自分の事を心から思ってくれる人が居る事に、セフィロスは少しとまどっていた。
今まで自分のまわりにいた者は、自分を実験材料としてしか見たことのなかったエセ父親と、自分のことを手駒にしか思っていないカンパニーの役員達、そして自分を鬼神のように崇める民衆と、敵対する反抗勢力ぐらいであった。
そんなセフィロスがクラウドのおかげで恋と言う感情に目覚め、愛おしく思う気持ちや思いやる気持ちが育ちつつあった。
(クラウドにはいつも驚かされる。)
それはセフィロスの素直な感情だった。
そしてその気持ちが次第に自分のまわりの人達へと向けられるようになりつつあった。
* * *
神羅カンパニー治安維持部統括室。しかめっ面をしたランスロットがデスクで執務をこなしていた時、不意に扉がノックされてセフィロスが入ってきた。意外な訪問者にランスロットがびっくりする。
「キング、いかがなされました?」
「いや、お前のしかめっ面が見たくて来ただけだ。」
「まったく、可愛くありませんね。どうして素直に”手伝いに来た”と、言えないんでしょうね?」
「馬鹿者、統括の職務を自ら手伝うソルジャーが何処に居る。」
「とか、なんとかいって。このところよくお見えになって…。」
「うるさい!!貴様が私に意見を出来る立場か?!」
「ええ、立場的には貴方にいくらでも意見出来ますよ。」
しれっとした笑顔でランスロットが切り替えすと、セフィロスが何ともいえない顔をした。そんな様子を見て思わずクスリと笑みが漏れる。
「嬉しいですね、キングがやっと身近に感じられます。それもこれも皆可愛らしい奥様のおかげと言うのでしたら、私は彼に感謝してもし切れませんね。」
笑顔を隠しきれない様子でランスロットが話しかける。しかしセフィロスにはなぜランスロットがそう言い切れるのかわからなかった、いつものような冷静な瞳でついっと部屋の中に入ると、ランスロットのデスクにたまっている書類を取り上げる。
「フン、相変わらず出来ない奴だな。」
「出来なくて結構です。私は貴方に統括を渡すまでの橋渡しですから。」
「貴様はそればかりだな。」
「おや?否定しませんね。姫と別行動になるんですよ。」
「何がクラウドに取って良いことなのか、わからない。あいつはいつでも一隊を指揮出来る実力を既に持っている、もう少し体力がついたらクラスSへ上げてもよいと思う。しかし、クラスSへ上げて一隊を任せてその時クラウドにミッションを手渡す事が貴様にはできるのか?」
「私なら行かせます。」
「何故だ?」
「どの兵の命の重みも等しいのです、姫だけを特別扱いすることはできません。」
「なるほど、統括の職務を優先したか。」
「そう言う事になりますね、しかし無力感は感じますよ。貴方は笑いますか?自分が育てた一般兵やソルジャー達が私の出す紙切れ一枚で戦地に行き、命を失う危険を伴うのです。ここで座っていて生還するのを祈っているよりも、自分が飛んで行って、前線に立って守ってやりたいと思います。でも、私は統括の職務に有る限りそんな事出来ないのです。兵を信じて待つしか出来ないんですよ。」
「辛いな……。」
氷の英雄と言われたセフィロスが感情を表に出した言葉をランスロットはこの時初めて聞いた。一瞬目を見開いて、そしてゆるやかに微笑むとランスロットはセフィロスに言った。
「貴方ほど一人の兵に思い入れていないだけです。もし、私が貴方の立場なら、同じように迷っていますよ。迷ったすえに自分のわがままで軍を退役させようとするでしょう。相手がいくらそれを望んでも、自分の目のとどかない戦地で…万が一、命の危険にさらされたら生きた心地がしません。」
セフィロスはランスロットの答えになぜか満足していた。
机の上の書類をひと通り片づけてセフィロスは何も言わずに統括室を出て行った。
* * *
そのころ特務隊執務室では、クラウドがザックス相手にパソコンで戦略をシュミレーとしていた。
キーボードを何個か叩くとそのシュミレーションの結果が出る。
「OK、ミッションコンプリート。これでクラスBのシュミレーションクリアだね。」
「やっとクラスB終了か、つかれたぁ〜〜!!」
イスに座ったまま大きく背伸びをしたザックスに気がついたのかカイル、ジョニー、ブロウディー達が話しかけてきた。
「少しは知恵付いたか?」
「山猿に知恵なんてあるのか?」
「姫も気が長いね〜、猪突猛進の山猿相手に戦略教育だなどと……物になるのかなぁ?」
「てめぇら!!言わせておけばいい気になりやがって!!あったま来た!その場を離れるなよ!魔法のエジキにしてやる!!」
