FF ニ次小説



 神羅カンパニーに戻ったセフィロスはクラスAの執務室に出向き、クラウドの記憶混乱と療養のため仕事をしばらく休む事をクラスAソルジャー達に説明した。クラスA仲間は皆、一様に驚いた。

 セフィロスを取り巻くようにして、クラスAソルジャー達が質問を代わる代わる浴びせかける。
「準ソルジャー扱いの記憶が戻っていないのですか?」
「正確にはクラウディアとしての記憶しかない。」
「彼は矛盾を感じなかったのでしょうか、クラウディアは女性ですよね?」
「それは納得させた。」
「自分の両親や故郷の事も忘れてしまっているのですか?」
「可能性が無いとはいえないな。とにかく戦士としての記憶は全くない状態だ。あれでは使えまい。」
「いつ戻るのかもわからないのですよね?」
「ああ、あまり性急に戻しても、何だかの障害が有るといけない。自然に記憶が戻るのを待つしかないそうだ。」
 やっと納得したのかクラスAソルジャーのトップであるブライアンが周りの仲間を見渡して一つの答えを出した。
「クラウドがいないのは正直キツイですが理由が理由です仕方有りません。」
「済まないな」
 エドワードがセフィロスの聞き慣れない言葉に思わずびっくりしながらも突っ込みを入れた。
「そういわれる割りに、お幸せそうですが?」
「エドワード、何が言いたい?」
「いえ、別に。美人の奥様によろしくお伝え下さい。」
 まるで揶揄するかのようなエドワードの言葉に、セフィロスは口元にかすかに笑みを浮かべた、そしてまるで楽しむかのように軽い足取りでクラスS執務室へと歩いて行った。
 その様子をクラスAソルジャー達は呆れたように見つめていた。

 ランディが思わずエドワードに声をかける。
「否定しなかったぜ。」
「そりゃ、マジで美人の嫁さんだもの。ずっと部屋に居てくれるならサーとて嬉しいんじゃない?」
「以前のサーなら間違えなく愛刀でバッサリやられていただろうに。」
「氷の英雄を氷解させた姫が今さら恐ろしい。」
「俺達、あまり良く思われていなかったりして。」

 キースの発言にブライアンが不思議な顔をした。
「良く思われていないのだったら今ごろ氷らされていると思うけど。」
「そう言う意味じゃないって、姫の実力が高いからと言え、クラスAの仕事は夜勤もあれば早出もあるだろ?一般兵の時とは違って部屋に帰ればいつもそこにいてくれるというは事ないじゃん。」
「なるほど、一理あるな。愛妻の居ない部屋に帰ってもつまらんとか言って、クラスS執務室でわざと仕事をしていたりして。」
「ある!ある!ある!ある!!」
「ともかく姫が望んだ立場とはいえ、サーから姫を横取りしているのは俺達だ。」
「そう言うことね。それならエドワード、お前だけ殺されてろ。」
「うわ!リック達だけじゃなくてサーにまで恨まれるのかよ?!」
「クラスAbPいい男で気の優しいエドワード君。せいぜい生き延びろよ。」
「まったく、人ごとだと思いやがって。」
「とにかく、早く戻ってほしいものだよな。」
「ああ、姫が居ないと寂しいものだよな。」

 クラスAソルジャー達はほんの半年しか在籍していないはずのクラウドが、すでに自分達には頼もしい仲間としてなじんでいたのを実感したのであった。


* * *



 クラスS執務室でもセフィロスはクラスS仲間にクラウドの記憶障害の事を説明していた。
 クラスSソルジャー達が一応に驚く。
「姫が記憶障害?!」
「ソルジャーとしての記憶が無いのですか?!」
「それは困りましたな、姫ほどの士官はそうそういません。」
「しかしキングは嬉しそうにみえるのですけどね。」
「それはそうでしょう、可愛らしい奥様を独り占め出来るのです、実に羨ましい。」
「姫がクラスAに編入されてから、遅出や夜勤などで部屋にお戻りになられてもお見えにならない時など、遅くまでこちらで執務されてみえましたからね。」
「しかし副隊長である姫が記憶障害では、ミッションどころか通常の任務すら出来ないですよね?どうされますか?」
「とりあえず、ランスロットの所に行ってくるが、いざとなればクラウド無しで隊を動かさねばならぬかもな。」

 セフィロスの言葉にパーシヴァルが突っ込みを入れる。
「おや?姫と別行動させると仕事をしないのではないのですか?」
「姫が自分と同行せずミッションに行かれると仕事が出来ないのではないか?」
「フン、何とでも言うがよい。ともかくランスロットの所ヘ行く。」
「あ、キング、どうやら向こうから来たみたいですね。」
 ガーレスが足音を聞き分けたのか、扉を開けてランスロットが入ってくると思わず深呼吸して安堵の息を漏らした。
「やはり慣れた部屋はいいものですね。ところでキング、お話があるのですが。」
「ああ。私も今、行こうと思った所だ。」
「では、いつものところへお願いいたします。」
「よかろう、行くぞ!」
「アイ・サー!!」
 セフィロスとランスロットを先頭に士官専用会議室へと入って行くと、いつものように円卓を囲みクラスSソルジャー達は顔を見合わせた。

 椅子に着席したランスロットがミッションの束をセフィロスに見せる。
「時にキング、これだけのミッションをどう振り分けるべきかですが?」
「ランスロット、貴様も統括ならばいいかげん私に聞かぬでも振り分けることができようが。」
「ランスロット、立場が逆ではないかね?」
「逆でもよいです。今からでも遅くはありません、キングがやはり統括になるべきなんです。」
「否定はせぬがキングが第一線を退くと言う事も考えられぬ話だ。」
 クラスS仲間たちが会話をしているのをよそに、セフィロスがランスロットからミッション指令書の束を受け取ると、全てをざっと眺め、上から順に戦友の名前を呼びながら指令書を手渡して行った。

