クラスSの会議室は大きな円卓がしつらえてあった。
 その円卓にすでにクラスSソルジャーのそうそうたるメンバーが揃っていた。そこへクラウドが扉をノックした。
「第13独立小隊副隊長、クラウド・ストライフ 入ります!」
 姿勢を正して敬礼する少年兵に、クラスSソルジャーが椅子から立ち上がろうとするのを、セフィロスが視線でそれを抑えつけた。
 クラウドが室内を見渡すとランスロット統括がミッションの指令書をもって手招きしている。その場所はセフィロスの隣り、会議室中央の椅子だった。
「また……自分はまだ一般兵だと言うのに。」
「ご自分の上官を恨むのですね。」
「キングを動かすことができないから姫が我慢するしかないでしょうな。」
 クラウドが恥ずかしげにおじぎをしながら、クラスSソルジャーの後ろを通ろうとすると、逆にクラスSソルジャー達は壁際まで下がって一斉に敬礼をした。クラウドが思わずびっくりする。
「ちょ、ちょっと待ってください。何の冗談ですか?!」
「いえ、冗談ではありません。このミッションでは貴官の指示で我らが動く事になり、貴官を上官として扱っているだけです。」
 クラスSでもランスロットに次ぐ実力の持ち主であるパーシヴァルが最上級の礼を取っているので、クラウドが溜め息をつきながらセフィロスのとなりへと進む。ランスロットがミッションの指令書を手渡すとクラウドは着席した。それを見届けてからクラスSソルジャー達が着席した。
 クラウドがミッションの指令書を一通り読むと、何故自分がここに呼ばれたか納得した

「隊長殿、かなり大きなミッションになりそうですね。」
「ああ、それでどの隊をつれて行くべきか、今から会議で決めようと思うのだが、お前の意見も聞きたい。」
「ラジャー。」
 クラウドが指令書をセフィロスに手渡すと、ランスロットが口火を切ろうとして止められた
「貴様は統括だろうが?ソルジャーの会議を仕切ってどうする?」
「では、私の役割は誰が?」
「誰が良いかな?」
 セフィロスの問いかけにアノリアが挙手した。
「サー・クラウドにお願いいたしましょう。」
「異議無しですな。」
「サー・クラウドに議会進行を願われる方は挙手を。」
 ランスロットの声にクラスSソルジャーの殆ど全員が挙手をするのでクラウドがあわてて拒否した。
「ま、待ってください。自分はまだ正式なソルジャーでもない、ただの一般兵です。なぜ自分がこの議会を進行せねばならないのですか?」
 ランスロット統括がクラウドをにこやかに見つめながら答えた。
「ミッションの都合上、貴方しかいないと思います。」
「仕方がないですね、わかりました。」
 どうあがいても逃れられない状況ならば”やるしかない”と、クラウドはため息をひとつついてから、クラスSソルジャー達を見渡した。全員がなぜかニコニコとしながらクラウドの方を見ている。

(まったく、一般兵をソルジャー扱いするなんて、意地悪も程ほどにしてほしいもんだよ。)

 などと思っていたりするけれど、当のクラスSソルジャー達は意地悪などでなく、自分達が望んでいる位置に目の前の少年兵がいてくれる事が、ただひたすらに嬉しいだけだった。

 クラウドは会議室にいるクラスS達を見渡してから会議の口火を切った。
「ミッション8972656、ミッションクラスS。ジュノン南東部に各地の反抗勢力がかなりの数、集まっているようです。これから派兵する隊を決めたいと思います。まず第13独立小隊、あと2隊ほど戦闘要員が必要と思われますが…。」
 クラウドの発言にパーシヴァルが手を挙げて意見を挟んだ。
「そ、その程度でよろしいのですか?」
「たぶん足りないな。クラウド、他の隊は特務隊の半分以下の力で考えろ。」
「アイ・サー。では4隊と側面支援、後方支援の隊を考えればよろしいでしょうか?」
 クラウドが聞き返すとセフィロスがうなずいた。
「長期戦を覚悟するなら、特務隊以外は2、3週間で交代させねばついては来れまい。それを頭に入れておけ。」
「アイ・サー。」
 クラウドにトリスタンが声をかけた。
「側面支援は何を望まれますか?」
「物資輸送と後方援護です。第9師団、第25師団で半数ずつ交代制で、後方支援は第4師団、願わくばサー・エドワードを特務隊に回していただきたい。」
「了解いたしました。」
「で?共同作戦を取る隊は?」
「特務隊が出るので第7師団と第15師団にはミッドガルへ残っていただきます。残った隊でこのミッションに対応する為には第11師団、第17師団、第19師団、第21師団でいかがでしょうか?」
「うむ、悪くないな。」
 居残りを命ぜられたパーシヴァルとガーレスが声を出した。
「え?!せっかく姫とご一緒出来ると思っていたのに…。」
「我々は居残りですか?!」
「はい、特務隊がいないあいだのミッドガルを守っていただかねばなりませんので、サー・パーシヴァルとサー・ガーレスには是非残っていただきたい。長期戦になった場合、第11師団、第17師団と入れ代わっていただきます。第19師団、第21師団と入れ代わるのは第2師団と第10師団でお願いいたします。」
 セフィロスが軽くうなずいてその場にいるクラスSソルジャーに命令した。
「呼ばれた隊の隊長は各副隊長をここに呼べ、今から打ち合わせだ。他の者はこの場で解散してよろしい!」
「アイ・サー!!」
 クラスSソルジャー達が各々の行動を起こす。
 数名のクラスAソルジャーが呼び出され、会議室の入り口で中を見て立ちつくしていた。

