クラウドの冷ややかな怒りに、クラスA仲間たちが恐れをなしていた。
「ひ、姫?」
「どうしちゃったのかなー?」
へつらうように笑うクラスA仲間に、自分のアルテマウェポンに付いている赤いマテリアを見せつけながら、にっこりと笑う。
「竜王さん呼ぼうか?騎士さん達呼ぼうか?」
「頼むからやめてくれ、店がつぶれる。」
「それとも、ナイツ・オブ・ラウンドの皆さんでも呼ぼうか?」
「うわ、連隊長達なんて呼ぶなーーー!!」
「じゃあ、英雄と影の隊長でも呼ぶ?」
「連隊長達もサー・セフィロスもリックも召喚獣じゃないぞ!!」
「いや。でもマジで姫なら呼べるから恐ろしい。」
そこにコーヒーを飲み終わったルードがやってきた。無言でクラウドの方を見ると、ぺこりと頭を下げるので、笑顔でルードに話しかけた。
「あ、ルードさん。もういっちゃうの?」
「………仕事だ。」
「ご苦労様です、レノさんやツォンさん達によろしくお伝え下さい。」
クラウドが姿勢を正して敬礼すると、ルードは再び頭を下げて店を出て行った。
クラスA仲間達がそんなクラウドを見て突っ込みを入れる。
「姫ー!おまえ態度変わり過ぎ!」
「まったく、どこかの隊長殿そっくりだ。」
なんだかんだと言いながら料理が出はじめると、さすがクラスAソルジャーである。肝がすわっているのか、それとも腹が減っているのか、みんな椅子に座って食べはじめた。
「マスター、美味いじゃんかよ!」
「当たり前だ!今お前らに逆らってこの店潰してどうすんだ?!」
「ま、当然だね。俺達だってマスターがマスターやってる限り手は出さないよ。」
「おう、やる時はきちんと店たたむからそれまでは安心しろ。」
店主でありアバランチのリーダーである男の言葉にクラウドが反応した。
「その必要はもうなくなるよ。神羅カンパニーは今、魔晄の代行エネルギーを探している。この星を潰すような真似はもうしないよ。」
バレットがクラウドの言葉にびっくりして聞き返した。
「う、うそだろ?!」
同じぐらいクラスAソルジャー達もびっくりしたらしい。同じようにクラウドに尋ねる。
「クラウド、それは本当か?!」
「ああ、そういえばまだ皆は知らなかったか。ガスト博士がカンパニーに戻ったろ?その時の条件が魔晄の代行エネルギーを見付けて魔晄を使わないようにする事と、ソルジャーから魔晄の力を抜く事なんだ。」
「お前が言うなら本当なんだろうな。」
「それじゃ、俺達がやろうとしていることは無駄になるのか?」
「ああ、ガスト博士はすでに代行エネルギーの取得に着手している。下手に命を捨てるより、真面目に店やって稼いでいた方がいいと思うよ。」
バレットはクラウドのセリフに呆れたような顔をした。
「おまえ、ソルジャーらしくないな。」
「あ?俺?ソルジャーじゃないよ、ソルジャー扱いの一般兵で、なんちゃってソルジャー。」
バレットとクラスA仲間が爆笑した。
ティファが出来た料理をもってきて、どこか寂しげな瞳でクラウドに微笑んだ。
「2年でずいぶん変わっちゃったのね。美人でやさしい恋人によろしく。」
「あ、サンキュー。」
ティファから料理をもらうと、せっせとクラウドが皿の料理をみんなに取り分ける、その姿があまりにも板についていたのでティファが呆れた。
「うまいじゃない。」
「まあね、慣れてるから。」
「おお!!ガキのくせに危険な発言!」
「何がだよ!?」
「おまえが恋人に料理をいつも取り分けてるって事だろ?」
「そんなもん!男としてのマナーだろう?!」
「へーへ。ごちそう様!!」
ワイワイやっている所に遠くで爆音が聞こえて来た。
クラウドがとっさに立ち上がると、サイフの中からお金を取り出し、カウンターに置いて店を飛び出した。
その後ろ姿にブライアンが呆れた。
「さすが、特務隊の副隊長だけあるな。」
「仕方がない、行くか。」
「お仕事、お仕事。」
「ちぇ!せっかく美味い飯くってたのによぉ。」
文句をいいながらもそれぞれ立ち上がると、銘々がお金を取り出してカウンターの上に置くので、バレットが呆れて見ていた。
「なんだ、まだ全部料理出し切っていないぞ。終わったらかえってこいよ。」
「生きていたらね。」
「大丈夫だろ。地獄の天使が味方に居れば、そこらへんの反抗勢力なんて目じゃないぜ。」
「アバランチのリーダーがそれをいうか?!」
「今日限りでやめるよ、お前ら見てたら戦う気になれん。」
「そりゃどうも。」
店を出るとクラスAの雰囲気が徐々に変りつつあった。
エドワードとブライアンが先頭を切って飛び出していくと、その後を全員が追いかけた。
一部始終を見ていたバレットが思わず溜め息をついた。
* * *
クラスAソルジャー達が店を出た途端、先行するクラウドに追いつくため全力疾走を始めた。
あっというまにクラウドに追いつくと、爆発地点はもう目の前だった。
クラウドが追いついてきたクラスAソルジャー達に指示を飛ばした。
「ブライアン!左へ回ってくれ!エドワードは右をたのむ!」
「おう!」
「ああ!!」
いわれた通りに二人が別れると、その後ろから追いついてくるクラスAソルジャー達が、言われなくても3つにわかれて先頭を突っ切っている男に自然と従っていた。
