ミッドガル3番街で反抗勢力を一掃している最中に、セフィロスは爆発に巻き込まれ頭をしたたかに打ちつけた。
反抗勢力はセフィロスの負傷にぶち切れたクラウドのおかげで一掃したが、頭を振りながら立ち上がったセフィロスは普通では無かった。
『if』 氷の英雄 偏
クラウドが蒼い顔でセフィロスに声をかけていた時だった。
「隊長、大丈夫ですか?」
「お前は誰だ?」
クラウドを見てセフィロスがあり得ない事を言うのでリックが口をはさむ。
「え?!隊長!!姫ですよ!貴方の奥様の!!」
「リック、私はいつ男などと結婚したのだ?」
「た、隊長殿、覚えていないのですか!!自分達、特務隊の憧れの君をさらうように結婚されたのですよ!!」
リックの言葉を聞きながらセフィロスの冷淡なアイスブルーの瞳がクラウドを捕らえていた。
クラウドはその視線の冷たさに、かすかに涙を浮かべ今にも泣き出しそうな顔をした。
「気に入らん、そんな顔をするな。」
「すみません。」
「白いロングコートを着ているということはクラスAか。私は副官を持った覚えは無いのだが、貴様がクラスAなら副隊長か。見た所まだ子供ではないか。」
セフィロスの言葉にカイルとリックとザックスが思わず吹き出した。
それをさも気に食わないと言う顔でセフィロスが視線の端に止めた。
「何を笑う?リック、カイル、そしてそこの男!」
「ひでー!俺の名前まで忘れたのかよ!!俺はザックス!あんたの部下だよ。」
「本当に覚えてないのですか?やりぃ!姫、あんな薄情な旦那別れちまえよ!」
「カイル!姫の気持ちも考えろ!!」
4人の会話を聞きながらクラウドはうつむいたまま涙を流していた。
おもわずリックがクラウドを抱き寄せた、その優しさにクラウドは肩にもたれて泣きじゃくってしまった。
「ひっく……うぇっく……ううう………」
「大丈夫だ、きっと思い出してくれるさ。」
リックがそう言ってクラウドの肩を抱きながら、頭を撫でるかのように髪を梳いてやっていると、首元になにやら冷たい物が当たっているので、首をめぐらせるとセフィロスが正宗をぴたりと自分の首に当てていたので青ざめる。
「た、隊長殿!!俺には疾しいことは……って、あれ?」
「隊長?どうしてリックに正宗を?」
セフィロスがカイルに言われてはたと気がついた。そして自分の行動に不思議そうな顔をしていた。
「す、すまない。私とした事が、一体どうしたと言うのだろうか?」
そんなセフィロスを見てリックがクラウドにこっそりと耳打ちした。
「クラウド、安心しろ。いくら記憶を失ったからと言え、隊長殿の隠された記憶のどこかにお前の事がある。ちょっと試したい事があるから協力しろ。いいな?」
そう言うとリックはセフィロスを振り返ると正面を見据えて言い放った。
「隊長がクラウドの事を知らないって言うのでしたら、自分が恋人にしてもいいんですね?」
「………。」
何も言えないセフィロスに軽く舌打ちをすると、リックはクラウドを抱きしめてキスしようとした。
「じょ、冗談だよね?リック。」
「冗談じゃない、俺はずっとお前の事を見ていた。誰にも譲りたくなかったんだ。」
そう言うとリックの顔が徐々に近寄ってきた。
クラウドが思わず顔を背けようとするとリックの力強い手が、自分の細い顎を捕らえて正面を向かせる。
「リ、リック。いやだ!!やめて!!」
クラウドの瞳から涙がこぼれはじめるが、リックはやめなかった。
あとちょっとでリックの唇がクラウドの唇につく……と、言う所で、いきなり派手な音を立ててリックがクラウドの前から消えうせていた。
クラウドにキスしようとしているリックを引っ剥がしてセフィロスがぶん投げていたのであった。
