FF ニ次小説



 ミッドガル3番街で反抗勢力を一掃している最中に、クラウドは爆発に巻き込まれ頭にケガを負った。

 反抗勢力はクラウドの負傷、にぶち切れたセフィロスのおかげで一掃したが、彼の意識は鎮圧が終わってももどらなかった。


FF7 パラレル小説 第11弾   『if』     クラウディア 偏

 ミッドガル3番地にある市民病院の一室でクラウドは気を失ったまま眠っていた。
 そこから少し離れた診察室で、セフィロスは担当の外科医と向き合っていた。
 茶色い髪にアンバーの瞳、どこかで見たような顔だちの女性外科医が、カルテを見ながらセフィロスに状態を告げた。

「頭のケガはマテリアの魔法で治したと言うのに、目を覚まさないのですね?CTやMRIで脳への影響も確認いたしましたが、別状はありません。しかし、当たり所が当たり所です。用心にこしたことはありません。」
「そうですか。」
 セフィロスが答えた時に内線が入ってきたのかインターフォンがなった、外科医が対応する言葉を聞いていると、どうやらクラウドが目覚めたらしい。
 しかし外科医の声の調子がどこかおかしかったのであった。

「何かありましたか?…………、そうですか、わかりました。」
 内線電話を切りながら外科医はセフィロスに向き直った。
「やはり、恐れていた事が起こりました。記憶混乱が起こってます。」
「なんだと?!」
「彼は貴方の部下で間違い無いのですよね?」
「ああ、私の副官だ。記憶の混乱と言うのはどの程度のモノなのか?」
「会って見て判断します。」
 外科医は脳外科医と精神科医の専門家と連絡を取ると、セフィロスを伴ってクラウドの居る病室へと歩いて行った。

 クラウドの病室は仕事柄個室であった。
 部屋の手前で白衣を着た男性の医者と、女性の医者らしき人が既に待機していて、歩いてきた外科医に気がつくと声をかける。
「あ、マイラさん。」
「待ってたわよ。」
 マイラと呼ばれた外科医はセフィロスに向かって二人の医者を紹介した。
「こちらの男性が脳外科医のDrジャック・バルボー、女性が精神科医のDrライザ・グレイスです。」
「はじめまして、サー・セフィロス。」
「お目にかかれて光栄です。」

 滅多な事では握手すら応じないセフィロスでも、二人の医者に握手を求められて素直に応じる。それは二人の医者に対する敬意ではなく、クラウドを見てくれる医者であるという感情でしかないことは、目の前の医者達にはわからなかった。
「それで、クラウドの記憶混乱はどのような状態ですか?」
 セフィロスの問いに精神科医が個室の扉を開けると、そこには青い顔をしたクラウドが起き上がっていた。
 すぐ横で看護士が申し分け無さそうな顔をしている。
 クラウドが首をめぐらせて入ってきたセフィロスを見付けると、びっくりしたような顔をした。

「サー・セフィ……ロ……ス?」
「クラウド、大丈夫か?」
「あの…いったい私はどうしてここに居るのでしょうか?どうして病院に入院するようなことになったのでしょうか?」
 困惑するクラウドに精神科医が優しく問いかけた。
「貴方の覚えている事を教えていただけるかしら?」
「あ、はい。私の名前はクラウディア…。職業はモデルです。そこにみえるサー・セフィロスのフィアンセです。」
 そこまで言ってクラウドはまわりの人たちの顔を見回すと、一応に驚いた顔をしていたので小首を傾げた。
 そんなクラウドの様子を見て外科医と精神科医と脳外科医が相談してから、看護士をまず外に出してからセフィロスに聞いた。
「サー・セフィロス。外部には絶対漏らしませんので正直に答えて下さい。なぜ、ソルジャーの彼がクラウディアの記憶を持っているのですか?」
 精神科医のもっともな質問にセフィロスは本当の事を言わずに、いつもの誤魔化すためタークスと作り上げた話をしはじめた。
「クラウドにはクラウディアの身代わりを何度かやってもらっている。その時深層意識にクラウディアの性格や個人情報を覚え込ませたのだ。彼がクラウディアを演じる時は鏡を見て自己暗示をかければなれるように教えこんである。」
「クラウドさんは自分の記憶を封印して、クラウディアの記憶だけを呼び起こしているということですか。ジャック、脳に損傷は無いのですよね?」
「MRIではどこにもおかしい所はありませんでした。」
「そうね、何かのショックでそう言う事もあり得るわね。」
 医者達の会話にクラウドが不安そうな顔をしていた。
 そんなクラウドに視線を戻すと、この少年兵のどこにクラウディアの身代わりになれるほどの要素があるのか、医者達にはわからなかった。
 しかしセフィロスがクラウドの近くに寄ってそっと手を頬に当てた途端、クラウドの顔が花開くような笑顔になったのでびっくりした顔をする。それを視野の端に見ながらセフィロスがクラウドに告げた。

