クラウドの本命お相手の容姿とその出合いの美談は、あっという間にカンパニー中に知れ渡った。クラスA仲間が噂を聞きつけてクラウドに尋ねた。
「姫、一体どうやって情報操作したんだよ?」
「タークス経由で出た写真だから信頼性あるのかな?」
「タークス経由?はは〜〜ん、イリーナを使ったか。」
ランディがずばりと見抜いた。
「ランディ、イリーナさんを知っているの?」
「知ってるも何も…、あいつに喋ったら最後どんな極秘情報でも、あっという間に喋られちまうぞ。」
「それを逆手に取ったんだな、さすがタークス。やる事が凄いわ。」
「で?その美人さんは一体誰なんだ?」
「………言えない。」
英雄とまで言われているセフィロスに、ユニセックスな服を着せて別人に仕立て上げたなど、彼の名誉のために口が裂けても言えなかったが、すかさずパートナーのエドワードが鋭い所をついた。
「ゴードン、考えが浅いぜ。何処かの旦那が可愛い嫁さんに、たとえ仮想とはいえへんな虫を付けると思っているのか?」
「まあ、言えてるな。」
「じゃぁ、あの方が変装したのか?どう誤魔化したんだよ。」
「身長だって30cm以上違うし、あの身体をどう誤魔化せば噂の美女になるんだ?」
「どういう噂なんだよ。」
概して噂と言うのは本人には届いてこない、クラウドが噂の真相を聞こうとパーシーの正面を向いた。
「ん?艶やかな黒髪にアンバーの瞳、車いすに乗ったとびきりの美人で色白のお金持ちのお嬢様って聞いたけど。」
「身長差があったからこそ”車いす”と言う手に出たんだろうけど…タークスの人たちって酷いよね。なにも美談にする事はないと思わない?」
「ああ、反抗組織の起した戦闘に巻き込まれた一般人で、そのせいで足にケガをして歩けなくなって、責任を感じたお前がずっと付いて上げてるうちに恋になったって話しか?女子社員が好きそうなお涙ちょうだいモノだよな。」
「俺としてはこの話がもっと広まって、俺をゲイ扱いする奴が二度と出てこない事を祈ってるよ。」
「おやぁ?エドワード君。結構喜んでやってたくせに〜〜?おかしいなぁ(w)」
「馬鹿野郎!姫と組むのは楽しいし安心していられるからだよ。」
「俺もエディなら背中を預けられる、前よりずいぶんうでも上がったしね。」
「そりゃ俺達特務隊のお影だな。」
事実とはいえ一番最近クラスAに上がった男が威張るので、執務室中から笑いがこぼれた。
しかしそれはこれから訪れる騒動の幕切れであったことは、まだ誰も思いつかなかった。
* * *
退勤時間になりクラウドが愛車のバイクを、駐車場から引きずり出してエンジンキーを入れクラッチを切る。普通車並みのエンジンを持つモンスターバイクに火が入ると、アクセルを全開にし高速道路へと駆け抜けて行った。
10分後いつものスーパーの裏手に有る専用駐車場にバイクを入れると、まわりを良く見回してから路地を抜けるようにマンションへとたどりつき、占有のパスコードを入れて愛する人と過ごしている部屋へと入る。
さっと着替えた後、エプロンを着けて冷蔵庫に有る食品を眺める。
「う〜〜ん、今夜は時間がないからパスタにしようかな?」
独り言をつぶやきながら、トマトとモツァレラチーズ、ルッコラ、ベーコンを見つけ出す。
キッチンカウンターの引き出しに有る乾燥パスタを取り出して、鍋に塩と水を入れて火にかけた。
間もなく地下の駐車場にセフィロスの愛車が止まった事を知らされるチャイムが鳴った。クラウドがちらりとインターフォンに視線を送ると、シザーサラダを作る。サラダにスライスしたチーズを散らしていると、玄関のチャイムがなりセフィロスが入ってきた。あわててクラウドがセフィロスを出迎えた。
「お帰り、セフィ。ごめんね、まだお料理出来ていないの。」
「いや、そんな事はかまわん。」
軽く触れるだけのキスをして台所へと駆け戻るクラウドの姿は、可愛い妻という言葉があまりにもしっくり来るので、セフィロスも思わず笑みを浮かべる。
クラウドが乾燥パスタをゆではじめているのを横目で見ながら、セフィロスは私服に着替えてキッチンに入って話しかけた。
「まったく、女子社員のうわさ話と言うものは凄い物だな。」
「あの写真取ったのお昼過ぎでしょ?夕方6時にはもうクラスAのみんなも知ってたよ。」
「ああ、ナイツ・オブ・ラウンドの連中もその時間には知っていたな。」
「セフィ。連隊長殿達に、なにか言われたりしていない?」
「ああ、言われたぞ。『何処の女をあてがった?』とか、仮想にしても私がお前にへんな虫を近づけるとは思わなかった、とかな。」
「それだけ?」
「いや、ランスロットとパーシヴァルとトリスタンは、どうもわかっているようだな。どうやってその身体を誤魔化したと聞かれた。」
「あ、ヤッパリ。クラスAでも聞かれたよ。」
「おい、鍋が吹きこぼしそうだぞ。」
「わっ!!サンキュー!ん〜〜っと…あ、まだ堅いなぁ。」