すっとばされて壁にしたたかに打ちつけられ、頭を振りながらリックがやっと立ち上がる。
「いって〜〜!!」
「隊長?」
カイルが言動におかしい物を感じてセフィロスを見ると、自分の両手を不思議そうに眺めていた。
「なぜ私が…?」
黙ってリックの行動を見ていたザックスが口をはさんだ。
「あんたはいつもこいつを横取りされそうになると、そうやって奪い取ろうとした男に正宗ぴたりと当てて脅していたんだぜ。”私の妻に手を出すな!!”ってな。」
セフィロスがザックスの言葉に思わずびっくりした顔をしている。
そしてまっすぐ自分を見つめている青い瞳を正面から見た時。
”この瞳、どこかで見たような……”
既視感にみまわれると不意にセフィロスが頭を抱えたので、あわててクラウドが駆け寄り支え、副隊長としての指示を出した。
「ザックス、隊を任せる!俺は隊長を部屋まで送って行く。」
「まかせておけ、報告書も書いて置いてやる。」
報告書嫌いのザックスの言葉にユーリがびっくりする。
「へぇ〜!報告書嫌いのザックスがどういう風の吹き回しだ?」
「ヘン!俺だってやる時はやるの!皆、帰るぜ!!」
「アイ・サー!」
隊員達がカンパニーに帰っていくのを見送ると、セフィロスを連れてクラウドは部屋に帰っていった。
マンションに付くとクラウドが手慣れた様子で専用エレベーターのパスコードを入れ、何のためらいもなくエレベーターに乗り込むと最上階にある部屋の扉の前に立ち、左手の静脈と目の採光とパスコードで扉を開ける。
クラウドが玄関をあけたとたん、セフィロスの頭の中にある光景が一瞬浮かんだ。
”おかえり……セフィ”
金髪碧眼のものすごい綺麗な子がすこし照れたような笑顔で自分を出迎え、すっと背伸びをして自分に触れるだけの口づけをくれる…ような光景だった。
「誰かがここで出迎えてくれた?」
「覚えていらっしゃるのですか?」
「一瞬、その光景が頭に浮かんだ。」
「そうですか。」
そんな言葉が嬉しくてクラウドがいつものようにふわっと微笑むと、その笑顔が先程自分の頭に浮かんだ綺麗な子とだぶるのでセフィロスがびっくりする。
「お前が……ここに居た?」
「はい、サーのおそばで過ごしていました。」
「そうか、すまないがいつものようにしてくれ。」
「よろしいのですか?」
「二言は無い。」
セフィロスはそう言うと自ら部屋の中に入って行き、部屋の中を見渡すと、キッチンもリビングも自分の記憶とはどうも少し違って感じたので、自分一人で生活していたわけではないとセフィロスはなんとなく感じ取っていた。
いつものようにコートを脱ぐとすかさずクラウドがコートを受け取りブラシをかける。
クラウドの行動にセフィロスには全く違和感を感じていなかった。
そんな自分に首をひねりながらシャワールームへと向かう。汗を流してシャワールームを出ようとすると、扉のところにバスタオルと着替えが置いてあった。
「ふむ、かなり手慣れているようだな。するとリックが言っていたことは本当なのか?」
独り言を言った後、タオルで身体を拭き出された私服を着るとリビングへと戻る。とたんにキッチンからよい香が立ちこめてきた。
何の匂いかとセフィロスがキッチンに向かうと、クラウドがエプロンを着けて料理をしていたのであった。
その時ふたたびセフィロスは既視感に襲われていた。
”サウスキャニオンのアンダーソン夫人が『素敵なだんな様をとりこにするには料理上手になればいい』っていろいろレシピを教えて下さったの”
”今日はお客様が来るから張り切っちゃった”
そう言って振り返る少女のような少年のような存在がこの部屋に居た??
