クラウドとエドワードが揃って特務隊の執務室にはいると、隊員達が目を丸くして出迎えた。
「え?もしかして…入れ代わり?!」
「リックか?ザックスか?」
「来週から始まるミッションの都合上、特務隊編入だ、よろしくな。」
「大きいんだな。」
「へぇ、ザックス、わかるんだ。」
「当たり前だろ!!クラスAでもトップを張れる男が、ミッション限定とはいえ編入してくる理由は一つ。それだけトップクラスのソルジャーが欲しいって事だろ?ならば来週からのミッションが大きいって事じゃないか。」
 ザックスの言葉にエドワードが優しげな笑顔で話しかけた。
「ほぉ…、これはマジで馬鹿にできなくなったな。」
 そこに扉が開いてセフィロスが入ってきた。クラウドとエドワードがほぼ同時に敬礼する。やや遅れてザックスとリックが、そして隊員達が敬礼をする。
 しかしセフィロスからの返礼がなにもない、良くよく見ると眉間に皺を寄せていた。

(これは…なにかあったな。)

 敏いザックスが即座に反応した。
「なんだよ、セフィロス。なに難しい顔をしているんだよ。」
「ああ、少し嫌な噂を聞いたのでな。」
「は?!嫌な噂?!」
「なんかあったかな?」
「いや、何も聞いてないぞ。」
「あるとしたら、ついさっきそこで事務のお姉ちゃんとすれ違った時、すんげぇうれしそうな顔をしてたから、今まさに広まってる噂か?」
 いろいろと邪推する隊員達にセフィロスは冷静な様子で対応している。
「気にするな。何てこと無い噂だ。」
 しかし、取り繕うとするセフィロスにザックスがにやりと笑いながら指を差した。
「賭けてもいいぜ、きっと嫁さんの事だろ。クラスAbPいい男と定評のあるサー・エドワードと肩を並べて歩いていたら、出てくる噂なんて一つしかないんだけど。」
 瞬間的に執務室の空気が冷え込んだ、それだけでリックはザックスの言っていることが正解だと解った。
「なんだ。姫、浮気するなら俺としようぜ。」
「ふざけるな!!俺にはそんなつもりなど無い!!」
「ま〜〜、身持ちの堅い奥様だこと。」
「で?ミッションの内容はなんだよ。」
「ジュノン南西に集結している反抗勢力の一掃、その数およそ30グループ。」
「げ!!そりゃ、下手すれば戦争じゃないか。」
「だから俺がここに呼ばれたんだ。」
 エドワードの言葉を隊員達が一概に納得した。その途端、各々がミッションに対応すべく行動を起した。

 ザックスが真面目な顔をしてエドワードに話しかけた。
「サー・エドワード、手合わせを願いたい。」
「ああ、いいぜ。」
「俺も?」
「参加!!」
「ついでによろしく。」
 特務隊のトップクラスの隊員達がこぞって手合わせを申し込むので、エドワードが思わず悲鳴を上げた。
「うわ、コレは大変だ。姫、助けてくれよ。」
「だ〜め、俺の代わりをやるんなら、こいつらをまとめて面倒見るの。」
「ちぇ!!仕方がないな、やってやろうじゃないか。」
「お、エディ。どうした?」
「生き延びたいからだよ。」
 そう言うとエドワードは隊員達と共に訓練所へと向かった。残されたクラウドがセフィロスに向き合った。
「どういう噂なのですか?」
「お前がエドワードを口説いたと言う噂だ。」
「ぶっ!!まさか真に受けていませんよね?」
「お前は私の妻だろう?どうして真に受けよう。」
「その割に暗い顔をしていたようですけど?」
 にっこりと嬉しそうに笑うクラウドにセフィロスが口元をゆるめた。

「お前の恋人を表に出してもコレなら、雀共の興味と言うものはつくづくコントロール不能なんだな。」
「事務のお姉さん達のうわさ話なんて気にしないほうがいいよ。かなり勝手な想像してるみたいだし、ね。」
「強くなったな。以前のお前なら半べそかいているぞ。」
「俺って、そんな風でしたか?どちらがよろしいです?」
「ひ弱なお前も捨てがたいが、それでは私の隣りには立てないな。」
「なら、今のままでいいですね?」
 鮮やかな笑顔でセフィロスのとなりから訓練所へと歩き出そうとするクラウドを、腕を伸ばしてつかまえて抱き止めると、一気に自分の懐へと招き入れる。一瞬でクラウドの顔が真っ赤になるとあわててセフィロスの腕から逃れようとした。
「隊長。こ、ここは執務室です。」
「クックック…わかっている。」
 クラウドがまだ何か言いたげに開こうとした唇をキスで塞ぐと、キスを十分堪能してから離した。腕の中の愛しい少年は顔を真っ赤にして上目遣いでセフィロスを見ていた。

「た、隊長。特務隊のミッションが午後立ちになったのって、いつからですか?」
「ん?そうだな、お前と一緒に暮らしはじめてからだ。」
「ば……ばかぁ。そのせいで皆に苛められたんだぞ。」
「フン、それが何だ。可愛い妻をしばらく抱けないなんて、それほどつまらない物は無い。しかもその妻が目の前にいると言うのにだ!」
「セ、セフィ…それは嬉しいんだけど。ちょっと間違っていない?」
「何処が間違っている?!愛しい者を抱いていたいという気持ちは、何もやましくもなければおかしい事もないだろう?」
「そ、それはそうだけど…。もう…、知らない!!」
 照れて真っ赤になりながら、執務室を飛び出すように駆けだして行ったクラウドに、ゆるやかな視線を送りながら、来週のミッションのためにセフィロスは兵の配置などを考えはじめていた。       一応やることはやってんのね?!