パスタを一本つまんで、ゆで上がりを確認し、火を少し弱めて鍋の中でパスタが踊る程度に抑え、ソースの材料を刻みはじめた時、セフィロスの携帯が鳴り響いた。ディスプレイに表示された番号はツォンの物だった。
セフィロスがさも不機嫌そうな顔をして携帯に答えた。
「何だ?!」
「実は、クラウド君の恋人の話が思ったより早く広まりまして、TV局が動き出してすぐに何人かの偽物が出たようです。」
「馬鹿だな、偽物を出して何になると言うのだ?」
「どう対処いたしましょうか?」
「捨てておけ、どうせすぐに反抗勢力につけ狙われる。その恐怖ですぐ本性が出るだろう」
「わかりました。」
「それから、本物はクラウドとお揃いのピアスをしていると言っておけ。」
携帯を切るとクラウドはパスタをもうすでに完成させていた。お皿を両手に持って振り返ってにっこりと笑う。
「できた〜〜、おまたせ!!」
テーブルに皿を置くとセフィロスが来るのを待っていた。
「ああ、うまそうだな。」
「時間がなくて簡単な物しか出来なくてゴメンね。」
「いや、十分だ。たべようか。」
そう言うとテーブルに座る、セフィロスが座るのを見てクラウドも椅子に座った。
少し食べたところで、クラウドはセフィロスに先ほどの携帯の相手のことを聞いた。
「誰からなの?」
「ツォンだ。お前の恋人の偽物が出てきたらしい。」
「それで俺とお揃いのピアスをしているって…。」
クラウドの耳には一年前にセフィロスがジュノンの地下施設から持ち帰ったマテリアの結晶がピアスに細工されて輝いていた。全く同じピアスをセフィロスと同じ位置にはめているのであった。
耳にはまっているピアスにそっと手をやると、もらった日の事を思い出す。クラスAに上がる少し前、お守り代わりにとセフィロスが付けてくれたのだった。
「このマテリアがひ弱な一般兵だった俺をクラスA待遇の一端の士官にしてくれたような気がするんだ。」
「お前の実力だ。しかし私としては複雑だぞ。」
「あ、やっぱり俺を部屋に閉じ込めておきたいんだろ?」
「それも一部あるが、お前が早くクラスSに上がってくれば勤務時間も一緒になるからすれ違いはなくなるぞ。」
「規定を満たしていないでしょ?それに…あえない時が終わってセフィにあえた時に凄く嬉しいんだ。ほ、本当にこんな格好良くて素敵な人を独占してていいの?って、思っちゃう事もあるけど。俺、セフィが好きだって実感するんだ。」
クラウドは真っ赤になりながら、日ごろ思っている事をぼそっと伝える。その言葉はなによりもセフィロスに取って大切で、クラウドを愛おしく思えるのであった。
「まったく…お前は。」
知らないうちにクラウドを正面に見据えて優しく微笑んでいた。
「誓ったではないかね?私の愛は永遠にお前だけの物だ、と。」
セフィロスのやや低い声がクラウドの心を揺する、真摯な瞳で見つめると照れて何も言えないのか目の前のパスタの皿にフォークを躍らせているすがたがまた可愛らしい。
「セフィの…馬鹿ァ。た、食べられないじゃないか。」
「クックック……、本当にお前は可愛いよ。」
セフィロスが身体を乗り出して、クラウドの額に唇を落すと、愛しい少年はうわめがちに最愛の人を見上げながら黙々とパスタを口に運んだ。
食べ終わるまで黙りこんでしまったクラウドにセフィロスは目を細めて見ていた。
食べ終わったクラウドは皿を食洗機にかけて、リビングで先にくつろいでいるセフィロスに、いつものようにコーヒーを入れて持っていく。
コーヒーをセフィロスにサービスして、ちょこんと隣に座ると、たくましい腕が自分をかき抱いて身体が密着した。
「セ…セフィ?」
「ん?なんだ?」
「また、あのカッコするような事になったらどうする?」
「クックック…、シャイな人だから絶対人前に出ないとでも付けておくさ。」
「じゃぁ…。セフィはクラウディアとデート出来るけど、俺は彼女とはデート出来ないんだね。」
「しているではないか、邪魔は入るが旅行まで行っているぞ。」
「それって、もしかしてミッションの事?」
「クックック…、そうとも言うかな。」
セフィロスが、何か言い返そうするクラウドの唇をキスで塞ぐ。甘く、熱く絡む舌が欲情を煽った。
「あっ……だめぇ……んうっ!」
「クックック…「ダメ」は無いだろう?」
「だって……デートの事…ひゃうっ!!」
このままクラウドに話しを続けさせると、自分が女装してデートせねばならないかも知れないと思ったセフィロスが、いささか早めに身体を攻めはじめる。感じやすい耳を甘噛みされ、クラウドは思考回路が止まった。
「ああっ……はぁ……あん。もう……せふぃ…。」
蕩け切ったクラウドが息を切らして抱きついてくる。潤んだ青い瞳の奥底に欲情の炎が見え隠れしている。
(クックック…どんな女よりも色っぽい顔をしているというのに、どうやってこの私をリードするつもりなのかね?クックック)
自分に全てをゆだねているクラウドを抱き上げて、セフィロスはゆっくりとベッドルームへと足を運んだ。
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