神羅カンパニーはソルジャーを持つとして有名であったが、「エレクトリック・カンパニー」と名前が付いているように、実態は電力会社であった。
そのカンパニー内部には当然のことながら女子社員が多数所属していた。彼女たちの目当てと言えばほとんどが”ソルジャーを射止めて結婚退職!!”と、言うような玉の輿だったのであるが、治安部との接点が少なく、おまけにいい男が少ないのが難点であった。
FF7 パラレルワールド ー 人の噂も…… ー
神羅カンパニー総務部の一角に女子社員の更衣室があった。
乙女の園という、男子禁制ゆえかうわさ話に事欠かない。
『どこぞのあの子があそこの彼に振られた……。』とか、『どこぞのあの人はあの子に振られた……。』などなどであるが、その噂がどれだけ本当かはわからない。わからないまでも、中には真実が隠されていることが多々あったのである。
今日も更衣室ではその手の話でにぎわっていた。
「ね〜ね〜、ソルジャークラスAのクラウド君を巡って、リックさんとサー・エドワードが派手に争ってるって聞いたけど本当?!」
「本当、本当!!クラウド君の巡回のときなんかのペアをめぐって、火花散らしてるって話しよ。」
「それだけじゃないって!!この間の一般開放で、サー・エドワードがクラウド君に抱きつかれてて、デレッとしてたもん!!」
「え〜〜?!サー・エドワードってけっこうカッコイイから狙ってたのにぃ!」
「クラウド君って、外に同棲中の恋人が居るって話しは嘘なの?」
「その恋人の姿を見た事ないから、実際は隠れ蓑じゃないかって話しよ!!」
「え〜〜?!じゃあクラウド君の本命って誰なのよ?!」
「リックさんはかなり言い寄っているけど断られ続けているし、かといってサー・エドワードとも違うみたいだわね。」
あまりにも突飛な発言に話に加わっていた女子社員が、自分の仕事仲間を思いっきりにらみつけて怒鳴った。
「どうしてクラウド君を皆はそう言う目で見るのよ?!彼が男色の趣味でもあると言うの?!」
「って言うか、彼が女の人といるよりも、男の人といた方が、何だかしっくり来ない?!」
「いえてる〜〜!!だって下手すれば私達より美人だもんね。」
「と、なると…、お相手は誰?!ってならない?」
「なるなる!!」
更衣室の薄い壁一つを隔てて、タークスの隠し部屋があるのも知らずに、女子社員達はうわさ話に熱を上げていた。たまたま情報収集のためにその場にいたレノが、顔をしかめながら聞いていた。
(あいつら……、恐いもの知らずなんだなっ、と。)
レノはタークスの一員で、ザックスの遊び友達でもあった。彼がザックスから酔いに任せて聞き出した情報で、クラウドはモデルとカンパニーの戦士の『二足のわらじ』を履くことになったのであった。
一連のことを知っているレノは、当然ながら女子社員の話を聞いたら『クラウド君の恋人』がどういう手段に出るのかもよく知っていたのであった。
そんな事思いつつ、仕事の一環のために再び女子社員のうわさ話に耳をそばだてていた。
女子社員たちは壁の向こうが何であるかなど、全く気にもとめずにおしゃべりに興じていた。
「じゃあ、クラウド君のお相手は一体誰だって言うのよ?!」
「やっぱり嫌い嫌いも好きのうち…で、リックさん?」
「違うわよ、「エディ、優しいから好き!」だもん、サー・エドワードよ。間違い無いわ。」
「う〜〜ん。一番ふさわしいのは、やっぱりサー・セフィロスかな?」
「ご冗談を!!だってサーはあんな美人モデルのフィアンセと同棲してるのよ!!」
「だからー!見た目!見た目!!」
「そうよね〜〜、あの二人なら、美男美女で並びたってもなんら落ち度がないわね。」
「サーとクラウディアさんの一般開放でのアツアツぶりは?!あれを見た後でもまだそんな事が言えるの?!」
「だ〜か〜らぁ!!勝手に想像しているだけだってば!!」
(おまえら、それがばれたら正宗でばっさり!!なんだぞ、っと。)
事実関係を知っているレノは、込み上げてくる笑いを必死で抑え、着替えて退社する女子社員の話しをきっちりと最後まで聞きとってから、情報収集のための隠し部屋を出て、旧知の友に会うべく治安部へと歩いて行った。
* * *
治安部特務隊執務室にノックの音がして見覚えのある赤毛の男が入ってきた。
黒いスーツをだらしなく引っかけて、よれよれのYシャツを着ているその男は、神羅カンパニーの秘密組織”タークス”の一員だった。その顔をよく知っている隊員達が声をかけた。
「なんだ、レノじゃないか。ザックスならここにはいないぜ。」
「ザックスじゃなくてもいいんだぞ…っと、チョコボはいるか?」
「チョコボって、姫の事?お前ぶっ殺されるぜ。」
「殺されたくはないんだな、と。」
リック、カイルとレノが話し合っているときに、クラウドとザックス、そしてセフィロスが入ってきた。隊員達が一斉に立ち上がって敬礼したのを軽く無視して、セフィロスがレノをちらりと見て軽く威嚇した。
「タークスが何の用だ?!」
この男が居るとろくな事がないと、感覚的に悟っていたセフィロスとは違い、クラウドとザックスは至極まともな挨拶をするのであった。
