FF ニ次小説

 サー・ランスロットがクラスSから離れて治安部統括に就任し、第8師団が解体されて各師団に吸収された。
 そしてまもなく新兵が訓練校を卒業し入隊するシーズンになっていた。

 I can’t help falling love with you

 クラウドは治安部統括の部屋へミッションの報告書を提出しに行くため歩いていた。
 ハイデッカーがクビになり、ランスロットが統括になってから事務が円滑に動いているので、ソルジャー達から”上の動きが悪い”という不満が出なくなっていた。

 治安部統括の個室の前で姿勢を正し、クラウドは扉をノックした。
「第13独立小隊副隊長、クラウド・ストライフ入ります!」
 扉を開けると本当ならランスロットの優しげな笑顔がある…はずだった、しかし実際はかなりやつれた様子で少し困ったような顔をしていた。
「ああ、姫。何か御用ですか?」
「はぁ、かなりやつれましたね。統括のお仕事ってそんなに大変なのですか?」
「大変も何も、実戦に出ていた方がはるかに楽ですよ。くそっ!セフィロスの奴め、私を騙しやがって!」
「隊長が何かされたんですか?」
 首をかしげるように尋ねるクラウドにランスロットは思わず泣き言を言った。

「姫〜〜!!聞いて下さいよ〜〜!!ハイデッカー統括を首にするのは、クラスSでも全員の支持があったのでかまわないのですが、そのあとの統括の椅子に誰が座るかで問題になって、セフィロスの奴が私を押すからこう言う事になったんですよ!!」
「サー・ランスロット、だからどうして?」
「セフィロスの奴が統括の椅子に座るのが普通だと自分は言ったのですが、アイツが統括になったら姫と別行動になるじゃないですか?!」
「ええ、まあ。そうですよね、自分が治安部をやめない限りは、隊を率いるのは自分になるとは思えませんが長期派遣だとてあるでしょうね。」
「あいつはそうなったら自分が使い物にならんぞと脅すんですよ〜〜!!だからってなんで私が統括なんぞやらねばならないのでしょうかね?!」
 なってしまった物はもうどうしようもないだろうと言う言葉を押し止め、クラウドは自分よりも20cmも背の高い男に泣きつかれて、思わず頭を撫でてやっていた。
 そこにクラスSソルジャーのトリスタンが入ってきた。

「ランスロット、この裏切り者!!」
 扉を開けていきなりトリスタンの剣が一閃するが、ランスロットはあわてて飛び避けたため無事だった。
 いきなりの刃傷沙汰にクラウドがびっくりする。
「サー・トリスタン、一体どうしたんですか?」
「ああ、姫一応あなたにも関係していますのでお聞き下さい。ランスロットが統括になって姫と二人になる機会が増えるので、私達のいない所で抜け駆けをするなと約束しておいたのです。」
「抜け駆けも何も、自分はすでに結婚しているんですが?」
「戸籍上ね、治安部に結婚届が出ていないのでカンパニーとしては認めてはいないのです。」
「いいですよ。いつでも書類提出します。職場結婚はどちらかが職場を変わるんですよね?トップソルジャーの隊長が仕事を変われるわけには行きませんので、自分が治安部から抜ける事になりますけど、それでいいですか?」
 クラウドの言葉にランスロットとトリスタンの顔が一気に青くなった。彼ほどの腕を持つ戦士が一人いなくなるとかなり困ったことになるのは目に見えている。
「くぅ〜〜!!なんで姫のような腕の立つ士官を失えようか!ったく、セフィロスの奴め、覚えていろよ。絶対嫌がらせしてやる!!」
「姫の迷惑を考えろ!」
「…ったく、あいつのそばに姫がいる限り意地悪も出来やしない。」
 クラウドは二人の上官のやりとりに思わず吹き出していた、そこへセフィロスが入ってきた。
「ランスロット、呼んだか?」
 上官になったはずの戦友を相変わらず呼び捨てにするのは、セフィロスだけではなかったようであるが、あえてクラウドがとがめた。
「隊長殿!いくら貴方とはいえ統括を呼び捨てにしてはいけません。部下の手前ランスロット統括には敬語をご使用下さい。」
「キングに敬語など使っていただきたくはありません!!」
「キング、先程どこぞの統括殿はあなたの奥様に抱きついて泣いてましたが?」
「ほぉ…貴様、私の妻に何をしたというのだ?」
「隊長!!貴様ではなく統括とお呼び下さい!!」
「セ、セフィロス私は何も疾しい事などしてはおりませぬ!!そ、それよりも今日来ていただいたのはコレなんですが…。」
 ランスロットがセフィロスに一枚の書類を見せると、その書類を見て冷たく笑いながらクラウドに話しかけた。
「よいではないか。クラウド、15日の夜は特務隊のミッションだ。ランスロットの護衛にあたるぞ」
「アイ・サー!!」
「じょ、冗談ではありません!!なぜ私がキングと姫に護衛されねばならないのですか?!」
「治安部統括就任パーティーなんだろ?当然の事じゃないか。」
 当たり前の事を何で聞くとばかりにセフィロスが言い返すと、後ろでトリスタンが笑い転げていた。

