FF ニ次小説
 どんよりとした雲を引き連れてクラウドがクラスA執務室に入ってきた。仲間達がその雰囲気を感じ取りクラウドに話しかける。
「あん?どうしたん姫。暗い雲を引き連れちゃって。」
「そういえば王女警護隊長の姿が見えねえな。」
「お…王女警護隊長??」
「お前の影の旦那の事。自分でおおっぴらに”俺は姫のナイトだ!”って、公言してはばからないんだ。」
「王女警護隊長って……呼称の方が長いじゃん。」
「それが、本人が喜んでるんだから質が悪いんだ。」
「で?いつも腰巾着みたいにくっついている当のリックは?」
 エドワードの問いかけにクラウドの青い瞳に涙が浮かんだ。その場にいる全員がそれを見てうろたえるが、クラウドは目の前のエドワードに泣きついた。

「酷いんだよ〜〜!!隊長ったらリックとカイルとザックスには魔法の特訓するくせに、俺にしてくれないんだ〜〜!!」
「は?!姫、おまえ、それマジで言ってるの?」
「マジだよ〜〜俺だって教えて欲しいもん!!」
「バハムートやナイツ・オブ・ラウンドを召喚出来て、戦闘中にもかかわらずバリアをぽんぽん張れる男に何を教えろと言うんだ?」
「う、う、う〜〜〜 それでも隊長に教えて欲しいんだもん!!」

 泣きつかれて惚気られてたまらない顔をしてエドワードが大きくため息をつくと、ランディがエドワードの肩をぽんと叩いた。
「エディ、やっぱお前がこのクラスでの姫のお相手だな。おめでとう。」
「めでたくなんか無い!!」
「ね〜〜、エディ。どうやったら隊長が俺に魔法を教えてくれると思う?」
 抱きつきながら上目づかいに青い瞳に見つめられて居ると言うのに、エドワードは背中に超弩級の冷気を感じてフリーズしかける。ほぼ同時にクラスA仲間が全員直立不動で扉に向かって敬礼していた。

 扉の向こうからセフィロスが氷の微笑みを浮かべて入ってきた。
 その後ろには同じぐらい怒気をはらんだリックが従うように入ってきた。

 セフィロスの機嫌は最低最悪だった。特務隊の執務室に戻ってジョニーやユーリにクラウドの事を聞いて、心なし喜んでいたというのに、当のクラウドはクラスAソルジャーでもトップを張れるエドワードに抱きついて、上目がちに青い瞳に涙を浮かべて何かを強請っているようにしか見えなかった。
 リックがセフィロスにかわってエドワードに怒気をはらみながら問いかけた。
「サー・エドワード・メイソン、一体何をされているのですか?」
「ストライフ准尉に相談をされていただけであります!!」

 エドワードがクラウドに背を向けて二人にビシッと敬礼をすると、セフィロスの顔に冷淡な微笑みが浮かぶ。
「何の相談だ?」
「はい、サー・セフィロスに魔法の特訓を受けたいがどうすればいいか…、と。」
 エドワードの答えにリックがあきれると、クラウドは真っ赤になりながらうなずいた。セフィロスとリックから超弩級の冷気が一気に消えうせた。
「姫が隊長に何を教わろうって言うんだよ〜〜」
「だって〜〜……教わりたいんだもん
 教わりたいんだもん…、のあとに思いっきりハートマークが飛んでいる。
 どうやったって反抗勢力やモンスターにひるむ事なく立ち向かう戦士の言葉では無い、しかも目の前には憧れの”氷の英雄”セフィロスがそのイメージを破壊しつくしていた。砂糖菓子のように甘い瞳でゆるやかに微笑む英雄など、クラスAソルジャーとしては見たくは無い。しかしそんな事におかまいなしでクラウドの頭をわしゃわしゃとなでつけている。クラウドもまるでグルーミングされている猫の如く目を細めて喜んでいた。

 クラスAソルジャー達がため息をついた。
「あ〜あ、あんなキングを見る事になるとは思わなかったな。」
「甘すぎるって、良く我慢してるなお前ら。」
「姫限定の砂糖菓子、俺達には相変わらず万年氷河期。」
「お、うまいね〜〜。座布団一枚!」
 まわりから浴びせられる視線をものともせず、セフィロスがなにかクラウドに囁いていると、頬を染めてうなずく姿はどうやったって少女にしかみえなくなる。
 思わずゴードンが溜め息をついた