「おまえはちょっと頭を打って気を失ったのだよ。それで念の為に入院させたのだ。」
 自分の頬にあてられた手を自分の手で包みながら、クラウドがはにかんだ笑顔を見せると、その笑顔はクラウディアの笑顔と全く変わらない天使のような笑顔だった。
「もう…、サーったら心配性なんだから。私はもう大丈夫です。ドクター、もう帰ってもよろしいかしら?」
 クラウドの笑顔に見惚れていた脳外科医と精神科医がアイコンタクトをし合ってから、外科医にアイコンタクトを取り最終的に精神科医が判断を下した。
「ええ、いいわ。その代わり後遺症……、そうね、頭痛とか頭がふらつくとか、何かあったらすぐ来院して下さい。」
「はい、わかりました。」
 クラウドがベットから起き上がると、そっとセフィロスが手を差し伸べる。
 その仕草があまりにも板についていて一緒にいた医者達は何も気がつかなかった。

 ロビーに医者達に囲まれてセフィロスとクラウドが現れると、特務隊の隊員達が安堵の溜め息をついた。
「クラウド、びっくりさせるなよ。」
「もう、大丈夫かい?」
「早くかえって報告書書こうぜ。」
 屈強な男共がニコニコと笑い書けながら近寄ってくるが、クラウドはセフィロスの腕の影にかくれて脅えながら問いかけた。
「え? あの…どちら様でしょうか?」

 クラウドの言葉に隊員達がびっくりして固まった。
 ザックスが自分を指差してクラウドに問いかけた。
「俺が誰だか、わかるか?」
「え?ええ、エアリスの恋人のザックス様ですよね?」
 カイルがクラウドの答えにびっくりした。
「ザックス様ぁ〜!?」
「旦那、こいつクラウディア・モードに入っちゃったのかよ?!」
 ザックスの問いかけにセフィロスの後ろから医者達が一歩出て説明した。
「記憶混乱です。クラウドさんは自分の記憶を封印して、クラウディアの記憶だけを呼び起こしているのです。」
 説明する精神科医にジョニーが話しかけた。
「よぉ、ライザにマイラ、久しぶりだな。その記憶混乱って一体なんだよ。」
 目の前にいる男に二人の女医がびっくりした顔で話しかけた。
「ジョニー、あんた神羅カンパニーのソルジャーなんてやってたの?」
「お母さまが心臓病になるはずだわ。記憶混乱はその文字の通り記憶が一時的に混乱している状態を言うの。」
 リックがジョニーに聞いた。
「女医の知り合いなんていたのかよ?ジョニー。」
「大学で一緒になったダチの妹と恋人で同じ大学の後輩。」
「おまえ大卒で軍人やってたのか?」
「で、ライザ。クラウドは一体どうすれば治るんだ?」
 ジョニーが話を戻すとDrライザが丁寧な説明をした。

「現時点では治療の方法はありません。何だかの拍子で戻ると思いますが、それがいつ、どのようにしたら戻るとは言い切れないの。」
「つまり。戻るまでほかって置くしかない…、と?」
「ええ、無理に記憶を戻そうとすると何らかの障害が有るかもしれません。ゆっくりと気長に戻るのを待つしかないのです。」

