リックに高位魔法を操れる力がないと言うのに、部下を持つ地位であるクラスAに上げた理由が、クラウドにはわからなかった。
セフィロスが不思議そうな顔をするクラウドに説明をしてくれた。
「リックの唯一の弱点なのは知っている。魔力が無いというのは魔法をかけられたら弱いと言う事だからな。6年間で何度モンスターのステータス変化の魔法にかかった事か……。」
ザックスがにやりと笑ってつっこみを入れた。
「それでもクラスAをやらせるのは一体誰の為でしょうかねぇ?」
「やっぱ嫁さんが心配だからか?」
「俺ってそんなに信用無いのですか?」
「違うな、ガスト博士がソルジャーから魔晄の力を抜こうとしているのは知っているな?そうすると今の仕組みががらりと変わる。ソルジャーから魔晄の力を抜いたら、どのぐらいの人数がクラスの変更をせねばならんと思う?」
カイルが真面目な顔でセフィロスに聞いた。
「だから隊長は俺にもクラスアップしろと言うんですね。」
セフィロスが黙ってうなずくのをみると、カイルとジョニーがお互いを見てうなずき答えた。
「特務隊以外に行かないで済むならランクアップの試験受けます。」
「でも、ザックスに悪いな。」
ザックスがジョニーの言葉に反応した。
「おまえら、俺よりも上に行くつもりかよ?!」
「クックック…。そうだな、カイルとジョニーならクラスBか、もしかするとクラスAに行けるかもしれん。」
しかしセフィロスの言葉にリックは複雑な顔をしていた。
「カイル、ジョニー。クラスAに上がっても魔力がないと大変だぞ、クラス1stの方が魔力に関してはマシだったかもしれん。」
「クラウド、リックはどのぐらい使えるとバハムートは言っていたんだ?」
「アレイズどころかハイクラス魔法は無理だと…。」
「あ、さっきバハムートのマテリア持たせたのはそう言う理由があったのか。」
ザックスの言葉を聞き流してセフィロスはリックに向き合った。
「ケアルガもウォールも無理か…。低位魔法を使えば少しは魔力は上がる。少し鍛えてやろう。」
「光栄です!!」
「セフィロス、俺もいい?」
「クラウド、こいつの戦略シュミレーションはどこまで進んだ?」
「クラスBクリアです。」
「まあまあ頑張っているな。よし、来い!!」
リックとザックスを連れてセフィロスが部屋を出て行った。
残されたクラウドはうつむいて何かを考えているようだった
カイルが心配そうな顔で尋ねた。
「姫、一体どうしたんだよ?」
「ん?ちょっと羨ましいなって思っていたんだ。俺、剣や組み手なら教えてもらったけど、魔法はまだ教えてもらっていないんだ。」
クラウドのほんの小さな悩みに隊員達が笑って答えた。
「教わる必要が無いからだろ?」
「そりゃ言えてる。いきなりバハムートを使いこなす一般兵なんていないぜ。」
「今じゃ究極の召喚獣が2体も懐いちゃって…、隊長は召喚出来たけど、他のソルジャーじゃ呼ばれる事を拒否するんじゃないのか?」
「うん、そうみたい。統括が教えてくれたけど、クラスSソルジャーの誰もがバハムートのマテリアを持とうとして弾かれたらしいんだ。」
「うわ!!クラスSですら弾かれたのにそれをザックスは持ったのか?!」
「それは有る意味凄いわ。」
「じゃあ、さっきリックが持てたのはどうしてだ?」
「どうせ姫がバハムートにお強請りしたんだろ?」
カイルの言葉を受けて隊員達の中に笑いが起こった。
クラウドは思わずすねてしまう。
「お強請りって……ったく、もう。」
「そうと決まれば、俺も隊長のところに行こうかな。」
「ジョニー、お前はどうするんだ?」
「俺は無駄な事はしない主義なんだ。」
「無駄じゃないよ。魔力は使えば使うほど強くなるんだよ、ジョニーならガ系の魔法を使いこなせるようになるんじゃないのかな?」
「よく考えてみろよ。カンパニーが魔晄の力を使わなくなったら、どうなるんだ?」
ジョニーの質問にカイルが首をかしげた。
「わからん」
「カイル、クラスA失格。そんな簡単な事が推測出来ないのか?魔晄の力を使わなくなったら星を守る為に戦っている連中、つまり反抗勢力が闘う理由が無くなるんだ。そのうえ魔晄を封鎖すればモンスターがキメラになる確率が減る。そうなるとどうなる?」
「たくさんのソルジャーは不要になるのか……。」
「うん。だからこの場合の答えは治安維持軍が不要になる…だな。」
「じゃあ、今いる軍人をやめさせる必要があるのか?」
「そう言うこと。そうなった時一体どういう人物からリストラされると思う?」
「ジョニーや姫みたいに次の仕事が決まっている人間…だな。」
ブロウディの言葉にジョニーがうなずくと、カイルがハッとする。
「ジョニー、お前そこまで考えて…。」
「ああ、遠からず俺はカンパニーを辞めねばならないだろう。帰りたくは無いんだけどな…帰らざるを得なくなるんだよ。」
「俺も、モデル業に専念させられる訳?」
「姫の場合カンパニーでもトップクラスの実力だろ?ケガでもしない限り大丈夫なんじゃないの?」
「俺、やっぱりもっと身体を作らなきゃだめだな。」
クラウドの言葉に逆らうようにカイルとジョニーが一緒に声を出した。
「お前はこれ以上鍛えるな!!マッチョな天使なんざ見たくねぇ!」
「ぶぅ!!」
クラウドがふくれるのでジョニーがクラウドの頭をわしゃわしゃとなでつけた。
「お前には、俺が会社に戻った時もイメージモデルを続けてもらうんだからよ、華奢な天使でいてくれ。」