「特務隊じゃ、いつもあんな感じだったのか?」
「ああ、まあな。かれこれ一年以上…、いいかげん慣れるっての。」
「あ〜あ、俺の憧れは何処に行ったんだろう?」
「俺達だけじゃないって、クラスSだって特務隊だって同じだろ?」
「まあな。でも、姫のおかげで隊長は感情を取り戻しはじめている。感情のある英雄って…、いいもんじゃない?だから俺は守りたいんだ。いつか、その感情が姫だけでなく俺達やまわりの人達に向けられるようになるまで…いや、姫には隊長と添い遂げてほしいんだ。」
 リックの真摯な言葉にエドワードが隠された意味を感じ取った。
「リック、おまえまた好きだからいじめているのか?」
「あの二人は”離れろ、別れろ”と言うたびかえってひっつくんだよ。」
「やっぱりクラスAの別称は”あれ”しかないのか。」
「無いんじゃないの?」
 ブライアンがうなずくとクラスA仲間が顔を見合わせる、エドワードがため息交じりに答えた。
「”王女警護隊”しかあり得ないな。」
 ブライアンがうなずくとクラスA仲間が大笑いする。
「体力以外なら俺達が束になってもかなわない強い姫君だけどな。」

 クラスAの仲間たちが苦笑していた頃、ここがクラスA執務室だと言う事を全く忘れたラブラブカップルは、相変わらずいちゃいちゃと話をしていた。
「ああ、すまないが今夜はランスロット達につき会わされるから、食事は要らないぞ。」
「そう?わかった。」
 そう言って軽く手をあげてクラスA執務室からセフィロスが出て行った。
 クラウドは笑顔でセフィロスを見送ると後ろを向いて……固まってしまった。目の前にクラスA仲間がにやにやと笑っていた。
「で?お后様、お気は済まれましたか?」
「エ、エディの意地悪。」
 クラスAの仲間が苦笑しているので、クラウドは真っ赤な顔をして上目づかいに皆を睨んでいた。ひとしきり笑い終わったブライアンが皆に問いかけた。
「仕方がないからそろそろリックの歓迎会でも開いてやるか。」
「やっぱ歓迎されてね〜〜!!」
「どこにするよ?さすがにセブンスヘヴンはまずいっしょ?」
「5番街のビッグ・ウェンズデーは?」
「悪くないね〜」
「わりぃな。当直組み!後で差し入れしてやるから我慢しろ。」
「んじゃ、俺カツサンドね。」
「俺も留守番だぜ。くう〜〜、チキンサンドよろしく。」
「欲しかったらメモとカンパしろ!!」
 居残り組がぶうぶう文句言いながら食べたいものを書き込んでカンパしていくと、エドワードが自分の隊の輸送トラックをくすねてくるという。
 クラウドが蒼い顔をした。
「げぇ〜〜シェイカーに乗りたくないから俺バイクで行く。」
「出来れば俺も乗りたくないな。」
「俺のグレイトでスペシャルな運転術を見せてやろうか?」
「リック、人が違うぞ。」
「ん?白のロングの裏に竜の刺繍でも入れたくなるセリフだろ?」
「おまえ、趣味でやってない?」
「ばれたか。」
 クラスA仲間に完全に打ち解けてしまっているリックにびっくりしながら、クラウドは駐車場へと向かった。

 愛車のバイクを引きずり出すとヘルメットをかぶりエンジンに火を入れる。
 目の前にリックの運転する輸送トラックがゆっくりと横切っていくと、スピードをあわせて駐車場を出て行った。


* * *



 クラスS仲間と会合(と、いうのは名ばかりで実は飲み会)をするべく、5番街をスーツ姿でランスロットとセフィロスが歩いていた。後ろからクラスSソルジャー達が追いかけるように歩いている。
「時にキング。姫は今日の事ご存じなのですか?」
「ああ、貴様等に付き会わされて外食すると伝えておいた。」
「それにしてもキングが来てくださるとは…、何だかうれしくなってきました。」
「だからそんなに浮ついているのか?パーシヴァル。」
「う……、ガーレス、貴様こそ先程からキングの隣に立ちおって!!そこは私の位置だろうが?!」
「こらこら、大人げないな。」
「まったく、お前達は相変わらずキングに憧れているのだな。」
「そう言うリーこそ珍しく顔を出しおって。」
 自分の仲間達の話にランスロットが苦笑をしながらセフィロスに話しかけた。
「……と、言う訳です。セフィロスわかりましたか?」
「何を馬鹿な事を、同じ地位に居ると言うのに。」
 セフィロスが思わず苦笑するとその場にいたクラスS仲間がびっくりする。ランスロットが優しい笑顔を浮かべていた。
「ずいぶん変わられましたね。ここ最近のセフィロスは”氷の英雄”と呼ぶには優しくなられました。」
「優しくなっただと? この私が…か?」
 セフィロスはランスロットの言葉に思わずびっくりしていた。