(結局、セフィロスには誤魔化されるんだよなぁ…)

 それでもなんだかんだといいながら、セフィロスに負けて言われる通りにしてしまう自分がいるのも確かだと、クラウドは自重する。

(やっぱり、俺がチビで女みたいだから……なのかなぁ?)

 そんな事を思いながらカンパニーの中を歩いていると、事務の女の人に声をかけられた。
「あ、ストライフ准尉。あの、どういうピアスされて見得るんですか?」
「え?俺?あ、ああ、マテリアの結晶。ミッション中に見付けて、使えないけど綺麗だったからピアスに加工してもらったんだ。」
「じゃあ唯一無二なんですね?」
「まぁ、似たようなピアスなら隊長もしていらっしゃるけど。隊長はそれこそクラウディアさんとお揃いだし、どこかで探せば同じようなピアスが有るかもしれないよ。」
「マテリアの結晶なんて、そうそうありませんよ。いい話し聞いちゃった〜〜〜」
 にっこり笑って女の子が去って行った。その後ろ姿をクラウドは呆れたように見つめていた。

 そしてそれから3時間もしないうちに、ピアスの話しはカンパニー中で知らない者がいないほど有名な話しになってしまっていた。


* * *



 クラスA執務室。すでに情報が入ってきていたのか、それともお目当ての女の子を口説こうとして聞かれたのかは不明だが、クラスA仲間のランディとパーシーが、クラウドが執務室に入ってきた途端にじっと顔を見てつぶやいた。
「ははぁ〜〜ん、それが噂のピアスか。」
「はぁ?!もうここまで回ってきたか!!」
「書類持って事務に行ったら、その話しで持ちきりだったぜ。」
「あの方からもらった奴なら唯一無二だっていうのに、凄い言い回しで『似ている奴を持ってる』なんて、うまい誤魔化し方したな。」
「実際そうなんだから、突き詰められた時にクラウディアは写真に残っているから、言い訳出来なくなるだろ?正体がばれれば俺がここをやめるか、クラウディアがいなくなるか…どっちかになると思うけど。」
「まぁ、そこまでになったら、カミングアウトするしかないだろうな。困るのは俺達と言う事か。」
 仲間達の会話にリックも調子に乗った。
「そうか、その手があったか。今度ミッションでマテリアの結晶見付けたら俺もピアスに加工しようかな?」
 自らを王女警護隊長と名乗るリックが珍しいことを言うので、ゴードンがちゃかした。
「お?リック。どこかにいい女でも出来たのか?」
「ば〜〜か!姫が隊長に振られたときにプロポーズすんだよ!」
「そればっかだな!」
「ところで…、特務隊っていつもそんな事やってるのか?」
「危険手あての一つさ。マテリアの結晶を見付けても複雑過ぎて使えない。でもマジで綺麗だから宝石として使えるのは確かだ。」
 リックの話を聞いて輸送隊の副隊長であるエドワードがにやりと笑った。
「俺、今度の補給隊に立候補しよう。」
「エディが行くと大変な事にならないか?」
「なんでだよ?」
「特務隊の任務中に姫がいじめられる事はないだろうけど、何かあった時にお前が行って見ろ。」
「「あ!!エディ、いい所に〜〜!!セフィったら酷いんだよ〜〜」とか、「リックとカイルがいじめるんだよ〜〜」とか言ってすがりつかれる。」
「そうなると間違いなくどこかの隊長殿に氷らされる。」
「そのあと隊長達の”熱い”歓迎を受けると言うことになる。」
「ユージン、そう言う訳だ。お前に頼む。」
「うわ!!絶対行きたくない!!」
「あのなぁ、言っておくが俺達の長期ミッションは、そんな事やってたら生き抜いて帰れないほど過酷なんだ。なんなら一度付いて来てみろって言うんだ。」
「なんだ、おまえミッション先でも寝袋を2個1(二個を一個にすること)で旦那と一緒に寝てるんじゃないのかよ。」
「だ、誰がそんな事するかよーーー!!」
 クラウドが真っ赤になって大声で怒鳴るが、後ろでリックが吹き出していた。
「ば〜か!いくら有能な上司とはいえ、戦場で公私混同していたら、今ごろ俺達だって見捨てている。戦場での姫はトップクラスのソルジャーだぜ。」
「あ〜、それは言える。俺この間の反抗勢力制圧の時、”こいつすっげ〜〜!!”ってマジで思った。」
「華奢な身体のくせに何処にそんなパワーが有るか?!って思うよな。」
「そういえば。俺最近身長全然伸びないんだよ。173cmで止まっちゃってるんだ。筋肉はずいぶん付いてきたけど、それでも皆に比べると華奢って言われちゃうし…。もう伸びないのかなぁ?」
「身長が有ればそのぶんリーチもあるからなぁ。姫は今度の誕生日で17才か、そろそろ身長の伸びも止まる時期だよなぁ。」

