クラウドのために画策するのは、タークスとして特に拒否出来るものではなかった。
 特務隊副隊長であり、英雄の右腕とまで言われる少年兵は、実力もさることながらそれにそぐわない容姿で、すでにちまたの少女をとりこにしはじめていた。
 しかしクラウドを英雄のようにする事を嫌う社長のルーファウスと、タークス主任のツォンの命令で、外部からくる取材要請はすべて断られてはいるが、表に出ることがない割りにはクラウド宛てのプレゼントや手紙は途切れる事はなかった。

 レノはそんな裏事情も見知っていたので思わずつぶやいた。
「今でさえ大変なんだぞ…っと、英雄さんは何かいい考えが有るのか…っと。」
「クラウドに年上のロングヘアーの恋人を作ればよいのだろう?クックック…簡単な事だ。」
「なんだか、不安だな〜〜。」
 そう言いながらクラウドは冷笑するセフィロスを見つめていたが、彼はすぐにレノを伴って何処かへ行ってしまった。
「隊長はいったい何をなさるつもりなんだろう?」
 珍しく”陰の隊長”らしくない言葉を言うリックにクラウドも自分の推測をつぶやく。
「俺の時と一緒で、一人の人物を作り上げに行ったと思うけど…いやだな〜〜。隊長、何を考えているんだろう?」
「どっかの旦那は自分の嫁さんに女の恋人を作ってやるほど寛容じゃないよ。俺としてはセフィロスが一枚噛んでくると思うけどね。」
「どうやって?」
「ま〜、あの旦那の考える事まではわからんからなぁ。」
「当てにならん奴だな。」
 ザックスとカイルが言い合いをしているといきなりクラウドの携帯が鳴り響いた。あわてて携帯をとって出ると、電話の相手はセフィロスだった。
「今タークスの詰め所にいる。クラウド、お前もちょっと来い。」
「アイ・サー!」
 返事をして携帯をたたむとクラウドはタークスの詰め所に走り出した。


* * *



「クラウド・ストライフ、入ります!!」
 クラウドがタークスの詰め所にたどりつくとノックをして部屋に入った。扉の向こうにはタークス主任のツォンとレノ、ルードと髪の色を黒くしてアンバーのコンタクトレンズをしたセフィロスがいた。
「隊長、また何かの変装ミッションですか?」
 クラウドが小首を傾げて問いかけると、タークスの連中はいつもなら顔を真っ赤にさせるが、今日は身体を小刻みに揺らし何かを必死になって我慢しているようであった。
 セフィロスがクラウドを見ると軽くうなずいた。
「クラウドとの身長差を考えると、やはり座らねばならんか。」
「セフィロス。本当にやる気なのですか?」
「当然だ。クラウドの仮想恋人とはいえ、私はこいつを誰にもゆだねるつもりはない。」
 タークス主任のツォンの質問にあっさり答えるセフィロスにルードはなぜか石化し始めていたが、レノは視線を合わせないようにしながらも顔を青くしたり赤くしたりと忙しそうである。ツォンがため息を吐きながらもつぶやいた。
「まぁ、貴方がそれでよいと言うのでしたら力を貸しますけど…どうやったらその体格を誤魔化せるか…頭が痛いですね。」
「あ、あの。話が見えないんですけど。」
 一人会話についていけないクラウドが思わず尋ねると、レノがついに吹き出してしまった。
「英雄さんがだな、チョコボのためにひと肌脱ごうって言うんだな、っと。」
「ええ〜〜〜?!」
 クラウドは思わずセフィロスの身体を上から下まで眺め回してしまった。思わず思考回路がショートしたかのようにつぶやいく。
「セフィが…一体なぜ?どうやって??え?え?ええ〜〜?!」
「普通はこう言う反応するんだな、っと。」
「クラウド君の本命の恋人を表に出したいとおっしゃるのは理解出来ますが、貴方と言う方は…いくら愛しい妻のためとはいえそこまでやるのですか?」
「当然だな。私はクラウドの為とはいえ、恋人を作ってやるようなつもりは全くない。」

きっぱりと答えるセフィロスにレノが小声でつぶやいた。
そういうのを独占欲と言うんだな、っと
 例え聞こえないように小声で言ったとしても、当然ソルジャーであるセフィロスには丸聞こえである。ぎろりとにらみつけられて真っ青な顔をした。一方、やっと放心状態から立ち直ったクラウドが恐る恐る聞いた。
「お、俺の本命恋人をセフィがやるの??どうやって??」
「まあ、見ていろ。」
 そう言うとセフィロスはついたての向こうへと消えた。

 しばらくするとダイアナのユニセックスなブラウスを着て、なぜか車椅子の上にひざ掛けをかけて座って出てきた。クラウドがその姿にびっくりする。
「え?車いす?」
「お前の優しさを強調する為だ。」
 簡単な理由ではクラウドが納得しないと思い、ツォンがフォローを入れた。
「人物設定としてサー・セフィロスが考え出したものですが、カンパニーの抵抗組織の破壊活動で足が動かなくなった23才の女性。名前は…どうされますか?」
「そうだな。クラウド、なにがいい?」
 クラウドは思わずセフィロスの首に抱きついた。
「セフィ!!ありがとう!!俺のためにそんな事までしてくれて!!」
 クラウドに抱きつかれて、セフィロスの顔に自然な笑顔が浮かぶ、特務隊の隊員なら呆れて眺めてしまう所だが、そこはタークスのトップである。とっさに手近にあるデジカメで二人の熱々な抱擁を撮影した。
 パソコン画面に写して見ると、セフィロスはやはりセフィロスだったが、レノが画像処理ソフトを起動させ、写真のセフィロスにほのかに化粧を施して行った。まゆ毛を少し細くして顔の輪郭を少し丸くし唇にほのかに桜色を落し、瞳に淡いブラウンのシャドウを入れた。
 画面に表示されているのは、車いすに乗った美女に抱きついて、頬にキスしているクラウドだった。セフィロスがその出来栄えにうなずく。
「なるほど、ごまかせる物だな。」
「美談にもなりますね、名前は特に決めなくてもいいでしょう。」
「しかし、チョコボもこうやってみると一人前の男にみえるな、っと。」
 レノの一言にクラウドが彼を睨み付けた。
「あ〜そう。じゃあいつもの俺は一人前でも男でもないって事?」
「そ、そんなことは言っていないんだな、っと。」
 クラウドの剣幕にビビって居るレノを横目に、セフィロスが立ち上がるとさっさと着替えに行った。ツォンもルードも安堵感を表に出していた。あとはいかにしてこの話を広めるか…だった。
「イリーナが使えるだな、っと。」
「なるほど。イリーナか…確かに使えるな。」
 二人のタークスがそうつぶやくと、ここにはいないおしゃべりな部下をうまく使うべく、頭を回転させていた。



