FF ニ次小説


 午前の部が終わるとクラスAが執務室に戻ってきた。
 真っ青な顔をしているエドワードに銘々声をかけている。
「エディ、気を確かに持てよ。」
「有る意味、羨ましいぞお前。」
「姫に抱きつかれるなんてクラスAbPいい男はダテじゃないって?」
「短い付き合いだったな。」
「みんな、エディがなんか死んじゃうみたいじゃん。いくらなんでもクラスAソルジャーを殺すような事はしないよ。」
「気軽に言うけどなぁ……ああ、もう!いいや!!何を言っても変わらないからな。あ〜あ、あの時姫の首のキスマーク見逃してればよかった。いや、それ以前にクラスA入ってきてすぐに笑いかけなかったらよかった。」
「辞表でも書いてやろうか?」
「いい思いを何度もさせてもらったんだ。まあ、死ぬ気で頑張れよ。」
「他人のことだと思いやがって。」
「実際、他人事だ。」
 ひとりどんよりとした雲を背負っているエドワードを尻目に、クラスA仲間がわざと茶化すのを横目で見ながら、クラウドは紙袋をもって執務室を出て行った。
 クラウドが部屋を出て行くのを見てバージルが思わず声をかけた。
「あれ?姫、何処に行くんだ?」
「ああ、今度はマジモードでクラウディアになる気だぜ。ザックスと彼女を羨ましそうに見てたから、着替えたら?って言ったんだ。」
「それで抱きつかれてリックとキングに睨まれてた訳ね。」
「はぁ〜〜〜、俺ってつくづく損なタチなんだな。」
 エドワードは盛大に溜め息をついたその頃、クラウドは携帯でランスロットに連絡を取っていた。

「あ、ランスロット統括ですか?クラウド・ストライフです。お願いがあるのですけれど、括室の控え室を少し貸していただけませんか?」
「はぁ?開いていますからいいですけど。一体何をなされるつもりですか?」
「スーパーモデルがそこらへんから出てくる訳に行きませんからね。統括室からなら出てきても怪しまれないんじゃないかと思いまして。」
「そう言う事ですか。では、一つだけお願いがあります。本日の行事の最後に出し物の表彰があるのですが、賞品を手渡していただけますか?」
「クラウディアが呼ばれた理由には最適ですね。了解いたしました。せいぜい”世界の妖精”を演じさせていただきますよ。」

 携帯を折り畳むとまわりに気を配りながらクラウドは人の居ない本社へと入って行った。エレベーターで67Fまで上がり人のいないのを確認すると統括室へとこっそりと入る。中でランスロットが待っていてくれた。
「一応、モニターの画像は消去しておきました。しかし、お嫌いでは無かったのですか?」
「セフィが他の人に取られるぐらいなら、我慢するもん。」
「まったく、あなたと言う方は……可愛らしいですね。」
 クラウドはランスロットの言葉に少し拗ねたような顔をするがすばやく控え室へと入って行った。やがて30分もするとスーパーモデル・クラウディアが姿を現した。

「お食事はまだですよね?本社の幹部用食堂にご案内いたします。」
「ありがとうございます、でも待っててくださるかもしれませんから。」
 そう言って軽やかにおじぎをするその姿は、何処からどう見ても先程まで剣をもって仁王立ちしていた戦士とは思えない。ランスロットが丁寧にエスコートをして治安部へと歩いて行くと、本社のロビーでルーファウスとばったりであった。
「これはこれは、お呼びしていましたか?」
「意地悪ですのね社長。」
「ツォン、私も一般解放の会場へ行く時間は有るか?!」
「多少でしたらございます。」
「では、ご一緒させていただこうか。」
「よかった、これでキングに半殺しの目に合わされずにすむ。」
 そういうランスロットとクラウディアを挟むようにして少し前をルーファウスが歩きはじめた。会場に近づくにしたがい次第に人が多くなってくる。
 ツォンに先導されてルーファウスとランスロットにエスコートされたクラウドは、天使の笑みを浮かべて通り過ぎる人達に軽く会釈をしながら歩いていた。人々がその天使の笑顔を見てざわつきはじめる。

『クラウディアだ』『うわ〜〜、綺麗〜〜!!』『ほっそ〜〜い』

 リックがざわめきに気がついた。
 クラウドと食事を取ろうとして探していたのだが、何処を探してもいなかったので、機嫌が最悪に悪いセフィロスに話しかけた。
「隊長殿、どうやら奥様がいらっしゃってるみたいですよ。」
「何?!」
「あ〜、本当だ。社長と統括にエスコートされてますね。」
「あっ、エアリス〜〜!!」
 ザックスのとなりにいたエアリスがクラウディアの前に飛び出した。

「きゃぁ〜〜!!クラウディア、久しぶり〜〜!!」
「ええ、お久しぶりですエアリス。お昼はもう食べたのかしら?」
「ま〜だ。それよりもクラウディア、愛しのだんな様が待ってるわよ。」
「え?待ってるって……」
「そのせいで食事がお預けだったんだから〜。私、もうおなかぺこぺこよ。」
 エアリスがランスロットとルーファウスから奪うようにクラウディアを連れ去る。ランスロットは笑顔で見送ってくれたが若社長はあきらめきれないようだった、しかし統括がそれを遮った。
「レディ・クラウディア。忘れないで下さいね。贈呈式は4時からです。」
「はい、ありがとうございますサー・ランスロット。」
 丁寧なおじぎをした後で振り返ったクラウドが目にしたのは、自分に向かって極上の笑みを浮かべている愛しい人の姿だった。

