FF ニ次小説


 指先に炎をまるでライターを持っているかの如く立てているクラウドに、クラスSソルジャーであるパーシヴァルとラルコートが絶句する。
「もしかして…皆は姫の真似をしようとして失敗したのか?」
「ゲホッ……は、はぁ。」
「姫にできて俺達にできないわけがないって思って……」
「貴様達には当分無理だな、魔力のコントロールはクラウドが出来たのが信じられないぐらいだ。」
「去年、こうやって隊長がファイヤを発動させましたよね?あれを見て”便利だな”って思って……準クラスA昇格してマテリアもらってからずっと練習していたんです。」
ふたたびクラウドは指先でファイヤの呪文を発動させた。まるでロウソクでも持っているかのように指の先だけにぽうっと火がともった。
「コツがわかったら後は簡単でした。さすがに竜王や騎士さん達はこんなこと出来ないほど魔力が強いからコントロールは出来ないけど、簡単な魔法ならピンポイントで発動できます。」
「お前の持っている召喚獣はそんな事など出来るほど弱い奴らでは無いな。それに召喚マテリアを小さく発動させる理由がわからん。」
「手のひらに乗るバハムートさんなんて可愛いと思うのですが?」
「召喚獣はペットでは無い。」
「はい、すみません。サー。」
 少し寂しそうな顔で敬礼するクラウドにきびすを返してセフィロスが執務室を出て行くと、後を追うようにパーシヴァルとライオネルがクラスA執務室を出ようとたが、考え直したようにパーシヴァルが振り返った。
「言い忘れていたが、きちんと片づけるように。」
「アイ・サー!!」
 執務室を出て行くクラスSソルジャー達に敬礼を送って、クラスAソルジャー達は自分達が汚した部屋を片づけはじめた。
「それにしてもひどい目にあったな。姫、頼むからバハムートを手乗り文鳥みたいに連れてるんじゃないぞ。」
「バハムートさんがそれを喜ばない限り、たぶん出来ないよ。それに、さっき隊長に怒られちゃったしなぁ。」
 せっせと机にぞうきんをかけながら雑談をしていると、クラスA仲間が続々と現れた。消化剤まみれの4人の姿を見て思わず扉のところで全員フリーズしていた。

「何したんだ?一体」
「魔法をコントロールしようとして失敗した。」
「魔法のコントロール?そんな事出来るのか?」
「姫ができるから俺達も出来ると思ったんだけど、失敗して火災報知器が反応したんだ。」
「そんなことができていたら、今ごろ究極の召喚獣の一体やニ体従えてるだろうな。」
「言えてる。」
「姫、お前これでもサーに魔法の使い方を教えてもらいたいの?」
「え? あ……うん。」
「俺がサーの立場ならこう言うな。『お前のように見ただけで真似出来るよう努力する奴に教える事はない。』だってそうだろ?見本を見せればいいと言うなら、サーの隣に立っていればいいって事じゃないか。」
「隊長はそれがわかっているのかな?」
「それがわからないような方だと思っているのか?」
 ブライアンの問いかけにクラウドは黙って首を振った。

(セフィロスは俺のことを一番よくわかって居てくれる。俺の事をずっと温かく包んでいてくれる、俺の事を変らず愛してくれている。)

 クラウドは満面の笑みを浮かべて自分の執務を始めた。


* * *



 クラスS執務室ではクラウドのピンポイント魔法を思い出したのか、パーシヴァルがぼそりとつぶやいた。
「それにしても姫のあの魔力コントロールには参りましたね。」
「キング、貴方はご存じだったのですか?」
「いや、アイツは私の見ていない所でこっそりと努力する奴だ。だから見本を示しておいて時々見てやればよかったのだが……ふむ。」
「いじらしい事、貴方に近づこうと必死に努力しているだなんて、うらやましいですな。」
「おや、キング。少しお顔が赤いようですが風邪でもひかれましたか?」
「ソルジャーが風邪などひくか。」
「クックック……氷の英雄が照れている姿など見られるとは思わなかった。」
「姫なら規定を満たせばソルジャーでなくともクラスSへ昇格させる事も出来るでしょう、その時が楽しみですね。」