「お前みたいなごつい男を姫みたいに華奢な少年兵が守るのか!こりゃいい!」
 ブスッとしているランスロットと笑い転げているトリスタンを横目に、クラウドはあくまでも任務としてセフィロスに話しかけた。
「では隊長殿、当日の配備などを打ち合わせいたしましょう。」
「ああ、いくぞ。」
「アイ・サー!」
 一足先に歩いて行くセフィロスの少し後ろを嬉しそうにクラウドが歩いて統括室から出て行くのをランスロットが見送りながら溜め息をついた。

「まったく、見せつけてくれる。」
「おや?何ですか?あのお二人が喧嘩でもすればよいと言うのですか?」
「犬も食わない喧嘩など巻き起こしてほしくないな、あの二人が本気で喧嘩したらこの星は潰れるぞ。」
「否定出来ないのが恐いですね。」

 特務隊執務室のテーブルにパーティー会場の間取りを広げながらクラウドは上機嫌だった。
 そんなクラウドを訝しんでザックスが訪ねた。
「クラウド、おまえパーティーなんて嫌いなんじゃなかったのか?」
「出る方はね、今回は守る方だから、やっと白のロング来てパーティーにいける。」
 リックがそれを聞いて吹き出した。
「個人的にはクラウディアの方が似合ってると思うけどなぁ。」
「まあ、サー・ランスロットの統括就任パーティーにクラウディアは、どうやっても出ることはできないからね。」
「俺としては黒のロング着た隊長のとなりに立っていられればそれでいいもん!

 ”それでいいもん!”のあとに思いっきりハートマークが飛んでいる、どうしたって反抗勢力が”地獄の天使”と呼んで恐れる男のセリフでは無いのでリックとザックスは思わず頭を抱えた。


 パーティー当日、きっちりと武装した黒のロングのセフィロスと白のロングのクラウドに挟まれて、スーツにネクタイ姿のランスロットが居づらそうに歩いていた。
「わ、悪い夢なら覚めてくれ。」
 ランスロットが所在なげにつぶやくのを聞き取ったセフィロスがしれっと答える。
「統括殿に何かあったら困りますのでここは我慢して下さい。」
「ですからキング〜〜!!私に敬語を使わないで下さい。」
「上官に敬語で話さないと失礼にあたります。」
 嫌みたっぷりな笑顔でセフィロスが微笑むと、ランスロットががくりとうなだれる、クラウドはそんな統括が少し可愛そうに思えてきた。

 会場に到着すると中はきらびやかな世界が広がっていた。
 神羅カンパニー関係者やコンパニオンレディ達が行き交う会場のそこかしこに、特務隊の連中がちらばっていた。
 ルーファウスがランスロットを従えて中央に進むと主賓の紹介をされてパーティーが始まった。

 クラウドはセフィロスから離れて会場を見回りながら歩いていた。
 セフィロスはクラウドと反対方向に居たが、いつの間にかカンパニーの関係者に囲まれていた。
「私は君が統括に就任すると思っておったよ。」
「残念ながら私はまだ第一線を退くわけにはいきません。」
「そういえば今日は美しいフィアンセ殿とご一緒ではないのですか?」
「クラウディアは今日のパーティーには関係有りませんので来ていません。」
「お会い出来ると思っていましたが残念です。」
 関係者達と握手して別れると今度はコンパニオンレディに囲まれる。
「今日はお一人なんですの?じゃあ私でよければお相手させて下さい。」
「だめよ、私が……。」
「あら、私ですわよね〜」

 セフィロスが女性に囲まれているのを遠くでクラウドが見付けると、途端にその青い瞳が曇り出した。

(セフィ…なんだかんだ言いながら、やっぱり大人の女性がいいのかな?)

 感情に流されそうになりながらも必死にそれを抑えながら、副隊長としての任務を淡々とこなしているが、その間もセフィロスのまわりから女性が消える事はなかった。
 ザックスが気になってクラウドに接触した。
「おい、クラウド。大丈夫かよ?!」
「うん。大丈夫、仕事だもん。」

 そう言いながらもうつむいた瞳からは涙の雫がこぼれていた。
 ザックスが何か言おうとセフィロスの元に行こうとした時、クラウドが腕を引っ張って止めた。
「持ち場を離れるな!今は任務中だぞ。」
 凛とした言葉が逆にザックスには痛々しく感じた。

 就任パーティーは無事何事もなく終わった。
 クラウドが整列した隊員に解散を告げるが、そこにセフィロスの姿は無かった。
 リックが心配そうな顔で声をかける。
「姫。」
「いいんだ。いつかは…こうなると思ってた。」
 諦めに似たような声がクラウドの口から漏れるとリックとカイルが思わず頭を撫でる。
「馬鹿、我慢するな。」
「俺達の部屋はお前の部屋でもあるんだからいつでも来いよ。」
「ありがとう。でもやりたいことあるから、それがおわったら…ね。」

 クラウドはそう言うとみんなに別れを告げてその場を去って行った。