FF ニ次小説
 一度は隣に並び立ちたかった憧れの上官であり、一度は恋人にしたかった人であるストライフ准尉が、自分の隊の副隊長の腕に絡みつくように立っているのを第4師団の隊員達がみつけて思わず絶句していた。
「副隊長殿、その姿では何を言っても言い訳にしか過ぎませんが。」
「だよなぁ……ほれ、姫。俺から離れろ。」
「あ、ゴメン。でもリックとのパートナーチェンジはマジで考えておいてね。」
「ひ〜〜め〜〜、俺の気持ち知ってるくせに〜〜〜!!」
「リック、意地悪だもん。ヤダ。」
「リックの場合いじめっ子の原理だよな。好きだからいじめちゃうって奴。」
「あ、サー・ペレス。」
 ブライアンがクラスS執務室から出てきた第4師団の連隊長ペレスを見付けて敬礼する。同時にその場にいた全員が敬礼した。ペレスが手をあげて敬礼解除を促した。
「エドワード、このミッションが終わったら……、覚悟しておくのだな。」
「あ……ハハハハ…ハ…はぁーーー。」

 第4師団の連隊長と副隊長が意味不明の会話をしている時、クラスS執務室の扉が開いて冷たい空気が流れ出してきた。その冷気に思わずその場にいたクラスAソルジャー達が凍りつくように敬礼した。
 冷たい空気を身体にまといセフィロスが姿を現した。

 クラウドがにっこりと微笑んでセフィロスに話しかけた。
「あ、隊長殿。ミッションでありますか?」
「いや、いまから特務隊の執務室に行くつもりだったのだが…、そんなところで何を固まっている?」
 リックはセフィロスのまとった空気を機敏に感じ取っていた。
「(うわ〜〜最低のご機嫌だ)いえ、特に何も。」
 リックの答えにセフィロスが何も言わずにきびすを返すように歩きはじめると、いつものように一歩下がってクラウドが歩きはじめた。その瞬間セフィロスがクラウドを振り返ると金髪碧眼の副官は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「どうかされましたか?隊長。」
「……いや、何でもない。行くぞ。」
「アイ・サー!」

 ただ、それだけの会話だったが、セフィロスのまとっていた絶対零度の怒気が、いつの間にか消えうせていた。しかしそれを感じ取れていたのはクラスA仲間とペレスだけだった。

 ブライアンがぼそりとつぶやいた。
「ふう、いつもの事ながら寿命が縮まる思いだぜ。」
「リック、エディおまえら頼むから俺達を簡単にフリーズさせるな。」
「俺のせいじゃあねえよ。」
「俺は泣きたいよ。」
「エディはリックから姫のとなりを奪い返したんだから仕方がないだろ。」
「もてる男は辛いねぇ。」
「まあ、せいぜい特務隊の連中に扱かれるんだな。」
「姫をめぐるリックとエディの争い、第二幕へ突入って?」
 クラスAソルジャー達の会話を聞いてペレスがびっくりして自分の副官に尋ねた。
「なんだ、エドワード。お前また姫のパートナーのご指名を受けたのか。」
「いじめっ子のリックじゃ嫌なんだそうですよ。」
「姫の奴、こんなに惚れているのにつれないなー」
「リック、おまえ完全に誤解されるぞ。」
「あん?今ごろ何いってんだよ。俺はもうかれこれ1年姫に片思いなんだけど。」
「完全に開き直ってやんの。」
 笑顔でクラスAソルジャー達がそれぞれの執務室へと駆けだして行く。それを見送って第4師団の隊員達が自分の上官二人を迎えた。
 こっそりと隊長のペレスが副隊長のエドワードの背中を小突く。
「あんまりキングに気に入られるような事をするなよ。お前の仕事ぶりは私だとて気に入っているんだ。」
「光栄です。」
「副隊長殿は特務隊の連中に気に入られているからなぁ…」
「それって副隊長殿がそれなりの腕をお持ちだと言う事ですよね?」
「凄いですね、それでストライフ准尉のお相手のご指名だなんて 羨ましいです。」
「羨ましくないって、姫を守るにふさわしい奴かどうか、特務隊の連中全員でいじめるんだぞ。なんならいつでも代わってやる。」
「うわ!!遠慮させていただきます!!」
「あいつら、そんなに姫を他人にゆだねたくないならさっさとクラスAに上がってくればいいのに。」
「連中は自分の事をよく知っています。魔晄の耐性が無いあの連中は魔力が殆どありません。当然、魔防も低いですよね?連中はそんな自分が部下を持つ資格が無いと思っているんですよ。」
「わからんでもないな、あいつららしいわ。」

第4師団の隊員達がミッションへ出かけていった。


* * *



 特務隊執務室でいつものようにクラウドがザックスを相手に戦略シミュレーションを始めていた。
「ザックス、今日からクラスAミッションのシュミレーションだよ。」
「OK いつでも来いってんだ。」
 珍しく真面目なザックスに他の隊員達が茶々を入れる。
「お?!どうした、脳味噌のない男が」
「リックに姫のとなりを取られて気に入らないって?」
「どうやら姫の隣はサー・エドワードにまた戻ったようだけどなぁ。」
「はぁ?!お前、またよりを戻したのか?」
「だって、リック意地悪だもん、その点エディは優しいんだよ。」
 クラウドの問題発言にいきなり部屋の温度が下がったような感じがしたので、ザックスが振り返るとセフィロスが絶対零度の怒気をはらみながら、自分の席で報告書を握り締めていた。

