FF ニ次小説

 セフィロスが絶対零度の怒気をリックに向けて発していた。
 特務隊の仲間はその雰囲気の”懐かしさ”にひたっていたが、一人だけ絶対零度の怒気から逃れていた男がいた。
 もちろん”英雄の愛妻”クラウドだった。

「あ。ねぇ、セフィ。クラスAの人たちが食事に誘ってくれてるんだけど、行っちゃダメかな?」
 小首を傾げて青い瞳をまっすぐセフィロスに向ける姿は、はっきりいって、凶悪(?)なまでに可愛らしい = by 英雄(w)
 そのおかげで絶対零度の怒気がいきなり消えうせると隊員達が安堵の息をついた。
 そんな隊員達を尻目にセフィロスは、可愛らしい妻のおねだりの理由を聞き出そうとする。
「またどうして?」
「7番街のセブンス・ヘヴンという店に可愛い子が入ったんだって。その子見るためにエサにされてるみたい。俺の編入歓迎会だってさ。」
「そういえばお前、以前歓迎会開いてもらうのがお流れになってたな。」
「うん、だからそれを名目に可愛い子に会いに行くつもりみたい。セフィとリックに許可もらってこいって。」
「私はわかるが、なぜリックまで?」
 セフィロスがいぶかしげな評定をするが隊員達は大きくうなずいていた。
「そりゃ、姫に手を出そう物なら、うちの影の隊長殿は隊長並みに攻撃的になる奴ですからね。」
「こいつの許可も取らないと命があぶないとでも思っているんじゃないですか?」

 セフィロスがふたたびリックをにらみつける。
 リックはセフィロスのにらみつけを物ともせずに、自信を持ってセフィロスと対峙して言った。
「大丈夫ですよ、隊長以外の奴に譲るつもりはありませんから。」
「クックック、なにも好んで私の影をやっている事もあるまい。おまえならいつでも一個師団を率いることができるだろう。ソルジャーから魔晄を抜けば、魔晄の力に左右されない実力を持つお前のような奴がクラスSに上がってもらわねば困るのだがな。」
「隊長が不在の時に姫を守る事ができるのは自分しかいないと思ってます。」
 セフィロスが何も言わずにリックから視線を外した、それはリックに取っては暗黙の了承であった。

 クラウドはそんなやりとりの内容も全くわからないが、まだ自分の質問の答えをもらっていないのでセフィロスに尋ねた。
「ところで、行っていいの?」
「ああ、行っておいで。但し、酒だけは飲むなよ。」
「ミッドガル市民の見本でもあるソルジャーが法律を犯してはいけないからな。姫はまだ正式なソルジャーではないが、その制服を見れば誰しも疑わない。」
「そういえば姫は16だもんな。飲酒は20歳からだからまだまだ当分ダメだな。」
「俺の郷は冬に雪が降る地域だから子供のころからグリュ−ワイン飲んでいたけど。」
「ワインは水なの!」

 ふと、こう言う話しにやたら首を突っ込んでくる男が居ないのに気がつき、ブロウディがまわりの皆に聞いた。
「と、そういえばうるさい奴は?」
「最近真面目に1stのメニューこなしてるって噂だけど?」
「うわ!あいつミッドガルに雪でも降らすつもりか?!」
「俺、サー・リーに魔法の訓練受けてるのみたことあるぜ。」
「うわ…、どうしたんだ?!ザックスの奴?!」
「そりゃ、俺のいう事も聞かない奴が真面目にやる理由は一つしかないだろう?」
「未来の嫁さんに『真面目にやりなさい』って、怒られた!」
 特務隊の執務室が笑いに包まれた。


***



 ミッドガル0番街から7番街へ行く魔晄列車に、ティファは大学から下宿先の「セブンス・ヘヴン」へ戻るためのっていた
 何気に窓の外の移り行く景色を眺めていると、なんだかお尻の当たりがもぞもぞとする。思わずお尻のあたりを確認すると、誰かの手が自分のお尻をなで回していたので、ティファは思わずその腕をひねり上げた。
「こいつ、チカンよ!!」
 まわりの視線が腕をひねり上げられている男に移った、青地にチェックの柄のシャツを着たなよっちい男だった。
「お、俺じゃないよ!!」
「嘘おっしゃい!!間違いなく、あんたが私のお尻をなで回していたわ!!!」
 男が逆ギレしてティファにつかみ掛かろうとした時、黒いスーツの男が割って入ってきた。
「な、何だテメーは!!」
「おまえが、やった。」
 そういうと黒服の男はなよっちい男をつかむと次の駅で降りる。あわててティファも一緒に降りると、駅員にその男を突き出した。