「これはヴィアデの第16師団、これはアノリアの第24師団、これはグレインの第10師団、これはマリスの第18師団」
 ランスロットが思わずミッションの指令書とセフィロスの判断を比べて感心した。
「なるほど。それぞれのミッションに必要な事を得意としている所に渡せばよいのか。」
 ランスロットの言葉にセフィロスが指令書を突っ返しながら話しかける。
「できるだろ?」
「はぁ。」
 ランスロットがセフィロスの真似をして一通り指令書を配ると、尋ねた。

「キング、姫は一体どうなってしまうのですか?」
「その件でお前に聞きたい事がある。カームでの”偽”地下組織のミッションの時、クラウドに暗示をかけたとか言っていたが?」
「ええ、あの時姫が女性の言葉を使えないので、深層意識の中にクラウディアの事を覚え込ませたのですが。」
「ならば、逆は出来ないのか?」
「眠っている姫の意識に働きかけるのですか?」
「そうだ。」
「部屋に帰れば常に美しい奥様が、温かい手料理と共に出迎えてくださると言うのに、これ以上何を望まれますか?」
「それが無くなるのは嫌だが、私の隣にクラウド以外の男が立つのも嫌なのだ。」
「キング、それはあまりにも相反する事です。」
「もっともあのような愛らしい奥様のそばを離れたくないお気持ちはよくわかりますが。」
 セフィロスはクラスS仲間に言い切った。
「美人モデルで私の妻の顔も、有能な士官の顔もどちらもクラウドだ。何処が欠けてもそれは別の者となってしまう。」
「わかりました、しかしうまくいくとも限りませんがよろしいですね?」
 ランスロットの言葉を聞くとセフィロスはすぐに携帯を取り出してボタンを押す。
 2コール目で相手が出た、どうやら当のクラウドのようであった。
「私だ、クラウディアか?今夜、友を連れて帰ってもよいか?そうだな、5人ほど連れて行ってもかまわぬか?」
 携帯で話すセフィロスを珍しい物を見るような目でクラスS仲間が見ていた。
 セフィロスが携帯をたたむとクラスS仲間に向き合った。
「さて、ランスロット以外に4人の空きがあるが、どうするかね?」
「もちろん私が。」
「是非に。」
「私もです。」
「パーシヴァルとトリスタン、ガーレスとなると残りは私ですな。」

 リーの言葉に他のクラスS仲間たちからは文句が出るはずはない、なにしろ一年前にクラウドを鍛えた4人のクラスSソルジャー達なのである。
 4人は仲間たちの羨望の眼差しを受けながら鼻歌交じりで執務を続けた。


***



 その日の夜19:00、セフィロスの自室で、フリルのブラウスとピンクのフレアスカートにフリル一杯のエプロンを着けて、クラウドはキッチンに立っていた。
 7人分となるとあまり作ったことがないので、レシピをきっちりと守って得意の野菜スープにローストビーフ、ビーンズサラダにサフランライスと、せっせと作りながら味を見たりしてうなずいていたりします。
 やがて地下の駐車場にセフィロスの車と一台の車が止まった事を知らせる音がすると、あわててテーブルをセットしエレベーターが開くのを待ちます。

 扉が開くとセフィロスが5人の戦友をつれて入ってきたので、クラウドはあわてて玄関まで迎えに行くと、にこりと微笑みながら迎え入れた。
「おかえりなさい、サー」

 フリルのブラウスがあまりにも似合っている満面の笑顔は、戦場に立つクラウドを知っている男たちには別人にしかみえなかった。
 セフィロスが見たこともない優しげな笑みでクラウドに話しかける。
「ただいま、何も変わった事はなかったかね?」
「はい。」
 クラウドの答えにセフィロスがうなずくと戦友を紹介した。

「左からガーレス、リー、ランスロット、トリスタン、パーシヴァルだ。私の仕事仲間だ。」
 ランスロットが軽く会釈をしてクラウドに話しかける。
「挙式の日と去年のクリスマスの時にお会いして以来ですね。」
「お元気そうで何よりです。」
「あいかわらずお美しいですな。」
「我々の事はもしかすると?」
「覚えていらっしゃらないかも知れませぬな。」
 代わる代わる挨拶する屈強な男たちに、クラウドがさも済まなさそうな顔でうつむいてしまった。
 そんなクラウドをセフィロスがそっと抱き寄せて優しく諭す。
「大丈夫だ、こいつらはそんな事でお前を責めたりはしない。」
「ご…ごめんなさい。わたくし本当に何も覚えていなくて、サーにご迷惑をおかけしてばかりで…」
 ボロボロと泣き出したクラウドに、泣く子も黙るはずのトップソルジャー達が青い顔をしてあわてふためいた。
「ひ、姫そのようにお嘆きにならなくても。」
「姫?皆様は私の事を姫と呼んでお見えでしたの?」
「さようでございます。あなた様は我らが盟主と仰ぐサー・セフィロスの奥様でいらっしゃる。」
「我らはサー・セフィロスの事をキングと呼んでおります。」
「そのような理由で、キングの思われ人たるあなたを姫とお呼びしておりました。」
 クラスSソルジャー達の言葉に、クラウドが少し頬を朱に染めて照れたようにはにかんだ笑顔を浮かべた。それはいつも見ているスーパーモデル・クラウディアの笑顔だった。