FF ニ次小説


 一般公開の午後、クラウドが”クラウディア”になっていた理由を、ランスロットから聞かされてセフィロスは驚いていた。横でパーシヴァルが思わず首を振っている。
「可愛らしい理由です事。まかり間違ってもカンパニーでも1、2を争う強い士官の言葉には思えませんね。」
「それにしても、キングがこれほどまでに表情が豊かだったとは、長い事クラスSに居ましたが初めて知りました。」
「いやいや、それは違うぞマリス。キングはこの一年でここまで変わられたんだ、奥様のおかげで、な。」
「孤独なまでに他人に心を開かなかった貴方がこうして我らと一緒に、食事をして下さるまでになっただけでも、私には嬉しい事です。」
 クラスS仲間の言葉にセフィロスがさもつまらなそうな顔で答えた。
「貴様等が私を誘う事が無かっただけだろうが。」
「誘えなかっただけですよ。キング、貴方は私達の憧れの英雄なんですよ。」
「何を馬鹿な事を。そんなもの貴様達が勝手に付けた呼称の一つではないか。」
「では、私達も姫みたいに愛称でお呼びしてよろしいんですか?」
 真顔で聞くランスロットにセフィロスが眉をしかめる。
「ランス、貴様のような可愛い気のない男に愛称で呼ばれたく無い。」
「どーせ、奥様みたいに可愛くも何ともない野郎ですよ。」
 セフィロスの答えにすねたランスロットに仲間からつっこみが入った。
「ランス、貴様が拗ねるとさらに無気味だぞ。」
「クラスSにもなると可愛い気など皆、持ちあわわせていないですね。」
「長い事、軍に身を置いている男に可愛い気があったら恐いですよ。」
「それもそうだな。」
 仲間達の気の置けない会話に、笑顔がこぼれた。あまり人と付き合う事の無かったセフィロスだが、こういう雰囲気も悪くはないと思いつつあった。


* * *



 一方、階下。アルコールを飲んでも肝臓の代謝が早いのか、ソルジャー達は平気でぐびぐび酒を飲んでいた。一人だけオレンジジュースを飲んでいるクラウドがあきれ果てるほどのペースである。ソルジャーになっていないリックは同じペースで呑んでいるので、かなり酔いが回っていい気分のようであった。
「それにしてもリック、よくクラスA昇格を受けたな」
「ん?まあ特務隊の都合上ってやつかな?隊長抜きで動く時、姫のサポートに入れと言われたから即答さ。」
「やっぱり、俺って信用無いのかなぁ?」
「それとこれとは別、姫がいくらクラスA扱いとはいえ軍属1年だろ?一隊を率いるには規定にたりないんだよ。」
「一個小隊を率いるには軍属3年以上、クラスB以上という規約なんだ。ザックスでも出来なくはないだろうが、アイツは戦略面で不安が有る」
「あの猪突猛進男は文字通り考える前に突っ込む奴だからな。」
「カイルは?」
「あいつはああ見えて結構ドジなんだ。」
 クラウドが他の隊員達の名前を出すのが少し気に食わないリックが、首に腕を絡めてわざと絡んだ。
「なんだぁ?お前、俺が補佐では気に入らないっていうのか?」
「リック…お酒くさ〜〜い!!」
 クラウドがリックを軽く突き飛ばしてエドワードの方に身体を寄せると、まわりの連中が軽く揶揄した。
「お?!リックが姫に振られるのを始めて見た。」
「おらぁ〜〜!?エディ、わかってるんだろうな〜〜?」
「にやにや笑いながら突っかかるなよ。」
「え?なに??どう言う事なの?」
 相変わらず青い瞳をクリッとさせて小首を傾げて尋ねる姿に、リックとエドワードがめまいを起こしかけていた。それを見てブライアンが突っ込みを入れた。
「ひ〜め。そう言う顔は自分の恋人だけに向けような。こんなことがばれたら俺達お前の旦那に氷らされるんだぞ。」
「そう言う人じゃ無いんだけどなぁ。」
「そう思っているのはお前だけ。俺達に取っては憧れの人であって、ついこの間までは口さえも聞けないほど遠い存在の方だった。」
「エディは姫のおかげでずいぶんお近づきになったみたいだから、過去形だけど俺に取ってはいまだに遠い存在だな。」
「隊長とお近づきになりたいなら、それなりの実力とザックス並みの根性が必要だぞ。」
「そんなに恐い人でも近づきにくい人でもないんだけどなぁ。」
「そりゃ、お前が特別なだけ!!!」
「ぶう!あんまりいじめると竜王さん呼んじゃうからね。」
「ま〜た、それかよ。お前の性格じゃ呼べないっての。」
「ちなみに連帯長殿達は会合でどこかへ出かけられている、いくら姫でも呼べないと思うな。」
「そんなことないよ。2分も経たずに呼べるけど?」
 クラウドがそう言うと椅子から立ち上がりフロアの上に有るガラス窓に向かって、にっこりと笑って手を振る。クラスA仲間はクラウドが何をやっているのかわからなかったが、そのガラス窓の向こうの部屋が何であるか知っているユージンがつぶやいた。
「あ…まさか、あのVIPルームにクラスSの皆さんが?」
「そのまさか。わからなかった?」
「げぇ〜〜〜マジで呼ぶな〜〜!!」
「俺、氷らされるかな?」
「まあ、覚悟だけはしておけ。」
「したくねぇ〜〜〜!!!」