「あ、レノさんだ。お久しぶりです。」
「あれ?遊ぶ約束でもしてたっけ?」
三者三様の挨拶にレノが手をあげていつものように挨拶をした。
「今日はチョコボに用なんだぞ、っと。お前にへんな噂が流れているんだな。」
クラウドは以前からレノに”チョコボ”と呼ばれていた為すぐに反応した。
「え?俺の噂??」
「女子社員が噂の元凶なんだがお前、実はゲイじゃないかって噂されてるぞ…と。」 「ゲ?!」
クラウドが目を白黒させているが、ザックスはけらけらと笑い転げていた。
「まあ、ある意味間違っていないぞ。」
「女子社員卒倒するかね?天下無敵の英雄とその隣に立つ美少年が、事実上の夫婦だって知ったら。」
「英雄さんのお相手は、しょっちゅう見ているからわかっているけど、チョコボのお相手が姿を見せたことがないのが問題らしいんだな…っと。」
「クラウドのお相手??」
「隊長、貴方の事ですよ。もっともかなり曲解して流れていますけどね。」
「曲解?」
「クラスA仲間でながしている話では”年上でさらさらロングヘアーのすこぶる美人、姫だけにめちゃくちゃ優しくて姫無しでは生きて行けない人”」
「すっげ〜〜〜!!間違っていないけどその解釈した奴すげ〜よ!」
ザックスが更に腹を抱えて笑い転げた。その場にいたカイルやジョニー、ユーリ、ブロウディ達も同じように笑っている。一人むすっとしているのはセフィロスだった。
「私を名前を出さずにたとえたとすると、そうなるのか?」
「いや、マジでぴったりビンゴじゃん。」
「隊長はご自分の容姿を何とも思われていないのですか?」
「特に何とも思わんな。」
「隊長の容姿は女ならば誰でも見惚れるほどの”美人”です。整い過ぎていて恐いぐらいだ。」
「女だけじゃないだろ?ほれ…。」
リックやカイルの言葉を継いだザックスは、クラウドをひょいっとセフィロスの真っ正面へと押しやる。その途端クラウドは真っ赤になってうつむき、上目がちにセフィロスを見上げると、さっきまでの仏頂面がいきなり口元に穏やかな笑みを浮かべるのをみて、レノがあきれた。
「なるほどな…っと。で?英雄殿は女どもの噂をどうしたいのかな…っと?」
「どうしたいと言うのはどういう事だ?」
「女どもの噂は、チョコボのお相手はリックかエドワードというのが多いが、一部では英雄さんとの事をいまだに疑っているのもいるんだな。」
レノの言葉にクラウドがびっくりする。
「それって、仕事上って事だけじゃないの?」
「まあ、そうなんだろうな…っと」
「ひ〜〜〜〜!!腹痛い!!女子社員と言うのは暇なんだな!!こ〜〜んな『だんな様一途!』な嫁の事を邪推するなんて。」
「マジでチョコボのお相手を表舞台に引きずり出さないと、この手の噂は消える事はないんだな…っと。」
「そりゃ無理だと思うけど?」
「な!何でだよ〜〜!!」
「自覚していないな、姫。氷の英雄のハートをノックアウトしたような奴が、他の男にモテない理由など何処にも無いと思うけど。」
「そこらへんの女子社員どころか、下手なミスコン優勝者の表情よりも、お前の表情の方が男心をくすぐるって事!!」
リックの首に冷たいモノが当たった。その感触を知っているリックがあわてて直立不動の姿勢を取る。
「た、隊長殿!!自分は何も邪な思いを持っていません!!」
「最近のお前は少々暴走するときがある。命が惜しければ控えるのだな。」
絶対零度の怒気をまき散らし、セフィロスがリックの首にぴたりと宛てた正宗を戻す。その雰囲気を感じ取ってレノが色々と画策した。
「チョコボはどうしたいんだな、っと。」
「もう…レノさんったら、その”チョコボ”って言うの辞めてください。俺としては、外で生活している理由に恋人の存在を含ませていただけで、特務隊の副隊長になった今では任務上の理由でもかまわないと思っています。ただ、同棲しているような恋人がいなくなったとなると、その後の対応がどれだけ大変なのか、俺にはわからないですね。」
レノから聞いているのかザックスが赤毛の友人を指さして答えた。
「そりゃ〜お前が直接大変にはならねェよ。大変なのはこいつら!!お前の立場上贈り物とか手紙は直接の知人以外は、タークス経由で受け取ってるのは知っているだろ?旦那が以前そうだったように特定の恋人がいればその数は半減する。いなかった時の旦那宛のプレゼントとかは凄かったよなぁ?」
「あれをまたやらされるのかよ…っと。」
「ウチのお姫様はカンパニー1もてるもんな〜〜。女だけじゃなく男からも、な。」
「そう言う意味では、本命の恋人がいると言うのは、いい騒動避けにもなるけどね。」
リックがそう言いながら、セフィロスを見やると、何か考え事をしているようにみえる。ややあってセフィロスが不意に顔を上げた。
「ふむ…、ならばクラウドのために動いてもらうか。」
レノはセフィロスの”氷の微笑み”を正面から捕らえて、背中に冷たいモノを感じていた。
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