 Drライザの言葉を聞いてザックスがセフィロスに話した。
「へー、それじゃあしばらくはクラウドは仕事出来ないな。」
 ザックスの言葉にクラウドがびっくりした顔をする。
「え?わたくし、モデルの仕事が出来ないのですか?」
 セフィロスがいつもクラウディアだけに見せる優しげな眼差しで話しかけた。
「しばらく休みなさい。部屋でゆっくりしていればいい。」
 医者達がセフィロスのクラウドに対する接し方を訝しむように見つめていたが、その視線を感じながらあえて無視して医者達に一礼した。
「では、これで失礼する。」
 病院から去って行こうとするセフィロスに念を押すように医者達が声をかけた。
「本当に何かあったらすぐに来院して下さいね。」
「特に頭痛にお気をつけ下さい。」
「わかってみえると思いますが記憶の回復を急がないようにお願いしますね。」
 セフィロスは心配する医者達に軽く手をあげて隊員達と一緒に病院を後にした。


* * *



 神羅カンパニー治安部統括室でセフィロスからクラウドの記憶障害を聞いてランスロットは頭を抱えていた。
 特務隊副隊長を勤める有能な士官であるクラウドの記憶が戻らない限り、執務に戻す訳にはいかない。しかしクラウドほどの士官をそう長い事休ませるのも難しい。
 ミッション依頼書の束を見ながら思わず溜め息をついていた。

 その頃、セフィロスは念の為にクラウドを連れて一旦、自分のマンションへと戻っていた。
 セフィロスの運転する車が見覚えのある道を走るのでクラウドが訪ねた。
「お部屋に一度帰るのですね?」
「自分が何処で暮らしていたかは覚えているのだな?では、なぜお前は私の部屋で過ごしていたかはわかっているのか?」
 クラウドは案の定、小首を傾げて不思議そうな顔をしていた、そして答えが思い出せなくて辛そうな顔をした。
「ごめんなさい、覚えていないわ。」
「では、今着ている白のロングコートの事は覚えているかね?」
 クラウドは不安げに顔を横に振ると、腰のアルテマウェポンを手に取る。
 その中の赤いマテリアが2つ穏やかな晄を放っていた。
「綺麗な宝石ですわね。」
 セフィロスは思わずため息をつきたいのをぐっと我慢して冷静に答えた。
「マテリアの事も覚えていないのか。」
「ええ、それよりも、なぜ私は男なのに女としてモデルをやっているのでしょうか?」
「もうすぐ部屋だ。コーヒーを飲みながら話そう。」
 車を専用の駐車場へと入れるとクラウドの腰を抱いてエレベーターに乗り込み、住み慣れた部屋へと入る。
 慣れた手付きでコーヒーを入れると、リビングに座っているクラウドの前にミルクと共に置く。壁のシステム家具のTVボードの上に飾られているフォトフレームに手をのばし、その中に入っている写真をクラウドに見せた。
「この写真をご覧。」
「まあ、私とサーですわね。挙式のお写真ですわよね。だからマリッジリングをしていたのですね。」
「やはり覚えていないのかね?お前を守るために、モデルであるクラウディアと言う別人物を仕立て上げたのだ。」
「ごめんなさい、なんだか色々と覚えていないみたいですわね。サーのおっしゃる通りしばらくこのお部屋で過ごします。」
「それは嬉しい事だな。」
 クラウドはセフィロスの優しげな顔に少し照れたように微笑むと、エプロンを取り出して服の上から身につけた。
「サーはまだお仕事が残ってみえるのでしょう?あまり出来ないかもしれませんが私は家の事をやらせていただきますので、気にせずお仕事をお続け下さいませ。」
 そう言ってクラウドはセフィロスを見送るため玄関へと歩こうとしていた。

 セフィロスがふと気がついて写真の事を聞く。
「一緒に写っている男達の顔を見た覚えは無いのかね?」
「ごめんなさい。どなたも……。」
「クックック それは面白い。一度本人達に会いに行くかね?」
「いいえ、お会いして記憶が無くて不快な思いをさせてしまうかもしれません。そんなことをすればサーのご迷惑になります。」
「そうか、では行ってくるよ。19時頃に帰ってくるつもりだ。」
「いってらっしゃいませ、お気をつけて。」

 さも心配そうな顔をして玄関で見送るクラウドに軽く口づけを落して、セフィロスはカンパニーへと戻って行った。