FF ニ次小説


 ザックスの言葉に矛盾も無ければ嘘をついている様子もないようであった。
 しかしセフィロスがザックスの言葉を信じるとすれば、自分の記憶は2年前から消えうせているらしい事実に突き当たる。
 セフィロスが少し考え込んでいる所へクラウドがリビングへ入ってきた。

「朝食の支度が出来ました。」
「わかった。」
 二人の会話にザックスがびっくりする。
「なに?クラウド。おまえ旦那に敬語使ってんの?」
「うん。まだ俺への記憶が戻らないうちは失礼があったらいけないから……」
「タメで話してたんだからそっちの方が違和感が無いんじゃないのか?」
「俺にはできないよ。だって、今はセフィロスにとっておれはただの一般兵だ。」
 二人仲良く会話しているのに少し苛ついた物を覚えてセフィロスが会話を切った。
「一般兵?おまえはクラスAソルジャーではないのか?」
「準ソルジャーです。まだ16歳なのでソルジャー試験を受けられないのです。」
「なるほど、それで魔晄の瞳ではないのだな。」
 ザックスはセフィロスのクラウドに対する態度を感じ取ってほくそ笑んでいた。

”なんだかんだいいながら旦那の奴、クラウドに気を許しているじゃないか。記憶が無いだけで以前と雰囲気がかわんねぇ!!って、ことはなんだ?やっぱコスモキャニオンの星見の塔の占いってのは当たってるって、事なんだな。”

 などと感心していた。
 クラウドがキッチンに置いてある料理が気になってセフィロスに声をかける。
「あの…、お食事が冷めちゃいますけど?」
「ああ、すまん。」
 そう言うとソファーから立ち上がりキッチンへと行こうとして、振り返ると後ろからザックスとクラウドが並ぶように歩いてくるのを見付け思わずムカッとした。
 無意識にザックスを退かすと、セフィロスはクラウドの肩を抱き寄せるのでザックスが唖然とした顔をした。
「旦那、あんた本当に記憶戻ってないのか?」
 セフィロスが自分の腕の中に居るクラウドを見つめながら目を丸くした。
「まだ、欠落したままのはずだが何故だ?」
「条件反射かよ!」
「あの、お食事……」
「おう、悪い悪い。さっさと食って仕事に行こうぜ。」
「あ、そういえばサー・ランスロットは覚えてみえますよね?ハイデッカー統括をクラスSの皆様が首にして、現在統括にはサー・ランスロットが就任してみえます。」
「ランスロットが?何故だ?」
 その疑問に食卓についてトーストにかじりついているザックスが、テーブルに座ろうとしていたセフィロスに向かって話しかけた。
「そりゃ旦那のせいだって。あんたとクラウドを別行動させて、クラウドだけ単独でミッションに行かせようものなら、あんた心配で仕事も手につかずにイライラして、まわりに八つ当たりするってクラスSの連中全員を脅したんじゃねえか。」
「なに?!ナイツ・オブ・ラウンドともあろう者共がそんなたわいもない事を真に受けたとでも言うのか?!」
「それを真に受けちまったんだよ。ナイツ・オブ・ラウンドもこいつのおかげで、あんたが孤独な”氷の英雄”から自分達の戦友になったほど豹変したんだ。あんたとクラウドの関係はクラスSとクラスA、そして俺達特務隊の中ではすでに認められているんだよ。」

 ザックスの言葉にクラウドが照れたような顔でカップにコーヒーを注いでいるのを横目で見るセフィロスの顔はなぜか穏やかだった

 全員で食事を取っているとザックスが図々しくもおかわりの催促をした。
「ザックス、早いよー。」
「だってよぉ、クラウドの手料理なんて半年ぶりだぜー、あいかわらず料理うめえなぁ!」
 そう言うとザックスはクラウドを抱き寄せてほっぺたに擦り寄った、すると首もとに冷たい物を感じた。

「だ、旦那。俺にはエアリスっていう可愛い未来の嫁さんがいるんだーー!こんな所で死にたくねえってば!!」
「ふん、貴様などこの正宗の露にするのも惜しいわ。」
 クラウドはセフィロスのとなりでくすくす笑いながらミルクを飲んでいた。
 その笑う声がなぜか心地よく感じる、セフィロスがクラウドを見つめながらかすかに微笑んでいるのをザックスがみとると、再び人懐っこい笑顔を見せて二人に話しかけた。

「ところで、よ。今日休暇届け出してどこか行かないか?」
「ふむ、記憶の欠如があるから致し方ないな。」
「お、俺も?」
「当然。おまえ真面目だろ?有給かなり残っているはずだぜ。俺は一旦カンパニーに行って報告書出してくるついでに休暇とって来るからきっちり化けるんだぜクラウディア!」
「も、もう。ザックスのばかぁ。」

 クラウドが真っ赤になって上目づかいでザックスを見ている。その顔が他の男に向けられているだけなのだがなぜかイライラしていると、ザックスがセフィロスの視線を感じてにやりとした。
「旦那、記憶が無くてもこいつに関しての独占欲だけはどうも忘れていないみたいだね。ま、10時にミッドガル8番街のフラワーショップ『アンジェ』で待ってるぜ。」
「あ、うん。」
 ザックスはそう言って全員の食べた皿をキッチンに持っていくと、軽く水で洗って自動食器洗濯乾燥機にならべてスイッチを入れてから部屋を出て行った。

