FF ニ次小説


 ランスロットの言った言葉にセフィロスはとまどっていた。

(私が優しくなっただと?)

 しかし目の前に居る戦友達はゆるやかに微笑んでいた。
「そう言われればそうですね。」
「ザックスやリック達に魔法のトレーニングをされていたようですが……貴方は今までそんな事をされたことは無かったはずですよ。」
「個人トレーニングならクラウドにしているではないか。」
「それは奥様が襲われたら困ると言う個人的な理由ですよね?」
 仲間に揶揄されながら裏道を歩いていると、目の前を見覚えのあるトラックとバイクが通り過ぎて行った。バイクを運転している人物が見えたのかクラスSソルジャー達がセフィロスに話しかけた。
「キング……あれは、姫ですよね?」
「それに、あのトラックを運転していたのはリックだろうな。」
「と、言うことは……中身はクラスAの連中か。」
 戦友達の推測にほぼ間違えはなかったので、セフィロスの雰囲気が一気に冷たくなる。いつの間にか絶対零度の怒気をはらみはじめていた”氷の英雄”に、ランスロットが思わず苦笑する。
「セフィロス、貴方という御方はこんなにもわかりやすい方だったのですね。」
 ランスロットの苦笑にセフィロスが眉間に皺を作りながらにらみつける。いつもならそれで彼の笑いも消えるのであるが、今夜ばかりはなぜか消えなかった。
「ランスロット、なぜそんなに笑う?」
「コレが笑わずにいられますか。セフィロス、独占欲が強すぎですよ。いいじゃないですか、貴方のいない時に仲間と食事に出たって。」
 ランスロットの言葉を聞いてその場にいた戦友達が苦笑した。
 セフィロスは眉間の皺を深くしてにらみつけるが全く効果は無かった。無いどころか……他の連中まで苦笑しはじめていた。
「キ、キング。貴方みたいな方でも嫉妬されるのですね?」
「あの方向ならたぶん『ビッグ・ウェンズデー』でしょう、VIPルームがありますから我々もそこに行きますか?」
「ふむ…、あの店は良い酒が有るからそうしましょう。」
「一足先に行って抑えてきましょうか?」
「たのんだぞ、グレイン。おっと、セフィロス。逃げるな!!」

 その場にいたたまれなくなっていたのかセフィロスが逆方向へ歩いて行こうとしたのをランスロットが腕を掴んで止めると反対側の腕をパーシヴァルががっちりと止める

「貴様等、私を何だと思っておる?!」
「憧れの”氷の英雄”であり頼もしい仲間で戦友。」
「できうれば、なんでも話せる信頼出来る友となりたいものです。」
「それは良いな。そうすれば美人の奥様の手料理も食べられるかもな。」
「こ〜ら、セフィロス。こんな所で誰を相手に魔法を発動させようと言うのだ?」
 セフィロスが密かにサンダーをピンポイントでかけて両腕の戒めを解き放とうとした所に、リーに魔力で押さえつけられた。ランスロットがうなずくと周りの仲間に声をかけた。
「では、皆の者 参るぞ。」
 ランスロットのかけ声と共にクラスSソルジャー達が、「ビッグ・ウェンズデー」へと移動して行った。

 店に入ると専用の扉からVIPルームへと案内される、グレインがどう交渉したのかわからないが、そこからは下のフロアで騒いでいるクラスAの連中がまる見えだった。クラスAの並び順は中央にクラウド、その右側にエドワード、左側にリックと、そこからほぼ実力順に並んで座っていたのでエドワードの上官のペレスが首をかしげる。
「おやおや。リックが姫のとなりなのはわかるが、なぜエドワードがあの場所なのだ?」
「ふん。ペレス、貴様にはわからないのか?クラスAの実力順で行けばこの所リック達にいじめられているエドワードが、リックの次に実力があると言う事だ。」
「それは困った。パーシヴァル、持っていくなよ。」
「それなら私に言うよりもセフィロスに言うんだな、先月エドワードを引き抜こうとしていたらしい。」
「ああ、それは半分は姫のせいですね。一時期、姫のお相手と噂されていましたから。」
「まあ、一般開放の時に姫に抱きつかれてましたからね、そのおかげで頼もしい副隊長になってくれました。」

