FF ニ次小説


 セフィロスは常にどんな状態でも、瞬間的に戦闘態勢に持っていく事ができる男だった。そして後ろを取られると言うことはほぼあり得なかった。

 誰かが後ろを取った時、敵であればそいつは殺されていたし、味方であればだれが来たのかは感覚的にわかっていた。
 しかし現実に自分の後ろから声をかけてきた少年は、自分に取ってはまだ味方と言う意識のない男だったのである。
 その事実に思わずびっくりしていたのであった。
『わたしは心のどこか……かなり深い所でこの少年の存在を許しているのか?!』

 クラウドは動こうとしないセフィロスにハッとして一瞬顔を曇らせ、唇を噛み締めてうつむいてしまった。
 その表情を見た途端、セフィロスがあわててたち上がった。
「ああ、すまなかったな。」
 そういうと足早にキッチンへと向かうと、テーブルには丁寧に盛りつけられた料理が並んでいた。
「ほぉ、凄いものだな。」
 セフィロスに誉められたとたんに、クラウドの顔がぱあっとほころび、そして照れたようにはにかんだ笑顔になった。
 その表情の変化をセフィロスは自分でもわからぬままかすかに微笑んで見つめていた。

 クラウドの手料理はどれも手が込んでいて下手なレストランの物よりも美味かった。
 料理に舌鼓をうちながら、セフィロスは先程感じた既視感の事を思い出していた。
「 ”素敵なだんな様をとりこにするには料理上手になればいい”……か。」
「あの……それを何処で?」
「以前、そう言う事をお前から聞いたのかもしれないな。」
「そうですか……よかった。」
 セフィロスの言葉に思わずクラウドがほっとした。

セフィロスの記憶のどこかに確かに自分がいる。

 その事実だけでクラウドは嬉しかったのであった。

 しかし日ごろ交わされる会話があまり無かったうえに、お互い人とかかわるのが苦手な性格だったので、食後の時間は会話もなく過ごしていた。
 やがて時計の針が12を指す頃、セフィロスは自室へと入って行った。
 クラウドはリビングの明かりを落すとゲストルームへと入って行った。

   一人で寝るのは久しぶりだな。

 そんな事を思いながらゲストルームのベッドに入って目を閉じるが、30分経ってもなぜか眠れなかった。

(おかしいなぁ、ミッションの時だって一人で寝ているというのに何故だろう?)

 このままでは明日の仕事に差し支えるので、ちょっぴりワインでも飲もうとリビングへ行くためにベッドから出ようとした時に、いきなり扉が開きセフィロスが入ってきた。

「あの、どうされましたか?」
「わからない。なぜか眠れないのだ、お前ならその理由を知ってると思った。」
「えっと……それは……」
 どう説明してよいか困ってしまいクラウドはうつむいてしまった。

 ベッドに腰かけてうなだれるクラウドは大きめのYシャツを寝間着代わりにしていて、第二ボタンまであけていた。そのすき間からちらりとのぞく白い肌や首元にセフィロスの目が釘付けになっていた。
 思わず駆け寄ると知らないうちにクラウドを抱きしめ、細い首元に唇をはわせていたが、無意識のうちに行っていた自分の行為に自らびっくりして、いつの間にか組み敷いていた少年を見下ろしていた。

「なるほど、どうやら私はお前を抱いて寝ていたようだな。お前を抱いた瞬間に不安が無くなった。」
 そう言うとクラウドを姫抱きに抱き上げて自分のベッドルームへと歩いて行った。

 キングサイズのベッドにそっとクラウドを横たえると、まるで抱き枕を抱くかのように抱き寄せるが、なぜかまだ違和感が残っていた。
「教えてくれないか?まだ違和感があるのだが?」
 クラウドは何も言わずにまとっていたYシャツのボタンに手をかけると、一糸纏わぬ姿になった。
 真っ赤になって何も言えずに、ただ青い瞳を自分に向けていたクラウドをもう一度抱き寄せると、セフィロスは不思議と気分が落ち付いた。

 ゆっくりと瞳を閉じるとまたフラッシュバックのように頬を朱色に染め何ともいえない顔でこの少年兵が艶やかな声を出す姿を思い出した途端、いきなり自分の下半身に信じられない反応が起こった。

 ”私はこの少年に欲情しているとでも言うのか?!”