ブライアンが後ろを見ずに声をかけた。
「姫のサポートだ、まわりから削って行くぞ!」
「アイ・サー!」
同じようにエドワードも後ろの仲間に声をかける。
「包囲する!!」
「おう!」
クラウドも自分の後ろにいる仲間に声をかけた。
「覚悟はいいか?!突っ込むぞ!!」
「うわー!姫に付いてくるんじゃなかった!」
「今さら遅いわ!」
中央をクラウド達が突破するように切りかかって行くと、まわりに散らばろうとする勢力を左右から押さえつける。
中央について行ったクラスA達が、改めてクラウドの剣の腕に感心していた。
「あれで一般兵のつもりかね?!」
「俺達の連隊長より剣の腕は上だろ?!」
「こんな事、日常茶飯事の特務隊だ!うまくもなるぜ。」
「うわ〜〜!!絶対戻りたくない!!」
なんだかんだ言いながらも、クラスAソルジャー達は反抗勢力を叩きのめしていた。
やがて反抗勢力の抵抗が全く無くなっていた。
クラウドが中央に立って、左右から来たブライアンとエドワードを見て声をかけた。
「センター、クリア!!」
「左、クリア!!」
「右、クリア!!」
左右からクラスA仲間が中央に集まってきた、クラウドが全員の顔を確認すると、その場に凜と立って言い放つ。
「第二次緊急事態解除!みんな、お疲れさま。」
クラウドの言葉にクラスA仲間が自然と敬礼したが、その不自然さにおもわずランディが突っ込みを入れる。
「あれ?いつの間に一般兵の姫が俺達を指揮してたんだ?」
「ハハハハハ…、全く気がつかなかったぜ!」
「あまりにも自然だったな。」
「それだけ緊急事態の指揮を取りなれているって事だな。」
「それより腹減ったよ。店に帰って続きを食べようぜ。」
クラスA仲間がぞろぞろと「セブンス・ヘヴン」へと帰っていこうとすると、クラウドだけはその場に立ちつくしていたのでエドワードがそれに気がつく。
「ん?どうしたの?姫。」
「ああ、たぶんリック達が来ると思って。」
「来るかな?」
首をかしげるエドワードの後ろから不意に声がかかった。
「来ちゃ悪いか。」
「うわあ!!出たァ!!」
「エディ!俺はバケモノか?!」
「やぁ、リック。もうおわっちゃったけど?」
「そうみたいだな。で?おまえはどうする?」
「後ろの人と一緒に行くよ。」
リックはクラウドの言葉ににやりと笑った、後ろには特務隊隊長のセフィロスが悠然と立っていた。
ブライアンがその姿を見て思わず吹き出していたので、セフィロスが訝しんだ。
「ブライアン、何を笑う?」
「失礼いたしました、サー。先程クラウドが俺達にキレて召喚獣達呼ぶか、サーを呼ぶか?などと脅したのです。」
「そうしたらサーが呼ばなくてもくるんですから…、笑えます。」
「私は乱入型召喚獣ではないぞ。」
冷静な顔でセフィロスがクラスAの話に答えている。
「自分達に取っては召喚獣より恐い憧れの英雄です。」
「もっとも、以前はこのように口など恐れ多くて聞けませんでした。」
「みんな姫のおかげです。では、自分達は食事の途中でしたので、これで失礼いたします。」
「ご苦労。報告書はクラウドか?」
「イエス・サー、自分が指揮した事になっています。」
クラウドの答えにカイルがびっくりしたような声を出した。
「うわ、クラスAソルジャー20人を指揮する一般兵なんて聞いた事ないぞ。」
「面白いことに俺達も終わってから気がついた。」
「あまりにも様になってて終わるまで気がつかなかったよ。」
クラスA仲間がクラウドに手をあげて別れていく。全員を見送った後クラウドは振り返り、セフィロスの元へと駆け寄った。
「いきましょうか。」
「ああ。」
「姫、いいのか?」
「ああ、反抗勢力を一つ潰した後で、いくら美味いからとはいえ、アバランチのリーダーの運営する店で食事の出来るあいつらの根性を疑うね。」
クラウドの答えにリックがびっくりした。
「セブンス・ヘヴンのマスターがアバランチのリーダー?」
「ああ、俺の通称を聞いた途端に態度を変えた。隊長、釘は刺しておきましたが、タークスにでも頼んで動向を調査してもらえるでしょうか?」
「お前が連絡しておけ、それがあいつらの仕事だから文句は言えまい。」
「アイ・サー」
クラウドが敬礼から直りふと顔をあげると、いつもの優しげな笑みを浮かべたセフィロスがいた。
その笑顔を見るたびに自分だけがその顔を見ることができることと、自分だけにその笑顔が向けられている事に幸せを感じていた。
手もつながず肩や腰を抱く事もされなかったが、ただそばに居て並んで歩けるだけでもクラウドには幸せだった。
一年前にこの人のそばにいて、視線を外されただけで、心臓がわしづかみされるような感覚を覚えた。
あれは、惹かれていた人に冷たくされたから…
今さらのように、その時の気持ちを思い出しながら…
きっと、自分はずっとこの人の事を…
求めて………、欲して……………、
好きにならずにいられない。
そんな思いを心の奥底にしまいながら、クラウドは先を歩くセフィロスの揺れる銀色の髪の毛を見つめていた。
The End
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