TVニュースでクラウドの顔が放送された余波は多岐にわたっていた。
カンパニーの中のクラウド・ファンを多数増やし、英雄の横に並んで立つ美少年に一般人の女の子から問い合わせが殺到し、そして一人の女の子の人生を変えることになりかけていた。
* * *
ニブルヘイムで唯一のハイスクールでは、昨日のニュース映像の話しで持ち切りだった。
「あれ、クラウドだよなぁ。」
「うん、いじめられっ子のクラウドだよな。」
「すんげー美人になってた。」
「男に美人は無いでしょ!でもかっこいかったー」
「ねえねえ、ティファ。あんたクラウドと仲良かったよね、今度いつここに帰ってくるかしってる?」
「知らないわよ!」
ティファは無性に腹が立ってしかたがなかった。
クラウドの事を無視して、村外れにしてはいじめていたクラスメイトが、彼が神羅の英雄の右腕となっていた事を知ると、手のひらを返したように急になんだかんだと言い出してた事が気に入らないのである。
(クラウドはアンタ達の事なんか振り返る事なんてしないわよ!)
つい最近クラウドに偶然であっていたティファは、彼がもう昔の”クラウド”ではないことを知ってしまった。
昔よりもはるかにかっこよく、明るく、強くなっていたクラウドに、ティファは思わずときめいていた。
そしてミッドガルへ、クラウドの元へ行くために色々と手を尽くしていた。
女一人で巨大都市に行っても仕事も無ければ住む所も無い。
ところが今ティファは一つのチャンスに巡り合っていた。ミッドガルの大学へ進学する事を目標に、ティファはがむしゃらに勉強していた。
(大学を卒業してカンパニーに就職すればクラウドとあう事もできる。)
ティファの唯一残されたクラウドに会うための方法であった。
(クラウドに会えたら『結婚して』って言うんだ!!)
ティファは思いこんだら、かなり激しい女の子だった、そしてその思いこみのおかげでミッドガル中央大学に行けるほどの学力を得ることに成功した。
センター試験で合格ボーダーを軽く越えると、一人でミッドガルへ行き大学受験をしてきた。
数日後、ニブルヘイムのティファの家にミッドガル中央大学の合格通知が着た。
「パパ!わたしミッドガルへ行く!!ミッドガル中央大学に入学するの!!」
ロックハート氏が腰を抜かすほどびっくりしたのは言うまでもない。しかし、何を勘違いしたのか隣の家に怒鳴り込んでいったのであった。
「ストライフさん!!あんたが息子をミッドガルにいかせるから、うちのティファがミッドガルに行きたがるんですよ!どうしてくれます?!」
「ティファちゃんがミッドガルへ?またどうして。」
「ミッドガル中央大学に合格したというんですよ。」
「まあ、凄いじゃないですか。ミッドガル中央大学に入学出来る子は本当に頭が良い子ですよ。しっかりと勉強したいと言うのなら行かせるべきじゃないのですか?」
「うぐぐぐぐ……。」
「ティファちゃんの事です。よいお婿さんを探して戻ってきますよ。」
美貌の未亡人に微笑まれて、怒りの矛先を何処に向けていいのかわからなくなり、ロックハートはこそこそと自宅に帰った。
それから2週間後、ミッドガル7番街で黒髪の女の子が店の前の店員募集のはり紙を扉から取ると、そのまま中に入って行った。
その店は7番街でも有名なカフェ・バー「セブンス・ヘヴン」だった。
「こんにちわー!表のはり紙見てきました!!」
スタッフルームから一人の大男が現れた、店長のバレットだった、その後ろから可愛い女の子も出てきた。
「幾つだ?姉ちゃん。」
「17歳です、今度ミッドガル中央大学に入学しました。」
「20時すぎは無理だな。酒がメインになってくる。」
「だめでしょうか?」
「いんや、お前さんみたいに可愛い子なら喜んで採用だ。家はどこだい?」
「学生寮に入る予定です、郷はニブルヘイムです。」
「うちで20時まで働いていたら、学生寮の門限に間に合わないぜ、なぁに、部屋はあまっている。ここに住み込めばいい。」
「え?!で、でも……。」
「大学行くついでにマリンの保育園に送り迎えしてくれれば願ったりかなったりだ。2食付で3,000ギル、バイト代から毎月引くが、たぶん小遣いぐらい稼げるぜ。」
悪くない条件である。学生寮にはいっても食事は自分で作らねばならないので、ティファは結論を迷わなかった。
「よろしくお願いします!!」
「そうと決まれば、おい!お前ら出てこい!!」
バレットの声にスタッフルームから男が2人、女が一人出てきた。
「3人ともうちで寝泊まりしている、あんたの先輩に当たるかな?」
スタッフらしき人達が一人一人おじぎをして挨拶をした。
「ビックスです。」
「ウェッジです。」
「ジェシーです。」
「あ、ティファです。よろしくお願いします。」
こうしてティファはセブンス・ヘヴンに住み込みで働くことになった。
そして学業に影響のない時間は店に出てウェイトレスをしていた。
* * *
翌日・神羅カンパニーのクラスA執務室で、女の子の噂に詳しいランディがさっそく情報を持ち込んで来た。
「おい、7番街のセブンスヘヴンに可愛い子が入っていたぞ。」
