自分の影とまで呼ばれている男、リック・レイノルドが、クラスAに上がって2週間が過ぎた。その間にクラウドが指名でリックをペアにした事や、クラスA全員をあっさりと倒した事を笑顔ではしゃぎながら話す愛妻にセフィロスは訳のわからない感情に振り回されていた。
FF7 パラレル小説 Jealousy ー ジェラシー ー
神羅カンパニーから車で高速を使って10分ぐらいのところに、セフィロスの住む高層アパルトマンはあった。セキュリティーもずば抜けて高く、高層階に行くと1フロアを占有するほど広い部屋は、ミッドガルのステイタスシンボルでもあった。
その最上階にセフィロスは1年ほど前から恋人と暮らしていた。
今や自分の伴侶となったその恋人がキッチンに立ってかいがいしく料理を作っていた。
やがて玄関が開くとこの部屋の主である銀髪の長身の男が現れると、料理をする手を休めてクラウドが玄関にお出迎えをする。
「おかえり、セフィ。」
精一杯背伸びをして触れるだけのキスをすると、照れたようにうつむく。
一緒に生活をしはじめて1年と少し、あと3ヶ月もすれば結婚して一年が経つと言うのに、今だに自分からキスするのに照れてしまうようなお子様な伴侶に、セフィロスがお返しとばかりに深い口づけを与えようと腕の中に絡めとると、青い瞳の中に妖艶な晄がほのかにともる。
そんな愛しい妻の姿に目を細めながらセフィロスが部屋へと入ってきた。
クラウドがエプロンを取りながらかいがいしくセフィロスの世話を焼く。
黒のロングコートにブラシをかけてハンガーにかけながら、クラウドは今日の事をセフィロスにはなしはじめた。
「今日はねー、ミッドガルの見回りの日だったんだ。リックと一緒に7番街を担当したんだ、そうしたらティファにばったりと出合っちゃって……あいつ、俺達の事見付けて『あ〜、クラウド。デートなの?』だって。もう、まいっちゃうよ。」
「今度会ったらめがねでも買ってやれ。」
先程まで極上の笑みを浮かべていたはずのセフィロスがいきなりむすっとした。そんなセフィロスにおかまいなしでクラウドはまだ話し続けていた。
「あそこのマスターまで出てきちゃってさ、『おまえ女だったのか?』だよ、俺ってそんなに女にしかみえないのかな?」
「さあな……しかし、一つだけ言えることはあるな。」
「ん?なぁに?」
「私の腕の中ではお前はどんな女よりも色っぽいぞ。」
真顔で言われた睦言に、クラウドが顔を真っ赤にして青い瞳をうるうるとさせ、うつむく顔は凶悪なまでに可愛らしい。By 英雄視点つんと尖った唇はどう見ても誘っているとしか感じられない。食卓へと誘いながら思わず唇へと口づけをすると、クラウドはセフィロスの腕の中で少し抵抗したので思わず眉間にしわを寄せた。
「何をあがく?」
「だって……食事が……。」
頬を赤く染めやや息を切らしながらも、夕食が冷えてしまう事を心配するクラウドの腰を抱きながら耳元で囁く。
「食事の後なら、いいのだな?」
「ば…ばかぁ……。」
真っ赤な顔でうつむきながら上目づかいにクラウドに言われる『ばかぁ…』のセリフは、セフィロスに取っては暗黙の了承のような物だった。額にもう一度唇を落すとテーブルに座った。
テーブルの上にはいつものようにクラウドご自慢の手料理が並んでいる。これをせっせと作っている姿を想像すると、とてもでは無いが日ごろ反抗勢力やモンスター相手に一歩もひるまない戦士とは思えない。セフィロスが思わず苦笑するとクラウドがそれを見とがめた。
「あ〜、なんかへんな事思ってたでしょ?」
「ああ、反抗勢力に”地獄の天使”とか”白い悪魔”と呼ばれてるお前と、フリルのエプロンが似合う可愛い妻のお前。どっちが本当のお前なんだろうなと思ってな。」
「俺のこんな姿を知ってるのはセフィだけなんだから。」
「ザックスとエアリスも知っているぞ。」
「ザックスは俺のお兄ちゃんかわりなんだから仕方無いだろ?」
「あの山猿もマダムセシルのドレスのために真面目にやってるようだな。」
「そういえば……、先日の一般開放の時にクラスSの皆さんが俺に無理難題を言うかと思ってたけど、皆さんどうしてごく普通のお願いだったんだろう?」
一般開放で迷路の勝ち抜きラスボスとなっていたクラウドは、自分が負けたら言うことを一つ聞く事になっていた。クラスSに負けたらセフィロスと別れろとか、自分にキスしてくれとか言われると思っていたのであったが、セフィロスの戦友であるクラスSソルジャー達が自分へ希望した事と言えば、一番多かったのは自分の隊の副隊長になってほしいと言う事だった。これはリックが全力で阻止した上にクラウドも特務隊以外に行く気は無いので、全開でクラスSと渡り合った。
次に多かったのはミッションで一緒になりたいという願い。これはミッションの内容しだいという条件でOKしたのであった。