 セフィロスがクラウドを追いかけるように話しかけた。
「あいつの言っていたクラウディアというのは誰なんだ?」
「俺です、俺の女装した時の名前です。ちなみにモデルもやっていたりします。」
「それでベッドルームのクローゼットの中に女物の服が入っていたのか。」
「はい。サーが俺みたいな少年兵と恋仲だなどと……あなたの名誉にかかわるような噂を流したく有りません。」

 うつむいて唇を噛み締めるかのように話しているクラウドをセフィロスは思わず抱きしめて口づけを落した。

「ずいぶん色々と我慢させているようだな。」
「いえ、自分が選んだ事です。」

 そう言うとクラウドはセフィロスの腕の中から離れて服を着替えに行った。
 シルクサテンで出来たロイヤルブルーのワンピースはセフィロスのお気に入りだった。そのドレスを身にまとうとピンク色のカチューシャで跳ねた髪をおさえ、胸にかかる髪をくるくるドライヤーで巻き髪にする。
 手慣れた様子で軽く化粧をすると剣とバングルを魔法で縮めてアクセサリーとして身につけた。
 出来上ったのか立ち上がり振り返った少年兵が微笑むと、まるで天使のような笑顔を持つ凄い美少女にしか見えなかったのでセフィロスが思わず唸った。
「どうかされましたか?」
「いや、お前を見ていると人間不信におちいりそうだ。実力でクラスAに上がった男だと言うのに、私のためにそこまでやるのか?」
「はい。私の全てはサーと共に有ります。」
「では、お前は私に死ねと言われたら死ぬのか?」
「はい、そのかわり死ぬ時はサーに殺されたい……」
「では望みどおり私がお前を殺してやる。」
 そう言うとセフィロスは正宗を鞘から抜き払った。
 クラウドは少し悲しそうな顔をしてセフィロスに一言残した。

「わかりました、でも最後に一言だけよろしいですか?」
「何だ?命乞いなら聞かぬぞ。」
「貴方を……愛していました。さようなら…どうかお幸せに……」

 そう言うとクラウドは寂しげな笑顔を向けてから、セフィロスに背中を向けて祈るような姿で座り込んだ。
 セフィロスが正宗を振り上げようとするが先程の悲しげな笑顔が頭から離れない。
 感情を無視して正宗をクラウドにつきたてようとすると激しい頭痛がセフィロスを襲った。

「くっ!!」
 セフィロスが正宗を手放して片ひざを付いた。
 物音に気がつきすかさずクラウドが振り返ると涙交じりにセフィロスにすがりついた。

「セフィ!!大丈夫?!」
 セフィロスが軽く頭を振って立ち上がったので、それを見てクラウドが安堵のため息を漏らした。

「では、サー。どうか、続きを……」
「何の続きだ?だいたい私をサーと呼ぶとは何だ?」
「え?あの……一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「どうしたと言うのだ?クラウド。なぜ敬語など使う?」
「セ、セフィ?俺ってセフィの何?」

 困惑した視線を自分に向けるクラウドにセフィロスがあきれた顔で耳元で囁いた。
「私の最愛の妻で、公私に渡る最高のパートナーだ。」

 クラウドはセフィロスの言葉を聞いて思わず抱きついた。いきなり抱きつかれて何がなんだかわからずセフィロスがとまどう。
「ど、どうしたと言うのだ?」
「ううん、なんでもない。ねぇ、セフィ。もし俺があなたに『殺して下さい』って言ったら……どうする?」
「私にお前を殺せるはずがないだろう?」

 セフィロスはそう言うとクラウドの姿を見て微笑んだ。
「どこかへ行く所だったかな?」
「えっと、10時にエアリスの店でザックスと落ち合う約束なんだけど。」
「ならばまだ時間があるな。なんだか……お前を抱きたい気分なのだが?」
「もう……。せっかくのお化粧が崩れちゃうじゃない。」
 そういいながらクラウドはセフィロスにしなだれかかる。
 にやりと口元に笑みを浮かべてセフィロスがクラウドを抱き上げた。


 それからしばらくクラウドの艶やかな嬌声がベッドルームから漏れていた。
「もぅ……ダメェ……歩けなくなっちゃうっ……ぁっ!!」

 掠れ気味に聞こえた言葉に、セフィロスは何も言わずにベッドサイドに置いてある携帯に手を伸ばすと、手慣れた様子でどこかに電話をかけた、3コール目で相手が出た。

「遅い!」
「何だよ、セフィロス。って、まさか?」
「何があったのかはしらないが10時に8番街へは行かないぞ。」
「来ないって……ちょっと!クラウドはどうしたんだ?!」
「クラウドか?今出られるような状態ではないな。」

 そう言うとワザとセフィロスが軽く動く。とたんにクラウドが嬌声を上げた。

「ぁぁん!ちょっと……ザックス…に…きこえ…ち…………ぁん!!」

 ザックスが携帯の向こうからかすかに聞こえたクラウドの艶やかな声に真っ赤になった。
「ば、馬鹿野郎!!独身に嫁さんのそんな声聞かせるな!!」
「ふん、とにかくこう言う訳だから今日は部屋でゆっくりする。」
「へーへ、もう好きにしろ。言っておくが二度とクラウドの事忘れたらゆるさねぇからな。」
「忘れても……抱けば思い出すさ。」
「はいはい、ご馳走様で。」

 ザックスは携帯をたたみながら優しげな顔でつぶやいた。

 ”よかったな、クラウド”

 ザックスはエアリスをデートに誘うべく8番街のフラワーショップ『Ange』へとデイトナを走らせた。



 『 if 』 氷の英雄偏 The End