「ひ、姫。やたら落ちついているな。」
「苛められなれているからね。」
「苛めてなんていないではないですか。」
「そうですよ、貴方を苛めて見なさい。間違えなく氷らされる。」
 ブライアンの言葉に応えたクラウドにクラスSソルジャー達が青い顔をするがあっさりと言い返す。
「一般兵にクラスSの会議を仕切らせるなんてイジメ以外考えられません。」
 キースが一連のやりとりを聞いて青い顔をした。
「うわ、お前そんな事させられてたの?」
「姫が一般兵という事の方がおかしく見えるよ。」
「そうですな、ソルジャーへの昇格はもう無くなりましたが、実力のある兵士はソルジャー扱いしてもよいと思います。」
「特務隊副隊長というのは本来ならば我々より格が上になるのですよ。」
「サー・セフィロスが認めた副官と言う立場はそれだけ重いと言う事です。」
 クラスSにいくら言われ続けていても、クラウドにとっては自覚のないことである。
「二言目にはコレですからね、ブライアン、入れ代わろうか?」
「冗談じゃない!!俺にそんな器量などない。」
「エドワード、おまえならやれるんじゃないか?」
「無理いうな!クラスSの前に立つだけで舞い上がっちまう。」
「無駄口はコレまで。ミッションの内容に入るぞ!」
 クラウドの姿勢が再び凜となると、クラスAソルジャー達が各々の隊長の隣に移動して座る。セフィロスにアイコンタクトをとってから、その場にいるソルジャー達にミッションの説明を始めた。

 一通りの説明が終わり、各隊の隊長と副隊長が皆任務を承認した。ブライアンがクラウドにつぶやいた。
「ミッションの内容は了解した。それにしても…なんだな。クラウド、お前いつでもクラスSに行けるな。」
「冗談じゃないよ、クラスSの皆さんは、一般兵の自分に、何をさせようというおつもりなのか全然解らないよ。」
「体力、任期以外では文句なしのクラスSが何を言うか。」
「それならばリックもつれてくるんだったな、彼こそ魔力と戦略以外なら文句なくクラスSだよ。」
「で?姫。自分がこのミッションに限って特務隊所属になった理由は?」
「俺がぶっ倒れた時に代わりになれる奴って事。」
「……ぶっ倒れない事を祈ってるよ。」
 セフィロスがその場にいるソルジャーに声をかけた。
「出発は1週間後の午後2時、各自体調を整えて万全の体調で出発出来るように心得てくれ。」
「アイ・サー!!」
 ソルジャー達が一斉に起立して、セフィロスに敬礼をする。彼が敬礼を返すと解散となった。

 クラスA仲間がクラウドにふとある疑問を問いただした。
「なぁ、なんで午後立ちなんだ?」
「え?普通午後から出発なんじゃないの?」
「俺達午後立ちなんて始めてなんだ。」
「へぇ〜〜、俺は午前に出発した事なんて無いよ。」
「おかしいなぁ、以前は午前立ちだったよなぁ。」
「ああ、朝5時とかに召集かかって、まだ薄暗い中を出発したもんだよ。」
「そーそー、冬は寒いし前日は夜遊び出来なかった覚えが有る。」
 クラスAソルジャー達の会話を聞いてクラウドの頬がいきなり赤くなった。その反応を見てブライアンが思わず吹き出した。
「わかった、きっと去年から午後立ちになったんだ。」
「うわ〜〜 やめれ〜〜!!!へんに想像してしまう!!」
「な!!何想像してるんだよ!!」
「ハン?あの方の性格上、間違えないだろ?」
「……否定出来ないけどサ。」

 ワイワイやりながらクラスAソルジャー達は、会議室を出て各自の隊の執務室へと移動をはじめた、その間もクラウドは真っ赤な顔で意地悪な仲間達に抗議を続けていた。
「だ、だって…仕方ないじゃないか!!俺、体力ないし…。」
「相手が悪い、何しろあの方だろ?」
「あの方だもんなぁ…。」
「体力の差があり過ぎる!」
「よく身体がぶっ壊れないもんだな。」
「!!(////////)」

 いくら事実関係を知っているからとはいえ、それ以上突っ込まれたくないクラウドが、必死になって冷静を装うため虚勢を張った。
「どうでもいいけど…貴様等、俺達の足を引っ張るなよ。」
「お〜〜恐。はいはい、精一杯補佐させていただきますよ。」
「うわ、部下揃えて訓練所に行ってこよう。」
「俺って今日から特務隊付き?」
「ああ。待ってる。」
「お!出ました姫の口説き文句!!」
「馬鹿やってろ!!」
 この時、偶然にも事務の女子社員が近くを通った。そんな事は全く気にせずクラスA仲間と別れて、特務隊の執務室にエドワードとクラウドが並んで歩いて行くのを、その女子社員が目を丸くして見ていた。