「待っていたぞ。」
 セフィロスがクラウディアの方へと軽く手を伸ばすと、頬を染めてうつむきがちにおずおずと手を取った。
「ご、ごめんなさいね勝手に……」
「いや、いい。それよりもお腹が空いていないかな?」
「はい、はい、は〜〜〜い!!メチャクチャ腹減った!!」
「お食事に行きましょうよ、ね。」
「え、ええ。」
 セフィロスに腰を抱かれ、リックに先導されて広場に設営されたレストランへと行く、外部から許可を得て入ってきているレストランだった。
 リックとカイルがレストランの手前で一礼すると4人と別れた。

 食事を取っているといつの間にか人垣が出来ていた。その人垣の中に輸送部隊のイェンとジーンもいた。
「小隊長殿、どう言う事ですか?」
「どうもこうも、俺が知るかよ。」
「それにしても綺麗な女性ですね。」
 デザートのプチケーキをセフィロスからもらってにっこりと喜びながら、クラウディアは少しフォークにさして『はい、あ〜んして。』などとやっている。
 セフィロスが口に入れたくないのか断ると、青い瞳に涙を浮かべてシュンとする。そんなクラウディアの髪をすくようにセフィロスがゆるやかに微笑むと、再び彼女の顔が明るくなったかと思うと照れてうつむく。
 その様子は何処から見ても非のうちどころのない恋人同士であった。

 輸送隊の一般兵達と衛生班の隊員達が首をかしげている、そんなようすを感じ取りながらクラウドがほくそ笑んでいた。

 半日クラウディアとしてカンパニーの中でセフィロスのそばにいただけだが、カンパニーの中にあったセフィロスとクラウドの関係を一蹴する事ができた。


* * *



 翌日。嬉々とした顔で特務隊の執務室に入ってきたクラウドを待っていたのは、ランスロットとセフィロスとパーシヴァルににらみつけられていたリックだった。
「隊長、統括、サー・パーシヴァル。一体どうされたのですか?」
「ああ、姫。昨日のクラスA、クラスSを合計45人抜いたリックをクラスSソルジャーの全員一致で、クラスA扱いとする事にしたのです。」
「そうしたらリックの奴、クラスAへのランクアップを拒否するんですよ。」
「リック、理由を言え。」
「自分がクラスAにランクアップすると特務隊から抜けねばなりません。しかし、自分は特務隊以外に所属するつもりはありません。」
「これからもキング抜きで特務隊を動かす時が来るかもしれない。その時に姫の副官が欲しいのです。その役割が出来るのは君しかいないのですがね……」
「特務隊の副隊長補佐ですか?ならばお受けいたします。」
「リック!!やったね!コレで俺クラスAでもリックと組めるんだ!!」
「ちぇ、俺がやりたかったのに。」
「悪いな、猪突猛進の貴様に姫の補佐は譲らないぞ。」
「今に見ていろ、絶対にリックを抜いてやる!」
「うん、がんばってね。ザックスはもう少し戦略を勉強すれば、クラスAどころかクラスSに行けると思うよ。」
「それも悪くないな、決めた!俺、絶対クラスSに行ってやる!そして旦那の代わりにお前とペアを組むんだい!!」
「頑張れよザックス。おまえがセフィロスを追い出せば彼が統括だ、私は再びソルジャーに戻れる。」
「アイ・サー!!」
 びしっと敬礼するザックスにセフィロスが苦笑した。
「ザックスが私に取ってかわるだと?笑わせるな。トップソルジャーの座もクラウドの隣も誰にも譲るつもりはない。」
「へん!!言ってろ!絶対ぶち抜いてやる!」
 ビッと親指を立ててザックスがにっかりと笑う、それを見てリックが苦笑いしながらパーシヴァルについて特務隊の執務室を後にした。クラウドがあわててクラスA執務室に駆け込んだ。

「ブライア〜〜ン!ペア変更の希望していい?!」
「え?誰と組みたいんだ?」
「リック・レイノルド!!」
「って、待て!あいつクラスAに上がってくるんかよ?!」
「うん!!昨日のクラスAとクラスS合計45人抜きが認められたんだって。本当ならクラスSなんだろうけど……リックまだ指揮した事ないからね。」
「うわ〜〜、ブライアン強敵が来たな。」
「あいつならクラスAのトップを譲ってもかまわんよ。」
「命拾いしたな。エディ。」
 クラスA執務室に笑顔があふれた。

 やがて白のロングをまとったリックが、パーシヴァルと共にクラスAにやってきた。
 クラスA仲間がブーブー文句言いはじめる。
「リック、貴様なら一気にクラスSだろうが。」
「ま〜たお前にいじめられるんかよ?」
「姫とブライアンとエディと俺とでしっかり戦略教えてやるから、さっさとここを出てクラスSに行け!!」
「歓迎されてね〜〜!!」
「俺だけは歓迎してやる。やっと肩の荷が降りた。」
「リックはここでも俺とペアだからね。よろしく!!」
「大歓迎!!お前は俺が守る!!」
「いきなりコレだよ、困った一般兵だ。」
「クラスA最強のコンビになりそうだな。」
「一般兵が最強ってのも困りもんなんだけど。」
「そりゃ言えてる!!」
 クラスA執務室は笑顔に包まれていた。

 その日からクラウドのとなりにはリックが常にへばりついていた。
 一週間もするとカンパニーの中にクラウドのお相手はリックだと、まことしやかな噂が立ちはじめ、リックがセフィロスにいじめられる日々が来た……
と、言うのは…また別のお話。



The End