 ベネディクトの言葉にセフィロスはキツい視線を送った。
「残念だがあいつに一隊を任せるつもりはない。」
「なぜですか?姫ほどの士官なら十分一隊の隊長が出来ると思いますが?」
「やはり姫と別行動では心配で仕方がないのですか?」
「それもあるが…、ガスト博士の実験が成功したらカンパニーの治安部は縮小の方向に向かうであろう。ランスとも話し合っているのだがこれ以上隊を増やすつもりもソルジャーを増やすつもりもないのだ。」
「残念ですね、我らが姫と共に円卓に座れる日を待っていたと言うのに。」
「特務隊副隊長のままでもクラスSにひき上げることはできぬのか?」
「クラウドもあと何年ここに居られるかわからないのだぞ。」
 セフィロスの言葉に信じられないと言うような顔で、クラスSソルジャーが顔を引きつらせた。
「セフィロス。姫を除隊させるおつもりですか?」
「何故です?あれほどの士官を何故除隊させるおつもりなんです?!」
「先程言ったであろう、治安部が縮小すると。…ライオネル、貴様ならばどう言う隊員達から除隊させる?」
 セフィロスの言葉にはっとしたような顔をしてから、ライオネルが苦虫をかみつぶしたような顔で答えた。
「ここを辞めても職にあぶれる事のない隊員です。」
「そうだ。実家がなにか商売をやっている隊員が真っ先にリストラの対象だ。当然、クラウドも1番最初にリストに上がるだろうな。」
「そういえば、奥様は美人モデルとして相当の副収入がありましたね。」
「我らは貴方に姫を紹介された時から、彼が黒のロングを着て、貴方の隣に立つ事を夢見ていたのですが…それも無理でしょうか?」
 自分と同じ色のロングコートを着て愛しい少年が自分の隣に居る姿は、凛々しくもあり頼もしくもあるだろう。しかしクラスSに上げたら上げたで戦友共が、愛しい少年になにかと甘いのもセフィロスは知っていた。まるで自分達の盟主で有るかの如く少年を扱い、庇い立てる。それは戦友が自分にしていたかの如くの態度であるが、あのプライドの高い少年が自分の実力を過大評価されたと思い、戦友達の態度を受け入れるとは思えないのであった。

「まったく、どうすればいいのかわからないな。」
 思わずセフィロスが漏らした独り言にパーシヴァルが反応した。
「迷われてみえるのですか?」
「私だとて迷うこともある。」
「貴方でも迷われる事があるのですか」
「私を何だと思っているんだ!」
「氷の英雄。決して他人にはその感情を見せる事などなく、常に冷静な判断と素早い決断をされてみえたはずの人でした。」
「何をそこまで迷われてみえるのですか?我々では答えを導けませぬか?」
 戦友達の言葉にセフィロスは軽く視線を外した。
 その仕草は、それ以上踏み込む事を許されないという、暗黙の仕草だった。

 しばらく自分のデスクに座り書類をボーッと眺めながら、何か考えているようなセフィロスを珍しげにクラスS仲間が眺めていた。今まで勤務中によそ事を考えていた事などこの男には無かったはずだった。もっともクラウドと出合った頃の落ち着きの無さに比べれば可愛いものであった。

 そのとき、クラスA執務室から声が聞こえてきた。各自がそれぞれの執務へと移動を始めたのであろう、雑談をしながら移動しているようであった。そのなかでも甲高いクラウドの声はクラスS執務室まで響いてきたのであった。
「も〜〜、リック意地悪だ!!エディ、やっぱ俺エディがいい!!」
「ひでぇ!!2週間で振られた!!」
「うわ!2週間でよりを戻された!」
「あ?!ひどいよ、エディったら…俺と組むって決まった時あんなに喜んでいたくせに!」
「だ、だからってそういう顔するな〜〜!!」
 その声を聞いているだけでセフィロスの怒気が増した。瞳は冷淡なまでに輝きこめかみに血管が浮き上がっている、後ろでナイツオブラウンド達が笑いたいのを必死で抑えていた。
 そんなことはつゆ知らず、クラスAの雑談はまだ続いていた。
「そんな顔って……エディ、俺の事嫌いなの?」
「き、嫌いじゃないけどよォ…」
「じゃぁ、いいよね?んふっ、エディ優しいから好きだよ。」
       ”ぶちっ”      英雄の血管の切れる音

 クラスS執務室に絶対零度の怒気をまき散らしながら、セフィロスがデスクの書類を握り締めているのを彼の戦友達は戦々恐々として見つめていた。
「エドワードの奴、またいじめられるな。」
「今度こそ特務隊行きですかね?」
「覚悟だけはしておくのだな。」
 小声で話すナイツ・オブ・ラウンドの会話を無視してセフィロスが執務を続けている。しかしどう見てもやせ我慢しているとしか見えない。ナイツ・オブ・ラウンドが必死で笑いたいのを抑えるのは、ここで笑い声を上げればセフィロスの怒気に氷らされるのが目に見えているからであった。

 そんな事は全く知らない当のクラウド達の雑談はまだ続いていた。
 いつものようにリックがエドワードをにらみつけている。
「サー・エドワード、わかってみえるでしょうね?」
「はぁ……ま〜た、お前らにいじめられるのかよ。」
「もてる男は辛いねぇ、よ!優男!!」
「まあリックと一緒に居るよりは、お前と一緒にいた方が姫が美人にみえるから俺としては好みだけどな。」
 クラスAが雑談しながら移動している所に、エドワードの部下である第4師団の隊員達が、まもなくミッション時間となっていたので現れた。そして目の前の自分の隊の副隊長が神羅カンパニーのアイドルと腕を組んでいるのを見付けて騒ぎたてた。
「ふ、副隊長殿。ストライフ准尉のお相手って副隊長殿だったのでありますか?」
「そういえば、先月の一般公開でも仲がよろしかったですよね?」
 部下に詰め寄られて思わずエドワードが叫んでいた。
「お、俺はノーマルだ!!第一、姫にはもう決まった人がいるんだぞ!」
 そう言い訳する自分の上官に部下達が冷たい視線を投げかけていた。