「せ、セフィロスの旦那ぁ 頼むからヤキモチ焼くなよ。」
「ひ、姫。頼むから隊長のところにいてくれ。」
「え?何?なんかあったの??」
 ザックスが氷の英雄の怒気を全く感じていないクラウドに耳打ちした。

「お前が他の男の名前を出して『優しい』なんて言うから、独占欲の強いお前の旦那がイライラしてるの。」
 ザックスに言われた事にびっくりして、クラウドがセフィロスを見る。彼の手に握られているのはやっと先日ザックスが書いてくれた報告書だったので急に大声を出した。
「いや〜〜!!だめぇ!!この報告書をザックスに書かせるのにかなり苦労したっていうのに!セフィの馬鹿ァ!!」
「な?!」
「お?!夫婦げんかの始まりって?」
「命知らずが…」
 クラウドが怒りをあらわにしながらセフィロスに近寄ると、手の中でしわくちゃに握り締められていた書類を取り上げて、一枚一枚皺を伸ばしはじめる。
「す、すまない。」

 セフィロスの一言に隊員達が固まった。
「お、おい。今の聞いたか?」
「ああ。」
「天下無敵の神羅の英雄が、謝るのを初めて聞いた。」
 クラウドの後ろで隊員達が固まっている時にリックが入ってきた。凍りついたように固まっている隊員達と、怒りをあらわにしているクラウド、そしてそのの視線の先に居るセフィロスを見渡して首をかしげた。
「ザックス、ユーリ、カイル、ジョニー。なに固まってンだ?」
「リック、気を確かに持てよ。今クラウドに旦那があやまったんだ。」
「はぁ?!隊長は何処かで浮気でもしたのか?」
「ば、バカ!!ぶった切られるぞ!!」
「姫ったら”エディって優しいもん”なんて言うから…」
「ザックスの書いた報告書を嫉妬に狂って握り締めて、姫に怒られたんだよ。」
「あ〜、俺とエディのペア入れ換えの話し?」
「その後が問題、さすがの旦那も嫁には弱いのか、あやまったんだよ。あのセフィロスがクラウドに”すまない”ってな。」

 リックがザックスの言葉に信じられないと言う表情でその場にいた全員を見渡すが、誰一人として嘘をついているようにはみえなかった。
「はぁ…。それで、あれなんだ。」
 リックが首をめぐらせると、先程と全く変わらず怒りをあらわにしたクラウドが、何やらぶつぶつ言いながらセフィロスから書類を取り上げて皺を伸ばしていた。
「まったく、どうして書類を握りつぶしているんですか。少しは書類嫌いのザックスに書かせている苦労を知ってほしいもんですね。」
「だから、すまないといっているであろうが。」
「それであやまっているつもりなんだ。いつもそうだよね?昔っからセフィは”すまない”って一言言えば俺が許すと思って…」

 クラウドのの言葉にリックがびっくりしてつっこみを入れた。
「まった、姫。もしかしてお前、隊長の謝罪の言葉をしょっちゅう聞いているのか?」
「ん?そうだよ。一緒に生活して居るんだもん、セフィが謝ることだってあるよ。」
「うわ〜〜〜〜!!!あっま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!」
「え?どうして?」
「俺たちにとってセフィロスは絶対無二の存在だ。間違っても謝るなんてあり得ない!」
「あ!!そういえば!!すみませんでした、隊長殿。俺、ずっとセフィって…」
「いや、それはべつにいいが。その…なんだな。あまりプライベイトな事を喋るな。」
「え?あ、ごめん。」
 いきなりクラウドの顔がシュンと下を向く、そのようすがまた可愛らしくもある。
 うつむいたクラウドの頭にセフィロスがそっと手を置きくしゃっと撫でると、少年の頬がほのかにピンク色に染まった。とたんに甘い雰囲気が執務室中に充満しはじめる。

 仲間達が眉をひそめて愚痴っていた。
「うわ…砂吐きそう。」
「俺達の存在を無視してくれて…まぁ。」
「それにしても、隊長もここまで感情を出せるようになったんですね。」
「氷の英雄だった頃は恐くて近寄れなかったけどな。」
「なんだかいきなり身近になった感じ。」
「嫉妬深いってのだけ 何とかして欲しいけどね。」
「しゃぁねえじゃん。あのセフィロスが初めて自分から手に入れたいと思って、手に入れたものがクラウドなんだからよ。」
 特務隊の仲間がセフィロスとクラウドを温かく見守っている。
 それは身近になった氷の英雄と、彼を身近にした存在のクラウドの事を認めているからに他ならなかった。書類を伸ばしながらクラウドがセフィロスに耳打ちした。
「セフィ。ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど、俺にはセフィしかいないんだから…もっとどっしりと構えていてよ。」
 クラウドの一言に目を細めながらセフィロスは、『これが嫉妬と言う感情なのか?』と改めて思い知った。そして愛しい妻の為に嫉妬すると言うのも悪くはないと、ほんの少し思っていた。



The End