* * *



 1時間後、タークス執務室をツォンが机の上に書類を置きっぱなしにして出て行った。やり手のタークスの主任である彼は日ごろそんなことをした事がない。イリーナが珍しがってツォンの机に近づいた。
 ツォンの机の上に写真が何枚か置かれている。
 写っているのは治安部1の美少年と噂に高いクラウドであった。そしてその笑顔の先には黒い艶やかなロングヘアーの凄い美人が、優しげに微笑んでいた。
「え?!こ、これクラウド君の彼女?!」
「どうしたんだな、っと。」
「あ、レノ先輩。この綺麗な人って?」
「ああ、その美人さんならチョコボの恋人なんだな、っと。」
「うわ〜〜綺麗。あ、でも車いす?」
 イリーナが写真の女性に首をかしげているとき、扉が開いてツォンが戻ってきて、彼女の手に有る写真を見て顔色を変えた。
「イリーナ、その女性の事は忘れろ。」
「え?何故ですか?」
「見ての通りその女性はクラウド・ストライフの恋人だが、彼女の足は反抗組織の市街戦のせいで歩けなくなったのだ。彼女の名前は言えないし、何だかの形で彼女の容姿が反抗勢力に知れたら命の危険にさらされるからな。」
「あ、それってクラウド君の任務のせいですね?」
「ああ、そうだ。もしそんな事になったら…命は無いと思え。」
「は、はい!!」
 イリーナは真っ青な顔をして主任の言葉に答えた。

 その日、勤務時間が終わると更衣室へとイリーナは入っていった。私服に着替えようとジャケットを脱いだ時、ポケットから何かが落ちた。それを隣で着替えている噂話の大好きな総務部の女子社員が見付けた。
「イリーナ、何か落したわよ。」
 膝を折って取り上げたのは一枚の写真。ちらりと見ると金髪碧眼の美少年がちょっと大人っぽい黒髪の女性の頬にキスをしている。その美少年に見覚えのある女子社員が声をあげた。
「え?これ、クラウド君??」
「え〜〜?どれどれ…って、うそっ!!」
 もう一人が悲鳴に近い声を上げたので、わいわいと他の女子社員が集まってきた。
「どうしたのよ?」
「見て見て。イリーナがこんな写真持ってたの!!」
「ええ〜〜!?こ、この人がクラウド君の恋人??」
「すっご〜〜〜い、メチャクチャ美人!!」
「あ、でも。なんでこの人車いすなの??」
 人に話すなと言われると話したくなるのが人間の性分、いや、イリーナの性分(爆笑★!)ツォンに話すなと言われてからまだ半日もたっていないというのに、ペラペラと話しはじめた。
「その女性ってクラウド君の恋人なんだけど、彼女の足は反抗組織の市街戦のせいで歩けなくなったんだって。彼女の名前は知らないけど、とにかく内緒にしてよね。もし外部にばれたら彼女がつけ狙われるでしょ?そうするとクラウド君が困るのよ。」
「え〜〜?じゃあ、任務中に出合った人なんだ。」
「彼女をケガさせたのは反抗組織とはいえ、クラウド君優しいから彼女の面倒を見ているうちに本当に好きになったのね。」
「それで、クラウド君無しでは生きて行けない女性なんだ。」
「さらさらロングヘアーの凄い美人って言うのもあってるよね。」
「ね、頼むから彼女の事は内緒にしてよね。」
 そう言うとイリーナはあわててクラウドの写っている写真を取り上げて、シュレッダーにかけて元に戻せないように細かく裁断した。

 それからほんの1時間後(大爆★)。

(時計が夕方の6時半を指しているが、この調子だと今日は残業をしなくてすみそうだ。)
 そんな事を思いながらクラウドが治安部の廊下を早足で歩いていた。
 通りすがる一般兵が姿勢を正して敬礼する。軽く会釈をしながら通り過ぎると、いきなりその一般兵に声をかけられた。
「あ、あの。クラウド・ストライフ准尉でありますよね?自分は第6師団第三小隊所属の一般兵でありますが、少しお聞きしてよろしいでしょうか?」
「え?俺が答えられること?」
「はい。ストライフ准尉にはミッションで出会った足の不自由な恋人が見えると、女子社員がうわさをしていまして…。」
「え?よく知ってるな、あれ程内緒にしていたのに。」
「やはり、表に出したくは無いのですね?」
「ああ、何しろ私の仕事は危険きわまりないうえに、まわりの人の命に係るからね。」
「ありがとうございました。」
 一礼して一般兵が去って行った、クラウドはその様子をあっけにとられて見ていた。