心配していた”キス”とか”自分と付き合え”とか”セフィロスと別れろ”という希望者は現れなかったのであった。
「そういえば、サー・ガーレスとサー・パーシヴァル。サー・トリスタンなんて俺の手料理が食べたいって言ってたけど……。」
「却下だ。」
「セフィって友達を家に呼んだりしないの?それとも俺ってやっぱり人に自慢出来るようなパートナーじゃないんだ。」
そういうと急にうつむき、クラウドの青い瞳から涙の雫がこぼれ落ちた。セフィロスがあわててクラウドの頬に伝わる涙を指でぬぐってやる。
「そうではない。私にはまだ友達と言う感覚がわからないのだ。闘う為の友ならクラスSの連中や特務隊の隊員達がいる、しかしプライベートで自分と付き合っているのは、おまえとザックスとザックスの彼女ぐらいなものだ。」
クラウドはセフィロスの言葉に唖然としていた。彼がそう言う感情に疎いと言うのはなんとなくわかっていた。ザックスのように誰彼かまわず友達になれると言うのも珍しいと思うが、まさかセフィロスも自分と一緒で、人とかかわる事をあえてしなくなっていたとは思っても見なかった。
「セフィは友達とか欲しくないの?」
「お前がいればそれでいい。」
まっすぐな瞳で見つめられて言われた言葉に、口説かれたような気がしてクラウドが真っ赤になる。その様子にセフィロスは思わず笑みを浮かべ、しかしすぐに表情が変わった。セフィロスにしては珍しくうつむいて何かを考えているような顔だった。そしてぽつり、ぽつりと話しはじめた。
「私と友になればその男とはやがて死に別れねばならなかっただろう。理由がなんであれ私の命を狙う連中がその男を狙わない理由が無い、私は反抗勢力が言う通り”死に神”なんだよ。」
セフィロスの発言にクラウドはショックを受けていた。
たしかにセフィロスはカンパニーのトップソルジャーで、今までに何度も死地を潜り抜けてきている。その時、きっとたくさんの部下や戦友を失ってきていたのであろう、クラウドは思わずセフィロスの背中に回って椅子に座ったままの孤独な英雄をゆったりと抱きしめた。
「セフィ、やっぱり優しいんだ。」
「私が優しいだと?フン、笑わせるな。」
「優しいよ。だって親しくなった人を死なせたくなかったから、ワザと親しい友達を作らなかったんでしょ?」
「何度も言わせるな、私には友達と言う感覚がわからないのだ、愛しいという感情だとてお前に出合って一ヶ月わからなかったのだ。」
「大丈夫、きっとわかるようになるよ。だってザックスやエアリスと一緒にいられるんだもん、そう言う感覚が”友達”でいいんじゃないかな?」
「そうか……そうだな。」
セフィロスがかすかに微笑んだ。
背中から感じる確かな暖かみと重みが自分のすれた心を癒してくれていた。
(この暖かさを……この重みを……失いたくはない。)
常に自分の腕の中に閉じ込めてずっと守り続けていたい愛しき者、しかし当のクラウドはそんな事を喜ばないのをセフィロスは知っている。まだ実戦慣れしておらず体力がほとんど付いていない一年前ならまだしも、いまやクラスSソルジャーすら倒すことができる有能な士官のクラウドを危険だからと置いていくようなことはできない。
「私は、お前に何を望んでいるのであろうな。こうして帰ると部屋にいてうまい料理と笑顔で出迎えてくれるのと、戦場で私のとなりに立ち、剣を振るうのでは全く正反対だ。おまえを危険な目にあわせたくないと思いつつも、お前ほど頼もしい戦士もいないと思っている。クラウド、お前はどうしたい?もうソルジャーにはなれないぞ。」
「うん、そうだったね。ソルジャーはもう作らないんだよね。今、言えるのはセフィのそばに居たいって事だけだよ。俺、貴方を守りたい。貴方の心ってガラスみたいだから傷つかないように守っていたい。」
「クラウド……」
セフィロスは自分の心がガラスみたいだなどと、誰からも言われた事はなかった。
しかし目の前の少年はいともあっさりとそれを口にする。それが事実であるかどうかを別として、ここまで”死に神””銀鬼”と恐れられる自分を思ってくれている人がいる事はセフィロスの心を癒していた。
「お前と一緒に居ると癒されるな。」
「んふっ、そう?嬉しいな。俺プライベートのセフィにはゆっくりと休んでほしいもん。仕事の事なんて考えないで、とがらせた神経をゆるめてほしいんだ。そうじゃないとセフィが壊れそうで嫌なんだ。」
セフィロスはゆっくりと立ち上がるとにっこり笑っているクラウドを抱きしめた。
キスを一つ交わすと食べ終わった皿を片づけるクラウドの横で、そっと手伝いながらゆるやかな笑顔をクラウドに向けていた。
そして皿を食洗機に入れるとクラウドを抱き上げて寝室へと入って行ったのだった。
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