った。
 上の方からシャボン玉がふわりふわりと舞い降りてきた。
 シャボン玉を手のひらで受け取るような仕草をしたり、楽しそうに振り返る姿をエアリスは憧れの眼差しで見つめていた。
 撮影が終了しクラウディアがクラウドへと戻るとエアリスを誘った。

「俺、遅番で2時出社なんだ。お昼どこかに食べに行かないか?」
「じゃあ、すぐそばのお店行きましょうよ。美味しいのよ。」
「じゃあ、マダム。特攻服しばらく置かせてください。皆、今日はコレで。」
 クラウドの言葉にマダムセシルはゆるやかに微笑みスタッフはうなずいた。
「お疲れさま。」
「お疲れ様です。」
 クラウドとエアリスは通用口から出ると表通りへと出て行った。

 いまだクラウディアの格好のままなので、まわりの視線を自然と集めてしまうが、目的の店は歩いてもそんなにかからなかった。
 エアリスはレディースランチコースをクラウドはたっぷりランチコースを頼んでテーブルを挟んで座った。
「うわ〜、見かけによらずたくさん食べるんだ。」
「ええ、身体が資本ですもの。食べなくちゃ持たないの。」
「ねぇ…、こんな事聞ける人って他にいないから…聞いていい?付き合っているのに『好きだ』とか『愛している』って、男の人ってあまり言ってくれない物なの?」
クラウドはエアリスに言われた事の答えに困っていた。
「え?う〜ん。どうかしら、その人によるんじゃないかな?」
「あなたはたくさん言われているの?」
「『好き』は言われたことがないわ、『愛してる』はたくさんあるけど、普通に言われた事はない…かな?」
「どういう意味?」
 エアリスがきょとんとして聞くのでクラウドは少し赤くなってまわりを見回し、そっと耳のそばで小声で言った。
「Make Loveの時にしか言ってくれないの、あと大けがした時。」
 思いもかけない言葉にエアリスが頬を赤く染めた、クラウドはそんな彼女にふと尋ねて見た。
「エアリス、ザックスに何か不満でもあるのかしら?」
「不満……っていうよりも、不安…かな?彼、何も言ってくれないの。」
 エアリスはぽつりぽつりと話を始めた。
「ザックスと出会ったのは…もう半年も前になるのね。」

 先にクラウドと顔見知りになったエアリスだったが、ザックスとであったのは彼のおかげだと思っている。
 あの時、8番街がイエローゾーンでクラウドの身を危ぶんだセフィロスが、ザックスを付けなかったら出合えなかったかも知れないのだ。
 それからザックスはちょくちょくエアリスが花を売り歩いている時にやってきては、いつも残っている花を買って家へ送り届けてくれた。

そんな付き合いが一ヶ月ぐらい続いたある時、ザックスは急に現れなくなった。
 ソルジャーだから仕事が忙しくて来られない時だってあるだろうとエアリスは思っていたけど、それが一ヶ月にもなると流石に心配になって来た。
 いても立ってもいられなくなって教えてもらっていた携帯の番号に連絡を入れたけれど、電源が切られていて連絡が付かなくて…エアリスはまるで自分が嫌われているような気がしていた。
 もう一回だけ電話をして見ようと思って携帯番号をプッシュした時、やっとザックスが出てくれた。
 話を聞いたら一ヶ月の間アイシクルエリアに出張していたというので、自分が嫌われたわけではないと一安心した物であった。
 それからまた、以前の様に花を売っている時に来てくれては、いろいろなことを話した。

 ザックスはたまにクラウドの事もエアリスに何かの話題のついでに話していた。
 それはクラウドがクラウディアである事を何気にエアリスに教えようとしていたからであった。

「そんなある日私、街角でザックスをみかけたのよ。白いワンピースを着た金髪碧眼の可愛い子と一緒に、ミッドガル8番街の商店を歩いていたわ。白いワンピースの子の腕には綺麗にラッピングされた箱が一つ、お店から出てきた二人は凄く楽しそうに笑ってたの。」
「白いワンピースの金髪碧眼って……もしかして、俺?」
「……うん、あの時のあなたって何処からどう見ても女の子だったわ。ともかく私はその子に向けるザックスの優しい笑顔になぜか泣き出しそうになっていたわ。」
 クラウドにはエアリスの気持ちがわからないでもない。セフィロスの隣に別の女の人が居て、笑顔で話し合っていたら自分とて同じ気持ちになるであろう。
 クラウドは思わずコクコクとうなずいた。
「その日の夜にいつものように駅前でお花を売っていたら、夜遅くなってザックスが現れたの。その時もいつものようにお花を買ってくれるって言うから、どうせあの白いワンピースの子にあげるんだろうって思ったから、おもいっきりふっかけたの。」

『今日のお花は高いから一本50ギル、全部で25,000ギルになるけど?』

 クラウドが大きな青い瞳を更に大きくして驚いた。
「うわぁ、凄いお金じゃない。」
「うん、自分で言っておきながら絶対買ってくれないと思ったわ、でもザックスはお財布の中から3万ギルだして、私にくれたわ。」

『おつりはいらないから。』

 クラウドだってザックスの給料がいくらぐらいか知っている。
 その中から3万ギルも出すのであればかなり無理をしたと言えよう。
「ザックスの顔って、引きつっていなかった?」
「ううん、ザックスはいつもの笑顔でそう言ったの、わたし凄く悔しくって……泣きそうになっていたわ。」
 それはそうであろう、エアリスだって高くて買えないであろうと言う金額を言ったのである、そこまでして花を買う理由なんて早々無いはずだ。
「私、思わず泣きながら『売らない……。可愛い子にあげるならお花なんて売らない。』って言っていたわ、そうしたらザックスびっくりしちゃって…。『そうか、そう言う手もあるか。』て、言ってカゴから花を抜くと、持っていたバンダナで結んで私にさし出したの。」

『俺、君以外に可愛い子の知り会いなんていないけど。』

彼、そう言うから私思わずお昼に見た白いワンピースの子の事を尋ねたわ。
「お昼に白いワンピース着た金髪碧眼の女の子と歩いていたでしょ?」
 ザックスはきょとんとした顔をしてしばらく間が合ったけど、すぐに大声で笑い出したの。
「ブハハハハ!!ありがとうエアリス、スッゲー嬉しい。君が見た白いワンピースの金髪碧眼はクラウドだよ、ちなみに白のワンピースじゃなくてクラスAの白ロング姿だよ。あいつと次のミッションに使う道具を買いだしに行ったんだ。いやー!!クラウド連れてるもんだな。君にヤキモチ焼いてもらえた。」
 ザックスに言われて私、彼に焼き餅を焼いていた事を初めて知ったわ。
 その日、ザックスはやっと私に言ってくれたの。
「君の事、恋人だって思っていいかな?」
「じゃあ、私はあなたの事恋人だって思ってもいいの?」

 答えの代わりにザックはは触れるだけのキスをする。キスが終った後エアリスはとっても優しくてとても温かい気持ちになれた。

 それから一週間もしないでザックスは、エアリスに真珠とゴールドで出来た可愛らしいブレスレットをプレゼントしてくれた。

「あ、ねえ。エアリスのお父さん、ガスト博士はザックスと付き合う事を反対しているの?」
「パパはザックスの事をよく知っていたわ。セフィロスの部下である事ももちろんね。彼がいい人だと言う事はわかってくれたみたいなんだけど…。やっぱりソルジャーだからかなぁ?ザックスとデートして家に帰るとむすっとしているの。」
エアリスは悲しげな瞳をしていた。