 改めてティファが黒服の男に向き合うとぺこんとおじぎをした。
「ありがとうございます、御礼がしたいのですけど…バイト先のコーヒーぐらいでよろしければいかがですか?」
 黒服の男はティファの笑顔に頭のてっぺんまで赤くなっていた。もともとこの男はおしゃべりな方では無いのか、肝心な事しか先程から話さなかった。
「ルード。」
「ルードさんっておっしゃるんですか?じゃ、いきましょう!!」
 ティファは黒服のルードと名乗る男の袖をつかむと、バイト先の「セブンス・ヘヴン」まで引っ張って行った。
 そのころ、7番街『セブンス・ヘヴン』は白いロングコートを着た集団が店のイスの半分を占拠していた。
 店主はちらりとその姿をみると一瞬顔を曇らせるが、すぐに営業スマイルを見せた。
「いらっしゃいませ」
「あ、22人ね。一人50ギル(1G=100Y)見当で、適当に見繕ってくれる?」
「承知しました」
 丁寧な対応をしてはいるが実はこの男、「セブンス・ヘヴン」の店主は仮の姿で、裏の姿は神羅カンパニーに反抗するグループの一つ「アバランチ」のリーダーであった。
 しかし、今ここで正体を現す事は出来ないので、ひたすら我慢していたのである。
 もっとも金払いのいいソルジャーが一人50Gも払ってくれるのであるから、この際、裏の顔はしばらく隠しておこうと料理を作りはじめた。
 そこへティファがルードを伴って戻ってきた。
「マスター、コーヒー一杯もらえる?」
「どうした?その男は何だ?」
「チカンをつまみ出してくれた人なの。御礼をしたくて連れてきたの。」
「そうか、それはコーヒーぐらいおごらないとな、座ってくれや。」
 バレットの指を指したカウンターにルードが何もいわずに座った。ティファがスタッフルームに入っていくと、入れ代わりにクラウドが入ってきた。
「おまたせ…って、あれ?ルードさん。どうしてここに?」
「………。」

 何も言えないルードに代わって、話を聞いていたキースが横から口を出した。
「店の女の子をチカンから守ったんだってさ。」
「へー、さすがルードさんだね。」
「…………。」
 ルードが文字どおりゆでだこ状態になっていると、スタッフルームから着替えを終えたティファが店に出てきて、店を見渡すと幼馴染がいるのでびっくりした。
「おまたせ〜、って、え?クラウド?!」
「ティ、ティファ!どうして君が?」
「ミッドガル中央大学に進学して、この店に下宿させてもらっているの。」
 仲良く話す二人にクラスA仲間が声をかけた。
「なんだ?姫、知り会いかい?」
「ああ、幼なじみ。」
「へぇ〜、おまえこんな可愛い子ちゃんと幼なじみだったのか?」
「紹介しろよ!!」
「ああ、いいよ。ティファ、こいつらは俺の仲間でみんなクラスAソルジャー。左からキース、ブライアン、ランディ、エドワード…。」
 そう言ってクラウドが一通り仲間を紹介しようとすると、ティファの表情がぶすっとしはじめた。

 女の子に目がないキースとランディがティファの表情の変化の意味に気が付く。
「あらら、ごきげん斜めかな?お嬢さん。」
「もしかして、姫を追っかけて田舎を出てきたの?」
「そりゃかわいそうに、こいつもう売約済みだからな。」
「こ、こら!!ブライアン!!」
 クラウドが真っ赤になってブライアンに抗議したが笑って答えた。
「大丈夫、相手の名前なんて知らないんだから出せないよ。」
「あ、でもその容姿と噂だけは知っているぜ。」
「”地獄の天使”と呼ばれているお前もこの手の事には慣れていないのか?」
 エドワードがクラウドの通称を言った途端、背中に冷たい視線を感じて振り返った。その反応をみてクラスA仲間はまゆをひそめた。

「姫、もしかして。」
 クラウドが厳しい視線を店の中にめぐらせて、目的のモノを見付け出すと、やっとパーシーの問いかけに答えた。
「ああ、ここのマスターはアバランチのリーダーだ。」
 クラウドの視線の先には店のマスターがいた。
 マスターはにやりと笑うと顔を上げる。
「その割りに、おまえさんも肝がすわっているのかびびらないんだな。」
「ああ、殺気が無い奴と闘うつもりはない。」
「なかなか出来た奴だな。」
「俺とティファは幼なじみだが、今は全く無関係だ。お前が力でカンパニーに抵抗しないなら、こちらも何もしないが、万が一彼女に何かあったらお前達を全力で潰すぜ。」
「覚えておこう。」
 バレットがそう言い終わると、クラウドは振り返り自ら席に座った。
 クラスA仲間がその行動にびっくりする。

「お、おまえ。アバランチのリーダーの店と知って…。」
「それでも食事をすると言うのか?」
「ああ、今のあいつは俺達に何もできやしない。いや、何もできないはずだ。」
「ひ、姫!!なにをもって?!」
「この店を潰したくなかったら、ソルジャーである証のロングコートを着た俺達に、何かして殺すなんて事は出来やしないさ。」
 クラウドの言葉に調理場でバレットがにやりと笑っていた。

(あいつ、『地獄の天使』と言われるだけある奴だな、気に入った!)

 バレットはクラウドを味方に引き入れる事を真面目に考えはじめた。

 一方、ティファはクラウドの仲間の発言にショックを受けていた。
「く、クラウドが売約済みって……。どう言うこと?!」
 ティファの絶叫が店内に響く、その声にクラスA仲間の一人が反応した。
「あん?姫なら恋人と同棲中、もう熱々で当てられっぱなしなんだぜ。」
「恋人?!クラウド、恋人いたの?」
「ああ、うん。ちょっとね、紹介する訳に行かないけど。」
「ど、どんな人?!」
 ティファとクラウドの会話にブライアンとパーシーが横から突っ込みを入れる。
「さらさらロングヘアーのすんごい美人!」
「年上でクラウドだけにはめちゃくちゃ優しいんだよなー」
「ば、馬鹿野郎!!おまえらみじん切りにされたいか!?」
「あなた無しでは生きて行けないの〜〜!! なんて感じでさ。俺達当てられっぱなしなのよ。」
 クラスA仲間の話しにクラウドが冷淡な瞳に氷のような笑みを浮かべはじめた。
 急に雰囲気の変わったクラウドにクラスA仲間が背中に冷たい物を感じた。