 クラウドが訓練所に移動する間に、クラス2ndソルジャーとすれ違った。
 そのソルジャーは他のソルジャーと同じように敬礼をしてクラウドを見送ろうとして、不意にクラウドに話しかけた。
「サー・クラウド。自分はサーに憧れている者でありますが、サーと共に戦う為にはどうすればよろしいのですか?」
「え?お、俺?!隊長に憧れているって言うならわかるけど…。」
「いえ、自分の仲間にもサーに憧れている者が多数います。」
「言っておくけど、俺一般兵でソルジャーじゃない。貴方の方が地位は上なんだけど。」
「存じております。しかしサーの活躍は隊長や副隊長達から詳しくお聞きしています、究極の召喚獣を2体も従えて、英雄セフィロスのとなりで剣を振るうサーに憧れております!!」
「俺と一緒に戦うなら、特務隊の連中に一度でも勝たないと無理かな。それとクラスAに上がる事、最低でその条件をクリアしたら考えてもいいよ。」
「ありがとうございました!!」
 敬礼して走り去って行く2ndソルジャーを、呆れたような顔をして見送ると、そのまま訓練所の扉を開ける。
 訓練所ではエドワードがザックスとリック、カイルを相手に壮絶なバトルを繰り広げていた。

 周りでヤジを飛ばしていたジョニーがクラウドに気がつくと声をかける。
「よお、姫。遅かったじゃないかよ。」
「今さっき、そこで2ndにナンパされた。」
「なに?!たかが2nd風情がお前をナンパしただと?!」
 エドワードに組みかかっていたはずのリックがいきなり反応した、その隙に頭からぶん殴られる。
「馬鹿野郎!!よそ見してるんじゃねェ!!」
「うっせ〜〜!!俺達には重大な事なんだよ!!」
「おまえら、いいかげん諦めろよ、こいつらは鉄板だぜ。」
 ザックスとエドワードが阿うんの呼吸で組み手を中断すると、すかさずリックがクラウドに駆け寄った。
「悪い事されなかったか?!何いわれたんだ?」
 クラウドを上から下から眺めまくるリックにエドワードがあきれた声を出した。
「過保護な母親だね、あれは。」
「お、うまい!!」
「な〜にが”悪いことされなかった?”だよ。そいつに一番悪い事してる奴にべたべたに憧れているクセして。」
 ザックスの一言にリックがものすごい顔で振り返った。
「あ……もしかして地雷踏んだ?」
「みたいだな、あいつもこんなにわかりやすい奴だったんだ。」
「クックック…ザックス、貴様そんなにも俺に殺されたいのか?」
 鋭い視線で睨み付けるリックを見て、思わずカイルがつぶやいた。
「お〜お、何処かの隊長さんソックリ。」
「隊長、あんなんじゃないけどなぁ。」
 反論するクラウドにザックスが言い返した。
「間違えなくあれだ!お前は完全に旦那に洗脳されてるんだよ。」
「むう〜〜〜、ザックス!!今日こそぶった切ってやる!!」

 クラウドが腰に帯びていたアルテマウェポンを抜き去ると、ザックスに対して下段の構えを取る。ザックスも負けじとバスターソードを構えた。

「へへへへへ、そうこなくっちゃ!!」
「しらね〜〜ぞ、姫を怒らせたらどうなるか…。」
「俺達4人がかりでも防戦一方だぜ、やってみる?」
「悪くはないな。」
「じゃぁ、俺は姫の方に回ろう。」

 ジョニーがクラウドの横に移動するといきなりザックスが切りかかる。クラウドはバスターソードを軽く弾いてケリを入れるとジョニーへとながした。全く隙のないその動作にエドワードがびっくりしているのでリックが罵声を浴びせる。
「何を見とれてんだよ!!参加する気がないならそこで見ていろ!」
「ハン!!クラスAソルジャーを馬鹿にすんな!!」

 エドワードがプラチナソードを掲げて切りかかって行くが、クラウドに軽く跳ね返される。ザックスがそれを見てにやりと笑った。
「こいつ倒す時は、こうやるんだよ!!」

 そう言って全身の力をバスターソードにのせて、クラウドのソードにぶつけると、軽い音を立ててクラウドの手からアルテマウェポンが弾き飛ばされた。
「うわ!!手がしびれちゃった。」
「フフフーーーんだ、いつまでもお前の下にはいられねえからな。」
「お〜〜〜、彼女出来てからマジになっちゃって。」
「久しぶりにザックスに負けちゃった、俺もっと修行しなきゃ。」
「約1年ぶりか?あのミッション以来負けた事なかったもんな。」
「俺がこいつの弱点を責めてなかっただけだよ。」
「ああ、パワー不足か。ソルジャーのお前だから出来る事だな。」
「ん、まあな。こんな手で勝ったって面白くも何ともない。クラウド、もう一丁いくぞ!!」
「ああ、いくぜ!!」

 返事と同時にクラウドが飛ばしたアルテマウェポンを握りなおして再び下段の構えを取る、ザックスが正面からバスターソードを振り上げてきた時の事だった。
「隙だらけ!!」
 こっそりと横に移動したジョニーがザックスのわき腹をくすぐった。
 ザックスがバスターソードを落して笑い転げた。
「ウヒャヒャヒャヒャ……ば、ばかやろ〜〜!!なにすんだよ!!」
「俺を無視して姫にばかりかかってるから狙われるんだ。」
「ったく…ジョニー、お前のそう言う所好きだぜ。」
「サンキュー、姫。愛してるぜ!!」
 訓練所の中心で笑いが起こっていた。しかしその笑いあっている主達は壁際で見ていた一般兵達が、騒然としていたのに全く気がついていなかった。