「ランディの浮気性!おまえは本命いるのかよ?」
「俺は可愛い子に目がないの!」
「ザックス以上だな。」
クラウドはブライアンの言った言葉にびっくりして聞き返した。
「ザックスってそんなに女の子に目がなかったの?」
「ああ、女の子を見たら手当たり次第口説き回ってたな。」
「それが今や八番街の花売り娘に首っ丈!!」
「へぇー、そうだったの?」
「ああ、1年前ぐらいからぱったりとその噂を聞かなくなってた。」
「へぇ、凄いや。エアリスって。」
「ああ、凄い女の子だ。そんな浮気性だったはずの男の本性を見抜いたんだからな。」
「え?パーシー。何を知っているの?」
「あいつがここ最近めちゃくちゃ真面目に任務をこなしているということぐらいかな?」
「俺も聞いた事あるぞ。ザックスはもともと1stのトップでも腕だけの男といわれていたんだが、この所巡回も真面目にやっているし1st連中の中でも評価がうなぎ登りなんだ。」
「うそ、信じられないや。」
「直の上官であるお前が信じないでどうするよ?!」
クラスA執務室が笑いに包まれた。
ザックスはこの所、特務隊の執務室でも実に真面目に執務をしている。
それがすべてエアリスのためであると思えば、クラウドだとて味方になってやりたいと思うのであるが、クラスA達は別の目で見ているようであった。
「おまえ、旦那公認でザックスに色目使っているんじゃないだろうな?」
「な?!何で俺がザックスに色目なんか!!」
「だって、おまえ可愛いもん。お前の可愛らしさならザックスだとて一撃必殺だろう?」
「じょ、冗談じゃないよ!なんでザックスなんか!!」
「あ、やっぱ誰かさん一筋か。」
クラスA仲間が再び笑うがクラウドだけが一人憮然として赤い顔をしていた。
「もう、いくら俺が同性婚してるからって、皆でいじめないでよ。」
大きな青い瞳に涙など浮かべて口をとんがらせている姿は、テロリストや反抗勢力に”地獄の天使””白い悪魔”と恐れられる男では無い。クラスA仲間達もこの可愛らしい顔を見たくて、ついついいじめてしまっているのが事実だった。
「でも、セブンス・ヘヴンなら行ってもいいかな?値段と味と量がきちんとあっているだけ良心的だ。」
「そういえばまだ姫の歓迎会やってなかったよな。」
「編入半年も経ってから歓迎会もないだろ?」
「そんなもん、物のついでだ!」
「行くならいつだ?予約入れないと28人も入ったら満席だろ?」
「姫は旦那と影の旦那に許可してもらえよ。」
「旦那ってのはセフィだよね?影の旦那って誰の事?」
小首を傾げて可愛らしく聞くクラウドに、クラスA仲間が全員で声をそろえて、特務隊の影の隊長と呼ばれている男の名前を叫んだ。
「リック・レイノルド!!」
「リックに許可を取るって、どうして?」
「アイツに逆らって殺されたくないからな。」
「姫を誘うのって命がけだぜ。」
「もう!!みんな…嫌いになっちゃうからね。」
クラウドの可愛らしい言葉にクラスA仲間が大きな声で笑った。
窓の外は初夏の日差しが眩しく揺らいでいた。
特務隊の執務室でパソコン相手に書類を書いているリックが大きなくしゃみをした。
「ヘックション!!」
「リック、風邪かい?」
「いや、誰かに噂されてんだろ、誰だろ?姫だといいな。」
「自意識過剰!おまえのその自信は何処から来るんだ?」
「さっすが影の隊長だけあるね。」
「俺様主義の権化!!」
「うるさい!!お前ら俺に逆らえるとでも思っているのか?!」
「うわー、出たよリックの天上天下”俺”我独尊状態!!」
「クックック…、ソルジャーから魔晄を取れば只の人!もしかすると隊長だって倒せるかもしれない。その時は…クックック。」
リックが一人ほくそ笑んでいる所へクラウドが入ってきた。
クラウドは思わずリックの”悪魔の微笑み”に背中に冷たい物を感じていた。
「うわ…、リック。こ、怖い顔してなにかあったの?!」
リックがクラウドの声に反応し”悪魔の微笑み”から満面の笑顔に戻ると、すかさずジョニーが突っ込みを入れた。
「おまえ、へんな所まで隊長ソックリ!!」
「うるせー!」
「クラウドー!リックったらな、『ソルジャーから魔晄を取れば只の人、もしかすると隊長だって倒せるかもしれない。』なんて言ってたぞ。」
「隊長の場合普通のソルジャーと違うからなぁ。あの人の場合母親の胎内に居る時に強い魔晄を浴びているから、普通のソルジャーとは違うんだ。」
「残念!隊長をぶん殴って姫を横取りするつもりがパー!!」
「わーーー!!!やめろ!よせ!!」
ブロウディをあわてて押さえつけて居る所にセフィロスが入ってきた。
クラウドがいきなり姿勢を正して敬礼する。
「ミッションですか?!」
「いや、違う。書類の整理に来ただけだが、お前らの大声のおかげで良い事を教えてもらえた。せいぜいリックにぶん殴られないように鍛えておこう。」
セフィロスがリックに向けて絶対零度の怒気を発していた。
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