まさかな?と思いセフィロスは軽く頭をふるとリビングへ戻る。
するとリビングのTVボードの上の写真に目が止まった。
「これはナイツ・オブ・ラウンド達ではないか?!ではこの花嫁は誰だ?そこにいる少年なのか?」
その声にクラウドが気がつきキッチンからエプロンをしたまま現れた。
セフィロスの手にあるフォトフレームに気がつくと、少し照れてはにかんだような笑顔で、そっと左手をセフィロスにさし出した。
「その写真の花嫁は自分です。サーの左手にも自分と同じ指輪がはまっているはずです。」
セフィロスはあわてて自分の左手に視線をめぐらせて、自分の左手薬指にはまっている指輪と、少年兵の左手薬指にはまっている指輪を見比べると、信じられないものを見たような顔でクラウドを見つめた。
その顔を見てクラウドが思わず暗い顔をして、唇を噛み締め青い瞳に涙を浮かべはじめる。
「お嫌でしたらいつでもはずします。」
何かを我慢するかのようなクラウドの顔になぜかセフィロスは
”二度とこんな顔をさせたくない”
と、思った。
そっと指輪を抜こうとするクラウドの手を自分の意志では無い何かが働いて一瞬のうちに止めていた。
しかし、なぜ自分がそんなことをしたのかわからずにセフィロスはとまどっていた。
そしてその答えを出すためにクラウドに写真の事を聞くことにした。
「その前に答えてほしい、これは今からどのくらい前の事だ?」
「9ヶ月前です、去年の9月にカームでのミッションがあり、教会の地下組織に接触する為に……」
「一つ聞いてよいか?サウスキャニオンにミッションで行ったことはあるか?そこにアンダーソンという人はいるのか?」
「はい、ミッションでちょっと利用した形になってしまったご夫妻です。」
「なるほど、どうやら本当に私はお前を妻にしていたようだな。しかも9ヶ月もの間解消していないのならば私自身が望んでいたのか。」
独り言のようにつぶやいた言葉にクラウドは少し安心していた、それほどセフィロスの状況判断はかなり的確で冷静だった。
「では俺、料理の続きが有りますので。」
そういってぺこりとおじぎをする少年を見送ると、壁に立てかけてあった少年が腰にはいでいた剣に目をやる。
そっと鞘から抜き取ると赤い召喚マテリアが2つ光り輝いていた。
「なに?!これはバハムートとナイツ・オブ・ラウンド!あの少年兵がこんなに強い召喚獣を使いこなしているというのか?!」
ソルジャーでも召喚マテリアを所有しているのはかなりの使い手である。しかもシヴァとかイフリートとかラウムとかソルジャーならば誰でも使えるような召喚マテリアしか持ってはいなかった。
しかし目の前にある召喚マテリアは”己が召喚する召喚主を決める”ほどのマテリアである。そんな召喚マテリアはクラスSでも一部のトップクラス、しかもこれほど強い召喚獣を従えている者は誰も居ないのである。
あのか弱そうな少年兵が竜王と呼ばれる召喚獣と、数年前に自分ですら弾かれた幻の召喚マテリアを所持している事がセフィロスには信じられなかった。
「なるほど、お前らが傅くほどの力を持つ男なのか。だからあんな華奢な少年が私のとなりに立っていられるのか。」
セフィロスの言葉に召喚マテリアがここちよい晄を発していた。
剣を鞘に納めてしばらくリビングのソファーに座り学術書を読んでいた。
どのくらいたっただろうか?不意に背中から声をかけられた。
「あの…、お食事の支度が出来ました。」
にこやかに微笑む少年をセフィロスは再び驚きの表情で見つめていた。
「おまえは……私の後ろにいたのか?!」
「はい。」
「この私が後ろを取られて気がつかなかったと言うのか?!」
クラウドはセフィロスの言いたい事がよくわからなかった。
|