 リックの一言でクラウドの青い瞳に涙が浮かんだ。
「ひっく……うぇっく……ううう……エディ〜〜!!!リックが苛める〜〜!!!」
 涙をボロボロこぼしながら、クラスAナンバー1いい男と定評のあるエドワードに泣きつく姿は、反抗勢力やモンスターを前に一歩もひるまない戦士にはとうてい見えない。しかしこの状態の先に何があるかよく知っているエドワードは思わず泣きたくなった。
「な、何でいつも俺なんだよ〜〜〜(泣;)」
「だって、エディ優しいもん。」
 このセリフが可愛い女の子から言われたならば、当のエドワードだとてイチコロだろう。しかし目の前で抱きついて泣いているのはどんなに可愛くても、女の子でもなければ独身でもない。
「俺、またお前の旦那に氷らされるんだけど。」
「ね〜〜、エディ〜〜リックと入れ代わんない?!」
 クラウドの一言にリックが吹き出した。
「ぶっ!!」
「はぁ?!」
「お〜お、もてるねぇエドワード君。とうとう姫にまでお誘いを受けたか。」
「特務隊トップ3に誘われた感想は?」
「はぁ〜〜〜…、マジかよ〜〜?!」
 エドワードが盛大に溜め息をついた。リックが青い顔をしてクラウドに聞き返した。
「姫、知ってる?一隊のトップ3から入隊を誘われたら、あとは統括がOKサインを出せばマジで入れ換えなんだぜ。」
「え?そうなの??」
「ああ、マジ!!あと一回でもどこかの隊長殿に気に入られた時が、エドワードの年貢の納め時って事。」

 そう言いながらブライアンがエドワードの首をがっしりとホールドする。クラウドがそんな彼に止どめを刺した。
「ザックスと入れ代わりなら、いつでも歓迎するよ。」
「やった!!俺じゃないんだ!!」
「ええ?!格下と入れ代わりかよ。」
「エディ、言っておくけど、ザックスを今までの彼だと思っていたら痛い目にあうよ。戦略もクラスAを半分までクリアしているし、剣技、魔力、体力、何処を取っても十分クラスAでやっていける力を持っているよ。」
「へ〜、あの猪突猛進男が?どうしたこっちゃ?!」
「俺の所の隊長相手に魔法の特訓してたって聞いたけど、あいつそこまで力が有るならなぜランクアップしてこないんだ?」
「残念ながら書類の整理能力がクラス3rdの域を越えていないんだ。」
 クラスAの執務室が爆笑に包まれたその頃、特務隊執務室ではザックスが大きなくしゃみをしていた

「ヒェ〜〜ックショイ!!!」
「うわ!!きったねーなー!!」
「馬鹿は風邪引かないはずだよな?」
「季節はずれに風邪をひくから馬鹿なんだ」
「お!!うまいね〜〜!!」
「ふん!!ずぇ〜〜ったいエアリスが噂してるんだい!!”ザックス今ごろ何してるんだろう〜?”とか。」
 威張るように可愛い恋人のことを持ち出したザックスを他の隊員達は平気で突き落とした。
「”浮気してたらただじゃ済まないからね〜〜!!”とか?」
「”今ごろ失敗して隊長やクラウドを困らしていないかしら”とか?」
 図星を突かれてザックスがどんよりと落ち込む、二人が言った言葉は、マジでエアリスに言われた事があるのだった。
「くううう〜〜〜 エアリス〜〜〜!!俺は君だけだっていうのに〜〜!!」
「しかし、誰かさんの奥様が正装すると、ついつい見とれてしまうザックス君であった。」
「そーそー!!あいつがドレス着るとそこらへんの女なんて目じゃないぐらい清楚で綺麗で…って!何喋らせるんだよ〜〜!!」
「お前、超ストレートだったんじゃないのか?」
「当たり前だろ!あいつは弟みたいなもんだ、旦那の事だって認めてるよ。大体、俺にはあんな美人のフィアンセがいるんだぞ〜〜!!」
「な〜〜に言ってるんだか。一年前は手当たり次第に女の子に声をかけては振られまくっていたくせに。」
「過去は過去。俺には今エアリスがいてくれるから…、デヘヘヘヘ。」

 ザックスのしまりのない笑顔に、突っ込みを入れる事が馬鹿らしくなったのか、それぞれ執務をする為にデスクに付こうとすると、扉が開いてリックとクラウドが入ってきた。
 隊員達が起立して敬礼をして迎え入れる。
 返礼をして見渡すとリックが思わずびっくりした。
「あれ?めずらしい馬鹿ザルが机に座ってるよ。」
「どうしたのザックス?お腹でも痛いの?」
「はぁ?!」
 クラウドの一言に他の隊員達が笑い転げた。
「姫〜〜!!頼むから冗談はほどほどにしてくれ!!」
「コンガガ原人が腹を痛めるなんて、どんな辞書にも乗ってないぜ!!」
「あ、そうか。」
「な、納得するな〜〜!!!」
 ザックスがクラウドに抗議しようとした時、クラウドの携帯が鳴った。取りだした携帯に彼は返事をした。
「はい、クラウドです。あ、統括。え?クラスS会議室ですか?解りました。」
「珍しいお呼び出しだな。」
「共同ミッションらしい、かなり大人数が動くようだから覚悟しておいてね。」
「ほえ?珍しい、まぁ頑張れよ。」
「え?俺?何をどう頑張るっていうんだよ?」
 クラウドの疑問にリックが答えた。
「特務隊副隊長のお前は実質的なミッッションの遂行者になるからな、何個大隊を指揮する事になるかわからんが”嫁”に戻るなよ。」
「うえ〜〜、それで俺がクラスSに呼ばれるんだ 嫌だな〜〜。」
「仕方ないだろ?おまえは旦那の副官だもんな。」
 仏頂面で執務室を出て行くクラウドを見送りながら、ザックスとリックが何やらヒソヒソと話し合っていた。