 わいわい騒いでいるとクラスS仲間数人を引き連れてセフィロスが現れた、クラスA仲間が全員起立して敬礼しようとするが手をあげてやめさせた。
「プライベートなのであろう?ならば一々敬礼などしなくてもよい。」
「お久しぶりです姫。よく我らの事が解りましたね。」
「お楽しみのところをお邪魔して済みませんでした、ちらちらとVIPルームから銀色の晄が見えましたよ。」
「なるほど…どこぞの独占欲の強い男が自分の奥様の事が心配で、ちらちらのぞいていましたからね。」
 パーシヴァルの一言にクラスA全員が思わず吹き出した。
 エドワードが思わずぼやく。
「自分が氷らされる寸前まで行くのは、その方の独占欲のせいですか?」
「そう言う事だな。」
「リック、おまえ良く氷らされないね?」
「だてに隊長に6年も仕えていませんよ。」
「ああ、エディ。おまえ今度の試験しだいではザックスと入れ代わりだそうだ。」
「うわ、出戻り決定ですか?」
「95%の可能性だがまあ大丈夫だろう。あの猪突猛進男が素直にクラスAに昇格するとも思えないな。」
「特務隊はクラスAソルジャーをそれほど必要なのでしょうか?」
「今までハードな任務のわりにはソルジャーが少なかっただけです。一個小隊には通常クラスAからCのソルジャーを2人、1stから3rdを4人は配置せねばならないのです。」

 任務の話しばかりしているクラスS仲間達にセフィロスが険しい顔をした。
「プライベイトな場所で仕事の話をするな。ところで、場所を変えぬか?ここでは40人からの席はなさそうだからな。」
「サ、サー・セフィロス。我々とご一緒していただけるのですか?」
 セフィロスの言葉にブライアンの顔が一瞬輝いた。それは他のクラスAソルジャー達も一緒だった。
「上司とプライベートで飲むっていうのも…なんだけど、あこがれのサーにお誘いいただいて断れるわけないです。」
「俺達明日出社したら居残り組にいじめられそうだな。」
「しっかりしごかれるんだな。」
「では、行きますか?」
 ランスロットが店を出ようとした時、足元がほんの少しぐらりと揺れた。顔を見合わせたかと思うと、クラウドとセフィロスが店を飛び出して行く。リックとエドワードがその後を追い駆けていった。即座にパーシヴァルとトリスタン、ガーレスが追いかけた。
 その様子をペレスがあきれたような顔をしてみていた。
「まったく、エディの奴ときたら……、あれだからキングに気に入られたのがわからないのかね?」
「ともかく、行くしかないようですな。」
「姫とご一緒出来るのだから文句言うな!」
 40人からのソルジャー達が一斉に店を飛び出して行った。テーブルに置いてあるお金を集めながらランスロットは、羨ましげに走り去って行った仲間たちの背中を見送ってから料金を支払うと店を出た。

 5番街と6番街の境界線当たりで反抗勢力が暴れていた。
 そこへクラウドとセフィロス、そしてリックとエドワードが到着した。
「リック、エディと右へ回ってくれ、俺は左に行く!」
「隊長殿、武器は?」
「正宗ならもっている、気にするな!!」
 黒のスーツ姿と言うのに何処に隠し持っていたのか、いつの間に愛刀の正宗を握っている。クラウドがそれを確認すると腰に帯びたアルテマウェポンを抜き取り、ふわりと微笑むと左へと走っていった。後から来るクラスSとクラスA達が自然と3つに別れた。
「右はリックとエディか?!」
「ならば私は右へ行きます、ガーレスは姫を!!」
「さほど心配するような奴じゃないのに、隊長と来たら……」
「何か言ったか?!」
「いいえ、なんにも!!」
 いささか過保護気味なのかクラスSが右と左を選んだ為、クラスAソルジャー達はこぞってセフィロスの後を追いかける。そのアンバランスさに頭をひねりながらも憧れの男の背中を追いかけていた。
 セフィロスは一気に間合いを詰めるといきなり正宗を一祓いする。その太刀さばきにクラスA達が見惚れていると、左右から罵声が飛んできた。
「馬鹿野郎!!何ぼーっとしてるんだ!!」
「貴様等、命が欲しかったら下がってろ!!」
 クラウドとリックが左右から飛び出してくる、その後を追いかけるようにエドワードとガーレスが姿を現した。それぞれソードをもって切りかかって行くと反抗勢力がばらける。袋の口を縛るように反対側からパーシヴァルとトリスタンが現れた。
 まん中に切り込むようにクラウドがアルテマソードを片手に躍り込むと、反抗勢力の抵抗が徐々に弱って行った。
 やがてまったく反抗しなくなると、クラウドの目の前にはセフィロスが立っていた。返り血を全く浴びてもいない姿にクラウドがふわりと微笑んだ。
「終わりましたね。報告書どういたしますか?」
「そうだな、明日でいいだろう。」
「ああ、来た来た。ランスロット、そう言う訳だから今日は見逃せ。」
「私とて今日を逃せば、今度いつセフィロスと飲めるかわからないんだ。堅苦しい事など言わぬわ。」
「で?確保してあるのだろうな?」
「ふっふっふ……ここから100M先、6番街のアンダー・ザ・シーだ。」
「おお!!それはいい。」
 ぞろぞろと40人からのソルジャーが移動をしはじめた。