ザックスのバングルにはめられていた魔法マテリアの晄が強くなっているのを見て、冗談を言っていた隊員達が蒼い顔をして逃げ出した。
「うひゃ!!にげろ!!」
「甘いわ!!ブリザガ!!」
3人に氷の刃が襲いかかった時、いきなり緑色の晄が3人を包んだ。氷の刃がその光で跳ね戻ると、今度はザックスに向かって飛んできた。
「あ?!ぎゃあ!!!」
ザックスが腕をクロスして氷の刃を受け止めようとするが、その前に立ちはだかった炎の壁が氷の刃をたたき落とした。
カイルがまだ蒼い顔をしてクラウドを見た。
「ひ……め?」
「うひゃぁ、お前の魔力ってこんな瞬間に2回も発動出来るのかよ?!」
「クラスSに行こうって言うなら、最低でもこのぐらいになってもらわないと。ついでに召喚マテリアを持てるというのも追加してもらおうかな?」
クラウドがにっこりと笑いながら話している時、ちょうどそこにセフィロスが入ってきた。
ザックスのブリザガの発動とクラウドのリフレク、ファイガの発動を感じ取っていたのか、いきなり会話に参加しはじめた。
「クラスSに来るのなら召喚マテリアを持てるのは当たり前だ。出来うるならクラウドのバハムートを持てるまでになれ。」
「バ、バハムート?!うわ、あいつメッチャ気が荒い召喚獣じゃん。」
「気が荒い?」
「そーだぜ。旦那はどうか知らねえけど、この間ひょんな拍子でクラウドの剣を持ったこと有るのよ。いきなり頭の中にバハムートが”貴様のような男が握る剣ではないわ!”って怒鳴りつけるんだぜ!!その時ナイツオブラウンドの召喚マテリアがいさめてくれたけど、あんな強烈な召喚獣をよくお前が従えているな。」
セフィロスが不思議そうな顔をしているのでザックスがぶすっとしたような態度で話を続けた。
「なんだよ〜、そんな不思議そうな顔をすんなよ。」
「意外だったな、ザックスがバハムートとナイツオブラウンドの声を聞き分けられるとは。」
「なんとかね、魔力が吸い取られるような感じだったぜ。」
「クックック、試されたな。」
セフィロスの言葉にザックスがいぶかしげな顔をする。クラウドがアルテマウェポンに目を落しながら話しはじめた。
「バハムートさん優しいんだよ。俺、その時の事覚えている。バハムートのマテリアがちょっと黒ずんでいたから取り出して聞いたもん。そうしたらバハムートさんザックスが間違って召喚すると、俺よりも魔力が低いから下手すれば死んでしまうって言ってたよ。だから持たせちゃいけないって。」
「そうかな?私が無理やり掴んでもこいつは怒って拗ねるが?」
「隊長は強すぎて自分が力を貸すような男ではないって言うんだ。」
そこへリックが入ってきた。
クラウドはアルテマウェポンからバハムートのマテリアを抜くと軽く握って、心の中で話しかけた。
”バハムートさん。いまからある男に握ってもらうけど……いいかな?”
”我が主よ……、何がやりたいのだ?”
”今から手渡す男の力量を見てほしいんだけど……”
”……よかろう……承知した。”
バハムートの了解を得てクラウドがリックに近づくと、不思議そうに尋ねてきた。
「ん?何か用?」
「俺の相棒になる為の試験まだだったよね、これ握って見て。」
そう言ってクラウドはリックに赤いマテリアを手渡した。見慣れた輝きがリックの手のひらに乗った、言われた通りに軽く握るが何が何だかわからない。
「どっちのマテリアだ?俺には全然わからんよ。」
リックの言葉を受けてクラウドがセフィロスと向き合った。
「隊長。魔晄の耐性と魔力は別物なのでしょうか?」
「ある程度鍛えた精神的に強い者であれば下級魔法なら使用出来る。しかし上級魔法や召喚マテリアは精神を鍛えただけでは扱えない、やはり魔力は魔晄の耐性と比例するようだ。」
「そうなんだ……。リック、それバハムートさんだよ。」
リックは手のひらの召喚マテリアをクラウドへと渡しながら青ざめていた。自分の手元に戻ってきた召喚マテリアをゆるく握りながら、クラウドは心の中でバハムートに問いかけた。
”どうだった?”
”どうもこうも無い 精神的には強いが全く魔力が無いに等しい。
あれではアレイズどころか高位魔法は全て難しいのではないかな?”
”そう、ありがとう 助かったよ”
「隊長、リックはクラスAには不向きかもしれません。」
「魔力が無いからか?」
「わかっていて、それでも上げたのですか?」
クラウドはセフィロスの言葉に驚いていた。
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