FF ニ次小説


 翌朝、記憶のないクラウドに、日ごろは絶対恥ずかしがってやってくれない事をひととおりさせて、すっきり起きたセフィロスはほくそ笑んでいた。

(くっくっく、しばらくは楽しめそうだな)

 しかし腐りきっても英雄は英雄、きちんと仕事に行こうとベットから抜け出した。
 ふとクラウドを見ると青い顔をして死んだように眠り込んでいる。

(押さえがきかなかったかな?まあ、この程度で壊れるような鍛え方はしていないが。)     何をどう鍛えたと言うのだ?

 そう思いつつクラウドのまぶたにキスをしてベットルームを離れた。
 キッチンへ行くとコーヒーメーカーをセットし、冷蔵庫からキャベツやレタスを取り出し、適当に刻んだりちぎってボウルにほおりこんでいく。
 ベーコンを取り出してフライパンで炒めながら卵をわり入れる。
 日ごろはクラウドがやってくれている事だが、セフィロスでも出来ない事ではなかった。
 フライパンからベーコンエッグを皿に取り寄せて食べようとした時、ベッドルームから派手な音が聞こえた。


* * *



 クラウドは朝の日差しに目を覚ました。
 キッチンからベーコンを炒めるいい香が漂ってくるので、自分が寝坊したせいでセフィロスがキッチンに立っている事を悟ると、あわてて飛び起きるとベットから出ようとした。
 ところが思うように身体が動かなかったため派手な音を立ててベットから落っこちた。

 派手な音にあわててセフィロスがベットルームに飛び込んできた。
 ベットルームでは下半身をベットの上に残し、上半身だけベットから落っこちたような格好でクラウドが頭を撫でていた。

「いって〜〜!!」
「大丈夫か?!クラウド。」
「あ、足が動かないよ。」

 クラウドが半べそをかいているので、抱き起こしてケガを調べるために顔を近づけると、顔をしかめた。
「なんだか、頭に霞がかかってるみたい。」
「どう言う事だ?」
「わかんない、なんだかぼーっとしちゃって。」
「コーヒーでも飲むか?」
「あ、うん。でも、立てないよ」
「では、いつものようにベットの上で食事をするか?お姫様。」
 お姫様と呼ばれたクラウドはセフィロスの言葉に真っ赤になって怒鳴りつけた。
「セフィ!!いつ、俺がベットの上で食事をしたって言うんだよ!」
「クックック おまえはそんな事も覚えていないのか?いつも私に食べさせてほしいとお強請りしていたじゃないか?」
 セフィロスがそういうとクラウドが思わずうつむく、しばらくしてその青い瞳をまっすぐ向けて聞いた。

「本当に……そんな事を…していた…の?」
「ああ、そうだ。」

 次第にクラウドの瞳が冷たいものとなってきていたが、欲に走ってしまっているセフィロスは、まだある事実に気がついていなかった。
「ああ、お前は覚えていないかもしれないが、私はお前のお強請りにどうも弱いようでな。だからお前に強請られて結婚したのだが。」
「へぇ〜〜〜、そう。俺が結婚できたのは俺が強請ったからなんだ。セフィロス、あんた俺が頭打って記憶飛ばしてた時に、そう言って俺に何をさせたんだ?!」

 セフィロスがクラウドの剣幕に青くなる、クラウドは更に恐い顔をして怒っている……つもりだったが、どうもこうも童顔なのか恐い顔をしていても、恐さを感じられるという物ではなく、セフィロスに取っては拗ねて強請っている顔でしかない、思わずその顔に食指が動いてしまいそうになるが今のクラウドを、これ以上怒らせては何を言われるかわからないので必死でその感情を抑え込んだ。