 その頃、階下にあるクラスA達のテーブルでは大盛り上がり。ブライアンが隣のリックに話しかけていた。
「リック、それにしても一般兵時代が長すぎたんじゃないのか?」
「そうだぞ、俺たち全員特務隊でお前に鍛えられたおかげで、クラスAまで上がれたようなもんだからな。」
「お前が上がってこなかったのは特務隊から抜けたくないからか?」
「それもあるけど、クラスアップしたらどうしても部下が多くなる。魔力の少ない俺には蘇生どころか回復だってろくにしてやれないからな、部下なんて持つような力は無いんだが…特務隊だけは別だろ?」
「ああ、あそこはケガなんてしたら即足手まといになる部所だ。一般兵でもトップクラスしかいないからその心配も少ないな。」
「訓練所卒業でいきなり特務隊入りした姫は特例中の特例だったのか?」
「俺も姫が編入した時は”こいつ大丈夫かな?”って思ったぜ。で〜も、あっというまに強い味方が付いちゃって…。」
 酒のグラスを傾けながら陽気に話すリックの言葉に、クラウドが真っ赤になっている。そんなクラウドを隣のエドワードが頭をわしゃわしゃとなでていた。
それを上から見ているセフィロスのこめかみに血管が浮かんだ。リーが必死で苦笑を我慢してつぶやいた。
「エディの奴、特務隊移動決定だな。」
「お、ペレス。いいじゃないか、代わりにザックスをもらえる。」
「ザックスか、あるいはエディより上かも知れんな。」
 ランスロットが苦笑を隠さずにセフィロスに話しかける。
「セフィロス、落ち付きなさい。リックが隣にいるんだ、少しは任せておいたらどうだ。」
 ランスロットの言葉にセフィロスが乗り出していた身を椅子に深々と座らせて、不機嫌この上ない顔で足を組んで目の前のグラスを煽った。

 一方、自分の上官達がすぐ上に居るとは思っていないクラスAソルジャー達は、内輪話で盛り上がっていた。

「リックって凄いね。だって、クラス1st扱いだったのに一気にクラスAに来ても何の違和感も無いみたいだし…」
「ああ、姫。そう言う意味ではこいつは特別。なにしろ特務隊卒業者の多くはソルジャーになって上位に上がってくる、つまりこいつが上級ソルジャーに知り合いが多い理由は、いかに長い事特務隊に居座っていて配属した兵をいじめたかって事さ。」
「あ、そうか!リックは6年も特務隊に居たけど、その間に何人もの隊員達が出たり入ったりしていたんだ。」
「そういうこと。キースやランディは一般兵で所属していたけど、俺やブライアン、パーシーなんかはザックスと一緒で1stでの所属だった。」
「ひでぇ上官だったぜ〜、ブライアンなんてお前と違って全体バリアなんて張れなかったんだ。まあ、おかげで俺達が強くなったんだけどね。」

 リックの言葉を聞いてクラウドがエドワードを正面に見据え、すがるような瞳で話しかけた。
「あの……ね。聞いていいかな?その頃の隊長って、どんな感じだったの?」
「うわ〜〜やめれ〜〜そんな顔するなよ〜〜!!!」
「おお!!スクープ!!エドワード君、二股愛発覚?!」
「じょ、冗談じゃない!!俺、姫のおかげで彼女に振られたんだぞ!!」
 エドワードの言葉にクラウドがびっくりしたように反応した。

「え?お、俺のせいって??」
「アハハハハハハ……そりゃお気の毒さま!!」
「3ヶ月ほど姫とエディって組んで警らとか回ってたんだろ?その時にどうせ彼女に見られたんだろ?」
「当たり、ソルジャー候補生だと言っても信じてくれなかったから、一般公開に呼んだのよ。」
「そしたら迷路のラストでお前に姫が抱きついていたのを見た訳ね?」
「そう言う事。『あの子のどこが男なのよ!!あんなに綺麗な子に迫られて悪い気はしないわよね!さようなら!!』だぜ。」
 エドワードの話を聞いてアランが思わず溜め息をついた。

「救いようがないな。」
「キースも言ってたよ。『警ら中に何度もカップルに見られた』って。」
「俺ってやっぱり女にしかみえないのかな??髪の毛切ろうかな?」
「切っちゃうんだ。残念だね〜、やっと胸が隠れるほどになったのに、もう少し伸ばせば隊長と一緒ぐらいの長さになるのにな。」
「あ!お前が髪の毛伸ばしている理由ってそっちか?!」
「うわ〜〜、可愛い奴!!」
 仲間に揶揄されて、クラウドは思わずうつむいてしまった。
 両隣から頭をわしゃわしゃと撫でられて顔を上げたクラウドは、青い瞳に涙を浮かべ上目がちに皆を見つめていた。ちょっと拗ねたような顔はどうしたって唇がちょっと尖っていて、何処から見てもキスを強請っているようにしかみえない。   by 英雄視点

 階下のにぎやかな雰囲気とは違った意味でVIPルームもにぎやかだった。

「キ…キング、頼みますからそんなに焼き餅やかないでください。」
「クックック…… まったく奥様の事となると……貴方らしくない。」
「まあ、わからないでもないな。セフィロス、君は知らないだろ?姫が一般公開の日なぜ嫌いな女装をしたか。」
 セフィロスが厳しい眼差しをランスロットに向けるが、ランスロットはゆるやかに微笑みながら微動だにしなかった。
「姫はあの日、私にこう言ったんですよ。『セフィロスが他の人に取られるぐらいなら女装だって我慢する』と、ね。」
 セフィロスはランスロットの言葉にびっくりしていた。