 自分の感情とはかけ離れた反応をする自分の体にいらだちを覚えたが、ふと腕の中を見ると金髪の少年が穏やかな顔で目を伏せている。
 その整った顔にそっと手をあてがうと少年がうっすらと瞳を開け、かすかに微笑んで自分の胸元に擦り寄ってくるので細い顎を掴み自分に顔をむけさせると青い瞳がうるんでいた。

「どうした?」
「あ、いえ。ついクセで……すみません。」
「なんの事だ?」
「俺が擦り寄ったりしたからサーが不快に感じられたのではないかと思いまして……」
「フン、そう言う事か。お前が何者かはまだ思い出せぬが、擦り寄られても不快感を感じないほど私はお前に気を許しているようだ。」
「セ、セフィ……」

 クラウドが掠れた声でいつものように呼んでしまってからハッとして首をすくめる、しかし怒られると思ったセフィロスの反応が違った。
「聞いてもよいか?私の事をおまえはいつもそうやって呼んでいたのか?」
「あ、はい。」
「私は誰にも愛称で呼ばれた覚えは無い、しかし不思議と違和感は無いな。」
 セフィロスの言葉にクラウドはにこっと笑って再び目を閉じた。

 やがてクラウドから穏やかな寝息が漏れてくると、不思議と自分の気持ちも穏やかになり、しだいにセフィロスも睡眠状態へと入って行った。


* * *



 朝の晄がベッドルームにさし込みはじめた。

 まくら元の時計を見ると5:30分を指していた。
 ふと目の前の少年に目をやると気持ちよさそうに眠っている、その寝顔にセフィロスは何故か目が離せなかった。
 やがてぴくぴくと少年のまぶたが揺れて寝ぼけたような瞳が開かれて行く。

「あ……セフィ、おはよう。」
 そう言うと少年は自分に触れるだけの口づけをくれた。

 思わずセフィロスが目を見開いて少年を見つめたためか、少年がすぐに気がつきすまなそうな顔をした。
「ご、ごめんなさい。サー。」
「いや。何故だろう、とても気分が良かった。もう一度キスをしてくれないか?」
 セフィロスの言葉に目の前の少年が頬を染めてうなずくと、再び触れるだけの口づけをくれた。
 思わず両腕で華奢な身体を抱きしめて、むさぼるかのように深く何度も角度を変えて、クラウドの口の中を味わうかのようにセフィロスはキスをした。

 腕の中で少年の息が次第に上がって行くのを感じた。
 そしてその感覚は昨夜感じた自分の下半身の反応を再び感じていた。
 腕の中で最初は抵抗していたかのような少年が次第にその力をゆるめ、セフィロスの行為に身を任せているので不思議に思って少年に尋ねる。

「私はいつも、お前にこのような事をしていたのか?」
「あ、はい。 いつもプライベイトで一緒のときは抱いて下さいました。」
「嘘ではなさそうだが、今はそれよりも朝食が食べたいな。」
「わかりました、すぐにご用意いたします。」
 そう言ってセフィロス能での中から抜け出すと、クラウドはYシャツを羽織ってベッドルームを出て行った。
 部屋を去って行くクラウドの背中を目で追いかけながら、心のどこかで少し寂しさを感じていた。

”寂しいだと?!この私がなぜ寂しさを感じなければいけないのだ?!”

 軽く頭をふるとベッドから抜け出して、サイドテーブルに置いてあった服を着る。
 このような私服を買った覚えは無いのだが不思議としっくり来るのを感じると、やはり自分の記憶のどこかが欠落している事を今更のように実感した。

 キッチンでクラウドが朝食の支度をしていると、玄関のチャイムがなると同時に聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「おーい、クラウド!お兄ちゃんだよー!」
 キッチンに居るクラウドが玄関に飛んでいった。
「ザックス!どうしたの?こんなに朝早くに?」
「なんだかお前が心配でよー、旦那にいじめられていないか、ってさ。」
「朝ご飯まだなんでしょ?一緒に食べない?」
「おお!!クラウドの手料理なんてひっさしぶり!!食う!食う!!」
 玄関先で勝手に会話が進み、昨日見た山嵐のような髪型の男が部屋に入ってきて、リビングにいるセフィロスを一瞥するとびっくりした顔をした。
「なんだよ、そんな不機嫌な顔をするなよ。そりゃ俺はどうせ邪魔者だけどさー!」
「フン、本当に邪魔な虫だな。」
「ふんふん、どーせ虫ですよ虫!……って、え?記憶戻ったの?」
「いや、まだ不完全なままだと思うが。貴様はこの私に向かってなぜ敬語を使わぬ?先程だとてなぜこの少年兵に”兄ちゃんだよー”だなどと言ったのだ?」
 ザックスはリビングのソファーに座りながら、セフィロスに人懐っこい笑顔を浮かべた、その笑顔はどこかで見たような覚えがしたのであった。
「俺は2年前からあんたの部下だった。しかし俺は上官とはいえあんたとお友達になりたかったのよね、だからあんたが嫌がらない程度のタメ口を聞いていた。こいつはカンパニーの訓練生の時に噂で聞こえてきた腕を確かめに行った時から気に入ってて、あんたがクラウドと一緒になってからはあんたの事を旦那って呼んでたんだぜ。」

 セフィロスはザックスの言葉を信じられないような顔をして聞いていた。