「ク、クラウド。わ、私はお前が可愛いくて……」
 そう言ってクラウドを抱き寄せようとするとクラウドは腕の力で身体を後ろへと引きずって逃げようとする。
 しかしうまく力が入らずに軽々とセフィロスに抱き寄せられた。
「おまえが可愛いくて、ついついイタズラが過ぎたようだ。すまない。」
 耳元で甘く囁くセフィロスの声に身体が疼くがここで許しては後が恐い、クラウドはあえてセフィロスをにらみつけ続けていた。  そしてゆっくりと立ち上がろうとするがやはり足腰が立たない、仕方がないのでベッドの端に腕を立てて身体を引き起こそうとすると、そっとセフィロスが両わきを抱えて立ち上がらせてくれた。
 クラウドは思わずキツい口調で問いかけた。
「何?」
「いや、立ち上がれないようだったから手伝っただけだ。」
「俺を立ち上がれないだけ犯ったクセに。」
 クラウドの冷たい言葉がセフィロスにつきささる

(まずい。このままでは『私と別れる』だなどと言い出さないだろうか?)

と、急にあせりはじめた。    自業自得だろ?!
 しかしクラウドは冷たい瞳で見つめるだけでそれ以上は強く出ることはありません。
 なぜって?そりゃクラウドだって少しは悪いとは思っているんです、でも、嫌な物は嫌だから日ごろ断っていたのです。

そ…そんなに俺って、セフィロスの事満足させてなかったの?

 クラウドが上目づかいでセフィロスに尋ねた、そんな可愛い仕草までもが愛しくて思わずセフィロスは抱きしめてしまう。
「まったく、お前は可愛いな。」
「だって…。あの、その。俺、やっぱり男だし。それにガキだし、本当ならセフィの相手になんてならないんじゃ…。」
「お前でなければダメなんだと、何度言えばわかってくれるのだ?」
 クラウドは嬉しくて思わずセフィロスに抱きついた。
 セフィロスもクラウドの髪の毛をいつものように剥くように頭を撫でると耳元で可愛らしい声が聞こえた。

「今度は、セフィの誕生日だよ。」
「まった、それではずいぶん先のことではないか。結婚記念日も追加してくれ。」
「もう、セフィのばかぁ」

 真っ赤になって上目使いにクラウドに見つめらて言われる『ばかぁ』の言葉はセフィロスに取っては暗黙の了承のような物だった。
 そっとクラウドを立たせてキッチンへ導くと仲良く食事を始めた。


 この日遅番のクラウドはクラウディアの仕事をこなしてからカンパニーへと出勤した。
 すっかり記憶の戻ったクラウドにザックスは安堵し、リックとカイルは少し複雑な顔をしていた。
「おまえ、記憶が無くっても隊長が1番な訳?」
「俺達心中複雑だぜ。」
「そ、そんなこと言ったって。好きになっちゃうんだもん仕方ないだろ。」
「呆れて物もいえなくなるけど、そう言う一途な所も好きだな。」
 リックの首元にぴたりと冷たい物が当たった、セフィロスの愛刀「正宗」だった。
 リックが恐る恐る振り返ると地獄の死に神もかくや?といわんがばかりの雰囲気のセフィロスが立っていた。
「リック、貴様いいかげん諦めろ!」
「嫌ですよーだ!隊長が振られるまでずっと待ちます。」
「クックック、この私がクラウドに振られるとでも思っているのか?」
「ずいぶん自信がおありのようですが、性生活の不一致も離婚の原因の一つですよ。」

      ギクッ!

 心当たりのあるセフィロスはリックの一言に背中に冷たい物を感じる。
 しかし険悪ムードの二人の間に割って入ったのはクラウドだった。

「リック、お願いだからあまりセフィをいじめないでよ。」
 リックはクラウドの涙にぬれた青い瞳にメチャクチャ弱い、氷の英雄並みに弱かったりもする。
 思わず肩をすくめて溜め息をついた。

「リックの気持ちは嬉しいけど、俺にはセフィ以外の人は考えられない。どんな事があっても、なにがあっても、セフィが望む限りそばに居たいんだ。」

そう言ってリックをまっすぐ見つめるクラウドの瞳は空のように透き通った青い色をしていた。



『 if 』 クラウド偏  英雄ぶち壊れバージョン The end