「何年後の話なんだよ。」
「いいじゃねェかよ、生き延びようって気になるんだからさ。」
「条件が3つ有るな、お互いそれまで生きている事、俺がそれまでクラウディアをやっていること、セフィロスが認めること。」
「約束だぜ。」
ジョニーが親指をビシッと立ててクラウドに合図をする。
クラウドも同じ仕草をしてジョニーに答えた。
そんな二人を視界の端に捕らえながらカイルがリック達と合流するべく、特務隊の執務室を飛び出して行った
カイルが向かった先は窓も何も無い魔法訓練室だった。
ノックをして返事を待つとセフィロスからの声がかかる。
「カイルか、入ってもいいぞ。」
扉の向こうには腕を組んで立っているセフィロスと、壁に寄り掛かっているザックス、そして座り込んでいるリックがいた。
「リック…どうした?!」
「魔力がなさすぎて、なんだか情けなくなってきた。」
「一般兵にしてみれば出来る方だぜ。」
「やはりクラスAはキツいかも知れぬな。」
「魔力以外ならクラスSと言われてるリックでもダメか。」
「上位クラスに行くと部下を守る義務が生じる、魔力が少ないとケガを回復させる力すらないって事だぜ。」
「ザックス、やってみろ。」
セフィロスのご指名を受け、ザックスが寄りかかっている壁をゆっくりと離れ、リックの座り込んでいる場所まで進むと位置を変わった。
セフィロスがコンソールパネルを操作するとザックスの雰囲気が変わる。赤いパネルが現れると同時にザックスが魔法を発動させた。
「ファイガ!!」
パネルが入れ代わり黄色いパネルが降りてきた、すると今度はサンダガをザックスが発動させる。パネルの色と攻撃魔法を間違える事なく最高位魔法を発動させる。5分ほどで終了の時間が来たと同時にセフィロスの手元のコンソールにザックスのデーターが表示された。
セフィロスがにやりと笑った。
「ほぉ…、ではこれではどうだ?」
セフィロスの言葉と共に複数のターゲットが現れた。全体魔法の訓練に使うシステムだがザックスが的確に的に当てていく、それを見てカイルがびっくりした顔をしたのでリックが口を挟んだ。
「カイル、何びっくりしてる?アイツはソルジャーなんだぜ。」
「俺、ザックスが全体攻撃魔法を使うの始めて見た。」
「そういう奴だから魔力が上がってこなかったのだが…そういえば先月リーにへばりついていたな。」
クラスSソルジャー仲間の一人、リーは魔法部隊の隊長を勤めるだけあって、かなりの使い手ではあった。そのリーにザックスが魔法をコーチしてもらっているとクラスS仲間に聞いた事があった。
手元に現れたデーターを見てセフィロスがつぶやいた。
「これだけ有れば十分クラスAに行けるな。」
「ふん!!たとえザックスとはいえ俺、姫のナイト役は誰にも譲るつもりはありませんからね。」
「リック、それならば俺と当分暇を見てここにこもるか?」
「なぁ、セフィロス。俺がクラスアップしても特務隊にいられるん?」
「残念ながら貴様は無理だな。クラスSの連中が貴様のような士官を欲しがるのは目に見えているからな。」
「あ、そうなん?!んじゃしばらく俺は実力出し切らないぜ。」
「ザックス、あれで本気を出していないって?」
「出していないっつーか……、俺ってつくづく実戦タイプなんだよね。あんな的じゃ当てる気にもなんねえっての。」
「なるほど、バハムートの声を聞けるだけの要素はあると言う事か。次は全力でやってみろ。」
「クラスアップ関係なしならいいぜ。」
「クックック……まあ、よかろう。」
セフィロスの了解をもらうと、ザックスはもう一度ポイントに立った、ブザーが鳴るとランダムで表示される女の子とモンスター、反抗勢力と普通の男を瞬時に判断して魔法を宛てていく。その判断力、反応スピードもさる事ながら魔法の強さは想像以上だった。
ブザーが鳴って終了を告げるとザックスが疲れて座り込んだ。
「ザックス、人が悪いな。」
「ヘッヘッヘ、これでも特務隊暦3年めだぜ。」
「山猿って馬鹿にできなくなっちまった。」
セフィロスが何個かキーを押すとザックスの評価が出た。
「リーに一ヶ月、コーチしてもらっただけあるな。この魔力なら余裕でクラスSだ。」
「あとは苦手の戦略か。頭痛くなってくるんよね〜、あれ。」
ザックスの嘆くような言葉にカイルとリックが爆笑した。
魔力訓練室で明るい笑いが起こっていた頃、特務隊の執務室は暗い雰囲気があった。クラウドの顔色が晴れないのだった。まるでどんよりとした黒い雲を引き連れているかのような雰囲気のまま、クラウドは特務隊の執務室を出て行った。
残された隊員達が寄り集まってクラウドのことを話し合っていた。
「なんだ?姫の奴」
「今までに無かっただろ?氷の英雄が一般兵や下級ソルジャーの教育をするなんてさ。姫はそれを妬いてんだって。」
「な〜にヤキモチ妬いてるんだか…、自分が1番教えてもらっているくせに。」
「恋する少女といたしましては、大好きなダーリンが他の男にべたべたするのが気に入らないって事だよ。」
「ジョニー、当たっているだろうけど言い方ヘン!!」
特務隊の隊員達は歩き去って行くクラウドの背中に、”かっわいいじゃないの〜〜〜!!”と、間違っても戦場での姿とは、相反する感想を胸に抱いていた。
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